第9話 強制的自業自得

翌日の朝まで早苗は一切眠れなかった。

早苗は合歓を殺さなくてはと考えた。

合歓は口が軽いだろう、

実際にああ脅して来たのも早苗の殺人を話す気のない者ならばして来ない筈だ。

ただ脅したかっただけならば人間性を疑う。

砦を殺したことを自覚したときに何となく

人の気配を感じたが合歓だったのだろうか。

見られていたのかも知れないという恐怖が

早苗を襲った。


「ひ、一人殺せば二人も同じ...」


剣で殺しているのが誰かに見られては、

結局結果は同じだ。

確か恋音れんは毒を扱う筈だ。

恋音の部屋に入り込めれば毒を手に入れ、

あわよくば恋音が合歓を殺したことにできるだらうか...。


それは難しいとしても早苗の犯行だと疑われることはまずないだろう。

合歓が早苗の犯行を誰にも話していなければ

砦を早苗が殺したことを知る者は合歓以外にいない。

それならば少々不自然な行動をしても大丈夫かもしれない。

そう考え、恋音の部屋へ向かう。


案の定 鍵はかかっていた。


「開きませんわね。壊しますか」


手に力を入れて扉の取っ手を破壊する。

早苗は怪力かいりきお嬢様なのだ。

壊した扉から中へ入り、辺りを見回す。

予想通り、毒の入った小瓶がいくつか見つかったが、その中で一番変な色の液体の入った小瓶を手に取った。


「これは...流石にバレる気がしますわね」


結局、無色透明の一番地味な毒薬を選んだ。


「こういうものの方が割と効能が良い可能性もありますしね...わかりませんわ、毒は...


この写真は...」


早苗は恋音と紫髪の少女が映る写真を見つけたがそこまで気に留めなかった。

小瓶をポケットに入れ、恋音の部屋を後にする。

皆が朝食を食べに来るまであと約三十分。

常に居座っていた砦がいないのでそのくらいはある。

それまでに合歓が食べそうなメニューに毒を入れておく。

塔の料理は全員出されるものが異なり、

合歓は好き嫌いが多いので一食のメニューの中で合歓から食べるものを決める。


まず一皿目、合歓はカボチャが嫌いな筈だ。

このメニューの中にはカボチャサラダが入っている。絶対に選ばないだろう。


二皿目、これは飲み物が紅茶だ。

紅茶の香りが苦手だからと合歓は遠ざけていた。よってこれも選ばない。


三皿目、これにはピーマンの肉詰めがある。

ピーマンは苦いので苦手だった筈だ。


四皿目、これには特に何もないが五皿目に比べて好きなものが少ない。


早苗は五皿目に毒を盛ることにした。

間違っていては惨劇となってしまうが、

今はこの手が最善だと考えた。

毒を五品中・四品に盛り共同スペースへ入るところにある物陰に隠れる。



「お腹すいたね〜!レンレン!」


合歓と恋音が来た。


「そうですね、部屋の鍵が壊れていたのは

驚きましたが何もないようですし。」


恋音がニコッと笑うと合歓は可愛らしい笑顔で返す。とても昨夜脅して来た子とは思えない。


「合歓ちゃん、どれにします?」


「これかな〜、今日のメニューの中で一番好き!」


合歓が選んだのは...。

カボチャサラダの入っているメニュー。


「うそ...」


どうにか説得しようと物陰から出て行く。


「カボチャが入っていますがいいんですの?」


あくまで合歓を心配した声色で

疑われないように。


「いいの!これはレンレンが食べてくれるもん!」


合歓は折れる様子を見せない。

仕方ない。これ以上言ってもきっと疑われるだろう。


「では、わたくしはこれにしますわ」


自ら毒の入ったメニューを選ぶ。

勿論、毒の入っている品は食べない。

途中まで食べるなど下品だが仕方ない。


「お腹空きましたね、強花さん!」


「そうだな、腹の空く時間でもねぇけど

朝だし」


炎と強花も来たのでもう逃れられない。

合歓を殺そうとして他の人を殺しては早苗のメンタルが狂ってしまう。


「「「「「いただきます」」」」」


全員の声が重なり、緊張が早苗にのみ走る。



「ご馳走様でした。今朝は食欲がないので

わたくしはこれで。」


「大丈夫ですか?ゆっくりして下さい。

早苗さん」


炎の優しさに心を針で刺されたように

罪悪感に潰された。


「すごい早く食べるの頑張っちゃった〜!」


「合歓!?」


「はーい!合歓でっす!

本当に食欲なかったの〜?

あれ、毒入ってたっしょ?

私あれ食べたかったのに〜酷いな。

毒盛るなんてさ〜」


殺されそうだったのにヘラヘラと続ける。


「そんなに私のこと嫌い〜?」


「えぇ、嫌いですわね。すごく」


早苗は急いで部屋へ入り剣を手に取った。


「やっぱり!その剣でトリデっち殺したんだねー」


合歓はどこから取り出したのか槍を構えて言った。

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