佐藤定食屋の裏メニュー

ゆきまる書房

第1話 佐藤定食屋の裏メニュー

 ピピピピピピ。

 無機質なスマホのアラームで目が覚めた。ゆっくりと瞼を開けると、カーテンの隙間から朝日が微かに差し込んでいる。布団の中からのっそりと腕を伸ばし、いまだに鳴り響くアラームを止める。まだ頭がぼーっとする。もうひと眠りするか、と思った時。

九十九つくもー! 早く起きてー! また遅刻しちゃうでしょ!」

 部屋の前からももの声が聞こえた。めんどくさいと思ったが、このまま眠り続けて百にキレられる方がめんどくさいので、気だるい体をゆっくりと起こす。時刻は午前6時。大きな欠伸を一つして、俺はベッドから立ち上がった。


「九十九! いい加減夜中にゲームするのやめてよね! 毎朝起こす私の身にもなってよ!」

「別に起こしてくれって頼んでない」

「九十九が遅刻したら、また私がみんなにからかわれるじゃない! もう! お兄ちゃんなんだからしっかりしてよ!」

 学校への道を歩く間、百はぎゃんぎゃんわめきたてる。朝からよくそんなにしゃべれるな、と少し感心したが、やっぱりうるさい。「ねえ、聞いてる!?」と百に睨まれ、「聞いてる聞いてる」と答えると、百はさらに頬を膨らませた。

 ──俺、佐藤九十九と佐藤百は双子の兄妹だ。一応俺が兄だが、百の方がめんどくさがりの俺よりも数倍しっかりしている。俺と百のこのやり取りは毎回騒がしいため、クラスメイト達からは「夫婦漫才か」と揶揄されている。

 そうこうしているうちに、校舎が見えてきた。今日は15分前につけた、と欠伸を一つした時、校舎の上に人影が見えた。ゆらゆらと揺れている黒い人影は、普通の人間の数倍はデカい。ああ、めんどくさい。俺の視線に気づいたらしい人影が、ぴたりと動きを止める。次の瞬間、猛スピードで俺に迫りくる人影。百は気づいていない。人影が俺に手を伸ばした時、俺は百を抱き寄せ、人影の腕を掴み地面に叩きつけた。「きゃっ!」という百の悲鳴が聞こえる。地面に叩きつけられた人影からビタンっという音がして、人影はびくびくと痙攣した後、地面に溶け込むようにスーッと消えていった。それを見て、俺は小さく息を吐く。

「ね、ねえ、九十九……。あの、どう、したの……?」

 戸惑った百の声が聞こえたので、俺は念のため、人影が消えた場所とは違う場所に百を立たせる。不安そうに俺を見る百に「別に。でっけえ虫がこっち来ただけ」といつもの調子で答えると、百はほっとしたように表情を和らげた。「行くぞ」と百の手を引くと、百は慌てた様子で「ちょっと、九十九!」と叫んだ。早くしないとマジで遅刻する。


 俺には普通の人には見えないモノが見える。小さい時、幼稚園のいじめっ子の足元に黒い塊が纏わりついているのが見えた。俺はそいつにそのことを伝えたが、「うそつき」とそいつに殴られて終わった。だが、数日後、いじめっ子は車の事故に巻き込まれて両足を切断するほどの重傷を負った。俺といじめっ子のやり取りを知っていた周りは俺を避けるようになり、俺は自分には見えないモノが見えると悟った。それからは見えないふりをしつつ、人間まがいのモノにちょっかいをかけられても適当にあしらい、俺の行動を不審に思う周りを適当に誤魔化しながら、そこそこ満喫した人生を送っている。


 5分前に教室に滑り込むことに成功した。「今日は遅刻じゃねえのかよ」「あーあ、せっかく遅刻に賭けたのに」と勝手なことを言うクラスメイト達を無視して自分の席に着くと、俺の肩を誰かが叩いた。相手はなんとなく察しがついていたが、そいつの方へ顔を向けると、にっこりと爽やかな笑顔を浮かべていた。

