第9話 キルマー閣下

「あれ?」ミラクルワンと怪獣の戦いを見ていた母が急に何かを思い出したようである。


「どうしたの?かあさん」秀幸はスティックをポンポンと叩きながら聞いた。


「あの怪獣のなんだか見覚えあるのよね……、うーん」母は思い出そうと腕を組んで人差し指で、自分の額を軽くついた。


「見覚えあるって……」数ヶ月前までは、この尼崎の町に怪獣を送り込んでいたのは、他ならぬアブール星の女王であるアブー女王こと、秀幸の母であった。彼女が見覚えがあるというのであれば、あの怪獣はアブール星のものなのであろうか。


「あー!思い出した!!」母はまるでトンチの答えが解ったかのように手のひらを、こぶしで叩いた。


「なっ何?」母の様子に秀幸は驚く。


「あれは、ピーちゃんよ!」そう言うと、母の体はみるみるうちに大きくなり、巨大なアブー女王の姿に変わった。「キー坊!キー坊!!いるんでしょ!キー坊!!」アブー女王は空に向かって叫ぶ。


 その途端、夜空の真ん中に空洞が開き、悪よ親玉のような巨人が姿を表した。


「ヌハハハハハ!私の名前はキルマーだ!キルマー閣下と呼ぶのだ!」黒い闇のようなマントを羽織ったその姿は、まるで悪魔のようであった。


「キー坊!これ、あなたの家のペットのピーちゃんでしょ!」アブー女王は少し切れかけ寸前である。


「ピ、ピーちゃんだと、こ、これは……、

えーと……、そ、そうだ、ピラニアジャイアントだ!」キルマーは舌を噛みそうになっている。明らかに、その名前は、たった今思い付いたようであった。


「はあ……、なんなのこれは私への嫌がらせかしら?」アブー女王は深いため息をつきながら頭を抱える。


「ち、違うよ!僕はただ、ただ、あの訳の解らないバカヒーローにアーちゃんを取られた事が悔しくて……」キルマーは子供のように泣きべそをかく。


「ディア!!?」バカヒーローが少し怒って一歩前に出る。それをアブー女王は軽くいなすように静止する。


「だって、この町を無茶苦茶にして、あいつを困らせたら……、カッコ悪いとこ見せたらアーちゃんが戻ってくれるかもしれないって……」ごしごしと腕で目を擦っている。それを聞いて今にも、ミラクルワンは、キルマーを殴りそうな感じであった。


「そうなの、ごめんね、キー坊…」アブー女王は、優しくキルマーの頭を撫でる。


「うわーん!僕と結婚してくれるって言ったのに!お風呂だって一緒に入ってくれたじゃないか!!」泣き崩れて彼はアブー女王の腰元にしがみついた。


「ディ、ディア!!!」ミラクルワンが顔を真っ赤にして、まさに殴りかかりそうな勢いであ前に出ようとした。腕を掴んでレディがそれを静止した。


「うわーーーん!」泣きじゃくるキルマー。それをあやすアブー女王。そして焼きもちを焼く、ミラクルワン。


「本当にごめんなさい。キー坊……」アブー女王は、もう一度優しくささやいた。




「な、何を見せられとんねん!?」秀幸達は、呆れて口を開いたまま、その光景を眺めるしか出来なかった。




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