第十五話 ムト、聖都防衛隊を知ります

 わたしはソリアから「聖都防衛隊」について聞いた。


 オリバーさんは、ソリアに引きとめられた際、この国に残る条件として、ソリアに人を集めるように指示した。

 『思石しせき』に白い光を宿やどす若者、という条件だった。

 結果として10人程度の該当者がいとうしゃが集まり、オリバーさんが面接や試験を行い、最終的に選んだ5人を「聖都防衛隊」と任命にんめいした。


「隊長が、ゴレイラ。25歳の男性です。寡黙かもくですが大きくて頼もしい人です」


「そうなんだ……」


「副長が、フィクソア。22歳の女性です。背が高く、すらっとして綺麗な人なんですよ。この方も無口ですが」


「ふうん……」


「その他は、アランジレイトとアランエスケルという双子の兄妹。どちらも18歳で、最後の一人がピヴォ。15歳の少年です」


 まるでフットサルのポジションみたいだなぁ、とか、見てもいない人たちを紹介されてもなぁ、とあまり興味もなく聞いていたけど、最後の少年とやらの紹介の際、ソリアは少しだけうつむき気味に、頬を染めた。

 何ともわかりやすい純情な女の子なんだな、と思う。

 それにしても。


「なんで詳しい紹介をしてくれるの?」


「え? はい、なんででしょうね。なんとなく、アヤには伝えておく必要を感じたもので……」


 ソリア自身もよくわからないといった感じだ。

 わたしが、試練の結果でソリアがどうなってしまうのか心配したから、こんな人たちがいるんだよ! ってわたしを安心させようとしたのかもしれない。


「で、その人たちがオリバーさんに選ばれて、でもシルジン王にはあまりよく思われていないの?」


「よく思われていないどころか、何かにつけて衝突しょうとつも起きているのです」


 困り顔のソリア。

 彼女の立場としてはいい気持ちはしないだろうね。


「じゃあ、こんな風にオリバーさんがいないときは余計に大変なんじゃないの?」


「お察しの通りです。五人はこの大聖堂の中に本拠地ほんきょちかまえておりますが、そういった特別扱いも、兄には面白くないみたいです」


 前王ギルジオンの命令とソリアの要請で、聖都の政治を運営する「賢人会けんじんかい」はオリバーの滞在と、その活動を認めてくれたそうだ。

 「聖都防衛隊」の設立と大聖堂の施設を使う許可も得たことで、自分の力で国を守ろうとするシルジン王としてみれば、イライラするのかも。

 ちなみに、大聖堂は王の管轄外かんかつがいで、最高責任者は姫巫女ひめみこのソリアになる。

 だからと言って、シルジン王に対し、大聖堂内の立ち入りを規制したりはしてないみたいだけど。


「わたくしとしては力を合わせて試練を迎えたい気持ちで、兄が聖堂内を自由に動くのを容認してきましたが、言った通り、兄はオリバーや防衛隊の問題点を探り「賢人会けんじんかい」に進言しんげんすることばかり考えていて……」


 折春おじさんは試練に備え防衛隊を作り、たぶん、わたしのお父さんに頼んでる仕事はそれに関係してる。

 でも、シルジン王はなんでそんなに対抗心を持ってるのかな?


「試練を越えると、オリバーさんにはいいことがあるの?」


 場合によっては権力を得るとか、国の財産をたくさん取られるとか、シルジン王はそんなことを気にしてるのかもしれない。


「なにも。オリバーは何一つ見返りを求めていません」


「じゃあなんでお兄さん、シルジン王はそんなに目のかたきにしてるの?」


 シルジン王と初めて会った時の顔を思い出す。

 わたしに対してというより、オリバーに対する口調は、まるで敵の名を呼ぶようだった。


「兄の真意はわかりません。わたくしに対しても、だまされておるのだ! と、そればかりで……」


 お兄さんの立場としては、妹を守るのも自分の仕事だって考えてるのかも。

 そういえば、ソリアたちのお母さんの話が出てないな。


「ねえ、聞いていいかわからないけど、お母さんは?」


「わたくしを産んですぐに亡くなったそうです」


「ごめんなさい!」


「いえ、先にちゃんと言っておけばよかったですね。大丈夫よ、覚えていないから実感も無いの。兄は少しだけ覚えているみたいですけど」


 少し気まずい雰囲気になったこともあり、ソリアはそれからいろんな魔道具を見せてくれた。

 精霊を使わずにいろんな効果を出せる道具は、神威しんいを溜める機能があり、魔法特性による効果の差はあっても、全ての人が使える便利な道具だ。

 ライターのように火が着く箱型の魔道具。冷蔵庫の様に中に入れた物を冷たくしておく魔道具。見た目以上の容量があるバッグ型の魔道具。

 実際にそういった物を見ると、マジックバッグみたいなものはともかく、わたしの世界の電化製品に良く似ている気がする。

 ソリアにもスマホや車、電車や飛行機などの説明をしてみたけど、わたしの説明が悪く、すごいですねとは言ってくれるけど、あまり伝わってないみたいだ。


 昼食後もお互いの世界の話をしていると、ノックの音がする。

 スッとカリアムさんがドアに向かい、小さく開いたドア越しに誰かと話をする。

 ひょっとして、折春おじさんが帰ってきた?


「オリバーさんかな?」


 わたしは期待を胸にソリアに聞いてみる。


「いえ、たぶん違います。オリバーはノックの後、確認もせずに入室してきますので」


 もう慣れてます、といった苦笑顔くしょうがおで答える。

 折春おじさんは結構自由な人みたいだ。

 

 物心ついた時から知っている親戚のおじさんみたいな存在だけど、そう言えばウチの工場以外で会った記憶がない。

 どこかに遊びに行ったり食事に出かけたりもなかった。

 わたしの世界にあまり深入りしないようにしてたのかな。


 そんなことを考えてると、カリアムさんが扉を閉め、ソリアに近づき耳元でそっと何かを告げる。


「……そうですか、わかりました」


 目をせたソリアはそうつぶやいて、深いため息を吐く。

 カリアムさんが下がり、ソリアがわたしを見る。


「ごめんなさい、少し用事ができてしまいました……」


 ソリアの語尾ごびはハッキリしない。

 言いづらそうな雰囲気だけど、聞いてほしそうにも見える。


「何があったの?」


「……兄と、防衛隊がめて、仲裁ちゅうさいが必要のようです」


仲裁ちゅうさいって、ソリアが? 大丈夫なの?」


 ケンカを止めるって事だよね。よくあることなのかな。


「防衛隊が聖堂内で抜刀ばっとうしたそうです。今のところ幸いけが人は出ていないようですが、兄はおさまらないでしょう。わたくしを呼べと申しているようです」


 言いながらソリアは立ち上がる。

 その話の感じから、なんとなく防衛隊によくない状況みたいだ。


 ふと、ポケットの巾着袋が震えたように思えた。

 わたしの口から思いもしない言葉が自然と出る。


「わたしも一緒に行く!」


 言ってから、わたしは何を言ってるんだろう? と、怖がりなわたしがオロオロしてるけど、ソリアと行くことはとても自然なことのように思えた。


「ですが……」


 ソリアはわたしを、御使みつかい様として利用すればいいのに、巻き込みたくないって思ってる。


「大丈夫! ごはんやお風呂の分くらい働かせて! 御使みつかいなんでしょ? わたし」


 不思議と怖さは感じない。

 それにわたしにはお守りがある。


 ソリアはとても嬉しそうな笑顔で、わたしの手を取った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る