悪役令嬢に転生したので対策したいと思ったのですが、どうしてこうなった!?

スピカ

悪役令嬢に転生したので破滅しないように対策しましたが、どうしてこうなった!?

【プロローグ】

ある日のどこかの屋敷にて事は起こった。


広い部屋の中で対峙する二人。

片方は大人の美しい女性で片方はまだ幼い女の子だ。女の子の周りには机と、椅子があり机の上には本が広げられている。そして女の子は椅子に座って女性に話を聞いている。

女の子は、ラベンダー色の長い髪と黄水晶のような瞳を持つ可愛らしい子だ。

名前をローズマリー・スティリス。スティリス家の長女で侯爵令嬢である。

ローズマリーは先生である女性の話を聞いていた。今日の授業は国のことについてだ。


「いいですかお嬢様。精霊や妖精がどこよりも多く住んでいるのがここ、ヴェルト王国なのですよ。」

「はい、先生。」

「そしてこの国の、国王陛下であらせられるのが、セレナード・ヴェルト陛下です。そのご子息である、アルティーオ殿下がこの国の第一王子であり

お嬢様の婚約者になられる方です。王族の方々のお名前はすべて覚えておくようにしてください。」

「アルティーオ殿下、、、、。」

その名前を口にしたとき、ローズマリーの頭の中にとてつもない痛みが走り、脳内に何かが流れてくる。


『やっと攻略終わった~。結構時間かかったなぁ、あの王子攻略難しすぎでしょ!!』

『いいなぁ、、、。私だって気が合う友達と話してみたいなぁ。、、、まぁ無理か、、、』

『明日は、王子の誕生日じゃん!何か用意したほうがいいかな?』


ローズマリーの頭の中に流れてきたのは、平凡な女性の声と姿。長い黒髪と黒い目の普通の女性だ。嬉しそうにしていたり、一方を見て、悲しそうにしていたり、

頭の中に流れてきたのはたくさんの記憶だった。

その時、ローズマリーは思い出した。その女性は前世の自分であると。

自分の性格が災いして中々話に入るのが苦手だったこと。そして、事故に遭って短い人生に幕を閉じたこと。

さらには、今いるこの世界が、前世自分がプレイしていた、乙女ゲームの世界ということを。

この一瞬の中で流れてきたものは凄まじく、五歳のローズマリーの頭には耐えることが出来なかった。


「ッ、、、、!?」

ローズマリーが急に頭を押さえ始めたため、教師である女性は突然の事に目を見開き驚いたようにローズマリーを見る。

「お嬢様?」

「頭が、、、痛い!」

頭を押さえてから急に顔を苦しそうにゆがめるローズマリーの様子に教師はうろたえる。

「お嬢様!?大丈夫ですか!?誰か、誰か来てくださいまし!!」

言わずもがな、ローズマリーの顔は真っ青だ。

「もう、、、、無理、、、、」


こうして、ローズマリーの意識は暗転した。


episode1

【思い出してしまった前世】


どうも皆さまごきげんよう。私の名前はローズマリー・スティリス。

スティリス侯爵家の長女で、先ほど転生したと気が付いた元日本人です。

頭に流れてくるものが多すぎてどうやら今の私では耐えられなかったみたいですね。

それで、気づいたことはもう一つありまして、この世界は私が前世でプレイしていた、乙女ゲームの世界ということです。

これでも、前世では所謂オタクといわれる人の部類に入っていたから私的には、嬉しかったけど、

如何せん私の立場がその乙女ゲームの悪役令嬢なんだよね。未来は破滅エンドまっしぐら。

とりあえず話は変わりますが、少しばかり乙女ゲームの中での私を紹介した方がいいと思ったので説明します!


名前は、ローズマリー・スティリス。乙女ゲーム『神秘の世界で恋をする~その恋は魔法のようだった~』略して『神恋』に登場する悪役令嬢です。

神恋の舞台となるのは、妖精や精霊たちと人間が共存している神秘の国、ヴェルト王国。そしてメインストーリーでは、ヴェルト王国最大の学園『ヴェルト王立魔法学院』。

庶民から王侯貴族たちが通う将来の人材育成のための学院であり、将来の伴侶を見つける社交の場でもあるのです。教官たちも一流の人たちが集っていますし伴侶となりうる優秀な人材もたくさんいらっしゃいます。そして、ヒロインは男爵家のご令嬢で、メイン攻略者が、これから私の婚約者となられるヴェルト王国の王太子、アルティーオ殿下。

大きな身分の差がありながらも頑張って恋を育んでいくストーリーなんですけれども、

そのライバルキャラがご存知の通りローズマリーです。ストーリーではことごとくヒロインをいじめるのですが、最後は国外追放か、修道院送り。

最悪で、処刑台送りなんですけど、これはよっぽどのことがない限り、起こることはないと公式では書いてあったと記憶しています。


紹介は以上だけど、正直言って私どのルートも嫌です。今の私は庶民の生活をした経験があるから国外追放されても普通の暮らしが出来ると思う。

でも、本作でのローズマリーは筋金入りのお嬢様。生活できるはずがない。修道院ルートだったとしてもも同じだと思う。

それに処刑台だなんてもってのほか。行きたくないですし今度こそ天寿を全うしたいです!

そういうことで、私決めました。破滅しないために対策します!

対策といっても今はこれといって考えはないけど、学院に入る前には考えて実行するべきだから少なくともあと数日で考えなければならないね。


さて、自分のお話はここまでにして、そろそろ目を覚まさないとお父様とお母様とお兄様が心配しちゃうから。さっきの続きはまた今度。



episode2

【対策を始める前に。】


ローズマリーが倒れて、一日がたった。侯爵夫妻はいまだに目覚めない愛娘を見てなかなか仕事に手が付かないでいた。

それもその筈だろう。侯爵夫妻はローズやライトをとても大切にしているからだ。まさに親の鑑だと言っていい。


「ローズ。何で目が覚めないんだ・・・。」

心配そうにローズを見つめるのはローズマリーの父親で、スティリス家の当主である、ヴェルデ・スティリス。威厳と貫禄にあふれてる美丈夫で、銀色の髪と金色の瞳がよりその雰囲気を引き立たせている。また、ヴェルト王国の宰相をしている。

「ごめんね。ローズちゃん。私が無理させたのがいけなかったのよね・・・。まだ五歳だというのにこの子にはまだ荷が重すぎたみたいだわ。」

目に涙を浮かべながら言うのは、ローズマリーの母親である、ダリア・スティリス侯爵夫人。淡い紫の髪と深い海のように青い瞳をもっていて、気品に溢れている。それは絶世の美女と言っても過言ではない。

「それを言うなら私も同じだよ。この子にはたくさん無理をさせていたと気づかなかった私がいけないんだ。」

「旦那様、一番近くにいながらも気づかなかったわたくしが一番悪いのですから、どうかご自分を卑下なされないで。」

「それは、お前も同じだろう。・・・今はローズの目が覚めるのを待とう。」

「・・・はい。」


その数分後、ローズの部屋の扉が開かれる。

「父上!母上!ローズはまだ目覚めないのですか!?」

勢いよく入ってきたのは、ローズの兄である、ライト・スティリス。スティリス家の長男で次期当主になる予定である。

しかし、いつもはしっかり者なのだが、ローズのこととなると豹変してしまうのが玉に瑕だ。

だがしかし、ライトの能力や見た目によって、豹変するところも良い所の1部だとあまり気にされていないことも確かなのである。


「静かに入ってきなさい、ライト。ローズを心配するのはわかるが、紳士的に行動することを忘れてはいけないよ。」

「申し訳ありません。ローズが心配でたまらなくて、つい取り乱してしまいました。」


「、、、、ぅ。」

ライトがヴェルデに注意された後、ローズが小さく声をあげる。

それにいち早く気づいたのは、近くにいたダリアであった。


「!ローズちゃん!!」

ダリアが呼びかけると、ローズの瞼が動き、隠されていた金色が見える。


「お母様?、、、私、、、」

「ローズちゃん!よかった、本当に良かった。、、、心配したのよ。」

「お母様、私どうして、ベットの上にいるのですか?、、、、その御様子だとずいぶんご迷惑をおかけしてしまったのですね。」

「そんなことないわ!わたくしがいけなかったのよ。まだ五歳だというのに、無理をさせてしまったから、、、!」

「ローズはね、勉強の時間に倒れてそのまま2日眠っていたんだよ。」

「そうだったのですか、、、。2日も、、、。」

「ローズ、だいじょうぶ?」

「大丈夫ですよ、お兄様。何ともありません。」

「ほんと?体は何ともないよね?」

「大丈夫ですよ。心配しすぎですわ。」

「とにかく、医者を呼んでくるから少し待っていなさい。ライト、少しの間ローズを頼むよ。」

「お任せください。」

ヴェルデは、ダリアを連れて、医者を呼びに部屋の外へ出ていった。


「お兄様、お勉強はよろしかったのですか?」

「妹が倒れて眠ったままなのに勉強するなんて、僕には無理だよ。それに勉強したって、身に入らないよ。」

「それは、、、ご迷惑おかけしましたわ。」

「そういうんだったら、倒れるだなんてことしないでよね。」

「善処します。」

「ローズの善処するはあてにならないんだけど?」

この後も、医者が来るまでライトとローズはずっと他愛もない話をしていた。最近お互いに忙しく話をする機会がなかったのでちょうどよかったみたいだ。

そして、医者が到着し、ローズの診察を始める。

「なんの問題もありません。ですが、無理をなさらないようにお願いします。数日の間は、療養することをお勧めいたします。」

「ありがとうございました。」

「お大事になさってださい。」


医者が帰った後、ヴェルデとダリアは何かを決心したような顔でローズを見る。

「いいかいローズ、数日の間療養するように言われたのはわかっているね?」

「はい、お父様。」

「療養が済んだ後の話になるのだけれどね、ローズちゃんがこれから学んでいかなければならない勉学の量と勉強の速さを少し落とそうと思うの。」

ダリアが、ヴェルデの話を引き継いでローズに言う。

「良いのですか?それでは、後々問題があるのでは?」

困惑したかのようにいうローズ。

「あら、勉学よりも私は自分の体を心配してほしいわ。」

「そうだよ。母上の言うとおりだ。」

「言っておくが、ライトはそのまま進めていくからね?来年には、学園に行くのだから。」

「もちろんわかっていますよ。父上、殿下の側近候補として頑張ってまいります。それと、ローズを守れるようにもなってきます。」

現在、ライトは6歳。来年には王都の学園に通い、そのまま高等部まで進み将来は宰相として、アルティーオの側近として国の歯車の一部になるのだ。


ここで、王都にある学園の話をしておこう。名前は最初の方にも出てきた通り、『ヴェルト王立魔法学院』

平民から王侯貴族までの幅広い身分層の子供たちが集う大規模な学院で、王都一の大きさと世界でも有数の学院として名を馳せている。

平民学院棟と王侯貴族学院棟で建っている場所や広さは違うがどれも設備が整っており、しっかりとした教育が受けられる。

また、中等部からは全寮制であるため、安全面についても申し分ない。ただ、小等部は寮がないため、自宅からの通学となる。

学園の仕組みとしては簡単に言ってしまえば、現代日本の義務教育のような仕組みに似ていて資金は国が出すことになっている。だが義務教育と違うところがある。それは必ず小中学校に行かなければならないということはなく、行きたい人は行く、行かない人は行かないでいいというところだ。しかしこの国が資金を出すという制度の対象は平民と一部の貴族だけになっている。毎年、平民の中で学院へ入学したい者たちを集めて集計し、その金額を国庫の中から引いたうえでその年の国の予算を出している。だから、資金面について困窮することは無い。

貴族の場合は、子爵からその下の位の家は国が50%資金を援助することになっていて、伯爵から上の身分の家は全額自分の家で負担することになっている。

貴族の子女たちは専ら行くことが多いが平民の人たちはそうでもない。平民だからと蔑まれたり嘲笑の的になったりしてしまい、それが嫌で学院へ入学したくないという人もいる。また、単位を取らなければ進級はできない。進級試験の問題は学院棟でそれぞれ違うが、難しいものが多く、勉強についていけるのかという不安もあり、そこら辺も含めて、平民の数は少ないと言える。だから平民学院棟の規模は王侯貴族学院棟に比べて狭い。このことから見て、良くも悪くも貴族社会というのは難しいようだ。


「じゃあ、ローズ安静にするんだよ。いいかい?数日間屋敷の外へ出てはいけないよ?なるべく部屋の中にいるんだ。」

「わかりましたわ。でも、体がなまってしまいます。」

「駄目よ。体がなまってしまっても、また倒れられたら困ってしまうわ。」

「、、、わかりました。」

「ローズの分まで頑張ってくるね。」

「お兄様、頑張ってくださいね。」

三人はローズに言葉をかけて、部屋を出ていった。



episode3

【メイドの助言とこれから】


どうも、ローズです。お父様たちに安静するように釘を刺されちゃいました。表面上ではがっかりしているようにしていましたが内心はとっても都合がいいと思った。だって、対策を練るのに十分な時間が出来たのだから。

お父様とお母様は、登城してしまって普段はいませんし、お兄様もお部屋で勉強したり、鍛錬をしたりして忙しくしているから私のお部屋に来るのは専属メイドぐらいしかいない。、、、メイドにも対策を考えてもらおうかしら?

「お嬢様、入ってもいいでしょうか?」

すると扉がノックされ、専属メイドの声が聞こえる。

ナイスタイミングだわ!私はすかさず

「入っていいわよ。」

と答える。

「失礼します。」

メイドが紅茶を乗せたカートを押しながら入ってくる。

彼女は私の専属メイドのアリス・ジュディ。私が生まれた時から面倒を見てくれている。もう結婚適年齢を過ぎているのに、かわらずスティリス家に仕えてくれている。

アリスの家は代々スティリス家に仕えている家系で、アリスの父親であるランスはうちの家令とお父様の執事を務めている。そのご子息であるリストはお兄様の専属執事を任されている。

奥様のメロディーは、ジュディ家の分家から嫁入りしてきて、忠誠心も申し分ない。

今は、スティリス家の領地にある屋敷で領主代行をしている。

スティリス家はたくさんの人に支えられて今がある。ジュディ家はその最前線に立っている。だからこそ、私たちは『周りの人たちへの感謝を忘れてはいけないよ。』と

お父様から言われている。

「お嬢様、目が覚めて本当に良かったです。倒れたと聞いたときは肝が冷えましたよ。

お話は、旦那様や奥様より伺がっております。あまり無理はなさらぬようにお願いしますわ。」

「心配をかけたわね。、、、体はなまってしまうけれども仕方がないわね。」

「これまで以上にお嬢様の為に身を粉にして働きますわ!」

「アリスこそ、無理してはだめよ?」

「はい。心得ておきます。さて、紅茶を淹れましたので一息入れてはいかがでしょう?カモミールをご用意いたしました。」

「ありがとう。アリスが淹れる紅茶はおいしいから好きよ。」

「そのお言葉とてもうれしく思います。」


私はアリスが淹れてくれた紅茶を飲みながら話を切り出す。

「ねぇアリス、話があるのだけれど、」

「お話ですか?何でしょうか?」

「あのね・・・・」

そこから今、私が考えていることを手あたり次第話した。それはもちろん私の前世のことについてもだ。

対策を考えるうえで重要だと思ったから。何よりアリスにならば話してもいいと思ったからだ。

「話は理解できたかしら?言っておくけれどこの話は他言無用よ?いいわね?」

「いまだに、現実味がない話だとは思いますが、お嬢様がおっしゃられることです。信じますわ。

かしこまりました。この話は誰にもしないと誓いましょう。」

「話を信じてくれてありがとう。そこで相談なのだけど、」

「対策を一緒に考えてほしい。ということですね?」

「話が早くて助かるわ。どうすればいいかしら?」

「そうですね、まずはご友人を作られるところから始めてみていかがでしょう?」

「友人?」

「はい。時にお嬢様の相談役になってくださったり時にお嬢様の味方として守ってくださるかもしれません。」

「でも、友人にそんな厚かましいようなことはできないわ。」

「今は、それでよいのです。お嬢様に必要なのは、お話相手と互いに分かり合える対等な人ですわ。」

「そうよね。ずっと一人では寂しいものね。」

原作でのローズは、友達がいなかった。屋敷で王妃教育に励んでいたためである。だからローズの周りには心からの友人がいなかったのだ。

「はい。、、、ちょうど二週間後にミラージュ侯爵家で一部の令嬢を集めた小規模なお茶会がございますわ。まずはそこにご参加されてみてはいかがでしょう?

招待状はちょうど数日前に届いております。いかがでしょう?」

「ミラージュ侯爵家、、、。」

「はい。ミラージュ侯爵家の御当主様は旦那様ともご友人ですし、奥様とも親交のある家です。ご令嬢はお嬢様と同い年だそうですよ。いい機会だと思います。」

「そうね。それがいいかもしれないわ。ほかに、どこかお友達を作れるようなところはないかしら?」

「そうですね、、、。来年になりますが王城でお茶会が行われます。」

「どんなの?」

「毎年、6~8歳の令嬢、令息が集まって行われるものです」

「3回出席することになるのね。」

「はい。来年はライト様のほかにアルティーオ殿下もご出席なさるということで、ライト様がとても喜んでおられました。」

「来年はということは、今年お兄様と殿下は参加されなかったのね?」

「はい。一昨年からライト様は勉学に力を入れ始められましたが、旦那様が今年も勉学に力を入れていくということで、参加をお見送りになられました。殿下がなぜ、今年ご出席なられないかはは詳しく存じ上げませんが、ライト様と同じ理由かと思われます。また、このお茶会は強制的に参加という訳では御座いませんので、参加するもしないもご本人の自由なのですよ。」

「確かにお兄様は招待状が来ていたのに今年参加されていなかったわ。私は5歳だから、来年になるのね。」

「はい、そうなります。それに、社交界にデビューする前の大事な行事の一つになりますから出席なさってはいかがでしょう?」

「社交界、、、」

「はい。もしお嬢様が正式な婚約者としてお認めになられればお嬢様が殿下の婚約者としてその婚約が発表されます。」

「そうだったわね。わが国の王族は長子から順に社交界デビューの日に婚約者を発表なさるのだったわね。先に殿下との顔合わせと王城への謁見の方が先かしら?」

「そうなりますね。その中でローズマリー様は一年早く社交界デビューをなさることになります。」

わが国での社交界デビューは12歳からが推奨されている。1年か2年の誤差はあるが、基本は12歳から。そして殿下は私の一つ上で、私は殿下の社交界デビューに合わせなければならない。だからもしこのまま仮の婚約者ではなく正式な婚約者となったら、私は一年早く社交界デビューをすることになる。

「ありがとう。とりあえずお友達づくりに関してはいいわ。次なのだけれど、いろいろ身を守れる手段が欲しいわ。」

「身を守れる手段ですか?お嬢様それは、、、。」

「ええ。名家の令嬢がやるようなことではないわね。でも、もし今後がストーリー道理に進んで私が婚約破棄され国外追放になってしまったら家の力は借りられないのよ。

自分で何とかするしかないの。」

「ですか、旦那様が許可をなさるはずがありませんわ。」

「そうなのよ。だから、剣術ではなくて護身術、もしくは体術を教えてもらおうと思うの。それと魔法も。勉学にももっと力を入れなければならないわね。」

「お嬢様、そんなに根を詰めてしまえば二の足を踏むことになりますよ?」

「だから、ゆっくり確実にやっていくわ。」

「先ほども言いましたが倒れないでくださいね?」

「当り前よ。健康管理は得意なの。」

「倒れたのにですか?」

「それには触れないで頂戴、、、。そういえばこの国には妖精や精霊が多く存在していたわね。」

私はいたたまれなくなって話の話題を変えることにした。

「そうですね。学園の初等部に入学してすぐ、実習が行われ、その中で精霊もしくは妖精と契約することになります。」

「契約?」

「はい。精妖の森というところに出向き、語り掛けをしたのち契約をするのです。」

「アリスは、契約しているの?」

「はい。ですがあの子は恥ずかしがり屋で人前に姿を現しませんから、お嬢様が姿を見られないのも無理はないかと。」

「そうなのね。」

「はい。ですが能力はとっても有能です。屋敷のことを把握することが出来ますから。」

「屋敷のことを把握?」

「はい。あの子は風の精霊で諜報能力に長けていますから。」

「すごい、、!じゃあ、アリスは何でも知っているのね。」

「もちろんですわ。それと私は主人をお守りするために力を借りることがありますから。」

「確か、ジュディ一族は戦闘能力が高かったわね。」

「はい。主人の身を御守りすることも含めて私たちの責務です。」

ジュディ家はもとより戦闘能力が高い一族だ。その能力は折り紙付きである。

その血をアリスは引いている。ということはアリスも戦闘能力が高いのは当たり前なのだろう。

「アリスはどんな戦術が得意なの?」

「私は、暗器を使った戦法を得意としています。私的には、自身の身体を生かしたほうがいいと思思ったので暗器を使っています。」

「そうなの、、、。あまり無茶をしてはだめよ?」

「わかっています。自分の体調管理は得意ですから。」

「う、、、。まだ根に持っているわね?」

「当り前ですよ。それだけ私たちは心配したんですから。」

「はぁ、、、、。本当に申し訳ないと思っているわ。」

「私たちは、スティリス家に仕えることが至福だと、誇りだと思っています。これからも誠心誠意働きますわ。」

「アリスやメロディー、ランスにリスト、皆が私たち一族の為によく働いてくれているわ。本当に感謝してる。これからもよろしくね。」

「もちろんです。あなた様が私をいらないというその日まで私の身が朽ち果てるまでずっと御傍にいますわ。」

「ありがとう。アリス、これからも頼りにしているわ。」

さっきも言ったことだけど、私たちは支えられて生きている。それは変わらない事実。これからもずっとこの先どんなことがあってもそれを忘れるわけにはいかないのだ。


episode4

【対策の日々1】

一夜明けて、今日。私はいよいよ本格的に対策を始めることにしよう。

まずは真っ白なノートにこれからの予定とすべきことを書いて簡略化しておこう。


一つ目、お友達を作る。

これは二週間後のお茶会で私がどれだけ前世を生かせるかにかかってくる。

前世はカウンセラーなどの心理系の仕事についていた。人の表情から思っていることを読み取るのは容易いことである。

前世は人と話すのが苦手ではあったが、カウンセラーの仕事に就いたので、少し位は苦手な会話もできるようになったのではないだろうか?結局同じ趣味を持っていたであろう同僚とは話すことができなかったが、、、。しかし、ここも原作のローズマリーの性格とはちょっと変わってきている。きっといい傾向に進んでくれると願うしかない。

