第24話 永遠の塔
「はぁ、本当に面倒くさい。
君たちは先輩である私に敬意というものが払えないのかな?」
「払う気もありません。貴方の勝手な事情で、何人が犠牲になったと...?」
「身勝手で家族を殺した君には言われたくないかな。まぁ、どうでもいいけれど。」
『怠惰』の能力者であることがよくわかる
話し方と態度だ。
気怠そうにこちらを見つめる夢詡彩の目には一ミリの光も灯っていない。
可哀想な人なのだということは全員理解している。けれど、それでもこの惨劇の原因となった人物である彼女を許すわけにはいかなかった。
「罪星...自分の母親も非道な人だったこと、
本当に詫びるっす。そのせいで娘さんが
殺されたことも。だから、どうか自分の命だけで。二人を...助けて...。」
今にも溢れ出そうな涙を堪えて懇願する砦を
「出来ない相談だね。そんなことしたって、
もう回復の能力者は手に入らない。
そうなったら危険分子は排除しておくべきだろう?」
「そんなことのために殺される私たちの身にもなってよぉ。それに今の状況じゃ多勢に無勢で貴方が不利じゃない〜?」
「そうかもしれないね、けれど、生き残った者の能力を甘く見るな。私は君たちを殺せる。」
自分自身に確認しているようにも見えた。
合歓が行っていたような自己暗示。
「『絆』」
夢詡彩が唱える。
炎は心臓を握られたような感覚に露骨に顔をしかめた。
「君と私の絆を繋いだ。
解こうとすれば心臓を潰される。
もしくは、何らかの理由で死ぬ。」
「なるほどぉ。」
「これで謎が解けたっす。」
「謎...?」
「そうっす。合歓ちゃん程心の強い子がどうして貴方に
「その『絆』とかいう能力で合歓や暦ちゃんと命の契約をした。そして、裏切った最初に裏切った合歓を暦ちゃんの手で一度殺させた。これが合歓にかかっていた能力が解けた理由。支配されていた合歓は生き返ったことで自由に裏切れるようになった。」
「暦が...正気に戻ってすぐ殺されたのは...
能力の都合...。あのまま貴方が放っておいても暦は心臓を潰されて殺されていたんだろうけど、それだと私たちに自分の能力がバレてしまうかもしれない。どうせ敵に回すなら、
能力は知られずに戦い始めるのが賢明...」
痛む胸部を手で抑え、苦痛に顔を歪めながらも炎は惟呂羽に続いて推理を話す。
「つまり、私はここで貴方に攻撃できないけど...」
「自分達なら」
「攻撃できる!」
少なくとも砦にはこの能力が効かない。
『爆食』によって無効化されてしまうから。
炎は夢詡彩に攻撃こそ出来ないが身をもって知った。洗脳されるわけではない。
これなら、体を乗っ取ったり、行動を制御したりする能力の方が遥かに恐ろしいじゃないか。
「自分にも隠していたとっておきがあるんす。
炎さん!」
「はい!砦さん。」
砦が上唇をペロリと舐めると炎の心臓の痛みが消える。
「自分以外にかけられた能力を食べることもできるんすよ?」
「『魅了』!」
視線を惹きつけ一瞬動きを止める。
一瞬で十分だ。
「『破壊』!」
炎が床を叩き割った。
飛び散った破片を蹴って夢詡彩に当てる。
「ちっ...」
包丁を手でクルクルと動かしてから、持ち直し、力を込めて握る。
力を込めたまま、勢い任せに砦に襲いかかる。無効化の能力者を殺せば能力で二人を拘束して終いだ。
「残念でしたね、罪星。」
「『魅了』!」
何があっても視線を惹きつける惟呂羽。
それは、武器での攻撃を図る夢詡彩にとって絶望的に相性が悪い。
包丁を刺すという間合いに入ることを必須条件とする攻撃手段だ。『魅了』の前に、
抗えるわけがなかった。
「『破壊』」
今度は全力で夢詡彩の顔を殴った。
なんでも破壊できる炎の拳を直に受け、
頭は首と繋がっていられるわけがなく、
勢いよく弾け飛んだ。
ビチャっと、グチャっと鮮血が飛び散り、
目玉が飛び出したりと見るに堪えないものだった。
数分後、口を開いたのは砦だった。
「皮肉なものっすね。
自分たちは元々死んでいたのに。
あの時生きてた人が死んで、自分たちが生きてて。なんだか、罪悪感が残ります。」
「そうねぇ。私も塔に来たこと自体を後悔しているわぁ。」
「...」
「炎...?」
「取り戻したくないですか?」
「「え...」」
「亡くなった方々を。生き返らせたいと。」
「そんなことしたら、あの人たちと同じだよぉ?」
「わかってます...。きっと罪星もこんな気持ちだったんでしょうね。今なら悔しいですがよく分かる。分かってしまう。」
ポロポロと涙を流しながら縋るように見つめてくる炎の申し出を二人は断ることが出来なかった。
「そうっすね...炎さんが言うなら...
自分は従います。」
「私も、たしかに取り戻したいわぁ。」
「私たちは切っても切れない絆で繋がっています。それは亡くなった四人も、それぞれの
大切な人も...罪星たちですら、同じです。
どんな手を使ってでも...あの約束を。
もう一度食卓を囲む約束を。」
「「「守りましょう」」」
数年後...
欠伸をしながら今回の最後の参加者、
「こんにちは...貴方が最後の...」
眠たそうにした少女は言葉を途切れさせながら話す。
「そうよ、私は『憤怒』の能力者。」
それから一ヶ月間、平和な日々は続き
時は来た。
ピロロン
全員のスマートフォンが鳴る。
『全員が揃って約一ヶ月が経過致しました。
よってこれより、永遠の塔の戦いを開催いた
します。皆さん、楽しく殺し合って下さい』
第十一回目の戦いが幕を開ける。
永遠に終わらぬ不幸を産み続けるこの塔は...
永遠の塔と呼ばれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます