第19話 KAC2021終わりです

「驚くほどあっというまに終わったな」

「まあ、仕方ありません。これはある意味無かったことにしたいです」

「お題に対応し、早い段階からおもしろい工夫をして完走したことを、まずは誇るがいいぞ?」

「唯一の救いがそれですよね。完走したこと」

「それだけかね?」

「あ、いや、そうでした。いろんなユーザーさんと知り合えましたし、相互フォローも多くありました」

「ふむ。それはきっと大きな財産になるぞ?」

「同意いたします」

「それで、反省はするかね?」

「反省と言いますか、なんでこんな縛りでやったのか、自問しています」

「やってるときはノリノリだったじゃないか」

「約三週間、計10個のお題。渦中はお祭り頭でした」

「ふむ。儂もあえて何も言わんかったしな」

「助言くらいあっても良かったんじゃないですか?」

「その場合、我に返って、おそらく完走はできなかったと思うが?」

「……期間中は小さな達成感を都度感じられて、それぞれの物語に対する責任感が希薄になっていたことに気付かなかったのです」

「責任感とな?」

「縛りプレイだから仕方ない。そんな風に考え一つ一つの完成度を疎かにしてしまいました」

「だがな、どんな仕事でも納期、予算、品質というバランスは存在するものだ。限られた条件の中で生み出すものには、それなりの満足であることを許容しなければならん」

「他の人たち、すごい作品もたくさんありました」

「短編や即興が上手い人もいれば、長編や熟考が得意な人もいる。今回のチャレンジは自分の得手不得手を知る、またとない機会になったはずだぞ?」

「無知を知るってやつですね」

「既知の再確認もあるだろう?だが、これはあくまでも機会。それをどうするかはきみ次第だなぁ」

「……私は」

「無かったことにしたいのかね?」

「正直、そうですが、でも、しばらく時間をください。もう一度この10本の物語と向き合いたいと思います」

「時間をかけて再構成する気かね?」

「だめでしょうか?」

「時間をかければ良い作品になるとも言えないのでな。推敲や洗練は可能だろうが」

「……こうして袋小路に迷い込むのでしょうか?」

「以前きみが言った、一つの物語しか紡げない理由は、ゾーンから抜け出した際……ゾーンってわかるかね?」

「一心不乱に集中している状態ですよね」

「降りている状態、トランス状態、小人が手伝ってくれている、まあなんでもいいが、ときにアカシックレコードとリンクしているかのような全能感を感じることがあるのではないかね?」

「そんな大げさな状況にはありませんが、前に言った自動書記というのがしっくりきます」

「でだ、きみの場合、ゾーンから出ると同じゾーンに入れない。再び物語の世界に入ろうとしても違う世界線に紛れ込んでしまう。そうじゃないかね?」

「世界線って言いたいだけですよね?でも仰ることはわかります。二度とあの世界に戻れない。集中しても、紛い物の世界に入り込んでしまう」

「つまりそれがエタる理由だと考えられる!」

「いや一応完結してますのでエタってませんけどね」

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