第22話 重版は大事なのです
「そもそも万人に受ける作品などあるのかね?」
「それこそ聖書とかですか?」
「まあ、ウチが上手い汁を啜れるのはなにも創作小説だけではないが」
「書籍というだけなら、ハウツーや自己啓発本もありますね」
「教育用の出版物や取扱説明書もあるな」
「でもそれらは、発行部数の限界があります」
「そうなるとだな、やはり重版という不確定要素は魅力なのだ」
「そうですね、絵本や児童文学、純文でもそうですが、長きに渡り売れ続けている作品はたくさんありますね」
「儂が思うベストセラーの定義は、この継続性にこそある!」
「急に思いついた感は拭えませんが同意しましょう」
「つまりだね、即時性の高い変化しやすい情報は一瞬なのだ」
「新聞や週刊誌とかですね」
「だがそれらは多くの読者がいる」
「的を絞っていない……ですか」
「不特定多数を対象にしているのだ。新聞だけで言えば、家族全員が自分の必要なところだけ見るといった利用もあるだろう」
「私は、四コマ漫画とテレビ欄ですね」
「儂は訃報欄と川柳コーナーだな」
「経済欄くらい読んでください」
「で、その寿命は一日も保たない。事件欄などの後報による変化が大きい事象はそれこそネットの方がはるかに優れているからな」
「新聞は取っておくと便利ですが」
「それは情報伝達媒体ではなく、保温用や梱包用に用途を変えておる」
「でも「デイ・アフター・トゥモロー」では図書館の本を燃やすことで命をつなげました。あれは、たくさんの後世に残したい蔵書があったからですよね」
「儂が言っているのは紙媒体としての不変かつ重要な情報保管の話をしているのであって映画内でのサバイバル的な運用の話はしていないのだが」
「そんなことはわかります。でも図書館に残るほどの本というのはまさにベストセラー作品の定義としてしっくりきます」
「まあ図書館には新聞も残してあるのだがな」
「新聞は、ほとんどは電子化されていますよね」
「そこだ。やはり実体が大事。書籍とは、その紙やインクの変化も楽しむものだ。きみも前に言っただろう?格好つけて本棚に残したいと」
「装丁の素晴らしい上製本など、コレクションとしての所有欲は、確かに満たされますからね」
「財産として相続するというのもいいな」
「社長の言う、ベストセラーは継続性!につながるということですか。そう考えると、老若男女に受ける物語じゃなくてもいいのではありませんか?」
「ふむ。息の長い物語か……でも連載中に死んでしまってはまずいだろう?」
「いやそっちじゃなく、同じ作品を、親が読んで、子供も読む。初版から改版を重ね生き続ける物語」
「いつでも誰でも楽しめる作品か……もはや芸術の域だな」
「芸術はともかく、小さなころに読んだ本を、子供に読み聞かせ、大人になった自分も新たな気付きを得るなんて、ちょっと素敵ですよね」
「だがな、全年齢版はなぁ、表現や描写が温くてな……コウノトリやサンタといったあからさまな情報改変もいただけない」
「なんで小さい子に現実を直視させる必要があるのですかね」
「エロがなければキミは生まれなかったんだよ?」
「それをストレートに表現しないからロングセラーなんですよ?」
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