第22話 描かれたような不幸

色欲side


惟呂羽と向かい合う形で立った惟呂羽の

元親友・灰原美取かいはらみとりは左に向けていた視線を

惟呂羽に向け直す。


「なんか馬鹿みたいだよねぇ。私たち。

同じことを色々な場所で繰り返して。

でも変えられないのぉ。

美取ちゃん、美取ちゃんがしてることは悪いこと。今すぐやめたら助けてあげるけどぉ。」


「別にいいわ、ぶりっ子。

友達だったのは私がモテるためだもの。

なのに整形なんかで綺麗になって、

モテる能力だってあるのに不幸ぶって媚びてさ、悪口流してたのが私だって知らずに」


「美取ちゃん...嘘でしょ」


「本当だよ?というか面白くない?私の名前、美取って美しさを取るって意味じゃん。

正に今の私!」


「本当なら容赦しないよぉ。

本当に辛かったんだからぁ。」


相変わらず間の抜けた話し方ではあるものの

その声には怒りが込められている。


「『魅了』」


能力によって惟呂羽に見惚れた美取は目に

ハートを浮かべて頬を赤らめる。


「ごめんなさい、美取ちゃん」


斧を手に持ち大きく振りかぶる。

グチャッと気分を悪くする音が鳴って、

美取の額から頭にかけてが二つに割れる。

赤黒い血がドクドクと流れ床を染めていく。


「私はかわい子ぶってないよぉ。

可愛くなるためにどれだけお金を払ったと思ってるのぉ...

元から綺麗な美取ちゃんにとって私は邪魔で、私にとっても嫉妬の的だったよぉ。

私は綺麗になれたけど、貴方の心は綺麗になれなかったねぇ」


憐れむような視線を向けた後、手を合わせて

場を去る。

前までならきっと殺せなかった。

けれど、一度死んだ時に思った。

殺さなければいけない時もあるのだと。

そういう時は絶対に来るのだと。









暴食・憤怒・嫉妬side

「大食砦、お前は許さない。大食海星おおしょくひとでの娘」


「お母さんが、何かしたっすか...」


「大食海星は第九回の殺し合いの『運営』からのスパイだった。」



八月一日愛羅ほずみてぃあらの母、八月一日凪沙ほずみなぎさは大食海星と共に行動していた。当時の『暴食』の能力者は

現在の『怠惰』である合歓と同じ立場だった。その時の『運営』は夢詡彩ではなく、

別の人間だった。

夢詡彩は第九回の参加者であり『運営』とは関係がなかった。


海星は当時のメンバーを裏切った。

結果は合歓が裏切った時より酷く、

人間不信になって行ったメンバーは

次第に殺し合った。

後に海星は死んだものの犠牲は犠牲だ。

戻っては来ない。

凪沙はその犠牲の一人だった。

凪沙は海星が当時の『運営』と連絡をしているのを聞いていたので、最初に狙われてしまったのだ。


だから、大食家の人間だけは許せないのだ。



「お前はあいつと血が繋がっている。

あの穢れた血が...」


「そんなこと、知らなかったっす...。

ごめんなさい、母が酷いことを...。

ごめんなさい。ごめんなさい。」


意味を成さない謝罪を続ける砦を前に愛羅は涙した。昔、母がすぐに謝る人だったのを思い出したのだ。謝る母を守るために強くなろうと思っていたのだ。

謝る母を放っておけなかったのだ。


目の前で何度も自分の罪でもないことを

謝罪する砦を見て、思い出が蘇って。

今、砦が自分に謝っていることは違うのではないかと思えて。


「殺す...気はない...」


そう言ってしまった。

自分も犯罪者であることを棚に上げて、

上から目線で。


「先には罪星がいる。暦とかいう子供もだ」


暦という言葉に炎が反応する。


「すまなかった。合歓を、お前らの仲間を殺したのは私だ。本当に悪かった。死んで報いる」


愛羅は超小型爆弾を無理やり口に入れる。

外部からの爆発は『鉄壁』で守られてしまう。ならば体内から。そう思った。


ドカーン...


少し鈍い音だった。

体内で爆発したせいか、規模も多少小さく、

それでもだいぶ体のパーツが飛び散った。


「合歓...やはり...約束を...。」


恋音は拳を握りしめた。


「私はもう寿命の関係で生き返らせることが出来ません。ですが、仲間の中に原型を留めぬ遺体があっては、それを放っておいては仲間ではないと思うんです。

今体再生までなら出来る人数は二人。

合歓と強花ちゃんを人間に戻すことは可能です。身勝手でごめんなさい。私は妹の隣で死にたい。それには体がなくちゃいけない。

大人らしいところ、見せられませんでしたね

ごめんなさい、さようなら、どうかご無事で

『惜別』」


二人の体が再生する。

強花の遺体の場所は遠いので、合歓の再生しか見えなかったがこれで恋音は満足だった。

傷だらけではあるが体が再生したころ、

恋音が倒れた。


「「恋音さん...!」」


幸せそうに微笑んで恋音は合歓と永遠を過ごすことを選んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る