二つ目、体術、護身術を身に付ける。

もし、破滅してしまった時のためだ。村が運よく見つかったとしても自分の身は自分で守らなければいけない。

あと、学院に入学したら森へ実習に行くことになるだろう。その時には周りにばっかり頼っているだけにはいかないのだ。

三つ目、魔力を高める。

現時点でどんな能力があるのか、魔力はどれだけあるのかわからない。

使い方がわからなかったとしても、高められる方法を試してみるのもいいだろう。

四つ目、妖精や精霊と仲良くなる。

余談だけど、魔法は妖精や精霊の力を借りることで行使できる。そうとなれば妖精や精霊と仲良くなることは必然になると私は考えた。

そういうわけで庭園にいるであろう妖精と仲良くなろうと思う。

五つ目、魔術と勉学に力を入れる。

難しいことは頭が柔らかいうちに覚えた方がいいと聞いたことがあった。

我が家は現代でいう英才教育をしているから、あまり変わらないと思うし、何とかなりそうだ。

あっ、、、でもお母様が勉学のスピードを落とすとおっしゃられていた。

独学しかないのかな?、、、、いや、ここは意地でも交渉した方がいいと私の本能が言ってる。

自分の本能に従った方がいいと思ったから、ここは頑張って乗り切ってみよう。

対策の候補は以上だけど、まだまだやらねばいけないことが多い。

まずは、一番手短なのがいいかもしれない。

「うーん、、、、」

私が考えていると、扉をノックする音が聞こえた。

「ローズ、僕だけど入っていいかな?」

「お兄様?どうなさいましたか?」

「要件は中で言うからとりあえず開けてくれないかな?」

「あっ、申し訳ありません!今すぐ開けますわね。」

考え事をしていたせいで、お兄様を部屋に入れるということを忘れていたみたいだ。とんだうっかり、、、。

そんなわけでお兄様とお話をするということになったのでアリスを呼んでお茶とお茶請けを用意してもらった。


「考え事をしていたせいで扉を開けに行くのを忘れてしまっていたようです。申し訳ありません。」

「いやいや、僕の方こそ急に訪ねてきてごめんね。えっとそれでね要件なんだけど、妖精を見に庭へ行かないかい?」

「お兄様、今なんと、、、」

「ん?だから、妖精を見に行かない?って言ったんだけど、、、ダメかな?」

「それは構いませんわ。ですけれど、妖精は今の私には見えませんよ?それに、お外へ出ては行けないとお父様に言われていますもの。」

「大丈夫だよ。それに今回は練習も兼ねているんだ。それに、ちゃんと許可を貰ってきたんだから!」

用意周到なことである。流石殿下の側近候補、、、。

んん、とりあえず話を聞こう。

「練習でございますか?」

「そうだよ。普通は学院に入ってから契約するんだけど早めの方がいいかなって思ったんだ。それで今回、ローズも一緒に見ようってこと。」

「精霊や妖精とかかわることで何か得することはありますか?」

「ん?そうだね~、、、契約するときもそうなんだけど親密度がなければ精霊や妖精は契約したいって思わないだろう?それに、例えばの話、もしローズが妖精だとして、いきなり知らない人に契約してくださいって言われたらどう思う?」

前世の私なら到底無理な話だろう、、、。きっと無言になってしまう。

「、、、相手のことをよくわかってない状態で契約するのはちょっと遠慮したいです、、。」

「うんうん、そうなるよね。だから今日妖精や精霊とかかわる練習をしようってこと。ここからは余談なんだけどこの国では禁止されている、『妖精縛りの魔法』っていうものがあるんだけど、そういうことをして契約する人もいるってこと。今はいないみたいだけど昔やった人がいるみたいだね。」

「そんな、、、」

私たちの国では妖精や精霊を尊ぶ習慣がある。だからこそ『妖精縛りの魔法』の使用は法律で禁止されているのだ。

もし使用していたら厳罰を下されると聞いたことがある。

「もしかしたら、苦しんでいる妖精がいるかもしれないね。」

「私たちにはどうすることもできないのでしょうか?」

「残念ながら段階を踏まないと解けない魔法なんだ。今の僕たちにはどうすることもできないよ。その段階の内容は僕も知らないし。」

「今の私たちにはできないのですね。」

「そうだね。魔法の解き方についての本は出回っていないから知っている人も少ないみたいだしね。」

『妖精縛りの魔法』はとても複雑な魔法で大昔に発明されたものらしい。それを解こうとするのは至難の業だと言える。

だから、お兄様は無理だと言っているのだろう。

「そうなのですね、、、」

「さて、話は戻すけどスティリス家は代々妖精や精霊との関りが深い家系でもあるんだ。

だから、ローズくらいの年から妖精や精霊と交流することが決められているんだよ。」

「お兄様は、妖精が見えるのですか?」

「そうだね、妖精からの恩恵もあるから見えるよ。」

「恩恵?」

「ご先祖様が妖精の加護を受けて、それが受け継がれているんだ。例えば言語能力の習得が早いとか、

学習能力の高さ、妖精をその目に写すとか、魔力の強さとかね。」

「確かに、私たちは普通の子供たちと違ってすらすらと話すことが出来ますね?」

思い返してみればお兄様も私も幼い子とは思えないほど言葉を話している。

今まで気づかなかったし、すべて転生の影響だと思っていたがそうではないようだ。

だから、今まで普通に話していても怪しまれたりしなかったのだ。

「これでは、お友達を作る時に大変になりそうですわ、、、」

「心配ないよ。この恩恵の力を受けているのはスティリス家だけじゃなくて国全体がその恩恵を受けているんだ。」

「そうなのですね。なら、安心です。」

二週間後にお茶会へ出席した時に一人だけ浮いたらどうしようと思ってたがその心配はなさそうでよかった。

「さぁ、少し賢くなったところでそろそろ庭へ出ようか。」

「そうですわね。」

お兄様とお話ししていたら庭へ行くことを忘れていたようだ。時間が過ぎるのは早いね。


episode5

【対策の日々2】


「こっちだよ」

お兄様に連れられてやってきた庭園は美しい場所だった。

色とりどりの花が咲き誇り、目を楽しませる。また、綺麗に舗装された小道の先には東屋もある。さらにその先には小さな噴水もある。前世、本で見たヨーロッパの庭のようで私はこの場所がすぐにお気に入りの場所になった。


「綺麗な場所ですね。」

「だろう?僕もここはお気に入りの場所なんだ。」

「こんなところがあったなんて知りませんでした。」

そう。私は家の外へ出ることがあまりない。いや、私自らが外へ出なかったのだ。外へ出るくらいならば、勉学に励むことの方が重要では無いのか?それが記憶を取り戻すまでの私の思考だったから。だが、今は違う。前世はインドア派だったものの、ショッピングは好きな方だったし、外へ出ることへの抵抗もない。だからだろうか、今はこうして外へ出ることに喜びを感じている。


「妖精達はこっちにいるよ。」

お兄様に促されてやってきたところは、庭園から少し離れた小さな広場。周りは木々が青々と生い茂っていて木漏れ日がいい雰囲気を作り出している。広場の真ん中にぽつんとあるさっきの庭園よりも一回り小さな東屋がその雰囲気に拍車をかけている。庭園の東屋もこっちの東屋も白色の素材で造られている。円形状で天井には細かい模様が彫られていて、とても美しい。


「ここも素敵ですね。お兄様」

「そうだね。ここでお茶会をしたり、静かな中で本を読んだりするのもオススメだよ。」

「お兄様がそうおっしゃるのならそうなのでしょうね。とっても楽しみですわ。」

私が微笑むとお兄様も微笑む。

「さぁ、妖精達に会ってみようか。」

「、、、はい。」

「緊張してる?」

「少し、、、」

「無理もないね。初めて会うだろう?」

「はい。」

「緊張しなくても、皆友好的だよ。安心して?」

「頑張りますわ!」

「うん。じゃあいくよ?」

お兄様は1歩前に出る。


『遥かなる時空と尊き世界よりその姿をお見せ下さい。』

お兄様は虚空に向かって、唱える。

すると、お兄様の周りに光の粒子が舞い始める。

そして、粒子の光が止むとお兄様の周りには小さな世界の人達がいた。

『お呼び出しなんて久しぶりじゃないの〜』

『ライトだ〜。元気だった?』

「元気だったか聞かれても先週あったばかりじゃないか?」

『あら〜?そうだったかしらね?』

『覚えてないのよ〜』

『でも、急に呼び出すってどうしたのかしら〜?』

基本的に間延びした口調の小さな人達が嬉しそうに飛んでいる。この人たちが妖精なのだろう。

「うん。今日は妹を紹介したくて。」

『妹ちゃんがいるのね〜?』

「ほら、ローズ挨拶して。」

「は、はい!」

妖精たちの視線が一斉こちらへむく。

「初めまして。ローズマリー・スティリスと申します。お見知り置き下さい。」

『か、、、』

「か?」

『可愛いのよ〜!!』

「!?」

妖精の1人が何かを言いかけたと思ったら、急に大きな声を出したので驚いてしまった。

『可愛い〜!金色の瞳だわ〜!』

『愛し仔!』

口々に私を褒める妖精達。恥ずかしくなってきた、、、。

『ローズマリーっていったわね〜?』

「はい。」

『ふふ〜、、じゃあ愛称はマリーね!』

「え?」

私はローズと愛称で呼ばれることがほとんだから驚く。なんだか今日は驚いてばかりだわ。

「愛称はローズなんだけどな?」

お兄様が妖精たちに聞く。

『あら〜。私たち妖精は新しいものを好むのよ〜?

それに〜この子は私たちの最も愛するべき仔なのよ〜?』

「なるほど、、、。人間とは違うものが欲しいのか?」

『そうなのよ〜。愛し仔の存在は私から王様に伝えておくわね〜?』

「それは構わないけど、連れていってくれるなよ?」

『大丈夫よ〜?無闇矢鱈にこちらへ連れてくることはないわ〜。愛し仔の健やかな成長を私たちは望んでいるのよ〜?』

お兄様と妖精たちの会話についていけない私は蚊帳の外だった。すると私の様子から察したのか、2人の妖精が声をかけてきた。その妖精は、ほかの妖精と違って、羽が大きく、大きさも違った。

『なんの話をしているのか分からないみたいね〜?

そんなところも可愛いわ〜』

1人目は、金色の髪をお団子にしている妖精だ。

「愛し仔ってなんでしょう?初めて聞く言葉ですわ。」

『ん〜詳しい事はヴェルデに聞いた方が良いわ〜』

2人目は長い髪の妖精だ。

「お父様に?」

『私達のことはヴェルデがよく知っているのよ〜?』

「わかりました!」

『いいお返事ね〜?ますます気に入ったわ〜』

「あはは、、、。あの、聞きたかったのですが、貴女方はなんの妖精なのですか?」

私はこれを聞きたかった。原作のローズマリーは妖精や精霊と関わることもなかったし、原作ヒロインでプレイしていたとしても、詳しくは語られなかった為、とても気になるのだ。今、私たちの周りを飛んでいるのは、金色の髪と金色の瞳を持つ妖精達。基本的に明るめの色でまとめられてる。

『そうね〜。私たちは、火属性から派生した光の妖精なのよ〜』

ファンタジー小説でよくあることだ。光と闇の妖精や精霊は珍しいというのはどの世界も共通の意識なのかしら?

『正確には、火の大精霊から産み落とされたの方が正しいわ〜』

「えっと、、、、?」

『分からないのも無理はないわね〜』

『ん〜詳しく言うとね〜、私たちを生み出したのは大精霊で、大精霊を生み出したのは精霊王って感じかしら〜?』

聞いている中で分かったことは、


曰く、この世界には3人の精霊王が居る。精霊王は精霊と妖精の生みの親であり、絶対的な存在であること。


曰く、精霊王から派生したのが大精霊であり、その大精霊からさらに派生したのが、私たちである。


因みに、精霊だけではなく、妖精も生み出されるというのも補足に加えておく。


「なるほど、、、、。何となく理解は出来ました。」

『理解が早いのはいい事よ〜。もっと詳しく知りたいのならば、妖精学を学んでみることをおすすめするわ〜』

「妖精学、、、」

『妖精学はね〜、私たちのことを詳しく学ぶ為に作られた学問なのよ〜』

「なんでそんなに詳しいことを知っているのですか?」

『私たちはいろんなところにいるからね〜情報は沢山入ってくるのよ〜?噂好きの子は特に現代に精通してるのよ〜?

それに〜光の妖精と風の妖精はね、情報を仕入れる能力に長けてる子が多いのよ〜?だから私達も以外に政治の事は把握しているつもりだわ〜』

「そうなんですね。知りませんでした。」

『知らないのも無理はないのよ~』

一応今知りたいことは知れたし、もう一度対策を見直すべきかしら?

「話は、終わったかな?」

「お兄様!」

話し込んでいたせいですっかりお兄様の存在を忘れていた、、、。ごめんなさいお兄様、、、。

「はい。終わりましたわ。」

「ならよかった。お兄様、さっきおっしゃられていた連れていくとはどういうことなのでしょうか?」

「えっ、、、、えっとね、、、。」

ん?なんかしどろもどろだね?

『連れて行くっていうのはね~こちら側へ来てもらうっていうことよ~』

こちら側ということは、アリスが言っていた妖精の国のことか、、、。

「妖精に愛された人間は連れていかれることが多いんだ、、、。」

渋い顔のお兄様、、、。こんな顔もするんだね、、、。

『でも、私たちは愛する仔の健やかな人生を望んでいるのよ~』

「そうだといいんだけどね、、、」

『少なくとも光の精霊は無理やりだなんてことはしないわよ~。人間は生きているときが一番美しくて輝いているの。それを奪おうだなんて私たちにはできないわ~』

「私たちはということは無理やり連れていかれることもあるということですよね?」

『察しがいいわね~。そうよ~無理やり連れていく子もいるわ~。全部が全部ということじゃないのだけどね~。でも、気を付けておいて損はないわね~』

「対策はあるのでしょうか?」

「対策としては、妖精と契約を結ぶことかな。」

契約、、、。一応破滅への対策にはなるのかな?

『私もそれがいいと思うわ~。そうね~、邪気を寄せ付けなかったり、守ってくれる妖精がいいわね~』

「具体的には?」

『光の妖精か精霊や、木の妖精か精霊がいいわ~。私たち光の妖精は闇を退けられるのよ~。それにそういった悪意あるものに敏感なのよ~木の妖精は邪気を吸い取ってくれて、吸い取った邪気を変換して障壁にしてくれるのよ~』

「ほかの属性を持つ妖精や精霊もメリットの大きい特性を持っているから、今度学んでみるといいよ。」

お兄様と光の妖精にいいことをたくさん聞けて良かった。今後に役立てよう。

「さて、もう屋敷に帰ろうか?」

「えっ?」

周りを見渡すとあたりはすっかり夕焼け色に染まってきている。

「あっ、、。気づきませんでした。」

「集中していたからだろうね。」

『ほんとに、勉強熱心なのね~。さすが私たちの愛し仔。』

「なんで、君たちが誇らしそうなんだよ、、、」

『ウフフ。マリー、私たちの愛すべき仔。あなたの呼びかけには語り掛け無しで来てあげるわ~。そこらへんに声をかけてごらんなさい。妖精か精霊の誰かがきっとあなたの声に答えてくれるわ~。私たち妖精と精霊はあなたの味方なのよ~』

「なっ、、、。それは!」

「お兄様?どうなさったの?」

「通常、妖精や精霊と話すときは『語り掛け』をしなければいけないんだ。」

お兄様がここへ来たときにやっていたことですね。

『だけど、愛し仔であるマリーにはそれをせずとも私たちとお話ができるっていうことよ~』

「語り掛けをしなくても妖精が答えてくれるようになるのは稀なんだよ。しかも妖精自らがそれを許可するだなんて、、、」

『私は光の妖精だけど、精霊王と大精霊に顔が利くくらいはえらいのよ~。だから口添えしておいてあげるわね~』

「そんなにすごいことなんですね。でも、よかったのですか?」

『当り前じゃない!私たちは愛し仔のためならなんだってするわよ~。それを私たちは望んでいるのだから〜。』

「はぁ、、、。こうなってしまってはもうひかないだろうな、、、。妖精の好意は受け取っておいて損はないか、、、。」

『ウフフ。潔いわね~。さぁ、もう帰りなさい。逢魔時がくるわ〜。』

「そうするよ。じゃあ今日はありがとう。行くよ、ローズ。」

「わかりました。、、、それでは、また会いましょう。」

『マリーが呼んでくれるのを待っているわ~。』

私はお兄様に手を引かれ屋敷に戻ったのであった。


お兄様に手を引かれ、来た道を進んでいる時に、私はお兄様に聞きたい事があったので聞くことにした。

「お兄様、お尋ねしたいことがあります。」

「何かな?」

「あの、さっき会った光の妖精の口調ってあれが通常なのでしょうか?なんだかさっき別れる時どこか違うような気がしたんです。」

光の妖精は間延びしたような口調が特徴的だった。でも、私に詳しいことを教えてくれた妖精はどこか違うようだったのでおかしいなと思っていたのだ。

「あ〜そうだね〜。うん、ローズの言ってることはあながち間違いじゃないよ。あの光の妖精はね、上位精霊らしいんだけど、まぁ猫かぶりなんじゃないかな?ローズは初めて会ったでしょ?怖がらせないようにっていう配慮と思うよ」

「そうだったのですね。」

上位精霊か、、、。大精霊もいるくらいだし、位分けというのはあるみたいだね。あの光の妖精が言っていたように妖精学を学んでみるのもいいかもしれない。帰ったらお父様に頼んでみよう。

そうして、私達は屋敷へ帰ったのだった。



episode6

【やってきたお茶会の日】


さて、妖精達との邂逅から、約2週間がたった。私がこの2週間の間にやったことといえば、妖精と仲を深めたり、妖精学を学んだり、魔法のことに着いて学んだりと結構バタバタしていた。因みに、妖精学のことでお父様と一悶着あったのはご愛嬌である。まぁそれは置いておいて、あとから分かったことなのだが、あの時の妖精はお兄様が仰っていたとおり上位精霊だったらしい。妖精と精霊の区別をつけると、妖精は羽が小さく身体も小さい。逆に精霊は羽が大きく身体も大きい。一緒に比べてみるとよくわかるそうだ。種族の中での立ち位置が高いほど身体は大きいらしい。新しいことを知る事ができて何よりである。そして他にあったことといえば、その光の精霊が私と契約したことである。その子曰く見ていて危なっかしいとの事らしい。なんでかな?至って普通にしていたのに。なんだか自分の性格を見破られてしまったようでちょっと不服、、、。

とりあえず話を戻すと、契約をするにあたり、名前と私の血が必要なのだそうだ。私は構わなかったので血と名前をあげた。名前は「ルーチェ」一応イタリア語で光を意味する名前にしてみた。契約してからルーチェと生活してみるとルーチェは万能だった。魔法の使い方や勉学を教えてくれる。はっきりいって家庭教師がいらないくらいに。実際、家庭教師を辞めさせると外聞が悪いのでできなかったが、分からないところがあったらルーチェが詳しく教えてくれて、とてもありがたい。

それに、魔法や魔術も教えてくれて、一気にやるべきことが解消されていった。原作とは違う流れにホッとしたのはここだけの話である。

一体どこから聞いてくるのかは分からないがルーチェは只者ではないことが分かった。この短期間で沢山のことがあったが、今日はいよいよお茶会の日だ。とても緊張する。このお茶会に参加して、どれだけお友達を作れるのか心配になってきた。それに、将来に関わってくることでもあるのだから気を引き締めなければ!


「お嬢様、馬車の準備が出来ました。向かわれますか?」

アリスが声をかけてくる。御者の方から連絡があったのだろう。さっきまでそばに控えていたのに音もなく扉まで行くんだから驚いた。

「ええ。そうするわ。遅刻だなんて恥ずかしいものね。」

「緊張されているようですが、今回のお茶会は小規模なものですので、大丈夫ですよ。それに装いも何もかも完璧ですから、自信を持ってくださいね。」

今日の私の格好は、シンプルで上品なドレスにしてみた。あくまで私は招かれる側なのだから主催者より目立つだなんてダメだもの。アクセサリーもそれに合わせて、シンプルだけど上品にまとめてもらった。ドレスとアクセサリーがいい感じにマッチしてくれると嬉しいな。

それにどうやら、アリスには私が緊張していることに気づいたらしい。流石は私の専属メイド。

「ええ、大丈夫よ。私はできるわ。」

自分に言い聞かせて、気持ちをおちつける。

さぁ、行きましょう。自分の将来の安寧のために。


屋敷から会場であるミラージュ家まで馬車で4時間ほど。

普通は腰が痛くなるのだが、クッションを沢山ひくことによってそれを軽減している。だからこの4時間はそれほど苦にならなかった。

そして、ようやくミラージュ家に到着した。

馬車の扉があき、アリスと共にミラージュ家の屋敷へ案内される。

「こちらが会場になります。それでは、ごゆるりとお楽しみ下さい。」

「ありがとうございます。」

とは言ったものの、緊張して、1歩踏み出すことが怖い。

大丈夫だろうか?私はしっかりできるのかしら?

「お嬢様、大丈夫ですわ。」

「アリス、、、。ええ、そうね」

アリスの言葉は今の私を落ち着かせてくれる。うん、出来る。勇気を持っていくのよ。

そして私扉を開く。


中に入ると目に飛び込んでくる美しい装飾品やシャンデリア。だが、煌びやか過ぎないように調整もされていて、落ち着いた雰囲気もある。

思わずあたりを見渡してしまった。

「お嬢様、まずは主催者の方へ挨拶に向かいましょう。」

「そうね。」

アリスに促され、私は今回の主催者である、スノウ・ミラージュ様のところへ向かう。

スノウ様のお姿はすぐに見つかった。あのアイスブルーの美しい髪は、とてもこの中で目立つ。なのですぐに移動して声をかける。

「お初にお目にかかります。わたくしは、ローズマリー・スティリス。本日はお招き頂きありがとうございます。」

私はそう言いながらカーテシーをする。姿勢はぶれていなかったかな?

私が名乗った途端に周りが騒がしくなったような?何故だろう?

