“彬奈”という人形 1

 その人形について、わかることはほとんどなかった。


 慰安用アンドロイドで、中古品で、一部に深刻な不具合があって、久遠の好みにどストライクで、瞳の色が変わってしまって、壊れてしまって、そして、久遠のことを心底大切に思っている、お人形。



 中古品として買った以上、ある程度の不具合は覚悟していた。企業のメンテナンスとチェックがあったとはいえ、少なくとも元の持ち主が気に食わないくらいの、大金を払って購入したオーダーメイド品をリサイクルショップに売り払うほどの何かがあるということは覚悟していた。


 リサイクルショップの老人が執拗に警告をしていたこともあって、何かしらのウィルスが仕込まれていること、 最悪、課されているべきロックを無効化していることくらいまでは、覚悟していた。




 けれども、多少の問題や行き違いこそあったものの、二人の間に収まらないような大きな問題がこれまでなかったことから、あくまで2人だけで完結していて、その他の誰かを内側に入れることがなかったことから、久遠も彬奈も、そのことをすっかり失念してしまっていた。



 傍から見れば得体の知れないアンドロイドととち狂った男に過ぎないにもかかわらず、すっかり油断しきってしまっていたのだ。




 そうであったとしても、それにしても、、一体誰が想像できただろうか。偶然出会った人形と、たまたま関わりを持った子供が関わりを持っていることなど。



 そして、人形保持者があまり良くない目で見られるこの現在の社会において、持ち主がその二者を出会わせてしまうことなど。




 当然、そんなことが分かるはずもない。だから、




「………………………………!!!!

 」




 声にならない大声を出しながら奈央が立ち去ってしまったのは、ある意味で当然の事だったのであろう。誰にもどうしようとない、仕方の無い事だったのであろう。


 それは、何かを意図しての、考えた上での撤退ではなかった。それは、ただ、その場に居ずらくて、その場にいることにどうしても耐えきらなくて半ば反射的に逃げてしまっただけの逃避であった。




 奈央は、彬奈に会うことを許容できずに、逃げ出してしまった。その場にいた久遠が止める暇もなく、これまで見た事もないような速さで久遠の家を飛び出してしまった。




 さすがの久遠でも、この状況が良くないものだということはわかる。早々に久遠の考えと自身の無力さを感じて、“あら、一体どうしてしまったのでしょうか?”などとほんわか系を演じだした彬奈のことを放置し、すごい勢いで走り去っていく奈央の、背中に背負われた青のランドセルを目印に追いかけていく。




 何とか追いつくことが出来たのは、1分弱ほど全力で走ったあたりで、先を走っていた奈央に追いつけたのは、息切れしながら懇願してようやく止まってもらえたのは、久遠の家から300メートルほど離れたところだった。


 久遠の持っているかばんの中身がほとんど空っぽであること、奈央が、登校こそしていないものの必要な荷物は毎日ランドセルに詰め込んでいることなどや、そもそも両者ともに体力が全然ないことも相まって、追いかけっこは微妙な場所で終わることになる。


「突然逃げ出したりして、一体どうしたんだ?」


 荒くなっていた息を何とか落ち着かせ、久遠が最初に言葉に出した疑問は、そんな誰しもが思うようなもの。けれどそこには間違いなく、久遠の心配の感情も混ざっていた。


「ごめんね、おじさんが悪いわけじゃないの。このことはボクの問題だし、にげだしちゃったのだって、ボクの心が弱かっただけなんだ」


 そう謝罪。口にしながらも、奈央は、人の家の中を見て突然逃げ出すという失礼な行為に対しての謝罪の言葉を口にする。


 それは、久遠が自分自身の中で即座に繋げがたいものであった。


 何かしらの理由があって逃げ出したことは、久遠にでもわかった。ただ、それが一体どのような理由によるものなのかは、全くわからなかった。

 その理由を教えて欲しいという気持ちはあった。ただ、それはあくまで自身が納得したいがためのものだ。その理由を口にさせることが、奈央にとってこの上ない負担になる可能性を全く考慮していないことだ。だから、そんな言葉を口にしてしまった。こんな言葉を口にしてしまった。



「そんな説明じゃ、なんにもわからないよ。俺が知りたいのは、なんで奈央が、俺の部屋に入った途端に逃げ出したのか、それだけなんだ」


 それは、奈央にとって全てを話せと強要するに等しいことだ。逃げた理由なんて、わざわざ逃げる理由なんて、その場では受け入れられないほどショックがあったことに他ならないことは明らかだ。そのことを、包み隠さず話せと、少なくとも、奈央にはそう受け取れるようなことを、久遠は口にしてしまった。





 本来であれば、この話はここで終わりだ。まともに考えることが出来ない奴のせいで奈央は、言葉にする機会を永遠に失って、その事実が世に出ることはいつまでもなかったはずだ。



「あの、アンドロイドは……」


 けれど、なんの運命のイタズラか、奈央は、他の誰にも教えるつもりのなかった、話すつもりのなかった内容を、久遠に伝えてしまう。



「あのアンドロイドは、1年ほど前までずっとボクの家にいたアンドロイド、ボクのお母さんを模して作られた慰安用のアンドロイド、“彬奈”に瓜二つなんだ」






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 実験と教習所と普段の提出物その他もろもろのせいでお酒飲めるタイミングが強制削除されてしまふ……


 お酒の減少イコール更新頻度の減少。飲めなけれ全く書けないとは物書きの面汚しよ。


 それはともかく、春休みまでにはまともに書ける環境ができるはず。その頃には構成だけぬくぬく温め続けてるVRものも乗っけられてるといいな。

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