05 クリス冒険者に捕まる

 小汚い酒場へと連れられた。

 中には同じくうさんくさい男性二人が飲んでおり私と酒臭い男をみると片手を上げる。



「よう、上等な女じゃねえかジャン」



 先に席に座っていたオヤジAが私を見ては、そういった。



「ジャン?」

「お、言ってなかったか? 冒険者といえばこの俺ジャンだ!」



 すぐ耳元で大きな声をだしてくる。うるさい。



「偽名?」



 ジョンやらジャンやら、名前にひねりが無い。

 犬の名前じゃないんだし、もう少し個性が欲しいわよね。



「本名だよ! まぁまぁ座れ座れ。オヤジ美人のねーちゃんに酒を」



 座りたくも無いけど、名指しまでされたら断るのも悪い。

 私が座ると無愛想な店主から酒がテーブルに置かれた。



「ねーちゃんが良ければテーブルの上の物を食ってくれ。それとも、別なのを頼むか?」

「一緒でいいわよ、名前」



 男達は、酒に酔った顔のまま何の事だ? としゃべりだす。



「名前よ名前、私このジャンって人の名前しか知らないわよ」

「っとわりいな。おれが前衛のジャンで、こっちが神官くずれのミラ、コイツが魔法使いもどきのクルだ」



 三人でミラ・クル・ジャン……ミラクルじゃん! ゴロがよくて笑いを堪える。

 神官くずれと侮辱されているのに笑うミラと、同じくもどきと言われても酒を飲み続けるクル。



「「ジャンは前衛っても、子供にすら負けるけどな」」



 先に座っていた二人の声がはもるとジャンが笑い出す。



「はっはっはちげえねえ…………年齢差はあるが全員呼びすてでかまわねえよ。ええっと、ねーちゃん変な顔してどうした?」

「別にっ! 何を見せられているのかと考えている所よ。とりあえず、私の名前はクリス。見ての通り前衛って言えば良いのかしら?」

「そんなすべすべの指で前衛ってのも面白い冗談だな」



 思わず私は手を見る。

 ただの酔っ払いの集団かと思ったら、ちゃんと洞察力はあるみたい。

 剣タコと言うのが無い。って指摘だろう。

 でも、私なぜか出来た事ないのよね、説明しても嘘と思われるし面倒なので一々説明はしない。

 私に勝ちを譲ってくれた貴族や貴族の私兵もよく同じ事を回りに言いふらしていた。


 テーブルにある鳥の揚げ物を食べる。

 口の中にたっぷり効いた香辛料の味が広がり、揚げ物のあいだからは油が出ておいしい。



「美味しい……」



 思わず呟くと、ジャンが手を上げて酒場の主人に同じのを頼んだ。

 すぐにテーブルに出されると、三人とも私に食べろと勧めてくる。



「ありがとう」

「いいって事よ、美人が食べてる姿を見てるだけで酒がうめえわ」

「ちげえねえ」

「…………で儲け話ってなんなのよ…………」

「馬鹿っ声がでけえ」



 ジャンが大声で怒鳴るので、後から来た客が私達に注目する。

 すまねえな。と、ジャンが謝ると周りもそれぞれのテーブルへ視線を戻していく。


 神官崩れと呼ばれているミラが、わたしから話そう。と、小さい声で話し出す。



「君はどこの出身だい?」

「…………答える必要ある?」

「気を悪くしたらならすまないな。この辺の環境に疎いようなきがして先日新しいダンジョンが現れた話は知っていると思う」



 あーええっと、もう一人のジョンが何か言っていたわね。

 当然知っている振りをして話を進めた。

 だって知らないっていったら、空気的にかっこ悪いじゃない。



「町から一日半ぐらいの場所のよね」

「なんと!!」



 今度はミラが大声を上げて席を立つので再び注目を浴びる。

 すぐにジャンが、あまりにも美味い酒で驚いただけだ。と周りに言い出して事なきを得た。



「す、すまない。最新の情報なはずだったのに君が知っているとは思わなくてな」

「私も昨夜うわさを聞いただけよ……正確な場所までは」

「そうか……それならまだいけるな」



 話が見えてこない。

 十皿目の肉料理が無くなくなる。



「マスター肉が肉がねえぞ肉がっ!」



 ジャンが叫ぶとなぜか、皆で食べるようの肉以外に、専用の肉が別に出される。

 ありがたく奢って貰おう。



「じゃぁ。次はワシ、クルの番かのう。おじょうちゃん、このワシ達と組んでダンジョンに行かないか? 荒らされてないダンジョンは宝が沢山眠っている」

「そうなの……?」



 すぐにジャンが話しに割ってきた。



「ああ、かの有名な黒獅子はダンジョンで――――」



 ジャンが熱弁し始めたけど、黒獅子といわれても私は知らない。

 とりあえず、黒獅子といわれる人がダンジョンに潜って金銀財宝を手に入れたってのを、三杯目の酒がなくなるまで熱弁された。



「もっとも俺は本人は見た事ねーけどな」

「あのー帰っていい?」

「「「駄目だ」」」



 いい加減帰ろうかと思って一言いったら、酔っ払い三人に同時に呼び止められる。

 さっきまで酔っていたはずなのに目は真剣だ。



「いやだって、そんなに美味しい話なら三人で行けばいいじゃないの……」



 さっきからダンジョンがいかに美味しいかの説明しか聞いてない。

 私としては今日は疲れを癒して、明日からクエストを探せばいいかなって気分になってきている。



「どおしても、ねーちゃんの力が要るんだ」



 ジャンが真剣な顔で私を見つめてくる。

 残ったミラとクルも真剣な顔になる、そうこれは、元婚約者のアーカルが苦虫をつぶしたように私に婚約して欲しい。と言った時と表情が似ている。

 え、まさかこの三人私に一目ぼれしたとか……。



「っ! な、なに」



 その気持ちは嬉しいけど、もう少し頼りがいのあるオジサンのほうが私は好きだ。

 


「「「金を貸してくれっ!!」」」

「はいいいいいっ!」

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