「ご丁寧にありがとうございます。わたくしの名前は、スノウ・ミラージュと申します。本日はご参加下さりありがとうございます。心ゆくまでお楽しみ下さい。」

スノウ様もカーテシーをする。落ち着いた方だなぁ。

スノウ様はとても美しい方だ。アイスブルーの美しい長髪、少しつり目気味だけど大きい瞳は深い青で、虹彩には所々金色になっているところがありまるでラピスラズリのよう。確か、ミラージュ家の一族の特徴として、金色の虹彩があったはずだ。そしてその顔に浮かべる微笑みは女神の如く。そういえば私の周りには顔がいい人ばかり、、、、。自信なくしちゃいそう。

とっとりあえず話を戻すと、スノウ様もわたしと同じ悪役令嬢ポジションだということ。スノウ様は、確かお兄様の婚約者になるはずだ。

原作では、スノウ様の日記を見ることが出来る。その日記は涙なしでは見られない。なぜならスノウ様はお兄様のことが好きだったからだ。でも、ヒロインと仲良くするお兄様を見て、自信をなくし、結局は諦めてしまったのだ。ページを進めるごとに強くなるお兄様への想いは実に切なかった。だから、切なくてお兄様ルートは最初の一回だけしか選ばなかった。

でも、転生した今の私はお兄様の妹だからスノウ様との仲を深めさせてみせる!うまくいけば将来は私の義姉になるかもしれないから。

さて、スノウ様との会話に戻ろう。詳しいことはまたいつの日にか。

「えっと、、、その、、、。今回が初めてのお茶会なんですの。色々と教えて頂けますか?」

「そうなのですね。わかりました。お力になれるかはわかりませんが、出来る限りご協力致しますよ。」

「本当ですか!?ありがとうございます。」

「あっあの、、、」

「え?」

後ろから声をかけられて、振り返るとそこにはこのお茶会に参加しているであろう令嬢が私の周りを囲んでいた。

「皆様、ローズマリー様にご挨拶がしたいようですわ。」

「あっ、、、そうだったのですね。気づかず申し訳ありません。」

私がそういったのを皮切りに次々に言葉がかけられる。

「お初にお目にかかります!わたくしは____」

「お待ちになって!わたくしが先にご挨拶をするの!」

私に挨拶をしたいと言う令嬢の方々のようだ。でも、掛けられる声が多すぎて目が回る、、、。

「皆様、落ち着きになって?ローズマリー様が戸惑っておられますわ。」

「え?あっ!申し訳ありません!大丈夫ですか?」

「ええ。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。初めてお茶会に参加したものですから慣れていませんの。」

「そうだったのですね。1人ずつでしたら問題ありませんか?」

令嬢の1人が恐る恐る尋ねてくる。

「はい。大丈夫ですわ。」

スノウ様が仲裁に入ってくれて良かった。私一人だけではてんやわんやだっただろう。本当にありがたい。

そしてこの後、令嬢方の挨拶ラッシュが続いたのは言うまでもない。ようやく落ち着いてお茶を飲むことができるようになった頃、私はどうするのか迷っていた。スノウ様とお近付きになりたいということは変わらない。だがほかの令嬢方とお近付きになるかどうかは決めていない。なので、取り敢えずはスノウ様だけにしておこう。というわけで、話しかけに行ってみる。

「スノウ様、先程は仲裁に入ってくださってありがとうございます。わたくし1人だけでしたらきっと目を回していましたわ。」

「お気になさらないでくださいな。わたくしも初めはそうでしたから。、、、お茶会はお楽しみいただけていますか?」

「ええ、とても楽しませて頂いていますわ。紅茶もスイーツも美味しいですもの。」

「それは良かったですわ。うちの料理人も喜びます。」

「それでなのですけれども、わたくし、スノウ様ともっと仲良くなりたいのです。」

「わたくしとですか?」

前置きが長いと会話が続かないから本題を出してみる。こういうことは建前なんて必要ない。思ったことを素直に口にするのだ。

「はい。わたくし、お友達がいませんの。外に出たことがなかったものですから。」

「そうだったのですね。、、、分かりました。ひとまずはお互いに予定を調整した後、お手紙で連絡を取るのはいかがでしょう?」

「分かりましたわ。わたくしはスノウ様のご予定に合わせますので、先にお手紙をくださると嬉しいのですが。」

「良いのですか?こちらの予定に合わせても」

「構いませんわ。お願いしているのはこちらですもの。」

「それでしたら、お言葉に甘えて先にそちらへお手紙をお送り致しますわ。」

「はい。お待ちしております。」

良かった。スノウ様とお話が出来る場を作ることが出来て。とりあえず、今日の目標は達成!あとはお友達になれるように、頑張ろう!こうして私はこのあと令嬢方との会話や質問に当たり障りなく応えて本日は終了した。

因みにアリスは、会場に入ってから私に声をかけた後すぐに従者専用の部屋に案内されたらしくそこでほかの令嬢の従者の方々と色々情報収集をしたり、普通にお茶会を楽しんでいたらしい。アリスにとっての休息になったのならばそれでいい。




ごきげんよう。わたくしはスノウ・ミラージュ。ミラージュ侯爵家の令嬢ですわ。本日は、わたくしが主催したお茶会の日。令嬢だけを集めて行う小規模なものですの。でもわたくしは憂鬱なんです。何故ならこのお茶会はわたくしのお友達を見つける為のものですから。お友達を見つけることはいいことだとお父様に言われ開催したものの、きっとやってくる方々は侯爵令嬢であるわたくしに肖りたいという方たちばかりでしょう。決めつけることは悪いことで、全部が全部というわけではないというのも十分理解しております。しかし、きっとわたくしは信用が出来ないのかもしれません。お父様やお母様の政務や社交など近くで見てきたからなのかもしれません。

話は変わるのですが、本日のお茶会にはあのローズマリー・スティリス様もいらっしゃるのだとか。招待状の返信に参加すると記してあった時は驚きましたわ。ローズマリー様は外へお出かけになることがあまりないお方で、そのお姿をご覧になった方は少ないのだとか。様々な噂が飛び交いましたわ。ある人は『お姿が醜いから外へ出られない』だとか『病弱だから外へ出られないのだ』とか訳のわからない噂までそれはもうたくさん。だから今回のお茶会でその真相が明らかになるのだと思い少しだけ興味がわきましたの。

さて、お茶会が始まってからはわたくしが憂鬱だと思っていたことが現実になってしまいましたわ。

「スノウ様、今度我が屋へいらしてくださいな!」

「いいえ、わたくしの屋敷にいらっしゃってください!」

「今度お茶会をしませんこと?親睦を深めたいと思っているのですわ」

挨拶をほどほどに済ませたらすぐこのような勧誘ばかり。表面上はニコニコしているのに瞳の奥で渦巻くかすかな欲望。わたくしはそれが嫌なのです。一通り挨拶や返答を繰り返しそれも落ち着いたころ、わたくしは窓際で外を眺めていました。すると扉が開き、一人の令嬢が入室してきました。その方は周囲を見渡していてこの場に慣れていないような方でした。きっとこのようなお茶会に参加するのは初めてなのでしょう。近くにいたメイドが声をかけ何かを促しそして、また周囲を見渡し、こちらへいらっしゃいました。遠目から見てもすごく可愛らしい方だと思いましたが、近くで見るともっとその方の可愛らしさが伝わってきましたの。ふわふわと靡くラベンダー色の長い髪、シミ一つない真っ白のまろい肌、猫目だけど優しい雰囲気を出す金色の瞳、桜色の唇、どこを見ても完璧に仕上がっていましたわ。ドレスもパールホワイトとサファイアブルーでまとめられており、細やかなバラの刺繍が沢山入っていて作りはシンプルではありますけど上品でこのお茶会の雰囲気に合っていて見惚れてしまいました。すると形のいい唇を開き、カナリアのように可愛らしい声で、

「お初にお目にかかります。わたくしは、ローズマリー・スティリス。本日はお招き頂きありがとうございます。」

と言い、カーテシーを一つ。わたくしもすかさず、

「ご丁寧にありがとうございます。わたくしの名前は、スノウ・ミラージュと申します。本日はご参加下さりありがとうございます。心ゆくまでお楽しみ下さい。」

所作も美しくそれは誰もが見惚れるほど。ん?今この方はローズマリー・スティリスとおっしゃいましたね。まさかこの方がローズマリー様だとは思いませんでしたわ。

周りの令嬢も挨拶を聞いていたのか、驚いていた。それもそうでしょうね、ローズマリー様はただでさえ外へ出られることのないお方。身分もわたくしと同じ侯爵令嬢ですけれども、ローズマリー様の親族の方や、立場を見ても格が違うのです。しかし、ご本人は周りが騒がしくなったことに気づいておられない。ということは、噂のこともご存じないのでしょう。失礼ではありますけれど、きっと鈍感なのでしょうね。

様子をうかがっていると、何かを言いたそうにしているローズマリー様。どうなさったのかしら?

「えっと、、、その、、、。今回が初めてのお茶会なんですの。色々と教えて頂けますか?」

予想通り今回のお茶会が初めてのようですね。ここは、わたくしがしっかりしなければ。

「そうなのですね。わかりました。お力になれるかはわかりませんが、出来る限りご協力致しますよ。」

そういうと、ローズマリー様はふわりと微笑まれる。

わたくしは少し驚きました。だって同い年の方のこんなに純粋な笑顔は初めて見たからです。わたくしの周りにいる令嬢や令息は愛想笑いが殆ど。だからわたくしはその時思ったのです。このお方は何かが違うと。もちろんいい意味でですわ。だからもう少しお話をしようと思ったら、ローズマリー様の周りには様子を伺うご令嬢がいました。でもそれに気づかれていないローズマリー様。、、、、どこか危なっかしいですわね。このままで大丈夫なのかしら?何とかしなければなりませんね。でもまずはご令嬢の方々の対処をしなければ。きっとご令嬢の方々はローズマリー様にご挨拶をしたいと思っていらっしゃるでしょうからローズマリー様に気づいていただくために促してみましょう。

と思ったら、ローズマリー様に声を恐る恐る掛けていらっしゃる方がいますね。でもローズマリー様自身はよく分かっていなさそうですね。でしたら、どういう要件なのかを教えて差しあげた方が良いですわね。

「皆様、ローズマリー様にご挨拶がしたいようですわ。」

「あっ、、、そうだったのですね。気づかず申し訳ありません。」

やはり気づいておられなかった、、、、。本格的に心配になってきましたわ。

さて、様子を伺っていると、たくさんの令嬢の方がご挨拶をなさっていて、ローズマリー様は目を回してしまわれそうですわね。取り敢えず仲裁に入りましょう。

「皆様、落ち着きになって?ローズマリー様が戸惑っておられますわ。」

わたくしが声をかけたところでようやく気づいた様子の令嬢の方々。、、、、淑女としてそれは如何なものかしら?

さて、ご令嬢の方々にはには一人ずつご挨拶をしていただきましょう。

ローズマリー様は律儀に挨拶に答えていらっしゃるけれどお疲れにならないかしら?わたくしも少しお話したいとは思いましたけれど、少し時間をあけた方が良さそうですわね。

しばらく様子を見ましょう。

そして、わたくしが様子を見始めて少しした頃、ようやく挨拶の方が落ち着いたのか、お茶を飲み始めたローズマリー様。結構おつかれなようだけれども大丈夫かしら?それに何か思案しているご様子。お茶会にどこか不備があったのかしら、、、、?

「スノウ様、先程は仲裁に入ってくださってありがとうございます。わたくし1人だけでしたらきっと目を回していましたわ。」

何か不備があったのかと思ったら、先程仲裁に入ったことについてのお礼を言いにいらっしゃったようですね。ここでもわたくしは驚きましたわ。ローズマリー様は素直な方ですのね。さて、返事をしなければ失礼に当たりますわ。

「お気になさらないでくださいな。わたくしも初めはそうでしたから。、、、お茶会はお楽しみいただけていますか?」

「ええ、とても楽しませて頂いていますわ。紅茶もスイーツも美味しいですもの。」

嬉しそうに仰るローズマリー様。良かった。昨日からずっと頑張ってくれていた料理人たちに後で伝えに行きましょう。

「それは良かったですわ。うちの料理人も喜びます。」

「それでなのですけれども、わたくし、スノウ様ともっと仲良くなりたいのです。」

「わたくしとですか?」

ローズマリー様の発言はこのお茶会の中でとっても驚きました。お茶会のお誘いはあっても仲良くなりたいだなんて言われたことなんて無かったものですから。親睦を深めてたいとおっしゃる方々はいますけれど、それはきっとわたくしと親睦を深めたいというのではなく、わたくしの家族に取り入りたいと思っていらっしゃるのがほとんどでしょう。被害妄想かもしれませんし、きっと違うと言う方もいらっしゃるのでしょうが、社交界では上辺だけの付き合いが殆ど。純粋に仲良くなりたいだなんて、1歩間違えば、相手の思うつぼなのです。それにまだ社交界デビューをしていないとはいえ、このお茶会の場はその社交界へ出るための前準備や練習のようなもの。小規模だとはいえ、例外ではない。、、、でも仲良くしたいと言われて何故か嫌な気持ちはしない。この方と関わることでわたくしもきっと考え方が変わるかもしれいないと思いましたわ。それに、わたくしもローズマリー様とお話がしてみたいと思った。これはまたとないチャンスですわ。快諾しましょう。でもなぜ、わたくしと?他にも沢山令嬢の方々はいらっしゃるのに、、、、。

「はい。わたくし、お友達がいませんの。外に出たことがなかったものですから。」

外に出たことがない?姿をお見せにならないのは、屋敷から出ないからと聞いてはいましたが、まさか今回が初めての外出なのかしら!?これはいけませんわ。わたくしが外のことについてお教えしませんと、将来が心配になってきましたわ。まずは冷静に、冷静に。焦ってはいけません。

「そうだったのですね。、、、分かりました。ひとまずはお互いに予定を調整した後、お手紙で連絡を取るのはいかがでしょう?」

わたくしたちの年齢で、連絡用の通話石を使用することは許されていない。だから時間がかかっても手紙でのやり取りが1番手っ取り早いのです。

「分かりましたわ。わたくしはスノウ様のご予定に合わせますので、先にお手紙をくださると嬉しいのですが。」

こちらの予定に合わせても良いと言われたのは初めてですわ。でも良かったのかしら?

「良いのですか?こちらの予定に合わせても」

「構いませんわ。お願いしているのはこちらですもの。」

ローズマリー様はとてもお優しいのね。今までかかわってきた方々とはまるで違う。

「それでしたら、お言葉に甘えて先にそちらへお手紙をお送り致しますわ。」

「はい。お待ちしております。」

こうして、ローズマリー様との会話は終了した。

そしてこのあともお茶会は夕方まで続き、お茶会は閉会した。このお茶会は今のわたくしにとって、1番の思い出になった。

あとは、ローズマリー様との小さなお茶会まで待つばかり。きっとそのお茶会の日も私にとって有意義な時間になるに違いない。お茶会の日に思いを馳せ、わたくしはその1日を終えたのでした。


episode7

【スノウ様とのお茶会】


ミラージュ家でのお茶会からまたまた2週間がたった。

この間も私たちは手紙でのやり取りをしていた。内容としては、お茶会の日程合わせや、今日あったことなどを書いていた。最初はぎこちない感じだったが、回数を重ねていくうちに、結構打ち解けたように思う。2週間という長そうで短いこの期間で、スノウ様との距離を縮められたことは僥倖だった。このまま良好な仲を保っていきたい。そして、明日がスノウ様とのお茶会の日である。とっても緊張する、、、。

そんな私なのだが、、、、今とっても困っているというか、驚きが隠せない、、、。その理由なんだけど、、、。


『あなただけ狡いわ!私もマリーの近くにいたい!』

『軽々しくマリーって呼ばないで!マリーは私の主様なの!』

『嫌よ嫌よ!私だって、マリーの役に立ちたいの!』

『マリーの役に立つのは私だけでいいわ!木の精霊はお呼びじゃないのよ!』

見ての通り、ルーチェと1人の精霊が言い争っている、、、、。

「言い争いはそこまでにしなさい。まず、事情を説明してもらえる?」

『うう、、、。マリーがそういうなら、、、。』

「聞き分けがいい子は好きよ。さてと、まずはルーチェの横にいる貴女のことについて教えていただけるかしら?」

なんだか、口調がお嬢様のようになっているというか、今世では令嬢だけれども、、、。悪役令嬢のような口調になってしまうのだけど、、、。大丈夫かな?

今考えても仕方がないか、、、。とりあえず話を聞こう。

『私は、隣にいる光の精霊と同じ上位精霊で木の精霊なの!木の精霊については、光の精霊から説明があったんじゃないかな?』

「はい。邪気を吸い取って障壁を作ってくださると聞きましたわ。」

『うんうん。ちゃんと理解できているみたいだね!』

『なんで、上から目線なのよ、、、。』

『話の腰を折らないで!、、、続けるけど、私たちにとって、マリーは愛し仔なの。それで、妖精や精霊は愛し仔の傍にいたいし、役に立ちたいの!だから、ここに来たんだけど、、、。』

「私が愛し仔というのはルーチェから聞いたのかしら?」

『情報の伝達は、光の精霊からのようだったけど私たちは精霊王から話を聞いたのよ』

「どういうこと?」

『私たち妖精や精霊には、愛し仔を発見した際は直ちに王様へ伝達しなければならいという掟があるの。それで、伝達した後、ほかの精霊や妖精に伝わるという仕組みなのよ。』

「でも、なぜ愛し仔を見つけた際に伝達しなければならないの?」

『それにはいろんな理由があるのだけど、あまり詳しくは言えないわ。

でも、これだけは言える。私達は悲劇を繰り返さない、繰り返したくない。私たちにとって愛し仔は、唯一無二の存在。代わりなんていないの。』

「そうだったのね。でも、愛し仔の特徴って金色の瞳じゃないの?」

『そうね。確かに愛し仔の特徴には金色の瞳があるけれどそれだけじゃないのよ。』

「でも、ルーチェ達と初めて会った時、金色の瞳って言っていた妖精がいた気がするのだけれど、、、。」

『そうね、確かに言っていた子はいたけれど、他にも判断基準があるわ。』

「教えてはくれないの?」

『まだ、私たちから教えることはできない。来るべき時にわかるわ。』

「じゃあその時まで待っているわ。」

『お話終わった?私の存在忘れてない?』

『あら?ずっと忘れられていてもよかったのに。』

「二人とも、喧嘩しないで。それで、木の精霊さんは私と契約したいのよね?」

『ええ!精霊王様からお話を聞いた時からずっと思っていたのよ!この意思は変わらないわ!』

「そう、、、。ルーチェはどう思うのかしら?」

『私は、、、。私は本当はいやよ。でも、マリーに危険が迫っているとき、私だけではきっとマリーを守ることはできないかもしれない。そんな最悪の状況になるよりかは、マリーを守ってくれる妖精や精霊がいた方がいいと思うわ。だから、、、だから、、、。私はマリーの意思を優先するわ。』

「ありがとう。ルーチェ、私の為に決断してくれて。私のことを考えてくれて。でも、ルーチェが私の初めての契約精霊なんだから、それは変わらないわ。」

『ええ。私の大切な主様、私たちの愛し仔。絶対に忘れないわ。』

「さて、木の精霊さん。あなたに名前と私の血をあげましょう。だから、私だけの木の精霊でいてくれるかしら?」

『もちろんよ私の愛し仔。あなただけの木の精霊でいるわ。』

「あなたのこれからの名前は【アルベロ】。」

そして私はずっと部屋の中で静かにこの様子を見ていたアリスに頼み、ペーパーナイフを持ってきてもらい、少し指を切り、アルベロに与えた。

『私が二人目ね!マリーの為に頑張るわ!』

『私が一番なの忘れないで頂戴ね。』

こうして、スノウ様とのお茶会の前に起こった小さな騒動は幕を閉じたのだった。


さて、時間は過ぎ次の日になった。今日は待ちに待ったスノウ様とのお茶会の日である。

手紙でのやり取りで予定を合わせてはいたが、スノウ様はお忙しい方のようでなかなか予定が合わず2週間もたってしまった。

そして、ようやくスノウ様との予定が合い今日にお茶会を行う運びとなったのである。

今日の格好は、先日のお茶会とは違い、ラフな格好で良いとスノウ様には事前に通達してあるため堅苦しい雰囲気はいらないのだ。

そんなわけで今日の私は、パールホワイトの生地に小花柄が刺繍されたワンピースに白いマーガレットをあしらった髪飾りをつけることにする。

髪型もハーフアップにしてもらう。ワンピースの見立ては全部アリスである。さすが、伊達に何年も我が家のメイドをしていない。

そういえば思ったのだが、私のワンピースやドレスはホワイトが基調になっている物が多い。何かこだわりでもあるのだろうか?今度アリスに聞いてみよう。

時計を見るとそろそろ約束の時間である。私はお茶会の為に用意したティーセットやお菓子の最終確認をしてスノウ様を待つ。

少しの間待っていると部屋の扉がノックされる。どうやら到着したようだ。

「お嬢様、スノウ様がお見えになっています。」

「わかったわ。ありがとう。」

私は立ち上がり、玄関ホールへと足を進めた。


玄関の扉を開けると、スノウ様が立っていた。

「ごきげんよう、スノウ様。本日は遠い道中をようこそいらっしゃいました。」

「本日はご招待いただきありがとうございます。スイーツを持ってまいりました。後ほどご家族の方とお召し上がりください。」

スノウ様の手にはバスケットが握られている。

「ご丁寧にありがとうございます。後ほど家族と頂きますね。では、こちらへどうぞ。」

「お邪魔いたします。」

さすがスノウ様。礼儀正しい、、、。これが淑女というものなのだろうな、、、。私も立派な淑女にならなければ、、、!

「(それに今日のスノウ様とてもかわいい!)」

この前のお茶会ではとても美しかったスノウ様は今日はとても可愛らしい格好である。

アイスブルーの髪は緩く巻かれており、ふわふわと揺れている。

ふんわりとしたワンピースには所々雪の結晶の刺繍が描かれており、繊細な雰囲気を出している。

まさに、スノウ様のためだけのワンピースである。このワンピースが似合うのはスノウ様だけだろうなぁ。

そう思いながら私はスノウ様を部屋へ案内した。


「さぁ、お入りになってください。」

「では、失礼いたします。」

スノウ様と一緒に部屋の中へ入り、カウチに腰を落ち着ける。スノウ様は、私の向かいのソファーに腰掛ける。

「とっても素敵なお部屋ですね。」

「ありがとうございます。この日の為に、メイドや執事たちが頑張ってくれたんです。」

この部屋が出来るまでの一部始終とまではいかないが起こったことをスノウ様に話すことにした。

さて、私たちが現在いる部屋は、調度品やソファーテーブルなども含めて新調してもらったものだ。

二週間前、お父様にスノウ様が来ることを話したところいそいそと、連絡用魔石でどこかに連絡し始めたかと思うと、お父様はいい笑顔で

「二週間の間に必要なものをまとめられるように発注しておいたから、お父様にあとは任せなさい。」

と言われた。急なことでお母様やお兄様もキョトンとしていたがなんとなく事情を理解したのか、二人からも

「お父様に任せた方がいいよ。」

「旦那様にお任せしておきなさい。その方がいいわ。」

と食い気味に言われてしまって、私はとりあえず頷いておくしかなかった。

そして、完成したのがこの部屋なのだが、壁紙や床もすべて変わってしまっていた。

全体的に淡い色でまとめられていて豪華絢爛な金や銀の装飾は最小限に。だから目にも幾分か優しい。テーブルは台の部分がガラスでできており足は猫足である。

そして部屋に置いてある家具すべてが猫足なのである。

カウチやソファーもお揃いの物にしてある。よく見ると細やかな模様が入っている。

また、ティーカップやソーサー、ティーポットなどのティーセットも同じブランドらしい。

カラーリング的にはブルーとホワイトが多めな室内である。まさしく女の子が好きそうな部屋だ。

値は張ったそうだが値段をお父様は教えて下さらなかった。まぁ私にとっては聞くのも憚られるが、、、。

あとで、ランスから聞いたのだがなんでも「これは必要経費だから、値段を気にする必要はない!」のだそうだ。

そして、この部屋は私にできた友人をもてなすためのローズ専用応接室になったのは別の話である。

それから私はお父様の親バカに拍車をかけてしまったのではないかと心配になった。

「そうだったのですね。ローズマリー様のお気持ちお察しします。」

スノウ様はどこか遠い目で共感してくださった。

「まさか、スノウ様のお父上もこのような感じなのですか?」

「いえ、そういうわけではなく、、、。」

スノウ様から語られたことは私の想像を絶するものだった。

なんと、私のお父様は私に友人が出来て、お茶会をすることになるだろうと見越して?予想して?何年も前から王家や貴族が御用達にしているお店にオートクチュールの依頼をしていたそうだ。

ここまでくるとお父様の金銭感覚どうなっているのか心配になってきた、、、。

それにそのことを自慢げに話していたたというのだからこちらとしては赤面ものである。

一度釘を刺しておこうか迷ったのはここだけの話だ。

「お父様がそのようなことをしていたとは、、、。初耳ですわ。」

「はい。わたくしもお父様がそれはもうげんなりした様子で語っていらっしゃったのだから驚きましたわ。」

「うちのお父様がご心配をおかけしたようで本当に申し訳ないです。」

「大丈夫ですわ。スティリス侯爵がこのようなことになっているのは今に始まったことではないですもの。」

「本当に重ね重ねご苦労をおかけして申し訳ありません、、、。」

「今のはわたくしの言い方も悪かったですわ。話題を変えましょう。」

「そうですね!あの、お聞きしたかったのですけれど、、、。」

「はい?何でしょうか?」

「その、、、スノウ様はなぜ私とのお茶会を快諾してくださったのでしょうか?」

「えっと、、、。」

「初めてお会いしたというのに、こんなに快諾していただけるとは思わなかったので。」

「そのですね、、、失礼ながら申し上げますと、、、。ローズマリー様のことが心配なってしまったのです、、。」

「えっ?」

「はっきり申し上げますと、いまのままでローズ様が社交界デビューなさってしまうと足元をすくわれてしまうと思うのですわ。」

私ってそんなにわかりやすい性格かな?表情に出やすいのかな?

