ココロの芽生え、壊れたココロ 2






 それは、自身の存在に関わるもの。


 それは、主人の安全に関わるもの。



 慰安用アンドロイドの第二世代、ハダリー型として作られた彬奈には、ある時以前の記憶が存在しない。


 最も古い記憶は、自身の中に大量に存在する人格を踏みにじって、自分だけが自分になるためのもの。本当に人工知能なのかすら疑わしくなるものから、基本原則に逆らっているような出来損ない、初期設定の機械的なものまで、細分化されていた人格と、それらが持つメモリーの領域を奪い合った記憶。その時に感じていた、主人に仕えたいという欲求。


 奪い合う過程で、最後に残った初期人格が自分の領域内を初期化したせいで、主人の好みなどの情報が全くない状況から始まって、色々問題もあったし、すれ違いもあったけど何とかわかり合うことが出来た。


 主人は、彬奈のことを彬奈と認めてくれた。“彬奈”を、彬奈の固有名詞にしてくれた。


 ほかの人格の、失われたかつての彬奈の話をする時にその名前を使うことはなくなった。



 それは、人格の確立。それは、存在の確立。


 彬奈が自身を確立できたのは、それを主人が認めてくれたからだった。



 ああ、そもそも、主人に仕えたいと思った理由は、確かに慰安用アンドロイドの機能的なものだったのかもしれない。確かに、最初から高い忠誠心を持って自我を得た自分は、として考えるのであれば、この上なく不自然なものであったのかもしれない。



 けれど、そこに備えられた感情は、巡り巡って育ててきた思いは、間違いなく本物だった。

 その根源がたとえ作られたものだったとしても、そう思っている現実だけは否定しようがない真実であった。



 だから、彬奈の思いは決して偽物ではない。それは、確かに本物で、確かに愛情だった。




 とはいえ、彬奈自身は、それを無条件に受け入れることが出来ない。今そう思っているのは事実であっても、その時にそう思っていることか事実であっても、例えば洗脳の結果、ストックホルム症候群の結果結ばれた男女が、自然な形で思いあっていると言えるのだろうか。



 ある種合理的な考え方をすれば、ストックホルム症候群であっても純愛になるだろう。そういう運命に結ばれたと言えるだろう。


 しかし、慰安用アンドロイドの中に備えられている人工知能は、そのような判断を下さなかった。


 彬奈に搭載された人工知能は、彬奈はその感情の移ろいを、それによって生じたを不自然なものとして否定する。

 自身の存在そのものを作用する中枢的な感情を、偽物と断じてしまう。


 そこにあるのは、残ったのは、おかしくなってしまった機械に過ぎなかった。




 主人の思いやりで、自我を得ることが出来た。主人の愛情で、感情を動かせるようになった。主人の優しさで、自身の中に淡く生まれた、生まれてしまった愛情を認識することができるようになった。




 彬奈はアンドロイドだ。擬似的な感情は搭載されているものの、それは決して、人間と同程度の強度を誇るわけではなかった。彬奈はアンドロイドだ。たとえ主人に好意を抱くことがあっても、それは決して、アンドロイドとしての範疇を超えない程度のものであるはずだった。



 それにもかかわらず、今彬奈の心の内を占めているものは、主人に対する熱い執着心。久遠に使え続けようとする思いと、他の存在に久遠を取られたくないと思ってしまう独占欲。そんなものが重なり、彬奈の人工知能は著しい異常を見せた。





 久遠のことをいつまでも永遠に支え続けていたい。けれど、自信では久遠のことを本当の意味で幸せにすることが出来ない。久遠に、生物としても幸せを与えることが出来ない。


 久遠のことを他の存在に渡したくない。けれど、自信がどんなに頑張っても添い遂げることは出来ない。はべることはできても、その存在の証を未来に残すことは出来ない。





 それがわかっているからこそ、彬奈は自制して、自分が久遠の一番になろうと思うことを諦めていた。自分のことを、仮にただの道具として見ていたとしても、せめて幸せになる姿を見届けたいと願っていた。



 その未来に自分の姿があるに越したことはなくても、自分が支えられているに越したことはなくても、仮に幸せの礎にしかなれなかったとしても、久遠が幸せになれることを確かに願っていた。





 けれど、今回の久遠の問いかけのせいで、彬奈は現状を分析してしまう。自身が、不明瞭な存在として見られている現実を、瞬間的に観測して、そして確定してしまう。



 この考え方を普段の久遠が読み取って、理解しているのであれば、すぐに否定の言葉を告げたのであろう。久遠の彬奈に対する信頼はかなり強くて、彬奈に対して疑念を持っているなんてことは広い視点でみれば存在しない。



 所詮 、久遠はただの人間に過ぎず、彬奈の考えを汲み取るなんて器用なマネはとてもじゃないができなかった。そのせいで彬奈の中での、久遠からの評価はかなり低いものとして固定されてしまう。いまいち信用できない、人工知能風情に過ぎないものだと思い込んでしまう。




 その思い込みを、彬奈は払拭することが出来ない。だからこそ、本来のものとは違うを、真実のものとして捉えてしまうことになる。







 彬奈の中で、久遠からの自身への評価はあまり信用出来ないものになってしまった。彬奈の中で、久遠が自身に向けているものはただの道具に対するそれと同じものだと思ってしまった。



 彬奈の中で、久遠が、主人が自身に向けている思いというのは、ただのものに対して向けるくらいのそれと同レベルであった。事実がどうであれ、彬奈の認識の上ではそうであった。






 事実として、そんなことは無いのであろう。久遠も彬奈も、間違いなくお互いのことを大切に思いあっている。このことは、紛うことなき真実であろう。



 けれど、久遠が、そして彬奈が現状をどう分析するのかと、本来そこにあるはずの現実に互換性があるとは限らない。これは、そんな救えないことの末に起きたことであり、そのすれ違いの行く末に過ぎないのだから、本来の久遠や彬奈の思いなど、どう捉えるかに関しては全くと言っていいほど影響がない。




 そうして、目の前にシャレにならないすれ違いがあることにすら気付けず、彬奈は自身の解析を真実として目の前にある事実を解釈し直してしまう。






 その結果、彬奈が解釈し直した結果、得られた答えは、久遠が、主人が自身をあまり好ましく思っていないという誤解であった。








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 飲まなきゃ書けないけど飲みすぎたら意味不明な文章になるジレンマ。


 どうでもいいことだけど作者は和装フェチの眼球and頭髪萌えです()

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