「おはよう、九十九君」

「……ああ」

 ふてぶてしい俺の返事を気にした様子もなく、そいつ──はじめは相変わらずにこにこと笑っていた。

 こいつは佐藤一。俺のクラスメイト。同じ苗字だが、親戚というわけではない。高校に入学した時、真っ先にこいつに声をかけられた。同じ苗字だから親近感がわいたんだろう。まあ、それだけが理由じゃなかったが。誰に対しても穏やかに接し、人当たりのいい笑顔を浮かべているこいつは、クラスメイト達に好かれている。一度、学校の校舎裏で可愛いと評判の女子に告白されている場面を目撃した。フッてたけど。別にうらやましくはない。

「今日は遅刻しなくてよかったね。百さんのおかげかな?」

「別に。今日はあいつがいつもよりうるさかっただけ」

「そうかな?」

 くすくす笑う一。正直、こいつは苦手だ。常ににこにこ笑ってる奴って怖い。何考えてるか分かんねえし。「ああ、それと」と一は変わらない笑顔で言葉を続けた。

「今日は、変なモノに絡まれて大変だったね。百さんに何もなくてよかった」

 その言葉に、俺は初めを睨む。一は変わらず穏やかに微笑んでいる。こいつは俺がそういう反応をすると分かって、百の名前を出した。ああ、俺は絶対にこいつと仲良くできない。

 一も俺と同じ、見えないモノが見える。こいつに声をかけられてすぐ、俺はミスをした。俺たちの間に、人の顔をした手のひらほどの大きさの蛾が飛んできた。その蛾から悪意を感じたため、俺は不自然に思われないように蛾を避けたが、一はその蛾を掴むとぐしゃりとそれを握りつぶした。砂のように粉々になった蛾は一の手からさらさらとこぼれ落ちた。呆然と一を見つめる俺に、一はくすりと笑って言った。

「君、見えてたよね」

 それ以来、俺は一につきまとわれるようになった。


 退屈な授業が終わった後、俺は帰ろうと早々に立ち上がったが、後ろの席の一に呼び止められた。

「九十九君、今から空いてるよね? 百さんに聞いたんだ」

 百のやつ、余計なこと言いやがって。あいつ、妙にこいつに懐いてるし。舌打ちをした俺は鞄を手に取り、「あそこに行くのか?」と舌打ちした。「うん、そうだよ」と一は嬉しそうに笑うと、俺の耳に顔を寄せた。

「……今日は、二三ふみも来てるよ」

 一の言葉に顔をしかめる。一は笑顔を崩さず、「ほら、行こうか」と言うと、さっさと教室を出て行った。俺は小さくため息をつくと、一の後を追った。

 学校から歩いて15分、俺と一は無言で歩き続ける。やがて、ある場所に到着した。小さな店屋であるそこの引き戸には色褪せた暖簾には、「佐藤定食屋」と書かれている。ここは、一の叔父が営んでいる小さな定食屋だ。ここに一とその妹が住んでいる。一が引き戸を開いて定食屋に入り、俺はその後に続く。「いらっしゃい」という鈴の鳴るような声に、頬をひきつらせた。定食屋には綺麗な少女がおり、俺の姿を見た彼女は嬉しそうに目を細めた。

 彼女──佐藤二三は一の双子の妹だ。一によく似た性格をしており、噂では高校で二三のファンクラブが結成されているらしい。正直、俺は一よりも二三の方が苦手だ。百ともいつの間にか仲良くなっており、事あるごとに俺と二人きりになろうとする。可愛いんだから、俺じゃなくて好意を寄せてくれる相手を見つけたほうがいいんじゃないか。

