第2話 勇者、動けず

 町から魔王城へ戻ってきた。

 懐には町で購入したなぞなぞの本。

 予習は完璧なので、次は前のような失態はない!

 いざ、行かん! ラストダンジョンの攻略!


「と、行きたいけど、なんでこんなに寒いんだよ?」

 魔王城の周りに雪が積もっている。

 前来たときは、寒くもなく雪も積もってなかったはずなのに。



 俺は城に入り、かじかんだ両手を擦りつつ、白い吐息がそのまま凍りついてしまいそうな寒さに耐えながら、魔王城の廊下を進む。

「じょ、じょじょじょ、城内も寒いなんて、だだだ、だん、暖房ぐらい入れたらどうなんだ?」

 寒さで歯と歯がカチカチと音を立てる。

 それでもなんとか大広場にやってきた。

 すると、気安い部下が姿を現す。



「また来たか~、勇者~」

「も、ももも、もちろん、何度だって来るさ! せ、せせせ、世界の平和のために!」

「寒そうだね~」

「そりゃ、寒いよ! って、なんだお前、それは!?」


 部下は布団で覆われた机に座っている。

「あ~、これ? これはね、こたつって言うの~」

「こたつ?」

「まぁまぁ、勇者も中に入ってごらんよ。暖かいから~」

「だ、誰がそんな誘いに、ヘックション」

「風邪を引いたら、戦いも何もなくなっちゃうよ?」

「く、しょうがない。ちょっとだけ……」



 俺はこたつなる机に近づき、布団を上げる。

「おお、中は暖かいな」

「その中に足を入れて座るんだよ」

「なるほど、こう?」

「そうそう。どう、あったかい?」

「はああぁぁぁぁ~、これはたまんないなぁ」


「でしょでしょ。こたつは暖房の効いた部屋よりも、寒い部屋の方が楽しめるからねぇ~。はい、お茶をどうぞ」

「お、悪い。ずずっ、ふ~、生き返る~……ん?」


「どうしたの?」

「足元に何かふわふわしたものが?」

「ああ、それは猫だね。猫はあったかい場所が好きだから」

「そうだな~、あったかい場所はいいな~」



 しばらく、こたつの暖かさを堪能する。

 

「うん、少し身体がポカポカしてきたな」

「そう? それじゃ、ミカンをどうぞ」

「お、ありがとう。では、皮をむいて……パクっ。う~ん、冷たくて酸味のある甘さがいいねぇ」

「寒い場所で、あったかく過ごし、冷たいものを食べるのは醍醐味だよね」

「ああ~、最高の贅沢だ~。おや?」


 足元のふわふわ、もとい猫が動き出した。

 猫は布団から這い出て、俺の膝元で丸くなる。


「どうしたんだ、猫は?」

「暑くなったから、出てきたんだよ」

「そうか、そういうことかぁ。これでは動けないな~」


 俺は優しく猫の背中を撫でる。

 まったりとした時間……そこに突然、部下が口調を真面目なものに変えて声を出した。



「はい。では、ここからトラップ発動です」

「なに!?」


「今から六十秒以内にこたつから出て、魔王様が待つ扉を開けてください。時間切れになると町に戻されます」

「な、なんだとぉぉぉ? なぞなぞじゃなかったのかよ!?」

「残り五十秒……」

「こ、こうしてはいられない! すぐにでも、」


――にゃ~


「おっとスマン。お前がいたな。ちょっと、ごめんな。どいてもらってと」

「残り三十秒……」

「よしっ。では、こたつから、こたつから出て、出て、出て」


 どういうわけだろう? 体がこたつから出ることを拒否している。


「残り二十秒」

「じ、時間がない。だけど、この心地良さ。振り切れ、俺! 負けるな、俺。立ち上がるんだ~!!」

「残り十秒。9・8・7・」

「ま、まけるかぁぁぁおおおっと、猫が!」

 

 猫が膝に戻ってきて丸くなってしまった。

「そ、そんな、これだと……」

「ゼロ。ざんね~ん。では、町に戻って下さ~い」


 謎の靄が現れ、俺を包む。


「くそぅ! 卑怯だぞ。次こそは攻略してやるからなぁぁぁぁ!」

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