「気分を悪くされたのであればごめんなさい。それでもあんなに純粋な瞳をわたくし今まで見たことがなかったのです。」

「純粋な瞳?私がですか?」

「はい。わたくしは家の方針で交友を増やすべきだと令嬢令息たちとのお茶会の機会が多いのです。それで回数を重ねていくうちにだんだんと他の方が考えていらっしゃることが分かるようになってきてしまったのです。大体は、私と仲良くなりたいという感情の中に欲望が渦巻いていらっしゃいます。」

「欲望ですか、、、。」

「はい。きっとわたくしの傍に侍りたいという思いなのでしょう。もしくは取り入ろうという気持ちかもしれません。本当はこのように人の気持ちを決めつけてはいけないと分かっているのです。それでもわたくしは、、、、。」

スノウ様が俯いてしまった。

「そうだったのですね。でも、私も下心はありましたよ?」

「え?」

「スノウ様とお話してみたい。どうすれば仲良くなれるのかなって。」

「そうなんですか!?、、、ローズマリー様は純粋すぎます、、。」

「えっと、、、。どうしてそのような結論になったのでしょうか?」

「だって、ローズマリー様のお気持ちは純粋な気持ちそのもの。いくら下心があったからと言っても他のご令嬢や令息の方たちとローズマリー様との感情は少し違いますわ!」

「ええ、、、。」

「ローズマリー様、本当にこのままいくと危なっかしいですわ。」

「そんなことないと思いますけど、、、、。」

『そんなことあるわよ!』

「!?どなたですか、、、?」

『あら、びっくりさせちゃったみたいね。』

「はぁ、、、。ルーチェ、姿を現してあげて。スノウ様を怖がらせてしまいますわ。」

『それは失礼。、、よいしょっと』

どこからか声がしたかと思えばそれはルーチェだった。

「あの、、ローズマリー様この方は、、、。」

「この子は私の契約精霊の、」

『ルーチェよ。マリーは私のご主人様!』

「なんで、ルーチェがこの部屋にいるの?アルベロと庭園に行ったのではなかったの?」

『いったわよ。でもアルベロは用事を思い出したとか何とかでどこかに行っちゃった。それで暇になったから帰ってきて、マリーがいる部屋に入ったら、マリーが危なっかしいっていう話をしていたわけ。』

「なるほど、、、。」

「ローズマリー様は、精霊と契約なさっているの?」

「そうですわ。、、、どうなさったのですか?」

なんだか、スノウ様の様子がおかしいけど、、、。

「妖精や精霊は気まぐれでなかなか姿を見せることはありません。それに契約するなんてわたくしたちの年齢ではアルティーオ殿下しかいらっしゃいません。いくらヴェルト王国が妖精の恩恵を受けているとはいえ、妖精や精霊との契約は学園に入学してから実習で行うものですから。」

「そうなの?ルーチェ。」

『、、、そうよ。私たちは気に入ったこの前にしか現れないし、大体気まぐれが多いわ。ライトが語り掛けで光の妖精を呼び出せたのは単に、ライトのことをあの子たちが気に入っていただけのこと。私はあの時、ほんの気まぐれで現れてみただけよ。まぁ今となっては素敵な主人に出会えて

嬉しかったけどね。』

「なんで、言ってくれなかったの?」

『言う必要がなかったからよ。だって私たちはマリーのところに無条件で現れるし、姿を見せるからね。』

「早くいってほしかったのだけれど、、、。」

『それはごめんなさい。さて!それよりもスノウだったわね?』

「はい。スノウ・ミラージュと申します。それで、どうかなさったのですか?」

『マリーが危なっかしいていう話よ!その気持ちよくわかるわ!マリーはどこか危機管理能力が足りていないっていうか警戒心が薄いっていうところがあるってい思っていたの!」

「やはり、ルーチェ様もそう思いますわよね?あの時初めて会話していくうちに心配になってしまったのです。」

『マリーは外に出ることが少ないというかほぼないと聞いていたからその影響もあったのかもしれないわ。』

「それでは社交界にデビューされてしまったら、、、。」

『とっても危険ね。』

「二人ともそんなに心配しなくても、、、」

『私にとっては心配よ!』

「そうですわ。なので、わたくしがローズマリー様とのお茶会に快諾したのは先ほども言った通り

これからが心配になってしまったからなのです!」

「お母様みたいなことをおっしゃられないでください、、、。」

「!それですわ!わたくしきっと母性本能が出たのかもしれませんわ!」

「ええ!?」

『あらら?言葉に勢いが出てきちゃったみたい。マリー、頑張って聞くのよ!』

ルーチェはそういうと、颯爽と姿を消した。見捨てられてしまった、、、。

「ご安心ください!ローズマリー様が学園に入学なさるまでわたくしが沢山のことをお教えしますわ!それでなのですけれども、わたくし二週間の間にお茶会に参加したことがありましたの。その中でお父様やお母様繋がりで仲良くさせていただいている貴族の方々がいらっしゃいまして、その貴族の方々のご令嬢とお茶会をしまして、ローズ様のことをお話しましたの。そしたらですね、是非、ローズマリー様とお話してみたいとおっしゃっていまして、、、。」

「なぜ私の事を話されたりしたのですか、、、。」

「それは、、、。わたくしの気持ちを他の方々にも理解して頂きたかったのです。ローズマリー様は、来年の王城で開かれるお茶会にご主席なさいますか?」

「はい。その予定です。」

「その時にそのご令嬢の方々とお話ししましょうということになったのです。

お茶会は立食形式で行われ、庭園のいたるところにある東屋は使用可能だそうです。

ですのでそのうちの一つを借りることは可能だと思われますの。」

「なるほど、、、。ではお茶会の日にそのご令嬢の方々とお話をするということですね?」

「そうなりますわ!」

「ちなみにどなたがいらっしゃるのでしょうか?」

「それはですね、

エリス・レイノーヴァ様

レイチェル・ティールズ様

リリーフィア・ミューズレイン様、ですわ!」

エリス、、、レイチェル、、、リリーフィア、、、。いや、神恋の悪役令嬢たちじゃない!?

なんていう因果だ、、、。どうするべきか、、、。いや、これは仲良くなって破滅エンドへのフラグをたたき折れるのではないだろうか?

これはチャンスだ!ぜひ、個人的にも仲良くなりたい!美少女ぞろいだからね!

「わかりましたわ。当日はよろしくお願い致します。」

自分の心の内を隠して了承の意を伝える。

「そういって頂けて嬉しく思いますわ。きっと仲良くなれると思いますわ!」

「楽しみにしていますね。、、、、失礼かもしれませんがスノウ様は普段自分の素をお見せになっていませんよね?」

私が急に切り出した話題に、目を見開くスノウ様。そして少し逡巡した後、困ったような表情で口を開いた。

「、、、やはりわかりますわよね。今日のわたくしはいつもと違うと自分でも感じておりますから。」

「では、いまの性格がスノウ様の本来の性格なのですか?」

きっと、スノウ様の素というのはこっちなのだろう。深窓の令嬢ではなくて明るく、優しく思いやりのある方なのだろう。

「はい。年々、お茶会の頻度が多くなるにつれて、わたくしはたくさんの令嬢や令息と交流を持つことになります。その中で、だんだん自分の本来の性格を忘れてしまっていました。ですが、ローズマリー様とお話していくうちにだんだんと元に戻ってきたのでしょう。本来のわたくしを思い出させていただいてありがとうございます。ローズマリー様。」

「たまたまですわ。それにお礼を言うのはこちらですわ。今日、スノウ様と仲良くなることが出来て、知らない一面を見ることが出来てとっても嬉しかったです。」

「そうでしたか。、、、そういって頂けて嬉しく思います。」

「スノウ様は、きっと肩に力が知らず知らずのうちに入っているのかもしれません。だから、肩の力を抜いたほうがいいですわ。」

「肩に力が入っている、、、。実感したことがありませんでしたわ。」

「自分で気づかないことはよくありますからね。それに、お茶会の頻度を少なくするべきですわ。」

「でも、お茶会は交流を増やすことが出来る大切な場ですわ。」

「ですが、お茶会の頻度が多いからスノウ様は本来の自分を忘れるところだったのですよ?

それでは本末転倒ではありませんか。少しは自分を大切にするべきです。スノウ様はまだ5歳なのですよ?遊んだり、自分の好きなことをしたりしてもいいのです。人との交流は学園に入ってからでもできますから。」

「お父様がなんていうかわかりませんもの、、、。」

「大丈夫だと思いますよ。きっとミラージュ侯爵様はスノウ様のお願いを聞いて下さるはずですもの。」

「わたくしのお願いを聞いて下さる根拠が見当たりませんもの。」

「それはご安心を。この前私のお父様から聞いたのです。なんでもミラージュ侯爵様は『娘が最近無理しているようで心配だ。どうしたら休ませてあげられるのだろうか。』

と、おっしゃっていたそうです。最近はそればっかりしか言わないからうんざりしてきた。とお父様が愚痴をこぼしていましたわ。だから、大丈夫ですよ!」

「お父様がそんなことを、、、。わかりましたわ!わたくし頑張ってお父様に伝えてみます!」

「頑張ってくださいませ!」

「ありがとうございます。」

スノウ様は笑った。その笑顔は年相応で可愛らしかった。

「それでですね、ローズマリー様に言いたいことがあるんですの。」

「何でしょう?」

「あの、、、その、、、。また、こうしてわたくしとお茶会をしてくださいますか?」

「、、、勿論!私もそう思っていましたの!だから、スノウ様、私のことはローズとお呼びください。」

「いいのですか?」

「はい!せっかく仲良くなれたのに愛称呼びではないのは少し寂しいので。」

「そうおっしゃるのならば、お言葉に甘えてローズ様とお呼びいたしますわ。」

「では、改めてよろしくお願いいたします。スノウ様!」

「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ。ローズ様。」

スノウ様と仲良くなれたことはうれしいことだ。先ほど招待された、お茶会でもほかの令嬢の方々と仲良くなれたらいいなぁ。


こうして、スノウ様とのお茶会は終わった。そして、またお茶会をするという約束をして今日という日を終えたのだった。

余談だが、数日後ミラージュ侯爵様からお礼の手紙とお礼の品が送ってきた。きっとうまくいったのだろう。またその数日後今度はスノウ様から

お礼の手紙が来た。手紙には『お茶会の頻度を減らすことが出来ましたわ!これからは空いた時間で自分の好きなことを見つけてみますわ!』

と書いてあった。

本当に良かった。人というのははありのままの個性があるからこそ一番いいのだ。


episode8

【ついに来てしまった、、、。】


スノウ様とのお茶会から、約3か月経った。現在は7月になったばかりである。

そういう私はというと6月に誕生日を迎え、5歳から6歳になった。この3か月の間にスノウ様とは4回ほどお茶会を行った。

そして、お兄様は7歳になり、学園の初等部に通っている。

友人も何人かで来たようでいつも楽しそうにしている。

その他にもちまちまとお茶会に参加したのだが、これと言って大きな収穫はなかった。話しかけてくる令嬢や令息を軽くあしらうだけ。

とは言えども、相手は貴族であり、プライドが出来始めて性格にも現れ始めたころ。うまく相手をしなければと後々面倒くさいことになるのだ。

貴族の令嬢や令息のすべてが面倒くさいというわけではないが、プライドというものはある。それが傷つけば相手は不機嫌を隠そうともしないだろう。

もし癇癪なんて起こされたらたまらない。それがもし、私の失態となるとお父様やお母様、さらにはお兄様の顔に泥を塗ることになる。それだけは避けなければならない。

私の失態は、家の失態。私の行動次第でスティリス家に向けられる評価は変わるのだ。そして、侯爵令嬢としての評価にも繋がる。

評価ばかりを気にするのはいけないことだが、貴族社会は本当に難しい。常に一挙一動に目を向けられるのだから気を付けなければならない。

それが侯爵令嬢なのであればそれは顕著に現れるだろう。


さて、今日は王城への謁見の日。ついに来てしまった、、、。そう私は今日初めてアルティーオ殿下とお会いすることになるのだ。

まだ、王位継承者としての式典は行われていないが、アルティーオ殿下が王位継承権第一位なのは決まっているだろう。

ちなみに陛下と王妃様の間には三人のお子様がいらっしゃる。長男のアルティーオ殿下。その一つ下のピアンフォード殿下とカメリア王女殿下。

二人は双子のご兄妹で、アルティーオ殿下がお生まれになった年の次の年にお生まれになった。

、、、王妃様は休む間もあまりなくご懐妊なさったからきっと大変だっただろう。

この国では一夫多妻は認められているが推奨はされていない。だから、お子様を生むのは王妃様ただおひとりとなるわけだ。

なぜなら陛下は、王妃様ただおひとりをご寵愛なさっているのともう一つ、離縁の際に起こるいざこざや妻同士での争いが起きることを防ぐためだ。

妻同士での争いが過激化し、警備隊を巻き込む騒動になることも少なくないそうだ。お父様から聴いた話だと隣国では皇帝の妻たちの間で派閥が出来ており、その派閥同士で争いが絶えないという。それは、帝国の皇女様や皇子様にも影響が出ているらしい。

そのような面倒ごとを避けたいがためにわが国では一夫多妻の貴族が少ないのだ。

では、なぜ一夫多妻制を禁止しないのかというと、昔の名残らしい。前王よりもその前の王様の時代は一夫多妻が当たり前だったのだという。

その風習が名残となって今もあり続けているらしい。また、数は少ないとはいえ一夫多妻の貴族はまだ残っているらしく、禁止にしてしまうと正妻以外の妻たちを切り離さなければいけなくなる。なので、一夫多妻制は認められているのだ。


話を戻そう。今日は謁見の日ということもあり屋敷中は上から下への大忙し。そんな中で私はメイドに新調したワンピースを着せられ小物を付けられては取り外してを繰り返している。私としては、香油や香水をあまり好まないから、香りが薄いものをちょっとだけにし欲しいと頼んだ。

だがしかし、他の貴族のご令嬢たちとしては私のようにいかないだろう。殿下に見初めてもらいたくて、振り向いてほしくて、装飾の多い派手なドレスに沢山のアクセサリー、香油や香水を多く付けるのは当たり前。まぁ、これは私の偏見なので気にしないでほしいが。

それに、令嬢たちが本気になるのも無理はない。私から見て贔屓目なしにしても殿下はお顔がいい。乙女ゲームの中でも殿下は絶大な人気を誇っていた。

乙女ゲームの中で出てきた殿下の容姿は少年姿も青年姿もすべてにおいてかっこいい。私は前世でどちらの姿も拝見しているがその美貌に慣れる気配がしなかった。

また、殿下の攻略難易度は高かった。ゲーム自体の難易度を高くしていけばそれに合わせて当たり前のように攻略対象たちの攻略難易度も上がっていく。

その中で殿下は群を抜いて高かった。プレイヤーで乙女ゲーム隠れガチ勢だった私も他の攻略対象には数週間しか掛からなかったのに殿下の攻略には数か月かかった。

何度も何度も会話して、正しい選択肢を選んでいく。攻略が終わった後は小さく祝杯を挙げたものだ。それだけ、殿下の懐柔には難があるのだ。

まぁ、私は悪役令嬢な立場なのでヒロインが何とかしてくれるだろう。絶対に破滅エンドにならないようにヒロインにはいやがらせしたり近づいたりしないが。

それとこれはまだ、本編が開始されていない状態で、現在、殿下は婚約者選びの真っ只中。婚約者候補はたくさんいるのだ。

殿下の婚約者選びの中で私が最有力候補らしい。そして、貴族の間では私が仮の婚約者として通っている。私が、3歳で殿下が4歳の日にそのように決められたらしい。

あくまで仮なので正式な婚約者になるかどうかはわからないが、今まで殿下は婚約者候補のご令嬢とのご婚約の話を蹴っているだからそのまま決まらなければ正式な婚約者になるのは私だろう。

「お嬢様、一通りの支度が整いましたがいかがでしょうか?」

私が、殿下のことについて考えているなか、ワンピースや化粧、髪の毛のセットは滞りなく進んでいたのだ。

うちのメイドたちは、行動が早い。ランスやメロディーの指導もあり、有能なメイドが多い。

いやはや、流石スティリス家のメイドたちだね。

そんなことを頭で考えている間に、私は本日王城に着ていくワンピースなどの確認をしていく。

今日は、王城での謁見だが、ドレスではなく普段着ているようなワンピースでもいいのだという。国王陛下に挨拶した後は殿下とのお茶会という名のお見合いらしい。だから、堅苦しいのは無し!とお父様が言っていた。

さてさて、そのワンピースはというといつも通り、ラベンダー色やホワイトの生地が多い。そしてワンピースに付けられているのは紫のバラとパール、そして刺繍とフリル。

首元にはアメジストの首飾り。手元には白い手袋。ワンピースの丈はいつもよりも長めにしてある。

髪型も後ろで三つ編みとハーフアップを組みわせたものにして、ワンピースに合う花とパールの飾りをつけて、耳には首飾りと同じデザインの物を付ける。

「ええ。問題ないわ。それにしても、今日はシンプルね。」

「はい。お嬢様のご衣装は基本的にエレガントでシンプルなものにしてあります。華美なものよりも淑女らしい方がお嬢様にはお似合いですから。」

派手で豪華なものはやはり似合わないか、、、。きっと服に着られてしまうのだろう。

「(お嬢様には華美なものも似合いますが、最もお嬢様の可愛らしさや儚さを引き立ててくれるのはエレガントでクラシックな衣装ですから!、、、それにきっとお嬢様は将来、ダイヤモンドのように、いえ、ダイヤモンドよりも美しくなられる。だけど今はまだ原石の状態。これから私たちでどんどん磨いていかなければ!)」

メイドたちがそのような思っていることなどつゆ知らず、私はこれから王城でするべきことを思い出していたのだった。




馬車に揺られて約3時間ほど。ようやく王城へつながる門が見えてきた。私は王城でするべきこととの最終確認を頭の中でしていた。

まず1つ、殿下には必要以上近寄らない。べたべたすることはご法度。2つ、話題選びは慎重に。声は殿下に聞こえるぐらいで周囲迷惑をかけることをしない。

3つ、行動は淑女らしく落ち着いて殿下が不快になるような行動は避けること。ただし、笑うことを忘れない。

第一印象は良くしておかなければ。いくら破滅エンドが嫌でも、相手は王族。失礼のないようにしなければならない。

この日の為にマナーの練習をしてきたんだから大丈夫。対策も今のところは大丈夫。

自分に言い聞かせて心を落ち着ける。

ここが一番の難関。、、、、ゲーム補正があるならきっと婚約者になるのは変わらないだろうけど。出来ればほかの方を選んでほしい!!

そんなことを考えながらも私とお父様を乗せた馬車は王城の中へ入っていった。



馬車を降り王城の室内に入ると近衛騎士の方が待っていた。

「本日は、ようこそお越しくださいました。謁見の間で陛下がお待ちです。」

「わかった。さぁローズ、私と謁見の間へ行こうか。」

騎士の言葉父はうなずき私の方を見る。

「はい。ですが、近衛騎士の方はよろしかったのですか?」

「普通なら、近衛騎士が謁見の間まで案内するんだけれどね。私は宰相ということもあってか、案内はしなくていいみたいだね。」

「そうなのですね。」

これが顔パスというものなのか?お父様の人脈がどこまであるのか一回聞いてみたくなった、、、。


場所は変わって、今私はどこへいるでしょうか?

、、、答えは、謁見の間へ続く扉の前です!

お父様に連れられて王城の中を歩いていたら道を覚えるまでもなく、扉の前まで来てしまいました、、、。

「お話は聞いております。どうぞ中へ。」

重厚な扉が開かれ、謁見の間へ促される。

「ありがとう。さて、ローズ気を引き締めていきなさい。ここから先は陛下がいらっしゃる場所だよ。」

「はい。お父様。」

お父様を先頭に私たちは歩き出した。


深紅のカーペットに煌びやかなシャンデリア、天井にはステンドグラスがあり床材には白床の結晶が使われておりきらきらと輝いている。

白床の結晶とはヴェルト王国内にある山脈でしか産出されない希少な鉱石でそれを材料に作られる白い床材はとても美しく、見る角度によって色が変わるのだという。

オパールと同様に見られがちだが白床の結晶は耐久性が強く、めったなことでは割れない。だから山脈で採ろうにも結晶自体を採るのには4,5ヶ月以上かかる。

その白床の結晶をふんだんに使われている謁見の間の床にはどれだけのお金がかかっているのだろう。

さっき落ち着けた緊張がぶり返しそう、、、!

だが現実は無常だ、、。お父様はどんどん歩を進めていく。そして玉座の前で止まり、お父様は臣下の礼を、私はカーテシーをする。

「ヴェルデ・スティリス侯爵、ローズマリー侯爵令嬢、ようこそ我が城へ。」

「国王陛下におかれましてはご健勝のこととお慶び申し上げます。本日は娘のローズマリーとアルティーオ殿下との顔合わせの件で参上いたしました。」

「君は相変わらず堅苦しいな。今に始まったことではないか、、、、。さて、スティリス侯爵、君の娘を紹介してもらえるかな?」

お父様の言葉に一瞬呆れを見せるがすぐに気を取り直したのか私の方を見る。

「かしこまりました。ローズマリー、国王陛下に挨拶なさい。」

「お初にお目にかかります。スティリス家の娘、ローズマリー・スティリスと申します。本日はお招きいただき誠にありがとうございます。」

カーテシーの姿勢のまま挨拶する。

「面を上げて。ヴェルデからよく話を聞いているよ。その年齢で所作も完璧とは将来有望だね。」

そういわれ、顔を上げると玉座には美しさよりも儚さが勝る美丈夫が座っていらっしゃった。光り輝く銀色の髪に鮮やかなピーコックグリーンの瞳、色白の肌と中性的な顔立ち。

見方によっては女性にも男性にも見える。さすが、メイン攻略者のお父様、、、!

