第7話 尼崎の夜

「デアッ!」ミラクルレディが怪獣の前に立ちはだかる。そのフォルムは美しい大人の女性のものであった。男達は逃げる事も忘れて、そのヒーローの姿に見とれていた。


 ギャオー!


 怪獣はまるで毛むくじゃらの姿であった。首には赤い首輪が巻かれている。侵略者が怪獣をコントロールする為の物かもしれない。怪獣は口から炎を吐き、ミラクルレディを攻撃する。


 ミラクルレディは、側転でその攻撃をかわす。その見事な回転に、観衆は虜になっている。


「あんた!早く逃げないと!!」夫婦の奥さんが主人の頭を叩く。


「あ、いや、もう少し……」引きずられるように男は連れていかれる。


「昌子ちゃん……」心配そうに秀幸は、その戦いを見守る。


 しばらくすると、ミラクル・レディの顔が黄色味を帯びてくる。


 ミラクル・レディを支える紫外線エネルギーは、地球上では急激に消耗する。エネルギーが残り少なくなると、顔色が黄色く変化を始める。そしてもし、その顔が真っ黄色になってしまったら、ミラクル・レディは二度と再び立ち上がる力を失ってしまうのだ。


 ミラクル・レディ頑張れ!残された時間はわずかしか無いのだ!


 ギャオーン!怪獣が急に飛び付いて、ミラクル・レディは地面に押し倒される。


「きゃー!」女の子の悲鳴のような声が響き渡る。


 怪獣は倒れたミラクル・レディの両手を抑えて身動きが取れないようにした。彼女は逃げようと体を悶えるようによじらせる。


「お、おおお」男達の歓声のような声がする。もう、どちらを応援しているのか解らない感じであった。


「し、昌子ちゃん!!!」秀幸はスティックのボタンを必死に連打するが、変身する気配は全くなかった。


 怪獣が激しく尻尾を振っている。まるでそれは喜んでいるかのようであった。


「ち、畜生!!」秀幸は地面に膝を落とした。






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