第13話 双刃の雨、後、夜は快晴。輝くは双子座。流星はがうがう




 身体が揺さぶられている感覚に、僕の意識が覚醒していく。ボヤけた視界の先を見ようと目を凝らす。


 誰だ?ミュナ?


 ——いや?


「あ、れ……?」


 栗色の髪色だ。ミュナじゃない。目つきもあの少女より優しい。目尻にほくろがある。


 あれ?ていうかなんで知らない顔が上にあるんだっけ。いや膝枕以前に、ていうかなんでこんなことになったんだっけ?


 どうにも僕の記憶が混乱しているようだ。別に膝枕されていたことに取り乱しているとかでは全くない。


「かえで!かえで!目が覚めました」


「よかった。気が付いたんですね」


「あ、ああ……えっと……」


 おお、すごい。同じ顔が二つもある。違いと言えば目尻下のほくろの位置が逆なくらいかな。あとは、一人が赤色系のインナーカラーが入っていた。


 空を染めていた茜色の夕日がだいぶ薄暗くなり始めている。どうやら、見知らぬ人の膝の上でだいぶゆっくりしてしまったらしい。

 申し訳なくなった僕はそそくさと起き上がり少女の横に黙って同じように正座した。


 沈黙が、訪れる。


 ——うわ。なにこれ、すごい気まずい。


「……えっとさ……。君たちが助けてくれたって事でいいのかな?ありがとう」


 それにしても、屋上から落ちたはずが一階の理科室で目覚めることになるとは。屋上からは確かに落ちたのだから、きっと少女たちが運んでくれたに違いない。気まずさを押しのけて僕は頭を下げた。


「いえ、お気になさらないでください。あんなもかえでもメリットがあると踏んでのことですから」


「そうですね。あたしはお礼を受け取っておきますが、恩を感じたのなら返してもらいたいです」


 双子の少女たちが、それぞれに口を開くとお互いの顔を見合わせてコクリと思考を合わせるかのように頷き合う。そして、一人が腿に忍ばせていた短剣を取り出し、僕の首元へ突きつけてきた。それは一瞬のことで喉がゴクリと鳴った。


「「デメリットでしかないなら、今この場でお相手します!」」


「——い、いやいやいやいや!!待て待て待て待て!!わかった!わかったから剣を下ろしてくれ」


「あんな、武器を所持していないか軽く確認してください」


「うん!わかりました!」


 頷いた膝枕少女から、シャツとズボンのポケット、それから胴体を軽く触診される。


「——なんにも持ってないみたいですね……」


 持っているわけないだろうと叫びたい。

 いや、眷属は主と離れた時を想定して用心用として持っておく必要があるのかも?

 ミュナにいつも言われている危機感が足りないとは、こういうことの差なんだろうなぁと思ってしまった。


「そうですか。なら、そのまま話を聞いてください」


「いや、剣を降ろしてくれないかな?」


「……わかりました……」


 少女はしぶしぶ、腿に短剣をしまい込む。


 僕たちは椅子に座った。


「改めて自己紹介をさせてください。あたしたちはダイナの眷属である木那かえでとあんなです」


「僕はミュナの眷属、赤里カナタです。改めて助けてくれたこと、例を言うよ。ありがとう。二人とも」


「いえ。本当に、助けたことはもういいんです。ダイナも、あんな達の主も、正々堂々とした勝負を好みます。だから、気を失っている人を攻撃するなんてきっと怒られると思ったんです」


「あとは、さっきも言ったけど、メリットがあると思ったからです。あたしたちはこれから屋上に戻ります。一刻も早く。ダイナたちがどうなっているのかわかりませんし」


 かえでがあなたもそうでしょう?と聞いてくる。

 もちろん。僕もミュナが心配だ。戦況がどうなっているのかも気になっている。そして、ミュナとダイナの戦闘に乱入があったということはその他の王位継承権者がいる可能性が高い。15歳くらいの少女二人で屋上へ向かうのは危険だとかんがえたのだろう。


 なるほど、つまり。


「屋上に着くまで、眷属同士仲良くしようってことだな」


「「そうです」」


 少女二人が揃ってこくこくと頷く。

 今、ここに眷属同盟が発足した。


「それじゃあ、時間がもったいないし、行こうか」


 椅子から立ち上がった僕はふと解消しておかなくてはいけない疑問を思いだした。

 そういえば、僕たちは落ちた時どうやって助かったのだろうか。


 そう尋ねると、少女たちも困ったように顔を見合わせた。


「それが、あんなたちにも分からなくて。目が覚めたら、ここにいて」


 ミュナやダイナたちが?いや、僕は見た。彼らが、足止めをされてた瞬間を。

 そうなると新たな乱入者を想定しなくてはいけない。でも僕たちを態々助けることにはどうにも引っかかってしまう。


「がっ!?」


 ううんと顎に手を置いて悩む僕の頭に鉄拳が落ちた。目を白黒させて、僕は頭を手で抑えながら顔をあげた。

 あんなは申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。犯人はかえでか。

 当の本人は悪びれもせず、親指以外を折り曲げた手で、ドアを指し示した。


「時間が惜しいです。早く行きましょう」


「……ああ。うん。わかった。行こう」


 僕たちが、理科室から出て屋上に向かおうと行動を開始した時。理科室の扉が開いて。


「おにーさん、おねーさん。やっと起きた!がうー!リルちゃんだぞ!がうー!」


「り、リル?!」


「おにーさんは久しぶりー!リルだよ」


 ——遅れてやってくるヒーローのように、流星のごとく、狼幼女が降ってきた。じゃなくて登場した。


 リルがいる。それだけで、僕は、僕たちを助けてくれた存在に予想ができてしまった。















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