笑って杏ちゃん!

神無(シンム)

無季

望むのは、たったひとつの音なんだ


 多分、アレは中学にあがってすぐのこと。僕の、最低さを日々更新しているこのまだ短い人生の中でもおそらく二番目に入ると思われるくらい大泣きした日があった。


 その日の夢は見ない。見ても忘れるように努めている。第一、それをもし仮に覚えていても思いだしても、逆に覚えていなくても、思いださなくてもなんの支障もない。


 でも、さすがに一番大泣きした日のことは今でも覚えている。あの日は、本当に悲しかった。なにが悲しかったのかは、もうわからない。いろいろと、たくさん悲しかった。


 ただ、僕にはどうしようもないことで。だけど、それを理解してくれるひとがいなくて余計に悲しかった。全部、なんて言わない。ただ一個だけ、理解してほしかった。


 でも、それこそどうしようもないことだったから、僕は一度だけ試して諦めた。


「お前さ、どうして生きてんの?」


「……」


「マジねぇわ。どの面さげてってゆーか、さげてすらいないってどういう鉄面皮?」


「……」


「死ねよ、クズ。てめえのせいで空気最悪だっつーの。消臭効果を期待して炭にでも生まれ変わるか? 炊飯器で一緒に炊くといいらしいな、炭。でも、お前一緒に炊いたらすげぇ灰汁がでそうだし、バーベキューにでも使ってもらうか? うわ、くっさそー」


 ああ、もう。もう、ね……どうでもいい。


 お前らの言葉にいちいち反応して返答していたら僕の人生、半分くらい損するし。


 暴言なんてどうでもいい。僕の精神メンタルんなことで砕けるようなものじゃないし。


 だからなのか、僕の顔面はどんどん硬直していっていつしか表情すらつくれなくなっていって……。最近じゃあ鏡を見るのもいやになるくらいの能面っぷりだ。あはは。


 いつも通りの日々。いつも通りの言葉。いつも通りの毎日がはじまって終わってまたはじまって……。日々がすぎ去っていくのがとても悲しくて苦しくて堪らなくて……。


 僕はただ――って言ってほしいだけ。たった、それだけ。それだけ、なのにね。


 どうして叶わないんだろう。どうしてこうなんだろう。どうしてなんだろう。何度も思った。何度も思考してみた。でも、わからない。……どうして、なんですか?


 どうして、こうなってしまったのだろう。そこそこでよかった。僕はただ、そこそこ幸せで充分満足だった。なのに、すらも許してもらえないのでしょうか?


 だから、僕はこうなのだろうか?


 誰か教えて? 頼むよ。答持つ誰か、お願い、誰か、だれか、だれ、誰、か……。


 僕は、僕が僕であるからいけないの?


 だったら、僕はいったいどうしたら? 誰も答なんてくれないのに。バカみたいに繰り返すのがアホらしくて僕はいつしか疑問すら吐かなくなった。吐けなくなった。


 それでも望んだのはやはりたったひとつ、――って一言だけだったのでした。


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