「九十九君、今日はごめんね」

 全く悪びれた様子じゃない二三にそう言われるが、俺は無視して定食屋のカウンターに座る。俺の左隣に一、右隣に二三が座ると、厨房の奥から二人の叔父が出てきた。二人の叔父──佐藤五郎蔵さんは無言で俺の前に湯呑みを置くと、すぐに厨房の奥に戻っていった。湯呑みの中のお茶を見つめ、中に茶柱が立っていることを確認する。小さく息を吐いた俺を湯呑みを手に取り、中の茶を飲み干した。


 俺が見えることを一に知られた翌日、俺は一にここへ連れてこられた。戸惑う俺を余所に、一は厨房へ声をかけると、奥から五郎蔵さんが出てきた。不愛想な雰囲気を醸し出す五郎蔵さんは、カウンターの席に座らせた俺の前に湯呑みを置いた。俺が礼を言う間もなく、五郎蔵さんは厨房へ戻る。「これはね、この定食屋の裏メニューなんだよ」と、隣に座った一が小声で囁く。

「裏メニュー? ただのお茶だろ」

「ただのお茶じゃないんだよなぁ」

 逆隣から声が聞こえ驚いて振り向くと、いつの間にか俺の隣に座っていた二三がにこりと微笑んだ。「ああ、彼女は妹の二三だよ」と一に紹介され、おそるおそる「どうも……」と頷く。二三は変わらない笑顔で言葉を続けた。

「──君も見えるんだよね。そのお茶を飲めば、それ以上の力が手に入るよ」

「は?」

 言っている意味が分からない。ぽかんとした表情を浮かべる俺を見て、何を勘違いしたのか、二三はにやにやとイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべた。

「怖いんだ? 今までの自分が変わっちゃうのが」

「は?」

 何言ってんだ、こいつ。「大丈夫だよ、怖くないから」と一が口を開き、俺は一の方に顔を戻すと、一は楽しそうにすっと目を細めた。

「飲めば世界が変わるから」

 その言葉に誘われるまま、俺は湯呑みに手を伸ばした。湯呑みの底には、茶柱が一本立っていた。


「……で、今回はどんな奴なんだよ」

 茶を飲み干した俺が湯呑みをカウンターに置くと、右隣の二三がいつの間にか持っていた紙を広げた。紙の中央には、青白い顔の左半分がただれた女の絵が描かれており、長い黒髪の一房が緑色に染まっている。絵の下には「さつきさん」と書かれていた。

「今回のターゲットは「さつきさん」。最近、子どもたちの間で噂になってるんだけど、九十九君は知らない?」

 二三が首を傾げて俺に尋ねるが、俺は静かに首を振る。ふふんと鼻を鳴らした二三は、絵の中の「さつきさん」を指さしながら話を続けた。

「さつきさんはね、髪の一部が緑色の、とても綺麗な女性だったの。多くの男性に求婚されるくらい。ある一人の男性と恋に落ちたさつきさんは、その人と結婚するつもりだった。だけどね……」

 いったん言葉を区切った二三は、ちらりと俺を横目で見る。「もったいぶってないで、さっさと続けろよ」と俺がウンザリした口調で促すと、二三はニヤリと口角を上げた。

「だけど、婚約者の男性の妹がさつきさんを嫌って、さつきさんに嫌がらせをしたの。さつきさんにまつわる嘘を周りに広めたり、さつきさんの物を壊したり。ある日、妹はさつきさんの顔に劇薬をかけた。当然さつきさんは顔に大やけどを負い、命は助かったけど、顔の半分が焼けただれてしまった。ショックを受けたさつきさんは自ら命を絶ってしまい、それ以来、婚約者の妹に似た女性を襲って、自分と同じように顔を醜く歪めてしまうらしいの。大やけどを負ったかのように」

「ふーん……。はた迷惑な話だな」

「まあ、実際に被害を受けた人がいるのは事実だよ。警察は愉快犯の仕業だと捜査しているらしいけど」

 つまらなさそうに呟いた俺に、一が苦笑する。「これが被害に遭った人たち」と、一が数枚の写真を俺に次々と見せる。その写真は顔の一部、恐らくやけどと思われる傷が写されていた。それぞれの写真に、被害者の年齢と職業が書かれている。全員10代後半から20代前半、学生かフリーターがほとんどだ。ふとあることが気になって、俺は二三に尋ねた。