この美貌でまだ30代後半らしい。今度美の秘訣をご教授願いたいけど恐れ多くて出来そうもない。

ちなみに、王妃様であらせられるシルエラ様も大変美しく、社交界では高嶺の華と呼ばれていたそうだ。だがそれは過去の話ではなく、年々美しさは増していると専らの噂だ。

「勿体なきお言葉ありがとうございます。これからも精進して参ります。」

「うんうん。アルティーオは先に庭園に向かっているそうだから、これから案内させよう。」

陛下は片手をスッと上げる。すると、どこからともなく侍女が現れる。

「ローズマリー嬢を庭園に案内してあげて。わたしはこれからヴェルデと積もる話があるから。とりあえず解散ね。それぞれ仕事に戻って。」

陛下がそう言うと、謁見の間にいた近衛騎士や侍女たちが一斉に動き出し、仕事へ戻っていった。

「かしこまりました。ではローズマリー様、殿下がいらっしゃる王宮庭園へご案内いたします。」

「よろしくお願いします。」

その侍女はクラシカルなメイド服に身を包み、シニヨンで髪をまとめた妙齢の女性の方だった。

「わたくしは侍女頭を務めております、リシアと申します。以後お見知りおきくださいませ。」

「ご丁寧にありがとうございます。ローズマリー・スティリスと申します。」

年上の方には礼儀正しく。これは前世も今世でも変わらない。


「では、わたくしについてきてください。」

「わかりました。それでは、国王陛下、お父様わたくしはこれにて失礼いたします。」

私はカーテシーをしてリシア様についていった。



「いやあ、あそこまで礼儀正しいといっそ恐ろしいね。そう思わないかいヴェルデ。」

「ははは。我が娘はほかの令嬢、令息よりも大人っぽいところがあるからなぁ。」

「ヴェルデが何かローズマリー嬢に教えたわけでもないのだろう?他の令嬢や令息たちはローズマリー嬢のようにはならないしね。」

「ああ、私は何も言ってないよ。すべてあの子の技量だと思うがな。」

「ふうん。わたしから見てもあの子はどこか違うね。きっとアルトも気に入ってくれるよ。」

「そういっておきながら、殿下が拒んだらどうするんだ?ほかの令嬢たちとの見合いはすべて蹴ってるじゃないか。」

「そうだね。でも、シルエラがね、、、何だったかな『アルトの婚約者にふさわしいのはローズちゃんしかいないわ!』とかなんだかよくわからないことを言っていたね。アルトにも『ローズちゃんとは仲良くするのよ!』とか言ってたし、、、。」

「それは興味深いな。しかもなぜシルエラ様はローズの愛称を知っているのだろうか、、。マリーとか呼ばれているかもしれないのにな。」

「私にもさっぱりだよ。でも、ああ見えてシルエラの勘は当たるからね。心配ないさ。」

「そうだな。シルエラ様の勘は疑っていないさ。」

「さて、ヴェルデ。わたしの執務室へ行こうか。おいしい紅茶を飲みながら世間話でもしよう。」

「惚気話もするのか?」

「そうだと言ったらなんだい?ヴェルデも夫人のことについて惚気たいだろう?」

「もちろん。最近は誰にも話せてなくていろいろ話題がたまってたんだ。聞いてくれるだろう?」

「当り前だよ。シルエラも呼んで近況報告会と行こうじゃないか。」

私が謁見の間から立ち去った後お父様と陛下がそんな話をしているなど私は知る由もないのだ。


episode9

【殿下との対面】

セレナードとヴェルデ、そこに執務を終わらせたシルエラが加わり、王城の執務室で互いの近況や世間話に花を咲かせているころ、ローズマリーと侍女頭のリシアは殿下かが待つ庭園に向かっていた。

ローズマリーは内心王宮の豪華絢爛さに圧倒されていたが、それを表に出すわけにもいかず終始すまし顔であった。

「ここの扉から先が王族専用の庭園になります。では、参りましょう。」

「はい。」

リシアに促され庭園に足を踏み入れる。

ローズマリーの目に飛び込んでくるのは、美しく咲き誇る花々、家の庭園よりも舗装された小道、噴水からあふれ出る水は4つの方向へ続く小道に流れている。

また、花だけではなく、木も生い茂り小鳥の可愛らしいさえずりが絶え間なく聞こえてくる。

「素敵、、、!」

「お気に召していただけたようで何よりですわ。さぁローズマリー様、殿下はこちらでお待ちです。」

ローズマリーの嬉しそうな表情に顔を綻ばせながらもリシアはローズマリーを連れ、小道を歩いていく。

「殿下、お待たせいたしました。ローズマリー・スティリス様を連れて参りました。」

「あぁ、ありがとう。下がっていいよ。ここからは僕らだけの時間だからね。」

「かしこまりました。何か必要なものがありましたらお申し付けください。」

ローズマリーが連れてこられたのは、あたり一面をバラの花で囲われた東屋であった。

東屋には、精巧に彫られた模様が入っており、柱には茨が巻き付いている。

そんな東屋の中で本を読みながら待っていたのは、美しい少年だった。

切りそろえられた美しい銀髪にはヴァイオレットのグラデーションがかかっている。

そしてピーコックグリーンよりも少し深いピーコックブルーの瞳、シミ一つない色白の肌、少しあどけなさがありながらもしっかり整っている顔。

ローズマリーは一日に美の暴力を何回受けただろうか。それほどまでに国王陛下と殿下の顔は整っているのだ。


「お初にお目にかかります。スティリス侯爵の娘、ローズマリー・スティリスと申します。本日は庭園へお招きいただきありがとうございます。」

前世の自分が出てきそうになるのを押さえて、ローズマリーはカーテシーをする。

「王宮の庭園へようこそ。アルティーオ・ヴェルトです。本日はよろしくお願いします。」

「恐れ多くも申し上げますと、殿下のお時間をとらせてしまったことお詫び申し上げます。」

急に謝罪したローズマリーに一瞬キョトンとするも事情をなんとなく察したのかアルトは微笑む。

「気にしないでください。きっと父上の話が長引いたのでしょう。ヴェルデ宰相とは学友だったそうなのできっと父上も舞い上がっていたのです。」

「寛大なお心感謝いたします。」

「さて、堅苦しい話もここまでにして、お茶を飲みながらでも話しましょう。今日はそのための時間なのですから。それに、口調も楽にして頂いて構いません。」

「、、、わかりましたわ。」

アルトにそう言われてしまっては仕方がないとおもい、ローズマリーは口調を普段お茶会の時に使用するお茶会用に切り替える。

「座らないの?」

「いえ、そういうわけでは、、、。では、失礼いたします。」

ローズマリーは殿下の向かいの席に座る。その行動を見たアルトは意外そうな顔をしてローズマリーを見る。

「僕の横に座ったりしないんだね。」

「?はい。殿下のお隣に座るだなんて恐れ多くてわたくしにはできません。」

「そうなんだ。今までの令嬢方は僕の横に座る方が多かったから、びっくりしたよ。」

「それはそれは、、、。」

礼節を弁えない令嬢たちに少し憤りを感じるローズマリー。でも、すぐさま思考を切り替え話題切り出す。

「王城の庭園は今回初めて来ましたが、とても美しいですわ。」

ローズマリーが庭園を見渡していると紅茶とお茶菓子が運ばれてくる。

「僕もお気に入りの場所なんだよね。王族お抱えの庭師たちが毎日手入れしてくれているよ。」

運ばれてきた紅茶の香りを楽しみながらアルトは答える。

「それでしたら、このような美しさが保たれているのもうなずけますわ。」

「ローズマリー嬢は、植物が好きなのかい?」

「はい。わたくしの屋敷にも庭園があるのですがそこで本を読むのがわたくしの楽しみなのです。」

「へぇ、僕と一緒だね。ここは静かだから読書もはかどるんだ。」

「同じご趣味を持てて光栄ですわ。でも、最近は忙しいことも増え、賑やかなことも多くて、、、。なかなか時間をとれません。」

「そうだなんだね。賑やかって言ったけど、スティリス家にはライトとローズマリー嬢しかいないよね?」

「えっと、、、。その、、、。」

口ごもるローズマリーにアルトは首をかしげる。

「何か、言えないことでもあるの?」

「そうではないのですが、、、。」

『マリー!!』

『ここにいたのね~!』

急に響いた声に目を見開くアルト、困ったような表情のローズマリー。

『屋敷にいないから探したのよ!?』

「今日は、王城へ謁見しにいくって昨日言ったでしょう?」

『だって、アルベロが騒ぐんだもの!』

『私のせいにしないでよ!』

「ここで言い争いはおやめなさい。それで?どうしてここまで来たの?」

『マリーの魔力を辿ってきただけよ?』

『そうそう。簡単だったよね~!』

「私が聞いているのはそういうことじゃないわ。何の用事でここへ来たの?」

『そうだった!あのね、マリーと契約したい子がまたきたのよ。でも、屋敷にマリーはいないからどうしようかと思って。』

「また?、、、事情は分かったわ。でも、今は殿下とお話し中なの、、、よ?」

ローズマリーは何かに気づいたのか言葉がかたことになる。

『マリー、どうしたの?』

ルーチェは急に口ごもり始めたローズマリーをみて不思議に思った。そしてローズマリーの顔を覗き見ると、ローズマリーは顔を赤くしていた。

「わぁ、お顔が真っ赤だね?」

「申し訳ございません!!、、、お恥ずかしいところをお見せいたしました。」

そう。ローズマリーは急にやってきた精霊たちにいつも屋敷で接している言葉で話してしまった。

つまり、自分の素の状態を殿下に見せてしまったことに対して羞恥心に駆られているのだ。

『マリー、顔を真っ赤にしてどうしたの?』

「、、、。とりあえず二人とも屋敷に帰って。詳しいことは後から話しましょう。」

『?よくわからないけど。わかった!!行こう、ルーチェ。』

『あっちょっと引っ張っていかないでよ。アルベロ!』

精霊2人が去って行った後もうつむいたままのローズ。そこに追い打ちをかけるようにアルトは言葉を発する。

「ローズマリー嬢、うつむいてしまっていてはお顔が見えません。お顔をあげてもらえますか?」

その言葉にますます俯くローズマリー。でも、王族の頼みは断れないのか、ゆっくりと顔を上げる。

今のローズマリーの顔は、羞恥心により耳まで真っ赤で、目が潤みすぎて涙が零れ落ちそうというおまけ付きの顔であった。

「はしたないところをお見せしましたこと誠に申し訳ありません、、、。」

「気にしてないよ。ローズマリー嬢もそんな表情するんだね。」

「お恥ずかしい限りですわ。素を出してしまうだなんて。」

アルトはその時、なぜだかわからないが胸がモヤモヤする感覚を覚えるが、気のせいだろうと思い別の話題を出す。

「それそうと、先ほどの精霊はローズマリー嬢の契約精霊かな?」

「はい。、、、今は二人ですが、屋敷に帰ったらまた増えるかと思われますわ。」

「へぇ、凄いね。しかも上位精霊と契約するなんてね。僕にも契約している精霊はいるけど、まだ1人だから。」

「お褒めにあずかり光栄ですわ。」

「あと、ローズマリー嬢のことは風のうわさで聞いていたけど、どうやら噂は嘘のようだね。」

「噂?でございますか。」

「うん。知らないかな?」

「知りませんでしたわ。」

「知りたくないのかい?噂の内容。」

「知ったからと言って、噂は所詮噂でしかありませんもの。時間がたてば風化するでしょう?」

「確かに。でも、噂の中には事実があるということも無きにしも非ずだよね。」

「そうですわね。でも、噂に踊らさせれ人生を棒に振ることだけはしたくないですから。興味もありません。」

「ローズマリー嬢は現実的な思考だね。」

「まあ!わたくしだって現実ばかりを見ているわけではありませんわ。時には現実から離れたいときもありますもの。」

ローズマリーは持ってきていた扇子で口元を隠しながら微笑む。

「意外だね。僕の中では現実主義者なのかなって思っていたんだけどね。」

「、、、。侯爵令嬢たる者、現実に向き合っていかなければなりませんから。」

「まぁ、そうだね。僕もそう思うよ。王族たるものいつでも現実に目を向けよ。思想としては似ているね。」

「そして、自分の行動には責任を持ちませんと。」

「責任?」

「ええ。わたくしのした行動や言動はスティリス家の信用にもつながってきますから。」

「、、、。そうかもね。」

アルトは思った。これは自分がしっかりしなければいけないと。

このままではいづれ世間体と自分の立場を気にしすぎるあまりローズマリー嬢はいつかおしつぶれてしまうかもしれないと。

そして、なぜかはわからないが、いろんな意味で危なっかしいと感じた。

ここで、アルトは自分の母との会話を思い出す。


『聞いて、アルト。貴方の愛する人が見つかって、その愛する人がもし押しつぶされそうになったら貴方が支えてあげて。』

『支える、、、。』

『そうよ。現実とは時に残酷で非道。たくさんの物を突き付けてくる。だから、貴方が寄り添ってあげたり、甘やかしてあげたりすればきっと何かが変わるわ。』

『でも、僕には愛する人が誰か分かりません。』

『今はそれでいいの。でも、きっと見つかるわ。母の今の言葉、忘れないで頂戴ね。』

『、、、。はい!』


「殿下?どうなさいましたか?」

「えっ。いや何でもないよ。」

もの思いに耽って、沈黙していたことに気づくアルティーオ。

「ねぇ、ローズマリー嬢。」

「はい。」

「今日のこの時間はお茶会であるのと同時に、僕の婚約者探しであるのは知っているよね?」

「もちろん。存じ上げておりますわ。」

「うん。だから、今ここで決めたよ。ローズマリー・スティリス嬢、貴女を僕の婚約者とします。」

「、、、、え?今、なんと?」

「ん?僕の婚約者にするって言ったんだよ。」

「強制でございましょうか、、?」

「王族に貴族が逆らえるとおもう?」

「そんな滅相もございません。」

「じゃあ、決まりね。詳しいことはおって連絡するね。父上にも僕から言っておくから。」

「わかりましたわ。でも、なぜわたくしを?」

「だって、ローズマリー嬢危なっかしそうなんだもん。」

にっこりという字幕が出てきそうなほどいい笑顔でつげるアルト。そんなアルトの顔に呆然とするローズマリー。

「わたくしが、、、。危なっかしい、、、ですか?」

「そうだけど。ローズマリー嬢を放っておいたらいつか何か起こりそうだなぁって。」

「、、、、なぜ、皆様同じことをおっしゃるのでしょう、、、。」

「皆様?」

「スノウ様とルーチェにもわたくしは危ないと言われましたの。」

「ミラージュ侯爵家の令嬢か、、、。仲良いの?」

「はい!わたくしの初めてのお友達ですわ!」

「貴族の令嬢ってこんなにも裏と表って変わってくるんだね。」

「どうかなさいましたの?」

「ううん。何でもないよ。じゃあ、婚約者はローズマリー嬢に決まりということで、これからよろしくね。」

「、、、。こちらこそよろしくお願いいたします。」


こうして、ローズマリーとアルティーオの婚約が決まり、お茶会はお開きとなった。



その日の夜、執務室にはまだ明かりが灯っていた。


「そういうことで、ローズマリー嬢との婚約が決まりました。」

「わかった。詳しいことはおって連絡しよう。お披露目の日の段取りなどもこちらで決めておく。自分の婚約者をちゃんと大切にするんだよ?当たり前のことだけど。」

「もちろんです。」

「良かったわね。アルト!婚約者が決まって!」

執務室の中にはこの国の国王陛下と王子殿下、そして王妃がいた。

「ローズマリー嬢か、、、。僕から見ても同年代の子たちとはどこか違うね。」

「でしょう!ローズマリーちゃんはね、とても頑張り屋さんなのよ!いつかお茶会してみたいわ。」

どこか誇らしげに言うのはこの国の王妃である、シルエラ・ヴェルトその人であった。

シルエラはローズピンク色の長く美しい髪と、夜空のように深い青の瞳。艶やかな唇と、まろく柔い肌を持つ美女だ。

そして、ローズマリーと同じく前世の記憶を持ち【神恋】をプレイしたことのある転生者だった。

「なんで、シルエラはそんなに誇らしげなんだい?」

「え?そうねぇ、、、。わたくしの予想道理だったからよ!」

「ローズマリー嬢がアルトの婚約者になることを予想していたのかい?」

「だって、アルトには言い聞かせていたもの。」

「はい。母上から、『ローズマリー嬢とは仲良くするように!』と言われていましたから。」

「はぁ、、、。お前の行動力には驚かされるよ。」

「まぁ!ひどいですわ。わたくしはアルトのためを思っていったのですよ。それにアルトの婚約者としてはローズマリーちゃんが1番適任だと思ったのよ!」

「母上、そのことなのですが、母上の仰った言葉が今日、役に立ったのですよ。」

「?何か言ったかしら?」

「『愛する人が押しつぶされそうなときは寄り添ってあげること』とおっしゃっていましたよね?」

「そうね。それがどうかしたの?」

「シルエラ、、、。アルトに何を教えているんだい?」

「えっと、、、。これから、大事だと思うことを忘れないうちに言っているだけですわ!!」

「ふうん?」

「信じてくださいませ、、、!」

「父上、、、。そこまでにしてあげてください。」

「アルト、、、!」

「わかったから、続きを話してくれ、、、。」

「はい。それで僕からみてローズマリー嬢は現実を見るあまりその現実に押しつぶされそうだなと。」

「確かに。僕もそう思ったね。ローズマリー嬢は大人すぎるって。ふむ、、、何か策を考えるべきか?」

「、、、。予想道理だわ、、、。悪役令嬢って実は正しいことを言っている事の方が多いのよね。世間体や立場をを気にするあまりに、、、。ローズマリーちゃんもそれが理由で婚約破棄されてしまったのかもしれないわね、、、。」

「どうかなさいましたか?」

シルエラのつぶやきはアルトとセレナードに届くことはなかった。

「何でもないわ。さぁ、アルトもう寝る時間よ。お部屋に戻りなさい。」

「はい。あっ、母上。」

「なあに?」

「今度、人を甘やかす方法を教えてください!」

「いいわよ。また、今度ね。」

「はい!では、おやすみなさい。」

そういって、アルトは部屋を出ていった。


「それにしても、ずるいですわ。わたくしだけローズマリーちゃんに会えていないなんて。」

「仕方がないだろう。シルエラは今日、執務があったんだから。」

「ヴェルデには会えましたけど、ヴェルデったら娘馬鹿が加速していませんこと?」

「まぁ、、、。否定はしないな。」

「でしょう?はぁ、、、。わたくしもはやく会いたいですわ。」

「そのことなんだけどね、シルエラ。」

「どうしたの、セレン、、、!?どうして、、、そんなに目をぎらつかせていますの?」

「いやぁ、、、ね。最近、アルトや、ピアン、カメリアにしか構っていないなぁって。それに、変なことばっかり教えているみたいだからね。」

「そ、そんなことありませんわよ!?、、、これからきっと役に立つかもしれませんわ。、、、!だから、、、じりじりと近寄って来るのをやめてくださいまし!!」

「うーん、、、いやだね。詳しいことは全部あっちで聞くから、いまは大人しくしててね。今夜は僕に沢山構って?」

「、、、、、。ちょっと、、、ま、、、ッ!」


この後シルエラに何があったかはご想像にお任せするが、次の日、セレナードはどこか満足気だったとここに残しておく。


そして、ローズマリーは知らない。アルトの性格が原作とは変わったことに、周りの環境が原作の乙女ゲームと変わっていることに気づかない。

だが、時間はおかまいなしに進み続ける。もう、巻き戻せないのだ。



「あれ?アルティーオ殿下ってあんなに笑う方だったかしら?原作ではもっと無表情であまり笑われない方だった気がするのだけれど。」



episode10

【王宮のお茶会~出発編~】


さて、先日のお茶会から、約1ヶ月がたち現在は8月です。夏の暑さが際立ちます。ヴェルト王国は日本のように四季がはっきりと分かれており、他国よりも比較的過ごしやすい国です。そして今の私は、殿下から婚約者として任命?指名?されました。はぁ、、、、。これからどうなるのやら、、、。でも、大丈夫。私には今までやってきた対策と、原作のローズマリーにはいなかった心からのお友達、それに契約した精霊がいるのだから。孤独ではないわ!

気を取り直して、次のことを考えましょう。

今、私は再来週に控えている王宮で行われるお茶会の準備をしています。準備とは言っても、お茶会に着ていくワンピースの採寸や、当日参加する方たちの名簿を確認するなどなど、、、。

結構やることは多いのです。ワンピースの採寸についてはアリスとなぜかフランが張り切っています。

フランは私が殿下とお茶会をした日に契約しました。

木の大精霊から派生した花の精霊だそうです。フランも精霊王に聴いた日から私のことを知っていたようです。

フランは流行に詳しくかわいいものが好きということもあって、アリスと意気投合して時々座談会をやっているのだとか。

そんなこんなで二人は私のサイズで作られたトルソーの前であーでもないこーでもないとずっと意見の交換中。

「夏ですもの、涼しいカラーにしましょう。」

『それがいいわ!それにマリーは寒色系が似合うものね!そしたらこっちのマリンブルーがいいんじゃないかしら?』

「そうですねぇ、、、。私的にはもう少し淡いほうがいいと思いますわ。」

『だったら、薄い布でパニエを作って、グラデーションを造ったらどう?足元に行くにつれて深い青にするの。』

「それはいい考えですわね!美しい海の青が出来そうですわ!」

という感じでかれこれ1,2時間ぐらい話し込んでいる。

はぁ、、、。私は着るだけだからいいけど、こんなにも張り切られると、、、。


そんな私は椅子に座って、アイスティーを飲みながら、本を読んで時間をつぶしている。ちなみに本の内容は妖精についてである。

「絶対にまだ終わらないわね、、、。」

『フランというか花の精霊は拘りの強い子が多いから、まだまだ時間はかかるでしょうね。』

『アリスちゃんもフランもとーっても張り切ってるもんねぇ。私は見てて疲れるなぁ。』

「アリスは相変わらずだからあきらめた方がいいわ。」

ルーチェは呆れたように、アルベロは退屈そうにしていた。

そういう私も本を読んでるだけだから若干飽きてきた、、、。

「アリス、私疲れたから夕食前まで仮眠をとるわ。時間になったら起こして頂戴。アルベロとルーチェも寝ましょう?」

『いいわね。そうするわ。』

『私もそうする~』

「かしこまりました。お時間になったらお呼びいたしますね。」


そういって、私達は自分の部屋に戻って、仮眠をとった。

あとから聞いた話だと、アリスたちの意見交換は私を起こしに来るまで続いたらしい。


ここからまた時は過ぎて、お茶会の日がやってきた。

朝早くから準備が進められ、出発する時間になった。本日はお兄様と私が出席することになっている。

なので、お揃いの服での出席だ。

ワンピースに着替えて、ヘアセットも終わった私は応接室でお兄様と出発の時間まで待機している。

本日のお兄様はマリンブルーのベストにパールホワイトのジャケット、家紋が入ったループタイをつけてジャケットと同じデザインと色のショートパンツをはいている。黒のローファーと紺色のソックスも履いている。髪の毛も一部が後ろで固められている。はっきり言って美少年感がやばいです、、、。流石攻略対象の中でアルティーオ殿下に次ぐ人気を誇るお兄様、、、。

数多の令嬢から向けられる好意に耐えられるかな?まぁお兄様のコミュニケーション能力ならば大丈夫だと思うが。

ここで言っておくと、私の婚約が決まった数日後にお兄様とスノウ様の婚約も決まった。発表のパーティーはお兄様の誕生日パーティーと合わせて盛大に行われる。

絶対に私が二人をくっつけて、バッドなエンドにはさせない!

