第20話 二人は二人を見送った

炎はやっとの思いで四人に追いついた。

息を整えているのが一人しかいないことから

四人の中に嫌な予感 否、確信があった。


「炎ちゃん...」


「強花さんが..亡くなりました。

私の能力を使って、ぐちゃぐちゃになって」


気分が悪くなったのか口を押さえた早苗を

心配そうに砦がチラッと見る。


「私は強花さんも、皆さんも、勿論暦のことも救いたい。皆さんの大切な人も。」


「合歓ちゃんは..生きてますよね...」


「私の妹はそんなにすぐに眠りませんよ確よ」






ーーー『運営』にてーーーー

「どうして一度裏切ったの?

まぁ、恐らくはお姉さんに唆されたことが原因だと思うけれど。」


「そうですね、姉の言うことに一度でも耳を傾けた自分が情けないです。」


合歓は俯いて答えた。

夢詡彩と暦ともう一人の女性は疑いの眼差しを合歓に向けている。


「疑われるのも無理はないでしょう。

姉と自分の間違いに気がついた今、

私は貴方たちのために何でもします。

義母様、暦ちゃん...と...」


「そう。ならば、恋音以外の全員を殺して来なさい」


「どうして、恋音以外なのです?」


「あの子が回復の能力者だから。

『嫉妬』の能力者だということは調べていたので知ってたけれど、それが回復のものだと決めつけるには早かった。

結果論からすると合歓と暦のお陰で回復の能力だとちゃんとわかった。

回復の能力を私たちは求めている。

さぁ、私たちの仲間だと言うなら早く。」


「わかりました。」


「見張りとして、合歓がさっきから気になっている八月一日愛羅ほずみてぃあらを同行させる。」


完全に疑われている。

裏切っているのだから当たり前ではあるが。

疑われたままでは攻撃を仕掛けられない。

ここは、愛羅とやらだけでも殺しておくのが賢明だ。

任務を果たしたとして、用済みと殺されてしまってはただの双方の裏切り者として終わってしまう。それだけは避けなくては。



「えと、合歓だったか?罪星の義理の娘の」


「はいっ!あなたはっ?」


胡散臭いだろうが自分の中で一番可愛い笑顔で問いかける。


「私は...前回の参加者・八月一日凪沙ほずみなぎさという者の娘だ。私が求める情報は一つだけ。大食砦はどこだ?」


「どうして、砦の居場所を...?」


「あいつの母親が私の母を殺したも同然だからだ。」


「何で?」


「まだ聞きたいか?」


「そうじゃない。どうしてペラペラ喋るの?

敵かもしれないって言うのに。」


「知ってるよ、でも、私は罪星に忠誠を誓ってここにいるわけじゃない。情はあるけど」


「それじゃあ...、教えてくれない?

『運営』には何があったのか、何を目的としているのか。」


「条件がある。殺し合いを受けてほしい。」


「どうして...?」


「私の母は『運営』からの刺客によって

殺されたと言える。だから『運営』の刺客として仲間を裏切り、今も尚私たちを裏切るつもりの合歓を許すわけにはいかない。」


「わかった。私が貴方を戦闘不能にしたら

殺す前に情報を言って。」


「逆なら、大食砦の居場所を聞く」


合歓は槍を、愛羅は爆弾を持った。


「貴方の武器は爆弾...?」


「そう、私が勝っても大食砦の居場所は聞けないだろうね」


「そうならないよう気をつけて。『幻想』」


愛羅の意識を乗っ取った瞬間...。


「やはり、戻って来たわけではないと。」


夢詡彩が鋭い視線を送る。

負けじと愛羅(合歓)も睨み返す。

今この場で『幻想』を使って夢詡彩まで乗っ取れば簡単な勝利だ。

でも、そうはいかない理由があった。

『幻想』は乗っ取る人数が多ければ多いほど

中にいる自分への負担が重くなる。

つまり、眠くなる。

夢詡彩のすぐそばにはいつも暦がいた。

きっと、もうすぐ夢詡彩の隣に来るだろう。

愛羅一人を乗っ取るのも長くは続かない。


「眠い...な」


来てしまった。

強い人間を乗っ取ればその分早くにその時はやって来る。


「なんだ、ちゃんとナイフあるじゃない」


朦朧とする意識の中で愛羅の服の中に隠してあったナイフを手に取り愛羅の心臓部に突き立てる。体は自分のものではないから死なないが痛みは感じるはずだ。

でも、感じなかった。

理由は簡単だ。

愛羅の体に刃が通らない。


「どうして」


驚きで『幻想』を解除してしまった。


「能力、『鉄壁』。

私に物理攻撃は効かない。」


「そんな...それじゃあ...」


「言え、大食砦はどこにいる?」


「知らない...。」


本当のことではあった。

自分たちと同じフロアにいることはわかっているが、地下室も広い。しかも音が遠くまで響かない。連絡もしていない。

どこにいるのかなんて正直知らない。

合歓は条件を呑むフリをして受け入れてなんかいなかった。

あくまで、自分が死んでも自分たちに有利なようにことを進める。


恋音が死人を生き返らせられるなら、

『死』を扱う能力を応用できるはずだ。

死んだ自分の記憶を探ることが出来るかもしれない、そうすれば相手の厄介なところ、

夢詡彩から恋音だけは狙われていないことが伝わるかもしれない。

何にしろ、自分が死んだとて、失うものは

自分の命だけだ。

これは合歓にとっては有利なことでしかない。ただ一つの心残り...。それは


「約束、守りたかったな」


眩い光に包まれて、爆音と共に合歓は砕け散った。強花よりも跡形もなく、存在がなかったかのように。

折角確認した存在価値が最初からなかったかのように。



「私だけじゃ...結局無力だ」


爆発寸前、その思いが最期に浮かんだ。










ドカーン!!!!


と大きな音がして、この塔のどこかが爆発したことがわかった。

流れ的に合歓だろう。

全員それを察した。


「合歓...」


恋音は呟き、音がした方へ急いだ。

一同、それに続こうとした。


「あらまぁ、お嬢様。」


「有栖...貴方もここにいたのね」


早苗が足を止めた。


「行くっす、ここは早苗さんと自分の出番っすから」


二人は二人を見送った。

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