第18話 強い武器も壊れるもの

丁度、再び全員で食卓を囲む約束を六人でした直後のことだった。


「だれ!?」


炎が急に後ろを振り返った。


「中々だな、お前の察知能力は。」


「誰と聞いてます」


「母さん...」


強花が声を震わせて目の前の女性よりも早く答える。答えるというよりは女性が答えるべき質問を増やしたように聞こえた。


「俺は十六夜円いざよいまどか

今こいつが言った通りこいつの母親だ。

だが、今では『運営』の一人っつう中途半端な女だよ」


強花同様ヤンキー口調の円は娘と同じ群青色の髪を手で掻き上げてみせる。

髪や話し方以外にも共通点は多く、

親子というより姉妹というほうが相応しいくらいに若々しい。


「お前らと戦いたくて来たってのが理由の

全部じゃねぇが、強い奴は嫌いじゃねぇ。

生き残ってんならそれなりなんだろ?と

言いたいところだがな、あいつが裏切ったんだっけか?全く、これだからお子様はな。

あいつが取り残した獲物を狙いに俺が来た。

どうせお前らは死ぬんだ。良いことが聞けて良かったなぁ。お前らが読んでた通り、

『運営』はお前らと対応するように集められている。つまり、俺は強花のための敵ってわけだ。『運営』が能力者をわざわざ集めて殺し合いさせる理由はあるがそれは教えねぇ。」


少なくとも合歓と繋がっていたということから本当に『運営』であることがわかる。

しかも、ここまでペラペラと情報を話すということは、これ以上の情報を隠すためのフェイクだろう。つまり、円は合歓以上に秘密を知っている。口を割らせることは出来ないだろうが、合歓より上の立場な以上、凶悪な人物なのだろう。事情があったとしても、

七人がこうして反撃しているのにも理由がある。だからきっと殺しても罰は当たらない。


攻撃する罪悪感の残る六人は必死に自分の心に言い訳をした。無理矢理、こじつけて。


「おい、お前ら。」


母親とそっくりの話し方で強花が五人を呼ぶ。その目は決意に満ちていた。


「自衛用に持って来といて良かったな。

武器。ここは私に任せろ。

他に何人もいるんだろ?母さんに時間かけてる場合じゃねぇ。

約束は守るから、きっと。だから...行け」


鎌を取り出す強花が本気なことは誰だってわかっている。本気で自分たちを守ろうとしているのだと、誰でもわかる。

でも、そこで素直に任せられないのは、

彼女のパートナーである炎のさがだった。


「私も残ります、強花さんと一緒にいることが私の幸せですから」


微笑んだ炎に強花は呆れたように頷き、


「ありがと、んじゃ任せるわ」


と言って頬を朱くした。


「わかってんじゃねぇか。俺が強花を殺したかったってこと。」


「お互い様だ、母さん。

『運営』の悪人が何を言おうと私らに敵わねぇよ。」


強花が目で出した合図で炎が発砲する。


バンッ、バンッ!


銃声は響き渡り避けた円の右腕に当たった。

大きい武器での攻撃はされないだろうと安心した時だった。突然の激痛が炎の右腕を襲った。


「炎、血が!」


「どうして、何もされてないのに」


「能力か!?」


「当たり前だろ、元々ここでする筈だったのはこういう戦闘だ。

これが能力者の殺し合いなんだよ。」


円の能力は『傷』、自分の負ったダメージを

負わせた相手に返せる能力だ。

戦闘において、最強とも言える能力。

自分が殺されることで相手を殺せる。

相手がそれなりの傷を負っていればこのままとどめを刺せば良い。

けれど、この能力は痛いはずだ。

少なくとも能力で相手を弱らせるには

自分もそれ相応の傷を負わなければならないだろう。つまり長くは続かない。


「炎、下がってろ。」


「いいえ、これは私たちが有利です。

私たちは二人です。二人でダメージを与え続ければ殺せます。だって、あの人は傷を負わせていない人に返すことは出来ないんだから。」


「そうか、もし母さんが違う相手に返せるのだとしたら一気に全員を殺せる。

少なくともこの場にいる私を狙わない理由がない。流石だ炎、よく気付いてくれた。」


「はい!なので自分が痛みに耐えられる場所を兎に角狙いましょう。」


「人の弱点を推測してペラペラ話して、

悪趣味だなお前。」


余裕そうに鼻で笑う円を二人で流して

同時に武器を向ける。


「調子に乗るな!俺は負けねぇ。

折角生き残ったんだ、絶対死なねぇ」


そう言うだけで全く攻撃して来ない。

どうしてかと考えた。

そして答えにたどり着いた。

しないのではない。出来ない、いや出来るが

したくないのだ。

相手と傷を共有することが能力ならば、

自分が相手に与えた傷もまた自分に返って

来るのかもしれない。

その可能性が濃厚だと炎は考えた。


「炎、お前今きっと同じことを思った」


そして炎の発砲と同時に強花が間合いに入り

腹部を切り裂いた。勿論ギリギリ死なないように加減して。けれど、当然のことながら

痛みも傷も本物で強花と円は床に倒れ伏した。

けれど、再び立ち上がった円からは先程より凄い殺意を感じた。


「炎、私の能力は『強奪』ってんだ。

人の能力を奪って使える能力。

ほんと、受け身の能力が多いよな。

それでお前の能力を奪った。

奪ったって言ってもコピーみたいなもんで

勿論お前も変わらず使えるままだ。

お前の能力、強いんだな。

改めて好きになったぜ。

ここは私に殺らせてくれ。

親子喧嘩は親子で終わらせねぇと。」


炎には強花がしようとしていたことがよくわかった。わかってしまった。

止めようとした、現に止めていた。


「やめて!お願いです、やめて下さい!」


「やめねぇよ」


悪戯する子供のように笑って強花は炎の能力を口にした。


「『破壊』」


炎の能力、『破壊』。

その名の通り物を破壊する能力。

なんでも。本当になんでも破壊する。

人間だって、いとも容易く破壊する。


それを円に使ったのだ。

強花が円を弱々しく殴りつけた時、

殴った強さとは比例せずに円の体が砕け散った。



そして、恐れていたこと。

けれど確信してしまっていたこと。


強花の体が勢いよく弾け飛んだ。

飛び散る鮮血が炎を赤く染めた。

口は悪かったのに血はこんなにも綺麗で、

跡形も無くなった強花の欠片を前に炎は

ヘナヘナと座り込んだ。


「私が...私がこうなるべきだった。

どうして、貴方が...行かないで、逝かないで。

お願いだから、天国とおくに行かないで」



力の抜け切った声で手だっただろう物を握りしめる炎の声が炎以外誰もいなくなった空間に響いた。

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