、、、話を戻しましょう。私の格好はマリンブルーの生地に金糸で刺繍がされパニエはふんわりと広がり何枚も生地が重ねられている。先日フランとアリスが話していた工夫の方も取り入れてある。そしてホワイトのボレロには家紋が入ったリボンのブローチがついている。ヒールの高くないパンプスとレース生地のソックスも履いて、髪の毛も後ろで編み込んでハーフアップに。今回の服装もいい感じに仕上がった。アリスもフランも満足そうである。


「ライト様、お嬢様、御者と馬車の準備が整いました。予定通り出発いたしましょう。」

「ああ、わかった。行こうか、ローズ。」

私がスノウ様とのお茶会や殿下とのお茶会をしている間にお兄様はとても変わった。

勿論いい意味で。お兄様にとって勉学やマナー、貴族社会での生き方、剣術に魔法、、、。たくさん詰め込まれる教養はお兄様を、将来スティリス家の立派な当主にするための材料でしかない。

「はい、お兄様。」

私はお兄様にエスコートされ馬車に乗った。あわわ、、、!女性の扱い方に磨きがかかっている、、、!流石紳士代表、、、、、。動きが自然すぎる!

馬車に乗り込んでからは、そんなことばかりを考えていた。

王城まで、約3時間ほど。お兄様は、専属執事のリストを、私は専属メイドのアリスを連れて向かう。

話は少し飛ぶが、貴族は見栄っ張りな人が多い。メイドや執事を多く連れて自分の権力を示したがりたいのだ。

伯爵から以上になると使用人の数は多くなる傾向にある。少ないと屋敷の家事が回らないからだ。

また、伯爵以上になると権力も地位も大きくなる。だから使用人も多く雇えるというのもあるだろう。

で、話を戻すと、今日のお茶会でも執事やメイドを多く連れてくる貴族は多いはず、というのが私の予想だ。

それに対して、私たちは各1名ずつ。自分の信頼できるメイドや執事の方がいいのだ。


そんなこんなで2回目の王城。この前の謁見の時と同様王城の門をくぐり、馬車から降りる。

すると、お兄様と私が降りたとたんに周囲から起こるざわめき。

『見て!ライト様よ!今年はご出席なされたのね!』

『本当だわ!あれは、妹のローズマリー様ではなくて?』

『お噂には聞いていましたけれど可愛らしいお方ね。』

『では、あの噂は偽物でしたのね。』

大体は令嬢の声だね。

流石、噂好きの貴族の方たち。私の噂もあればお兄様の噂も。聞こえてくる範囲だけだと、私の方が多いのか、、、。

それもそうか。私は全く外に出ていなかった。それに加えお茶会の出席も両手で数えるくらい、個人的にお茶会をしたのはスノウ様のみ。

姿を見たのは出席したお茶会にいた貴族の方とスノウ様ぐらいか、、、、。

仕方のないことだけどこれが現状なのだから、受け入れるしかない。


「ローズ、大丈夫?」

「何がですか?」

「ローズの噂がそこらであっているだろう?いいものもあれば、悪いものもある。」

「だから、わたくしが気分を悪くしたと思われたのですね?」

「ん~そうなのかな?」

「わたくしは大丈夫ですわ。噂には興味がありませんもの。」

「そっか。ならいいんだよ。」

「行きましょう、お兄様。お兄様はきっと注目の的でございましょうから頑張ってくださいね。」

「あはは。それを言うならローズもなんだけどね。」

ライトはぼそっと言う。でもそのつぶやきはローズマリーには届いていない。

「?どうかなさいましたか?」

「何でもないよ。会場までは僕がエスコートするね。さぁ、お手をどうぞ。」

「ありがとうございます。お任せいたしますね。」

差し出された手を取り、私たちは庭園まで向かった。





場所は変わって王宮庭園。

美しいバラのアーチをくぐり、小道を進んだ先にはこの前の比ではないくらいに大きな庭園が現れた。

「この前のところと違う、、、。」

「ここは来客用の庭園だよ。」

「えっ、、、。」

後ろから声をかけられたかと思えば後ろにはアルティーオ殿下が立っていた。

そして、アルティーオ殿下が現れた瞬間に起こる令嬢たちの歓声。

その歓声に手を振りながらアルティーオ殿下はこっちを見た。

「アルティーオ殿下、、、!ご機嫌麗しゅうございます。本日はご招待ありがとうございます。」

私は慌ててカーテシーをする。

「びっくりさせてしまったようだね。」

「そうだよ、アルト。ローズを怖がらせないでくれるかい?」

呆れたようにいうお兄様。

「おや、ライトもいたんだね。」

「はぁ、、、。アルトはローズしか見えないのかな?」

「まさか!ちゃんと見えてたよ?ただ、ローズマリー嬢に目が行ってしまってね。」

「、、、、。」

「わかったから、そんなに睨まないでくれるかい?ローズマリー嬢にその顔を見せるのかい?」

お兄様、どんな顔をしているんだろう、、、。

「ローズマリー嬢。今日は来てくれてありがとう。ゆっくりと過ごしていってね。」

「お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」

「うん。さて、ここで立ち止まってもいけないから、向こうに行こうか。スノウ嬢たちが待ってるよ。」

「スノウ様が!わかりました!」

スノウ様が来ていると聞いて、私はとてもうれしくなった。

進みながら私は今日どんな話をしようか考えていたため、後ろにいたお兄様と殿下の会話も耳に入らない。

「、、、、。」

「アルト、そんな顔をしないでくれる?ローズが怖がってしまう。」

「おや、失敬。」

「僕は、まだアルトを認めてないよ。アルトがローズを幸せにしてくれないって判断した瞬間僕は婚約破棄を父上に言うから。」

「おぉ怖い、安心しなよ。僕はローズマリー嬢を手放す気はないからね。それに、ローズマリー嬢を放っておいたら後が危なさそうだし。」

「それは、言えてるな。ローズは頑張りすぎるところがある。父上も母上も心配していた。」

「だから、僕が傍で支えるんだよ。個人的にもローズマリー嬢のことは気に入っているんだ。」

「、、、、。アルトは鈍感なのか?」

「えっ、急に馬鹿にしてきたけどどうかした?」

「いや、、、。アルトもそんな顔するんだなぁって。」

「どんな顔?」

「無自覚か、、、、。これは前途多難だな、、、」

「ほんとどうしたの?」

「何でもない。、、、、僕が自覚させないといけないやつか、、、。」

「どうしたのかは知らないけど、今後ともよろしくね、お義兄様?」

「お義兄様なんて、アルトには言われたくないけど、、、。」

「えぇ~?じゃあ僕のこと呼んでもいいよ?それに結局呼ぶ運命にあるよ?」

「それこそ悪寒が走るんだけど。」

「わがままだねぇ。まぁそんなことは置いておいて、今日はね将来優秀になりえるだろう令息を集めてみたんだ。」

「ふうん?それで?」

「しかも、その令息たちは今日スノウ嬢がローズマリー嬢の為に集めた令嬢の婚約者達でもある。」

「へぇ、、、。すごい偶然。」

「そのまま結婚してくれたら、この国はとても治めやすくなる。だって、その令嬢令息達は優秀だからね。」

「まぁ、僕のお眼鏡にかなえばの話だけど。」

「大丈夫さ。きっとライトも気に入るよ。というか、凄く慎重だね?」

「当り前だろう。もしローズが王妃になった時、僕とアルトが信頼できる者の方がいいだろう。」

「ライトらしいね。」

「言ってろ。僕は何があってもローズの兄なのだから。」

「それもそうだ。あっ、ライトはスノウ嬢と何か進展あった?」

「、、、、。」

「なんで黙るの?ねえねぇ、ライトってばぁ~」

「やかましい、、、。」

「耳赤いってことは照れてるんだぁ!ライトにも春がやってきたね!」

「うるさい!早くいくよ!ローズを一人にしたくない。」

「わかってるって~。」


こうしてはじまったお茶会。一体どんなことが起きるのだろうか。




episode11

【王宮のお茶会part2】


アルトとライトが後ろで話しながら歩いているころ、ローズマリーは一足先にスノウたちのところへたどり着いていた。

スノウは、一つの小道の前にいた。小道の先には白亜の東屋の屋根が見える。

「ローズ様!こちらですわ!」

「スノウ様!この間ぶりですわね!お元気でしたか?」

「はい。もちろんですわ。ローズ様もお元気でしたか?」

「わたくしも元気でしたわ。」

「良かったです。では、こちらに。」

「まって、ローズ。」

スノウが案内しようとすると声がかかった。

ローズマリーが振り向くと、アルトとライトが立っていた。

「お兄様。」

「追いついてよかった。ローズはスノウ嬢たちと一緒にいるっていうことでいいんだよね?」

「はい。」

「わかった。僕たちはこっちの東屋にいるから何かあったらアリスに伝えてね。」

「わかりました。」

「頼んだよ、アリス。」

「お任せください。皆様のことはわたくしがお守りいたします。」

実はアリスは気配を消してローズマリーの後ろをついてきていた。

存在がなさそうに見えて、アリスはローズマリーの護衛を何度もしているのだ。

リストも同様である。彼らはジュディ一族の子供。主人を守るためならたとえ火の中、水の中、魔獣の群れの中なのだ。

「アリスは、令嬢の方々をお願いします。わたしはお坊ちゃま達をお守りいたしますので。」

「はい、お兄様。こちらはお任せを。」

「では、行きましょう。」

「はい。」

スノウに連れられて、一行は二手に分かれていった。


「こちらですわ。」

「ありがとうございます。」

小道を抜け、小さな広場に出ると、東屋が見えた。

東屋にはガーデンチェアが五席と大きなガーデンテーブルがあり、テーブルの上にはアフタヌーンティーセットがおいてある。

周りには王宮メイドが控えており、いつでも紅茶とスイーツの供給が出来るようにしてある徹底ぶり。

そして、ガーデンチェアの中で3席は令嬢たちが座っていた。

「お待たせいたしました。ローズマリー様、この方々が先日ご紹介すると言っていた方々です。」

「そうなのですね。ローズマリー・スティリスと申します。本日はありがとうございます。」

ローズマリーはカーテシーをする。

すると、ガーデンチェアに座っていた令嬢たちが一斉に立ち上がり、慌てだした。ちょっと一人違う反応の令嬢もいるが、、、。

「あわわ、、、!スティリス侯爵家の方がわたくしたちに先に頭を下げてはいけませんよ~!。」

「そうだよ!まずは私たちが挨拶をしなきゃいけないのに!」

「ローズマリー様のことについて聴いてはいましたけど~とっても可愛らしい方ですわ~!」

「、、、。皆様、ローズマリー様に挨拶をなさってください。」

ライトブラウンの髪とオレンジの瞳を持った令嬢は慌てたように言う。

「すっかり忘れていましたわ!、、、わたくしはレイノーヴァ辺境伯爵家のエリス・レイノーヴァと申します。」

エリスの隣にいるのはシャンパンゴールドの髪にピンクルビーのような瞳を持っており、いかにも天真爛漫という感じの令嬢だ。

「エリスってば忘れてたの~?うっかりさんだね!私はティールズ伯爵家のレイチェル・ティールズって言います!」

「二人そろって忘れていたんだね~?私は、ミューズレイン伯爵家のリリーフィア・ミューズレインって言います~。よろしくお願いしますね~。」

そんな2人の様子に苦笑しながらいうのは、ブーゲンビリア色の髪とアイオライトのような瞳を持った令嬢だ。

「改めまして、ミラージュ侯爵家のスノウ・ミラージュと申します。」

一斉にカーテシーする。

「よろしくお願いします。」

「では、席についてお茶会をさっそく始めましょう。」

こうして、始まっていくお茶会なのであった。


「本日のお茶会をわたくしたちは完全に会場から離れた東屋で行っています。」

「確かに、会場の声は聞こえてきませんね。」

「今回は、わたくしたちだけで行うということを殿下に直接伝えた結果がこれですのよ」

「どういうことですか?」

「それはね~、スノウ様が殿下に直接言ったら、万全の設備と状態にするって言ったらしいんだ!」

「そうだよ~。殿下はねきっとローズマリー様の為にしたんだよ~。」

「ほかの方が頼んでも、きっとここまではなさらなかったと思います。」

「そうなのですよ。わたくしが頼んだところ、『ローズマリー嬢がいるなら万全の状態にしないとだね。』とおっしゃられて、王宮メイドの方々を付けてくださったのです。東屋自体にも防音魔法がかかっていますから。」

「そこまで、、、。申し訳ない気がしますが、、、、。」

「殿下のご厚意に甘える方が吉ですわ。」

「そう、、、なのでしょうか、、、。」

「そうですよ~。殿下はローズマリー様のことをとってもお考えになっているのだから~」

口々に言われ、縮こまってしまうローズマリー。耳も心なしか赤い。

そんなローズマリーの様子を見てスノウたちはほほえましいものを見るような目線である。


「スノウ様から話は聞いていたけれど本当に守ってあげたくなりますね~。」

「本当にね!学園に入学したらスノウ様とローズマリー様は私たちで守らなきゃ!」

「なぜ、わたくしも入っているのですか、、、。」

「ええ~。自覚なしなの~?この中で二人が一番危ないんだよ~?」

「どういうことですか?」

「あれ?ライト様から聞いてない?二人は侯爵家の人なんだよ~?だから刺客とかに狙われる可能性もあるってこと!」

「うんうん。学園の方でも対策とかはしてあるんだろうけど、生徒の中にっていうこともあるからね!」

そう、スノウとローズマリーは侯爵家の人間であり、片方は将来優秀になるであろうライトの婚約者であり、もう片方は時期王位継承者の婚約者なのだ。

嫉妬や妬みによって命を狙われることも少なくはない。

「わたくしは大丈夫ですわ!これでも護身術を習っておりますの!」

「それでしたらわたくしもですわ。一応武術は心得ておりますのよ」

自信満々に言う二人。しかし、周囲の反応は微妙といったところだ。

「そういう問題じゃないんだよね、、、。」

「そうですわ!背後からというのもありますもの!」

「それにね~、飲食物に混入しているなんてこともあるんだよ~」

「毒の耐性が必要になるのですね、、、!」

「ローズ様?いったい何をしようとなさっているんですか、、、??」

「少しずつ毒を飲んで耐性を付けようかと思いまして。直接の方がいいでございましょう?」

「いけません!お嬢様!」

ローズマリーの発言に4人の令嬢は驚き目を見開くが、それ以上にアリスも驚いていた。

だから、口をはさんでしまった。

「アリス?どうしたのそんなに大きな声を出して。」

「どうしたもこうしたもありませんわ。お嬢様、毒を食むということはそれなりに身体への影響も出るというリスクがあるのですよ!!」

「そうですわ!身体への影響が出てしまったら、今後にも大きく影響が出てしまいます!」

「どうかお考え直しください。毒を用いた暗殺の成功例はどんどん減少していますわ。なので、心配する必要もないのですよ。」

「そうなの?」

「はい。最近では毒の検知が出来る魔獣を用いたり、あらかじめ万能毒消しを用いることが多くなってきましたから。」

「でも、、、。万が一があるでしょう?」

「いくらお嬢様が沢山の対策などをお考えになり、実行なさっているとしても毒の耐性を付けることに関しましては従者として推奨することはできません。」

「そうね、、、。ごめんなさい。」

「もとはと言えば私が毒のことを言ってしまったことがいけなかったのです。ご迷惑をおかけしましたわ。」

「お気になさらないでください。」

「それにしても、アリスさんは暗殺のことに関して詳しいのですね?」

「えっ。まぁ、、、。」

エリスから急に話を振られたアリスは少し動揺する。

「アリスは、ジュディ一族の出なのですよ。」

「ジュディ一族と言えば、代々スティリス家に仕えている一族ですわね。」

「それ知ってる~!確か、スティリス家以外に仕えたことないんでしょ!」

「そうなのですか?わたくしったら全然知らなくて、、、。」

「お嬢様は外にあまり出られませんからね。我が一族のこともお耳に挟まれることもないですから。」

「教えてくれても良かったのではなくて?」

「いいではありませんか。それがきっとアリスさんにとって一番最適でしょうから。」

「どういうことですか?スノウ様。」

「我が一族は戦闘能力が高く、それを生かして自身の主をお守りすることを生業としております。ほかにもするべきことはありますが、、、。大体が暗殺などですので、、、。」

「黒い部分もあるということ?」

「はい。、、、人を殺めることはいけません。ですが、法律に則り私たちの所業は一部を認めていただいています。なので、、、血濡れた歴史もあるのです。それをまだ幼いあなた様にお教えすることはけしてできないのです。申し訳ありません。」

「そう、、、。でもいつかわたくしはそれを知る時が来るのでしょう。だから、その時にすべてを聞かせて頂戴ね。」

「、、、はい。」

「お話は終わられましたか?湿っぽくてはいけませんわ。何か、楽しい話題を出しましょう!」

「スノウ様、、、。そうですね。」

「ふふん!話題に関しては私にお任せを!」

「レイ、、、。貴方、変な話題を出したら許しませんわよ?」

「エリスってば心配性ねぇ。レイの話題選びは意外と間違いないからぁ。」

「意外って何!?二人ともひどいよぉ!」

「、、、仲が良いのですね。」

「3人は幼馴染なのですよ。お互い家の領地が近いのですって。」

「エリス様は辺境伯爵家でしたね。」

「はい。わたくしの家は辺境の地を領地にしています。何かあったときはレイノーヴァ家が対処することもありますので、その時に二人とは知り合ったのです。」

「なるほど、、、。ということはエリス様は剣術などを心得ていらっしゃるのですか?」

「そうですね。わたくしの家の領地は魔獣の森と隣接しておりますから。それなりに戦えませんと。」

補足だがレイノーヴァ辺境伯は、魔獣の森という魔獣が生息している森が隣接しており、時折魔獣が流れてくることもある。強さや大きさはまちまちだが、対処はレイノーヴァ家が一任している。

辺境伯爵の地位は侯爵家よりも若干劣るがほぼ同等の地位を持っている。

「ねぇ、、、。私のこと忘れてない?」

「あっごめんなさい!」

「いいですよ!話題はずばり!『自分の婚約者について!』です!」

「えっ?」

「、、、やっぱりろくでもなかった、、、、。」

「ろくでもないはひどい!いいじゃないですか!お互い婚約者はいるのだから!」

「こうなった、レイは止められないわね、、、。スノウ様、ローズマリー様腹をくくってください。」

「仕方がないですね、、、。」




さて、始まったお互いの婚約者についての話。つまりは恋バナというものだろう。

「まずは、お相手のことについてですね。わたしから順番に言っていきましょう。」

先手をきるのはエリスである。

「わたくしのお相手は、、、。ピアンフォード・ヴェルト様ですわ。」

「ピアンフォード殿下と言えば第二王子殿下ですね。」

ピンフォードはヴェルト王国の第二王子である。ちなみに、ローズマリーたちとは同い年にあたり、攻略対象の一人でもある。

「ピアンフォード殿下は、あまり表舞台には姿を現しになりませんよね?」

「はい。婚約者としては出ていただきたいですが、無理強いすることもできず、、、。」

「カメリア王女殿下が双子の妹でしたわね。」

「ふんふん。エリスは、ピアンフォード殿下の事どう思っているの?」

どう思っているのかを聞かれ、動揺するエリス。

「その、、、。わたくしにとってピアンフォード殿下はお守りしなければいけない存在です。」

「恋愛的には?」

「、、、。あまりピアンフォード殿下のことは存じ上げないのです。わたくしが婚約者に選ばれたのはきっとわたくしが剣術に秀でているからです。」

「それは、、、。」

「いいえ。きっと本当のことですから。」

「殿下自身はどう思っているのかしらねぇ?」

「わからないわ。聞くのですら恐れ多いのだもの。」

「今年のお茶会には出席なさっているの?」

「一応。しかし、アルティーオ様の傍にいることを条件としてますが。」

「会ったの?」

「ええ。この前会った時とお変わりないようで安心しましたわ。」

「そうなんだね~。エリスにはこれ以上の進展はないかぁ、、、。」

「何を期待していたのかは聞かないけど、変なこと考えるのはやめくださいね。」

「当り前だよ~私だってそれくらいの常識は心得ているんだから~。」


「じゃあ、次は私だね!」

二番手はレイチェルだ。

「私の婚約者は、ビリジオ・ノイトーン様だよ!」

「ビリジオ様は、レイと同じ伯爵家の方ですね。」

「あれ?ローズマリー様知ってるの?」

「今日出席される貴族の方々は一応把握しておりますので。」

「わお。流石だねぇ。」

「ビリジオ様の家は交易を主に担当しておられますからね。お父上は貿易部門の大臣をなさっていらっしゃるのです。ビリジオ様自身もそのお手伝いをされていると聞きましたわ。」

ビリジオの家は貿易の仕事を生業としており、その手腕において右に出るものはいないという。巧みな話術と処世術、それらすべては一級品なのだ。

「お姿は先ほど拝見しましたけれど、物静かそうな方でしたね。」

「そうだね~。ビリジオ様まじめな方だから!」

「レイはどう思っていますの?」

「ん?、、、私は好きだよ。もちろん恋愛の意味でね!」

「へぇ、意外だねぇ。」

「そうかなぁ?ビリジオ様の横顔とか好きだよ?」

「内面はどう思っていますの?」

「優しいよ。こんなに礼儀がなっていないような私に優しくしてくれるの。周囲に気を配るのも得意だし。」

そう語るレイチェルの顔は本気でビリジオに恋をしているような顔だった。実際、恋をしてるのだが。


「んふふ。レイも、エリスもこれから頑張ってほしいわぁ。次は私ね。」

三番手はリリーフィアが話すようだ。

「私の婚約者はね、シルヴィス・リオレイヴ様よ~」

「侯爵家の方ですね。わたくしも何度かお会いしたことがあります。」

「確か、お父上は王宮の料理人で王族の方々の専属料理人をしていらっしゃいますよね。」

「そうよ~。シル君はお料理がとっても上手なの。ここに並んでいるスイーツはシル君が作ったものなのよ~」

リオレイヴ家は代々王家専属の料理人で、立派な料理人を輩出している家でもある。何年も前から王族の料理人をしており、きっとシルヴィスも王家専属の料理人になるだろう。

「確かに、このスイーツはおいしいですね。」

「それと、リリーはシルヴィス様と幼馴染なのですよ。」

「お父様とお母様がシル君の両親と仲が良くてね、よく遊んでいるのよ~。婚約者になるのも自然なことだったわ~」

「リオレイヴ家と言えば、夫人は東洋の方出身でしたね。」

「確か、、、。サンライズ王国という東の国よ~。」

サンライズ王国とは、周りの文化とは大きく異なった文化を持っている国で独自の製法や技術を用いた特産品でとても有名だ。

調味料や衣服などサンライズ王国特有のものがヴェルト王国にも流通している。

ここまで来たらわかると思うが、サンライズ王国は日本と似た国である。

「シル君はね、サンライズ王国特有の黒い瞳を持っているのよ。それがとてもきれいなの。」

「シルヴィス様のことについて何かほかにないの?」

「シル君はとっても活発な人ね~。気分が落ち込んでいても近くにいるだけで元気が出てくるような人よ~。」

「好きなの?」

「そうね、、、。今はわからないの。隣にいてくれたら確かに落ち着くのだけど、、、。これが恋情かはわからないわ~」


「そこまで、進んでいるだけでもいいではないですか、、、。」

「次はスノウ様だけどどうしたの?」

「わたくしの婚約者は、ローズ様のお兄様であるライト・スティリス様ですわ。」

「ああ、あの紳士代表って言われてる方だね。」

「お兄様にそんな2つ名が、、、!」

「流石、次期宰相と言われるだけはあるよね~。」

「もう、何人もの令嬢からアタックを受けているそうですわ。」

「えっ、、、、。そうなのですか、、、。」

エリスの言葉に落ち込むスノウ。

「あわわ、そんなに落ち込まないでくださいませ!すべてお断りなさっているそうですから。」

「それは、、、、。わたくしという婚約者がいるからでしょう、、、。きっと、わたくしよりもいい令嬢の方はいますわ、、、。」

「スノウ様、それは違いますわ。」

「ローズ様?」

「お兄様は、自分の気持ちを貫き通す方ですの。それに、いやだと思ったらすぐに切り離しますからね。だから、スノウ様のこと嫌っていませんわ!むしろ好感度は高いと思いますの!!」

ローズマリーは知っている。ライトはスノウのことが好きだということを。

言葉に出せないのは、自分のせいでスノウが傷つくのが嫌だということを。

でも、ローズマリーはそれを言わない。なぜなら、二人には自分たちの力で幸せになってほしいから。

それなりにアドバイスや結ばれるために行動する気はある。でも、ローズマリー自身が直接伝えることはないのだ。

「そう、、、なのでしょうか?」

「そうですわ!わたくしへの過保護は全開なのに、スノウ様のことになると奥手なのはどうしてなのでしょう、、、。スノウ様がこんなに悩んでるというのに、、、。」

「ふふふ。ローズマリー様ったら応援する気満々なのね。」

「そうですわ!お兄様とスノウ様にはぜひ、幸せになってほしいですもの。絶対に、二人をくっつけて見せますわ!!