「さつきさんの婚約者の妹って、何歳だったんだ?」

「確か学生、高校生だったかな? ちなみに、さつきさんは20代後半だったよ」

「さつきさんって、性格はどんな人だった?」

「怪異になる前は優しい人だったみたい。他人を恨むような人じゃなかったって」

「そうか……」

 二三の言葉を聞いてしばらく考え込んでいた俺だったが、ぽんと左肩を一に叩かれて我に返る。「そろそろ怪異が動き出す頃だよ。……行こうか」と一が笑うため、仕方なく立ち上がった。「行ってらっしゃ~い」と楽しそうに手をひらひら振る二三を無視して、俺は一の後に続いて定食屋を後にした。


 一に連れられてきた場所は、高校の近くの十字路だった。十字路の真ん中に一は立つと、俺の方を振り返り大きく腕を広げた。

「どう? 怪異の気配は感じる?」

「ちょっと待て。今探るから」

 一にそう返すと、俺は目を閉じ意識を集中させる。一の後ろから、もやのような気味の悪い気配がこちらに近付いてくる。ありとあらゆる負の感情をドロドロに煮詰めた、そんな吐き気を催すような気配。そっと目を開けた俺は、一の後ろへ目をやった。俺の視線につられるように、一も後ろを振り返る。遠くの方でゆらゆらと揺れる人影。夕焼けの日の光に照らされた黒髪には、くすんだ緑色が混じっている。俺が口を開こうとした時。

「九十九? 何してるの?」

 後ろから声が聞こえた。慌てて振り返ると、そこには不思議そうに首を傾げた百がいた。全身から血の気が引く。百の存在に気づいたらしいさつきさんが、けたけた笑う声が聞こえた。

「一君も……。ねえ、ここで何し……」

「逃げろ!」

 俺が叫ぶと同時に、一陣の風が吹いた。その勢いで、俺の頬に鋭い痛みが走る。さつきさんが百に向かって突進していく。戸惑う百の顔をさつきさんが掴む寸前──。

「そこまで」

 一が呟いた瞬間、さつきさんの体が後方に向かって吹っ飛ばされた。それと入れ違いに俺は百に向かって全速力で走り、目を大きく見開く百を抱きしめる。百が俺の耳元で小さく息を飲んだ。

「つ、九十九! これ、どういう……」

「寝てろ」

 俺の囁きの後、百の全身から力が抜ける。百の体を抱え直した俺は後ろを振り返り、すぐそばに立っていた一を睨む。「お前、百がここ通ること、分かってただろ」と怒りをにじませた声で言っても、一は穏やかな笑みを崩さない。本当は今すぐこいつを殴りたいところだが、視界の端でさつきさんが立ち上がるのが見えた。舌打ちをした後、俺は嫌々ながら百を一に託す。

「……こいつに怪我させてみろ。どうなるか分かってるよな?」

「分かってるよ。今の君に逆らおうなんて、ただの自殺行為だしね」

 くすくす笑う一が俺から百を受け取ったのを確認し、俺は一歩前へ踏み出る。立ち上がったさつきさんは俺と目が合うと、怒りのせいか顔を醜く歪ませた。一歩一歩、ゆっくりと俺に近付いてくる。

「邪魔、するな。その女、私の、獲物」

「はっ、誰がお前に渡すかよ。──憎い女に化けて、満足か?」

 俺の言葉に、さつきさんはびくりと肩を震わせた。「違う、私は、さつき……」と言いかけるさつきさん、いや、そのなりすましを遮って、俺は言葉を続けた。

「あんたの感情、俺には見えてるんだよ。醜い嫉妬の感情がぐずぐずに煮詰まって、見てるだけで吐き気がする。……自分から兄を奪った女に罪を擦り付けて、大喜びしているどす黒い感情もな」

