第13話 真実 そして 今

「私は一回、合歓を殺した」


「ど、いうこと...?」


恋音は痛む傷口をより強く抑えて


「私の意識を乗っ取っていただけませんか?」


そう言った。

合歓は驚いたが『幻想』を使い、恋音の記憶を辿った。






恋音が十歳の時、妹が生まれた。

妹は合歓と名付けられて、

忙しい両親達の代わりに恋音が面倒をみていた。

ゆりかごの中で眠る合歓は幸せそうな顔をしていて、恋音が頬を撫でるとより一層

可愛く微笑んだように見えた。

この子を一生守り続けたい!

そう思っていた。


ある日、いつものように留守番を二人でしていた時だった。

少し眠くなって合歓を撫でながら寝落ちしてしまったのだ。



母の悲鳴で目が覚めた。

妹は何故か冷たくなっていたが外傷は

見当たらなかった。

初めて、自分が能力者なのだということに

気づいた瞬間であった。


「私が...能力者?」


妹を殺したのは自分が無意識に能力を注いでしまっていたからだった。

顔の当たりを撫でながら寝落ちしていた、

恋音の意識がなかったので上手く能力を制御できずに暴走したのだ。

合歓が幸せそうな顔をしたまま動かないことが生まれてから一度も経験したことのない

恐怖を感じさせた。


「ね...むはどうなるの...?」


「恋音の能力は恐らく生命を操作する力なのだろう。」


父の言葉が静かな空間で嫌な響き方をした。


「どういうこと?」


「何も外傷がないということは直接攻撃系の

能力ではない。乗っ取ったりなどの精神操作系でも多少の傷は遺体につくはずだ。

なのに魂を抜き取られたかのように息を引き取っている。」


父がこんなに冷静だったのには理由があった。父の姉が第九回の参加者の能力者だったのだ。

『嫉妬』の能力者だった父の姉は能力マニアだったらしく、塔へ行く前に様々な能力について詳しく調べていたそうだ。

だから、その姉経由で父には能力についての

知識がこの中の誰よりもあった。


恋音の能力は目覚めるのが遅かったが、

その能力の質的に『嫉妬』のものであると判断された。

『嫉妬』は生命操作の能力が多く、

色々自分たちで調べて行く中で恋音の本来の能力は『惜別』であることがわかった。

自分の寿命と引き換えに一年以内に死亡した人物を生き返らせられる。

それが、恋音の力だった。


恋音は躊躇などしなかった。

合歓が生き返るならと失敗分と合わせて

十年もの寿命を削って合歓をなんとか生き返らせた。


「うんぎゃぁぁぁ」


再び何事もなかったように聞こえる

合歓の泣き声に家族全員で涙した。




「恋音...」


「わかってる、お父さん。

私は合歓を殺した、また殺さないように合歓から距離を置かなきゃ。」


「頼んだ」




その後、恋音にも合歓にも何も起こらない筈だった。

恋音が合歓に近づかなければ何も起こらない筈だった。

実際、恋音は合歓に近づいていなかった。

きちんと距離をとって、違う部屋で過ごしていた。それなのに問題は恋音自身に起こった。


恋音が暫く意識不明になったのだ。


「恋音!れん...れ...

どうしてあれから何もしていなかったのに」


母が泣き叫ぶ。

父は今回も冷静だった。


「能力が暴走して体を蝕んでる。

このままだと、将来命に関わる病気にかかり安くなる。今どうにかしないと...」


既に合歓が一度死んでから五年、

合歓は構ってほしかっただろうに恋音の能力のせいで、まともに相手にされていなかったのだろう。


二年後に恋音が目覚め、能力を制御できるようになった時には合歓は恋音と口もきいてくれなかった。

七歳にして冷めた態度で周りに接して、

虐められていたのも知っている。

それでも恋音は合歓に言葉をかけてやることが出来なかった。

自分のせいでこうなったのだから。

せめて、雑誌に載っていた黒いリボンを

合歓が欲しそうに見ていたリボンを買ってあげたかったが、お金を持っていなかったので

自分で作った。


合歓は唐突にいなくなった。

どこへ行ったのかもわからないまま数年、

『永遠の塔』へ行き、合歓と再開した。


雰囲気の変わった合歓に戸惑い、別人だと

思ったが本当に合歓で良かったとそう思った。無事で良かったと。

叶うならちゃんと詫びてもう一度...。


ただ一つだけ安心と共に思ったこと。

その謎はまだ解けていない。






合歓は恋音に意識を返した。


「私の今この瞬間までの記憶は終わりです。

次は貴方が教えて下さい。

どうやって能力を手に入れたのか、

どうしていなくなったのか。その謎を」



合歓はゆっくりと頷いた。

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