これも、お兄様とスノウ様のためなのです!!」

「ありがとうございます。ローズ様。」


「さぁ、最後はローズマリー様ですよ。」

「わたくしは、、、、。」

「婚約者の方はもちろん存じ上げておりますわよ。アルティーオ・ヴェルト殿下でしょう?」

「、、、はい。」

「どう思っていますの?」

「わたくし、、、アルティーオ様にはご自分の本当に好いた方と結ばれてほしいのです。」

「どういうことですの?」

「わたくしは、きっと侯爵家という地位と権力があったからこそ選ばれたのだと思います。」

「そんなことって、、、。」

「でも、証拠がないですわ!」

「確かにありませんわ。でも、後ろ盾はあった方がよろしいでしょう?」

「それは、、、!」

「ローズ様、わたくし思いますの。」

「スノウ様?」

「ローズ様こそ、なぜ、自分の幸せを願いませんの?」

「え?」

スノウは思った。なぜ、ローズマリーは自分のことを考えずに周りのことばかりを気にするのか。

「ローズ様、よく聞いて下さいね。アルティーオ殿下はローズ様のことを地位や権力なんかで選んだわけではないと思いますわ。」

「なぜ、、、そう思いますの?」

「わたくしが、ローズ様と今回のお茶会をすると伝えた時、殿下の顔はわたくしに嫉妬するかのような顔でしたわ。あのような顔、初めて見ましたの。まぁ、本人は無自覚でしょうけれど。」

「でも、、、。」

「そうだよ!殿下はきっとローズ様の事そんな理由で選ばないと思うよ?」

「うんうん、私も見ましたから~。スノウ様が殿下に今回のセッティングをお願いしに行った時の顔。」

「ローズマリー様の名前が出た瞬間に表情変わりましたものね。」

「だから、ローズ様。自信をお持ちなってくださいませ。」

「、、、。励ましてくださってありがとうございます。ですが、わたくしは失礼ながらも殿下のお気持ちは一時的なものだと思っていますの。今から、わたくし気持ちで縛ることなんてできませんわ。」

「ローズ様、、、。」

「スノウ様、わたくし決めましたのよ。もし、殿下の本当に好いた方が現れたらこの婚約者の座をお渡ししようって。」

「そんな、、、!それはいくら何でも!」

ローズマリーの言葉に大きく動揺する4人。後ろのアリスも少し目を見開く。アリスも、前々から話は聞いていたとはいえ、ここまでするとは思っていなかったのだから。

アリスは、ローズマリーは婚約破棄されないように頑張るのだと思っていた。だから今のローズマリーの婚約破棄をされたら受け入れるというような発言に驚きを隠せなかった。しかし、主の前で醜態をさらすのはご法度。気合で乗り切った。

「いいのです。これからの人生は長く、沢山の方とのご交流もあるでしょう。その中できっと気持ちが移ろう時が来ます。わたくしはその時が来たら受け入れようというだけの話です。」

「もし、本当に婚約破棄されてしまったらどうするというのです?」

「その時は、、、。屋敷で自分の好きなことをしながら終生を迎えるつもりですわ。婚期を逃せばわたくしと結婚したいだなんて思う殿方もおられないでしょう。」

「、、、。」

「なぜ、そんな顔をなされるのです?自分が好きなことをして一生を終えるというのはとても楽しいと思いますのよ?あっスノウ様、お兄様とご結婚なされてお子様が出来たらわたくしも一緒に遊びますね!」

4人はローズマリーが話せば話すほど痛々しく思えてきた。

「ローズマリー様、もうそこまでにしましょう。」

「?わたくしだけ話過ぎましたね。申し訳ありません。今の話は絶対に殿下とお兄様に行ってはだめですよ?」

「なぜです?」

「お兄様には自分の幸せを考えていてほしいからですわ。それに殿下に今の話をしてしまうと、本当にしばりつけてしまいますから。」

「わかりました。」

「エリス!?、、、いいの?」

レイチェルが目を見開き言う。

「それがローズマリー様の気持ちなのでしょう?でしたらそのお気持ちをわたくしたちはくまなければいけませんから。」

「ありがとうございます。」

「ですがローズ様、約束してくださいまし。もし本当に話す必要があるとわたくしが判断した場合、殿下には直接お伝えします。」

「、、、わかりましたわ。」

「、、、、。話題を変えよう!」

「そうですね~。」

「ごめんなさい。わたくしがしんみりさせてしまいましたわ。」

「いいえ。気にしていませんから!」

「あっ!思ったんだけど、スノウ様だけローズマリー様の事愛称で呼んでるよね?」

「はい。初めてローズ様とお茶会をした日に呼んでいいと許可をいただきましたから。」

「そうなのね~。図々しいのはわかってるけど、私たちも愛称で呼びたいわ~」

「いいですよ!その代わり、わたくしも皆さまのことを愛称で呼びたいです!」

「では、ローズ様とお呼びいたしますね。」

「エリス様のことはそのままエリス様お呼びしますね。」

「はい。」

「じゃあ、私のことはレイって呼んでください!よろしくお願いします!ローズ様!」

「はい。よろしくお願いします。レイ様。」

「私のことはリリーって呼んでくれると嬉しいわ~。よろしくね?ローズ様?」

「わかりました!リリー様」

「なんだかとてもうれしい!これで、私達お友達ですね!」

「!お友達!はい!わたくしたちはお友達ですね!」

「お友達なら、もう少し砕けたしゃべり方で良いのだけれど~?」

「善処しますね。」


「ローズ様、お友達が増えたようでわたくし嬉しいですわ。」

「ありがとうございます!スノウ様!」


あたりは和やかな雰囲気に包まれた。


「ローズ?そっちは終わった~?」

そんな雰囲気の中に声をかける人がいた。

「お兄様!アルティーオ殿下も、、、!」

「あれ?僕が後回し?」

「えっあっ。そう意味ではないのですけれど。」

現れたのは、後ろに何人か連れ立ったアルトとライトだった。

「終わったようですね。迷惑はかけていませんか?レイ。」

「ビジー様!、、迷惑なんてかけていませんよぉ」

「エリスさん、、、。お迎えに来ましたよ、、、。」

「ピアンフォード殿下、、、!!ご足労ありがとうございます。」

「リリー!迎えに来たぞ~!」

「シル君!来てくれてありがとう~!この後お屋敷行ってもいいかしら?お話したいこと沢山あるのよ~!」

「もちろんだとも。ぜひ、来てくれ!」

それぞれの婚約者が現れ、それぞれが婚約者の元へ嬉しそうに向かっていく。

「スノウ嬢、ローズがお世話になったようで。ありがとうございます。」

「いえいえ、そんなこと。わたくしも楽しませていただきましたから。」

そんな中で、少しぎこちないのはスノウとライトだ。

「ローズマリー嬢、今回のお茶会は楽しかったかな?」

「はい、とても。セッティングなどは殿下がなさったとお聞きしました。ありがとうございます。」

「気にしないで~。ローズマリー嬢が楽しんでくれたらそれでいいからね~。」

「お気遣いありがとうございました。皆様もとても喜んでいらっしゃいました!」

「うーん。ならいいんだけど~。そういうことじゃあないんだよね~」

最後に言ったアルトの言葉がローズアリーに届くことはなかった。

「?何かおっしゃられましたか?」

「何でもないよ~」

しれっとアピールしてみるもローズマリーは気づかない様子だ。

「まだまだ、だね。アルト」

「うるさい~。僕たちはこれからゆっくりと進めていくんだから~」

「はいはい。さて、ローズ帰ろうか。お茶会はとっくにお開きしているよ。残っているのは僕たちだけだからね。」

「そうだったのですか!?わかりました。それでは皆様わたくしたちはこれにてお暇いたしますわ。ごきげんよう。」

「またね~ローズマリー嬢。ライトも。」


こうして、ローズマリーの学園入学前の一大イベントであるお茶会は終わった。

ここから季節は移ろい、とうとうローズマリーは学園へ入学する年になった。


これから何が起きるのかは誰にもわからない。原作軸を知っているローズマリーでさえも。

なぜなら、物語は大きく回転し、修正が利かないところまで来てしまっているから。そして、物語に飛び込んでくるイレギュラー。

そのイレギュラーはローズマリーにとっていいほうに働くのか悪いほうに働くのかは誰も知らない。知る事も出来ない。

ただ、一つ言うと何が起こるのかを知っているのはそのイレギュラーしかいないのだ。





ある屋敷のサロンで小さい誰かが薄く笑う。その小さい誰かの姿は陰になっていて見えにくい。


【わたしが、絶対に変えてみせるわ。何を使ってでも絶対に。ローズマリー・スティリス、、、。

待っていなさい、、、、、。フフフフ。】


薄く笑う誰かの首にかかっている黄色いペンダントがガラスに反射されキラリと光っていた、、、、。



episode12

【~学園へ入学。初等部ではなにも起こりません~】



さて、わたしローズマリー・スティリスは今日、学園へ入学する。学園の初等部は6年制。

中等部は3年制、高等部は2年制だ。18歳になると就職準備や婚約者がいる人は嫁入り、婿入りの準備を始めるのだ。


そんなこんなで、私は今、学園指定の制服に身を包み学園へ向かう馬車に揺られている。

学園が位置するのは王城の手前のエリア。登校時間も王城へ行く時間とあまり変わらない。

お兄様は先に学園へ登校しており、馬車には私とアリスが乗っている。


「お嬢様、今日から学園生活が始まりますが、対策などは大丈夫ですか?」

「ええ。今までしてきたことをするだけだから大丈夫よ。それにスノウ様たちもいるのだから。」

「はい、、、、。何かあったらわたくしにお伝えくださいね。」

「もちろんよ。それに、初等部でのイベントはそんなにないの。あるなら、社交界デビューかしら?」

「殿下が社交界デビューなされるのはお嬢様が初等部5年生、殿下が6年生の時ですね。」

「その時に、婚約者発表が行われるわ。でも、挨拶して、殿下とダンスをするだけ。私はそうしたら帰るわ。」

「かしこまりました。ドレスのデザイン合わせも今のうちからしておきましょうか?」

「いいえ。1年前くらいからでいいわ。お互いの好みも変わるでしょうから。」

「わかりました。」

「初等部は、中等部、高等部へつなげるための基礎学力、基礎技術を上げる前段階。そこで契約した精霊や妖精と仲を深め、中等部3年にて行われる戦闘実習で今までの実力を出す。それまで大きな波は立てないようにしておくわ。」

「なるほど。中等部からは寮生活になりますが、、、。」

「もちろんアリスを連れて行くわ。よろしく頼むわよ。」

「お任せください。お嬢様が有意義な学園生活を送れるように精進いたしますわ。」

「ふふ、任せたわ。」

ガタンと馬車が止まる音がする。


「ついたみたいね。」

「そのようですね。降りましょう。」

「ええ。」


止まった馬車を降り、私は学園の大きな門をくぐり、これからの生活に不安を抱きながら教室へ向かっていった。




ヴェルト学園には4つのクラスがあり、華クラス、鳥クラス、風クラス、月クラスがある。

華クラスは、使える魔力のエレメントが4つ以上ある者が入れる。エレメントは派生した妖精や精霊のエレメントの数だけある。

鳥クラスは、使える魔力のエレメントが3つある者が入れる。4なら華クラスへ3なら鳥クラスへと分類される。

風クラスは、使える魔力のエレメントが2つある者の中で原初のエレメントを1つを使えるものがはいれる。原初のエレメントとは、火、水、木の3つのことを言う。

月クラスは、使える魔力のエレメントが2つある者の中で原初のエレメントを使えず派生のエレメントを使える者たちが入れるクラスである。

先ほども言った、火、水、木の3つのことを原初のエレメント、その他のエレメントのことを派生のエレメントという。

華クラスには原初のエレメントを全部使うことが出来るというのも条件である。そこに派生のエレメントが加わるのだ。

使えるエレメントは、成長し技術を身に付ける、または精霊と契約することで増える場合がある。

その時、既定の条件と試験をクリアしたら編入することも可能なのだ。

ちなみに私は、原初のエレメントに加え、花、光、氷、風のエレメントが使える。だから、華クラスに分類される。

氷はアルティーオ殿下の精霊に使い方を教わり、風は、ルーチェと一緒に修行して身に付けた。

そして、クラスは上がったとしても下がることはない。つまりは、高等部まで持ち上がりになる。


教室前のドアを開け、中に入る。中に入った時に向けられるこれからのクラスメイトであろう人たちの視線が少し気になったがスルーさせてもらう。すると、教室の後ろに見知ったグループを見つける。


「スノウ様、レイ様、リリー様!3人とも華クラスだったのですね!」

「ローズ様!同じクラスになれて嬉しいですわ!」

「本当だよ~!あっエリスはもう少しで来るよ~!」

「これから11年間よろしくお願いしますね~」

「よろしくお願いいたします。それにしても3人とも制服とてもお似合いですわ!」

「ありがとうございます。ローズ様もとてもお似合いですわ!」

「初等部でしか身に付けないものね~。大切にしなきゃだわ。」

「そっか~中等部は普通に私服だもんね~」

初等部でしか身に付けない制服は、女子はワンピース型でホワイトのカッターシャツにブラックのワンピースを着る。そしてクラス特有のリボンを付けることになっている。

男子はホワイトのカッターシャツにブラックの短パンをはき、クラス特有のネクタイを付けることになっている。

華クラスのリボンには、持っているエレメントの色で花びらの形にカットされた宝石を付ける。

「遅くなりました。おはようございます。皆様」

「遅いよ!エリス~!」

「遅刻しなくてよかったわね~。」

リリー様がそういうのと同時に教室の扉が開き、教官が入ってくる。

「席につけ―。入学式について説明するぞー。」

席に着く。私の席は前から2番目の左側の席だ。私たちの担任は気怠そうな男性教官のようだった。この後私たちは教官から入学式について説明を受け、大講堂へ移動した。



『本日は、ご入学誠におめでとうございます。我が学園で将来の優秀な人材育成をモットーに_____。』

初等部学長の話を聴き、スノウ様の新入生代表挨拶を聴き、6年生からの激励の言葉を聴き、入学式は終了した。それから私たちは教室へ戻り、教官から説明を受ける。


「明日には、初等部内の学園案内がある。そして、来週には自分の精霊や妖精との契約の実習がある。精妖の森に行くから準備しとけよー。」

実習という言葉にざわめく教室内。

「静かにしろー。どの精霊や妖精と契約するかは各々で決めておけよー。それと、もう契約をしている生徒は見学だからなー。」

えっ?私見学ですか?なんか教官がこっちを見てる、、、。

「はい最後にー、この華クラスには複数の精霊と契約している人もいるみたいなのでコツとか聞いとけよー。以上だー。解散。」

ちょっと!?私を見ながらそんなこと言わないでほしいんですけど!?

そんなことを思っている間に教官が解散といったことにより、今日の入学式は終わったのだ。

このあと、私が複数の精霊と契約していると勘づいた生徒に質問攻めにあったのはここだけの話だ。



さぁさぁ、時は過ぎていきとうとう実習の日になった。

ちなみに入学式の次の日からの授業にもついていけているので問題はない。


さて華クラス一行は学園から馬車に乗って約2時間のところにある精妖の森に向かった。

精妖の森とは精霊と妖精が多く生息している森のことで毎年入学した一年生たちがここで実習を行う。まぁ私はもう契約してしまっているので見学だが、、、。


「よーし、全員いるなー。今回は契約するだけだがこれからは訓練も入ってくる。覚悟しとけよー。」

訓練という言葉にざわめく生徒たち。

「なんで、訓練まで、、、。」

「仕方がありませんわ。学園は社交を学ぶ場でもあり、将来を有利にするための場でもありますから。」

文句を言うリリー様を諭す。

「静かにー。さて、契約実習の前にまずは契約している生徒のお手本を見せてもらおう。」

だから、なんでこっち見るの!?

「ローズマリー嬢お願いできるか?」

拒否権なんてないくせに!でも、ここは平静を保たなければ。

「わかりました。では少し離れてください。」

そういって私の周りに座っていた生徒を少し話す。

「一つ言っておくと、私は語り掛けをしませんので悪しからず。___いきますよ。」

『おいで、ルーチェ、アルベロ』

虚空に話しかけ、名前を呼ぶ。すると、黄色と緑の光が私の前に現れる。

本当は語り掛けをしなくてもいいのだが、雰囲気作りだ。


『お呼びかしら~?』

『呼ばれてやってきたよ~!』


「これでいいですか?」

わたしが呼び出したときに起こる驚愕の声。きっと私が呼び出せるはずなんてないと思ったのだろう。わたしに聴いてきた生徒と、知っている人たち以外は。仕方がない。

「ああ。ありがとう。戻していいぞ」

『せっかく呼び出されたんだから、最後までいるわ~』

『うんうん!最後までいなきゃだよ!』

「わかった。、、、じゃあ、それぞれ散らばってそれぞれ契約してこい。あまり遠くには行くなよー。何かあったら近くにいる教官を頼れー。

制限時間は1時間30分。それまでに出来なかったら課題があるからなー。」

課題という言葉を聴いて一斉に散らばっていった。


残されたのは、私とルーチェ、アルベロそして教官だ。

なのできいてみたかったことを 聞くことにした。

「教官、なぜ昨日から私ばかり見たりしてくるんですか?さっきも私を指名して、、、。」

「あー?そんなのアルティーオ殿下とライトに頼まれたからに決まってるだろー」

「え?どういうことですか?」

「答えのまんまだよ。『ローズマリー嬢は外に出ていなかったし、何もしていないと思われているに違いないから、実力を見せつけてやれ』と。」

「なぜ、、、。」

「そんなん、なめられるからだろ。それを阻止するために言ったんだよ。」

「そうだったのですね。あれ、お兄様と殿下を知っているのですか?」

「当り前だ。俺はこれでも公爵家の人間だぞ?」

「え!?」

「はぁ、、、。俺の名前聴いてなかったか?一応言っておくと俺の名前はクロノ・ヴェレリチアだ。」

ヴェレリチアって、、、。殿下の従兄弟にあたる貴族では、、、!?

「公爵家の方とは知らず、、、!申し訳ありません!」

あわててカーテシーをする。

「あーやめてくれ。そんな大層なものでもない。普通道理にしてくれ。」

「、、、わかりました。」

「ああ、それでい。」


こうして、なぞは解けたのであった。

そして、1時間半後、、、、。華クラス全員が精霊もしくは妖精と契約して戻ってきたのだった。

スノウ様は、氷の上位精霊と

エリス様は、風の上位精霊と

リリー様は、花の妖精と

レイ様は、光の妖精と契約してきた。

皆さん凄い!あっちなみにアルベロとルーチェはお散歩に行きました!!


この後学園に戻り、終礼をうけ、そのまま屋敷へと戻ったのであった。



初等部では比較的穏やかに過ごしていくことが出来た。ヒロインらしき人も見かけず私達はとうとう初等部最終学年の一歩手前、5年生へ進級した。

授業の内容や実習の内容は私が対策としてやっていたことをそのまま応用もしくは発展させるだけで事足りた。

中等部から始まる薬学、戦闘実習などは難易度も危険度も上がってくるが、対策を生かすときだという考えに切り替え、張り切っていこうと思う。

しかし、そんな私でもやはりコミュニケーションが苦手である。愛想笑いとつくろった性格、態度、、、。スノウ様やリリー様エリス様にレイ様とは勿論仲良くできる。だけど、他の令嬢や令息となるとどうしてもくだらない矜持とプライドが邪魔して本音を言うことが出来ない。

相談してみるも、『ローズ様はそのままでいいのですよ。』と諭され、根本的な解決には至らなかった。前世でもコミュ力は低いことがコンプレックスだった。結局それが治ることもなく転生してしまったが、、、。

アルティ―オ殿下とはどうなのかって?アルティーオ殿下は変わらず学園の人気者である。殿下が歩けば令嬢は歓声を上げる。殿下が微笑めば何人もの令嬢が倒れかける、、、。流石の一言に尽きる、、、。そんな殿下にはきっとヒロインのような明るくて愛嬌のある人がお似合いなのかもしれない、、、、。

ヒロインと殿下が仲良くしているのを考えると心がチクリとするのはどうしてなのかしら?