 体を震わせるさつきさんのなりすましを見て、小さく息を吐いた。俺が定食屋で飲んだ茶には、怪異の感情が見える能力がある。感情には記憶が伴う。怪異はある時の記憶の感情に囚われていることが多い。感情を見れば、その怪異の正体が分かる。さつきさんのなりすましは、家族以上の愛情を抱いていた兄をさつきさんに奪われて、激しい嫉妬心にかられ数々の嫌がらせをした。それでもさつきさんは兄と別れない。焦ったなりすましはさつきさんに劇薬をかけようとしたが、兄にそのことがバレてしまい、もみ合いの末に自分の顔に劇薬がかかった。兄たち家族はなりすましを見限り、絶望したなりすましは自殺。その怨念が怪異に変化し、さつきさんを貶めるために、さつきさんに成りすました。感情から見えた記憶で、その経緯が分かった。

「俺さ、あんたと議論する気ないんだよね。だから、さっさと終わらせる」

 なりすましに一歩近づいた時、怒りで感情を震わせたなりすましが雄たけびを上げ、俺に突進してきた。なりすましが俺の顔を掴もうと腕を伸ばした時、俺は口を開いて舌を見せた。なりすましの動きが一瞬止まる。その一瞬を見逃さず、俺はある言葉を唱えた。

「──黄昏に惑いし者よ、その体、我に明け渡せ」

 その言葉の後、なりすましの体が弓なりに沿った。なりすましの口から苦悶の声が漏れ出る。なりすましの背中が大きく反っていき、やがてボキリと嫌な音が響いて真っ二つに折れ曲がると、なりすましが絶叫を上げた。耳が痛くなるほどの声に顔をしかめるも、舌は出したまま絶叫に耐える。なりすましの悲鳴がだんだんと小さくなっていき、「あ、ああ……」という声を最後に、なりすましの体は地面に崩れ落ちた。なりすましの体が見る見るうちに小さくなっていくと、それらは黒い霧のようなものになり、俺の舌へと吸い込まれた。──正確には、俺の舌の上の茶柱に。

 先ほど定食屋で飲んだ茶には、もう一つ力がある。それは、一本だけ立った茶柱に怪異を封じ込めるという力だ。怪異を封じ込めるには「舌の上の茶柱を怪異に見せること」「怪異の正体を見抜いていること」「先程唱えた言葉を唱えること」の3つが必要になる。なぜ茶柱なのかは意味不明だが、何度も同じことを繰り返しているうちに、そんな疑問も薄れていった。

 なりすましが完全に封じ込まれたことの合図で、茶柱が鉄の味に変わる。吐き出しそうになるのを堪えて茶柱をつまみ、口の中から出した。一の方へ振り返り茶柱を見せると、一は百を抱きかかえたまま、「お疲れさま」と穏やかな声で言った。苦々しい表情を浮かべた俺は一に茶柱を渡し、一から百を奪い取る。

「……今度百を巻き込んだら、ただじゃ置かない」

「君がもう少し僕たちに協力的なら、わざわざ巻き込むつもりはないんだけどね」

 ああ、イライラする。その余裕な表情をめちゃくちゃにしてやりたい。何とか怒りを抑え込んだ俺は、一に背を向けて家路を急いだ。「またよろしくね」という一の声を背に受けながら。


 百をおぶった俺は家に着くと、玄関の鍵を開けた。「ただいま」と誰もいない家に話しかけ、家に上がる。今日は父さんも母さんも仕事で遅くなるって言ってたな、と思い出し、俺は百の部屋の扉を開けた。ベッドに百を寝かせ、百の呼吸を確かめる。すーすーと小さな寝息を立てているのを聞いてほっとする。ふと頬が痛むことに気づいて頬を触ると、指に血がついていた。さっきのことで頬が切れたんだろう。「絆創膏ってどこだ?」と呟いた俺は百の部屋を出た。百をごまかすための言い訳を考えながら。

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