第14話 愛情

合歓は能力を応用し、恋音の意識を自分の中に入れる。

恋音は合歓の記憶に入り込んだ。




合歓の恋音との記憶は全く無かった。

塔に来るまで、再開するまでの家族との記憶、それどころか学校の記憶の中でも良いものは一つもなかった。

忘れたい記憶だったのか、断片的に虐められている姿が映るだけで、不鮮明であった。


その中で色づいていた記憶...。

それは恋音が疑問に思っていたことの答えだった。

合歓が家から出て行った後の真実。


その記憶には見知らぬ人物が数人いて、

合歓が豪華な椅子に座っていた。


「君は見込みがある。

不幸だったろう?苦しかっただろう。

それを、私たちが解決してやろう。

ここにいれば寂しいことはない、

私たちと家族になれば君が焦がれた能力だって手に入る。」


合歓にとって能力は羨ましいものだった。

恋音にとってはいらない、ただ迷惑なものであったとしても、そのお陰で恋音が皆んなに愛されているのだと思っていたのだ。

まだ幼く、ほとんど姉と会っていない

合歓には恋音の苦しみなんてわからなかった。


目の前に、全てが手に入る選択肢があり、

それを怠惰にも受け入れて『運営』のトップである、罪星夢詡彩つみほしむくあたちの家族として戸籍を登録しなおた。

すんなり登録しなおせたのはきっと夢詡彩たちのうちの誰かの能力によるものだろう。

そして、正式な家族になった合歓は『運営』から余っていた『怠惰』の能力を与えられ、

スパイとして明るく愛される態度や

武器の扱い方・能力の使い方・毒などの扱い方などの基礎的な知識を叩き込まれた。


そして自分に居場所をくれた義母のために

尽くすと誓っていた。

実際に人を殺すまでは。

一人目、惟呂羽を殺害した時の気分の悪さは

どうしたって治ることはなかった。

三人もを殺しても慣れることはなかった。

結局はただの一般人だったのだ。

一般人が超人になることは出来ない。

そう思うと、何故自分がこんなに人の人生を狂わせ、何のために殺しているのかがどんどんとわからなくなって。

でも、もう後には引けなくて

姉への妬みや嫉み・変なプライドが邪魔して

誰にも言い出すことも謝ることも出来なくて

謝ったとしてもこれからどうしていいのかも

分からなくて。

楽な方へ、夢詡彩に従っているだけと言い訳し、考えずに馬鹿みたいに振る舞って

そして姉への恨みすら消え去った。


スパイとして来ている以上、成果を上げなくてはならない。

けれどもう、罪のない人を殺したくない。

死んでもいいから楽になりたいというのは

『怠惰』で自分勝手だけれど

それが今のたった一つの望みだった...。











合歓の記憶はそこで終わった。

『運営』について知っていることは少なく、

彼女らにとって合歓が捨て駒であったことは

よくわかる。

恋音は『運営』の目的が気になった。


「合歓...。やり直したいならやり直しましょう。私ならそのお手伝いができますよ」


「で...でも、きっと皆んな凄く...

私のこと、怒ってる。

自分勝手で『怠惰』で、皆んなを苦しめて」


泣きじゃくる合歓を恋音が強く抱きしめた。

合歓は恋音に顔をうずめて、

そのまま恋音に体重を預けた。


吐血しながら。



「合歓っ...!?」


「ダメですよ!義姉様ねえさま

義母様かあさまを裏切っちゃ!」


十歳前後であろう少女が鎖にいかつい針が付いた武器で合歓を貫いている。


「貴方...『運営』の」


「大好きな義姉様を正気に戻しちゃった罪、

償ってよ」


そう言って少女は走り去った。

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