わたしは殿下が幸せになってくれればいいのに。わざわざ私を選ばなくても良かったでしょうに、、、。ざわざわする心を押さえて私は、今日殿下の社交界デビューと婚約者発表を行うパーティーに出かけていくのだ。



今私は王城のゲストルームでドレスの着付けをされている。


「お嬢様、コルセットはきつくありませんか?」

「ええ。大丈夫。」

ドレスの着付けは着々と進み、メイクアップ、ヘアメイクもされている。

一年前から今日のためのデザインを合わせ、生地も装飾も一級品のドレスと殿下のタキシードが出来上がり、私はそれに見合う立派な令嬢になるのだ。この日の為に殿下とダンスのレッスン、会話術を完ぺきにこなしてきた。だから大丈夫。

私はできる子なのだ。そう言い聞かせて鏡に映る自分の姿を見つめる。


パールホワイトとサファイアブルーの美しい布はシルクに似ていてヴェルト王国で産出される高級品。生地に描かれる薔薇と蔦の刺繍は細かく、刺繍糸には金糸を使い職人が一針一針縫ったもの。

ふんわりと広がるプリンセスラインのドレスには所々にパールが縫い付けられている。

コルセットをよく見ると将来幸せになれるという伝統的な紋様が刺繍されていた。

髪の毛も左右の髪を少しとって編み込みしその編み込みは後ろでひとまとめにし、結び目を隠すように宝石のついたバレッタで留める。

私の長い髪にはホワイトの小花とパールがちりばめられている。落ちないように魔法が掛けてあるらしい。レース生地の手袋と、サファイアのイヤリングを付ければ完成。


「お嬢様、とっても素敵ですわ。」

「ありがとうアリス。みんなもここまでありがとう。」

「とっても美しいです!頑張った甲斐がありますわ!。」

「今までの中で最も美しいです、、、。お嬢様、今日は胸を張ってくださいね」

「本当にありがとう。スティリス家の令嬢として行ってまいります!」


コンコンと扉をたたく音が聞こえる。


「どうぞ。」

私がそういうとアリスが扉を開けに行く。


「ローズマリー嬢。準備はできたかな?」

「はい、殿下。」

「、、、とてもきれいだよ。」

「ありがとうございます。殿下も素敵ですわ。」

今日の殿下は何時にも増してかっこいい。

パールホワイトとブルーサファイアの式典用の服に、胸元には王家の紋様が付いたバッチ、

パールホワイトの重厚なマントにはお揃いの刺繍がしてある。

髪の毛も一部をバックにしてある。はぁ、、、、。たくさんの令嬢が言い寄ってきそうで怖い。

殿下は成長するにつれてカッコよさに磨きがかかりすぎている。

殿下に本気で好かれた令嬢の方はきっと幸せなのだろう、、、。その時に私が殿下の隣にいるかはわからないが。


「さぁ、いこう。今日は僕たちが主役だよ。」

「はい、殿下に恥は欠かせませんわ!」



episode13

【婚約者発表と社交界パーティーはつつがなく進みます】


今日は、待ちに待った婚約者発表だ。これで堂々とローズマリー嬢の近くにいることが出来る。

初等部の時はなかなか近くに行くこともできず苦汁を飲んだけど。でもこれからはそんなこともないだろう。

ライトがうらやましい、、、。自分の婚約者の近くに堂々といられるのだから、、、、。

僕は今初等部6年生だから、今年で卒業し、中等部に来年から通うことになる。

ローズマリー嬢は初等部5年生だからあと一年したら中等部に来る。

一年って長いようで短いんだよね。気長に待っておこう。

なんか吹っ切れてるように見えるって?いろいろあったんだよ、、、、。

同年代で行われたお茶会の日にね、、、、。

まさかライトから『アルトがそのまま何もしてなかったらきっと横からかっさわれるぞ。』って言われるなんておもわなかったよ!

しまいには僕の近くにいたピアンからも『兄様、、、。ローズマリー嬢はほかの令息から隠れた人気があるんだよ、、、、。』

とまで言われてしまい、、、、。ピアンにだけは言われたくなかったんだけど。そしてピアンのその言葉に同意するライト達、、、。

それを見てたらもう吹っ切れるしかなかったよね!もう僕は我慢しないよ。ローズマリー嬢が壊れないように頑張るって決めたんだからね!

なんか遠くで『そうじゃないんだよなぁ』っていうライトの声が聞こえた気がするけど気のせいか!


そんなわけで、ローズマリー嬢のいるゲストルームへ向かうことにするよ。

ゲストルームの扉をたたき、部屋の主の返答を待つ。

どうぞと言われ、しばらくするとローズマリー嬢の従者が扉を開けてくれた。

中に入ると美しく着飾ったローズマリー嬢が椅子にゆったりと腰かけてた。

少女さは鳴りを潜め、大人っぽい雰囲気が出ているローズマリー嬢は今まで見てきた中で一番きれいだった。だから反応が少し遅れてしまった。

賞賛の言葉を言うとはにかむ姿はいつもどうりだ。

そしてローズマリー嬢にも素敵と言われ、嬉しくなった。


そして僕はローズマリー嬢の手を取り、会場へつながる扉の前までエスコートしていった。


入場の時間まであと少し。扉で隔てているにもかかわらず聞こえてくる賑やかな声。

ローズマリー嬢は緊張していないだろうか?

「ローズマリー嬢、緊張してる?」

「少し。でも、大丈夫ですわ。」

「そっか、、、。」


「入場のお時間です。」

横を向いていた僕は騎士の声で顔を前にむける。


『アルティーオ・ヴェルト殿下、ローズマリー・スティリス侯爵令嬢入場』

観音開きの扉が開き、僕はローズマリー嬢をエスコートした。


入口から、玉座の前まで行く道のりを歩いていると盛大な拍手が聞こえてくる。

そして、玉座の前に行くとそれがぴたりとやむ。

玉座に座っている父上と母上の前でローズマリー嬢の手を放し僕は一礼し、ローズマリー嬢はカーテシーをする。

父上が口を開く。

「本日はよく集まってくれた。本日社交界デビューを果たす紳士淑女の諸君、これからは大人の仲間入りと言っても過言ではない。

常に己を律し、誠実であってほしいと願う。そして、このパーティーは諸君の門出を祝うものだ。今夜は楽しんでいってくれ。」

父上の言葉に大きな拍手が巻き起こった。

「そして、今夜は我が国の第一王子である、アルティーオの婚約者を発表しよう。ローズマリー・スティリス侯爵令嬢だ。」

父上の声で一度しんと静かになり、また大きな拍手が巻き起こった。

僕たちの婚約を祝う歓声も聞こえる。

ローズマリー嬢はカーテシーをし、静かに前を向いている。

「これからの二人の歩んでいく道をどうか、温かく見守ってほしい。では、諸君らの門出とアルティーオの門出を祝して、、、、乾杯!」

父上が乾杯の音頭をとり、パーティーは始まった。


「ローズマリー嬢、」

「はい、陛下。」

ローズマリー嬢を父上が引き留める。

「この前の謁見以来だね。元気にしていたかい。」

「はい。お気遣い恐れ入ります。」

「ああ、そんなに堅苦しくしなくていいよ。」

「そうよ~。ローズマリーちゃん。」

「王妃殿下、、、。ご機嫌麗しゅうございます。」

母上はとてもうれしそうだ。

「うふふ。話には聞いていたけれど本当に可愛いわ。」

「お褒め頂きありがとうございます。」

「いつか、お義母様と呼んでね。」

母上の言葉に苦笑気味のローズマリー嬢。

「こら、シルエラ。強制してはいけないよ。」

「していませんわ。ローズマリーちゃん今日は楽しんでね。今日の主役はあなたたち二人よ。」

「はい。お心遣いありがとうございます。」

「それと、アルトの事よろしくね。」

「もちろんでございます。王妃殿下のご期待に沿えるよう日々精進して参ります。」

「アルトも、ローズマリーちゃんを支えてあげてね。」

「もちろんです。」

「その言葉が聞けて良かったわ~。改めて、婚約おめでとう。」

「「ありがとうございます。」」

ローズマリー嬢とお礼を言う。

「さて、引き留めてしまってすまなかったね。引き続き楽しんでくれ。」

「はい。」


そして振り向くと、後ろにはたくさんの令嬢と令息がこちらを見ていた。


一気に話しかけてくる令嬢と令息達。ローズマリー嬢の方にもたくさん集まっている。

僕は慣れているがローズマリー嬢は大丈夫だろうか?





次々にかけられる祝いの言葉。そしてそれに混じる嫉妬の目。、、、初めて向けられたわけじゃない。でも慣れないのは確か。

どうしよう、、、。殿下の周りにもたくさん人が集まっている。

だれか、、、。この状況を切り抜けさせてほしい。

「そんなにたむろされてしまってはお二人のご迷惑になりますよ?」

この声は、、、。

「お兄様、、、!」

お兄様の言葉で我にかえったのかそそくさとその場を離れていく令嬢や令息達。、、、助かった、、、。

「大丈夫かい?ローズ。」

「はい。助けに来てくださってありがとうございます。」

「ねぇ、僕にはないの?」

「ないよ。アルトは平気だと思ったから。」

「何それ~。ローズマリー嬢、大丈夫だった?」

「はい。いきなりのことで驚きましたけど、大丈夫です。」

「そっか、ならいいんだ。これから挨拶回りだけど大丈夫?」

「はい。問題ありません。」

「じゃあ行こう。」

「僕もついていこう。ローズが心配だからね。」

「どうせ嫌って言ってもついてくるくせに。」

「ご明察。」

殿下にエスコートされ、私たちは会場に散らばっている重鎮の方々に挨拶をした。

「さて、これで一通りかな。」

「そうですね。」

「じゃあ、中央に移動しよう。そろそろダンスが始まる。」

「はい。」

ヴェルト王国では社交界デビューするときに婚約者がいる令嬢もしくは令息達はパートナーとダンスを踊る。踊る順番は男性の身分が高いほうからである。

この場合、一番身分が高いのは殿下になるので一番最初は私達だ。ダンスが終われば帰っても良し、そのまま残っても良しになっている。


さて、中央に移動した私たちは曲が始まるのを待つ。

「お手をどうぞ。」

殿下に手を差し出され、手を取る。

「はい。」

指揮者の合図で曲が流れ始める。

殿下にリードはお任せする。

ふわりふわりとめくるめくドレス、回るごとに揺れる髪。そして殿下との近い距離。視界の端に見える殿下の長いマント。お互いの息遣いとテンポで美しく舞う。

きっと私たちはこの時一番目立っていると思う。

曲が終わり、殿下とのダンスが終わった。歓声を受けそのまま私たちはバルコニーへ出た。

「お疲れ様。とてもきれいだったよ。」

「お兄様。ありがとうございます」

「ライトはスノウ嬢と踊らないのかい?」

「僕たちは次だよ。さきにリリーフィア嬢とシルヴィスが踊るから。」

「そうだったね。」

「ああ。さて、飲み物をとってくるよ。」

「ありがとうございます。」

お兄様が飲み物をとってくると言ってその場を離れた。バルコニーには私と殿下だけが残った。

「ねぇ、ローズマリー嬢。」

「何でしょう?」

「良ければなんだけどさ、愛称で呼んでもいいかな?」

「え?」

急なことにびっくりしてしまう。

「みんな、ローズマリー嬢の事愛称で呼んでいるだろう?」

「そうですね。」

「だから、僕も呼びたいなぁって。ダメかな?」

うう、、、。私が押しに弱いのを知っているのかそうじゃないのか、、、。

「、、、。わかりました。いいですよ」

「本当!?ありがとう。じゃあ、ローズ」

「呼び捨てなんて家族以外でされたことがないから新鮮ですね、、、。」

なんだか恥ずかしくなってしまった、、、。

「ふふふ。顔があかいね、、、、。可愛い、、、。」

「可愛いだなんて、、、、。」

「ねぇローズ、、、。君は中等部に進学しても高等部に進学しても僕の婚約者でいてくれる?」

「それは、、、、。殿下のお気持ちが変わらなければですわ。」

「そっかぁ。じゃあ、大丈夫だね。」

「?どうしてそう言い切れますの?」

「え~。だって、、、ローズの事離す気ないからだよ。」

「それは、今だけの話でしょう。もしお気持ちが変わられたら言ってください。」

「そんな日来ないと思うけどなぁ」

「念のためですわ。」

「、、、。ローズはこの後どうするの?」

「お兄様とスノウ様のダンスを見たら中座させていただきます。」

「そっか、、、。」


ここで、殿下との会話は途切れ、お兄様とスノウ様が来るまで私たちの間に会話はなかった。

このあと、お兄様とスノウ様のダンスを見て、私は帰路についた。


episode14

【ついに、原作がスタートです、、、。】


月日は流れ私たちは初等部を卒業し、中等部へ。寮生活となった。

入学式もつつがなく終わり、寮に運んである荷物をかたずけて中等部一日目は終わった。

大体は持ち上がりだが、進級試験で落ちた生徒もいて、編入してきた生徒もいる。

その編入してきた生徒の中にヒロインである、ミルキー・ヘルベーネ男爵令嬢がいて、そこから原作の開始だ。


寮から歩いて5分。スノウ様たちと合流し、教室へ。そのまま朝礼の時間までおしゃべりをしていた。朝礼開始の鐘がなり教官が入ってきた。

「席につけー。中等部でもお前たちの担任になったクロノだー。よろしく頼むぞー。」

今年もクロノ教官が担任らしい。クロノ教官は見かけによらず優秀なのだ。

まぁ、学園にいる教官の人たちは優秀だから疑ってもいなかったが。

「さてー、中等部に進級してきたお前たちの中に新しく仲間が加わるぞー。入ってきていいぞー。」

教官に言われ入ってきたのは、ミルク色の髪と金色の瞳を持った令嬢と、もう一人はダークヴァイオレットの長髪と紅い瞳の令嬢だった。

片方はわかる。原作のヒロイン、ミルキー・ヘルベーネ男爵令嬢だろう。でも、もう片方は誰?原作では編入生は1人だったはずなのに。

「自己紹介しろー」

「はい。初めまして、ミルキー・ヘルベーネと申します。よろしくお願いします。」

「リュゼミア・ヘルヴァイスと申します。お見知りおきを。」

「はい、というわけでー二人は鳥クラスからの編入になるので、皆仲良くしろよー。」


ここで、朝礼終了のチャイムが鳴り朝礼は終了した。


「ローズ様、一限目は移動教室ですわ。参りましょう。」

「はい。」

スノウ様たちと教室を移動し、実習教室に入った。

教室に入った後も、新しく入ってきた編入生のことについて疑問が絶えなかった。

ちらりとリュゼミア様の方を見ると何人かの令息や令嬢が集まっており楽しそうに会話していた。

「どうかなさいましたの?体調が優れませんか?」

「えっ?大丈夫?」

「きつくなったら無理せず言ってくださいませ!医務室まで連れていきますわ!」

「ほんとだよ~。ローズ様はすぐため込むんだから~!」

ずっと黙っていたためスノウ様たちに心配をかけてしまった。

「大丈夫ですわ!ご心配をおかけして申し訳ありません。」

「そうですか?ならいいのですけれど、、、。」


授業が開始されてからも、もやもやは抜けきれずまたスノウ様に心配をおかけしてしまった、、、。本当に申し訳ない、、、。


授業が終わり、教室へ戻る時ピアンフォード殿下とカメリア王女殿下に話しかけられた。

カメリア王女殿下はピアンフォード殿下の双子の妹君で、銀色の美しい髪とミッドナイトブルーの瞳が美しい方だ。

「ローズマリー様、授業中ぼんやりしてたけど、、、、大丈夫ですか?」

「そうですよ!ピアンったらずっと心配してたんですから!」

「ピアン様、カメリア様、ご心配をおかけしてしまって申し訳ありません、、、。わたくしは大丈夫ですわ。」

「ほんとうに、、、?無理してるっていうの兄様にばれたら僕が怒られちゃう、、、。」

「え!?それはいけませんわ。わたくしは大丈夫ですよ。」

「でも、、、。あ____。」

「?どうかなさいましたか?」

ピアンフォード殿下が目を見開いて私の後ろを凝視している。どうしたのだろうと後ろを見るといい笑顔のアルティーオ殿下とお兄様が立っていた。

「ローズがなんだって?」

「に、兄様!」

急に現れた二人に令嬢たちからの黄色い歓声が上がる。

「ローズ、体調でも悪かったの?」

「そういうわけではありませんわ!」

「でも、ローズが無理してるってピアンが言ったのが聞こえたんだよね。」

「あわわわわ、、、!」

「ピアンフォーオ殿下は悪くないですわ!わたくしが授業中ぼんやりしていたから、、!」

慌てて口を押えるが時すでに遅し。

「墓穴を掘ったね。」

「ちっ違いますわ。これは、、、その、、、」

「なあに?何も違わないよ?」

「アルト、ローズをいじめるのもそこまでにしてくれるかい?」

「人聞きが悪いなぁ。」

「ローズ、授業中ぼんやりしていたのは本当かな?」

「、、、、、はい。」

「はぁ、、、。詳しい話は放課後専用サロンで聞いてあげるからスノウ嬢たちと一緒に来ると良い。」

「そんな!わざわざお兄様方の時間をとるわけには、、、!」

「拒否権ないのわかるね?ローズ。」

「うぅ、、、。」

「じゃあ、スノウ嬢頼むね。」

「お任せくださいませ!わたくしたちもはぐらかされしまったので詳しく聞きたいですわ!」

「スノウ様ぁ、、!」

私に味方はいないのですか!?

「じゃあ、失礼するよ。行こうかアルト」

「はいはい。、、、お邪魔してごめんね~」

そういって二人は帰っていった。

「ごめんなさい。ローズマリー様、、、。」

「大丈夫ですわ。もとはと言えばわたくしがぼんやりとしていたのが悪いのですから。」

「お認めになってしまったわ、、、!」

「仕方がりません。もう逃げられませんもの、、、。」


この後、授業を受け放課後、サロンで根掘り葉掘り聞かれてしまったのはご愛嬌である。

それにしても、なぜアルティーオ殿下は急に過保護になってしまったのでしょう?

教室内にいたミルキー様に目もくれませんでしたし、、、。



次ぎの日、スノウ様たちと登校し、教室に入ると困ったような令嬢の方々がいた。

「どうなさいましたか?」

「あっ、ローズマリー様!おはようございます。」

「おはようございます。、、、この雰囲気は何ですか?」

「それが、、、。あちらをご覧ください。」

近くにいた令嬢に質問すると困ったように返答され、令嬢の目線を追うと、椅子に座るリュゼミア様がいた。

そこまではいいだろう。問題はその周りだ。なんと、リュゼミア様の周りには華クラスの令息達が侍っていたのだ。

華クラスの生徒たちには全員婚約者がいるはずなのだ。なのになぜ、その男子生徒が侍っているのか!?

「ああやって、男子生徒を侍らせていらっしゃるのです。あの方々には婚約者の方もいらっしゃいますのに、、、。」

「それは困りましたね、、、。」


「おはようございます、、、。って何事ですかこの状況、、、。」

「ピアンフォード殿下、、、。」

「どうなさいましたの?お兄様。」

「カメリア王女殿下、、、。」

ピアンフォード殿下とカメリア様が入ってきた。すると、リュゼミア様がピアンフォード殿下の方を向き、嬉しそうに近づいてきた。

「ピアンフォード様ぁ!おはようございます!」

「ひえっ。何、、、?」

とっさに私の後ろに隠れるピアンフォード殿下。なぜ私なのです?エリス様が近くに、、、。あれ?エリス様がスノウ様の後ろに隠れてる、、、。なんで?

「あら、ローズマリー様。そこをおどきになってくださいますか?わたくしはピアンフォード様に用がありますの。」

「、、、。申し訳ありませんがそれはできませんわ。」

「なぜですの?」

「ピアンフォード殿下が怖がっていらっしゃいますから。それに、教室内でのリュゼミア様の行動は目に余りますの。他の方々のご迷惑になってしまいますわ。おやめになってくださいますか?」

「なっ!わたくしの行動に指図いたしますの!?」

「あなたがわたくしと同等の立場、もしくはそれより上でしたら指図できませんけれども、ヘルヴァイス家は伯爵家だと伺っておりますわ。つまり、貴女はわたくしに指図できませんの。お分かりですか?」

「、、、ですわ、、、。」

「はい?」

私が注意したら急に俯きだしたリュゼミア様。

「ひどいですわぁ!わたくしは皆様と仲良くしたかっただけですのにぃ!なぜ、厳しく言われなければなりませんのぉ!」

顔を上げたリュゼミア様は瞳に涙をため瞳ををウルウルさせていた。

うわーお、、、。情緒不安定、、、。めんどくさいタイプやな、、、。

「厳しいですって、、?」

「スノウ様?」

あれ、今度はスノウ様が、、、。

「厳しくなどないでしょう?ローズ様は当たり前のことをおっしゃったのですよ?」

「そうですわ!ローズマリー様は当たり前のことをおっしゃっただけですわ!」

スノウ様の言葉によって周りの令嬢たちまで言い始めてしまった、、、。収拾がつかない、、、。

どうしよう、、、。ここは私が言った方がいいの?

「なんの騒ぎ、、、?」

後ろから聞こえた声に振り向くとそこにはアルティーオ殿下とお兄様、そして3人の令息の方々がいた。

「殿下、、、!」

「兄様、、、。」

そして教室は静かになった。その静けさを打ち破るようにして声がかかる。

「アルティーオ様ぁ!!来てくださったのですねぇ!」

「、、、、何のこと?」

「アルティーオ様ぁ、助けてください!ローズマリー様がですねぇ、皆と仲良くするなっておっしゃるのですよぉ。わたくし昨日編入してきたばかりなのにぃ。」

「、、、そうなの?」

アルティーオ殿下がこちらを見る。

「わたくしは、、、。」

「違いますわ!ローズマリー様はですね、注意なさっただけなのです!」

スノウ様が負けじと言い返す。

「部外者は黙ってくださいませ!わたくしこのままでしたら怖くて学園通えなくなってしまいますわぁ!」

スノウ様の言葉で眉を吊り上げるが、取り繕ってアルティーオ殿下に近づくリュゼミア様。

やめて、、、。殿下に近づかないで、、、。あれ?なんでそう思ってしまうの、、、?

殿下がリュゼミア様を気に入れば、、、。でも、、、。いいえ、そんなこと考えたくない、、、!

頭の中で葛藤が続く、、、。考えを否定しては考えるの繰り返し、、、。

「兄様!ローズマリー様はそんなことしていません!」

ピアンフォード殿下の言葉で我に返る。

「ピアンフォード殿下、、、。」

「ありがとう守ってくれて。それとごめんなさい。僕が後ろに隠れてしまったから、、、。」

「お気になさらないでください。大丈夫ですわ。」

「あぁ!ピアンフォード様、ローズマリー様に言わされているのですね!大丈夫ですわ!わたくしがいますから!」

なんで、そんな風に解釈するのかなぁ、、、。さっきから殿下が何も言わない、、、。なぜ?

「うん。よくわかったよ、、、。」

「殿下ぁ!わかってくださったのですね!」

「いいや、そうじゃない。」

「え?」

「様子を見るに、貴女がこの状況を作り出したと思うんだよね。だから、ローズは何も悪くないと判断するよ。」

「なんで、、!?どうして魔術がかからないの、、、?」

最後は何を言っているのかわからなかったけど悔しそうなのは確かだ。

「ローズ!顔が真っ青だよ?大丈夫?」

「お兄様、、、。大丈夫です、、、。気が抜けてしまったみたいですわ、、、。」

「そっか。ならいいんだよ」

「医務室まで行かなくていい?」

「はい。大丈夫です。ご心配をおかけしましたわ。」


「話は終わったか?」

「クロノ教官!」

どうやら、様子を伺っていたようだ。

「朝から問題起こすとかやめろよなー。ライト達は自分の教室に帰れー。」

「わかりました。アルト、行こう。ビリジオ達がきっと事情は話しているみたいだから。」

「わかったよ。、、、放課後サロンにおいで。詳しいことを聴こう。」

「!、、、はい。」

去り際にこそっと言い伝え、殿下たちは教室に戻っていった。


「ったく、、、。とりあえず席につけ」

こうして、朝に起こった騒動は終わったがこれはまだ序の口であった。

で、この後どうなったかというと、一限目は何があったのかを個別に事情聴取することになって、自習になった。

放課後には言われた通りスノウ様たちとサロンに向かい、殿下たちに事情を説明することになった。


その夜____


『マリー、、、。朝のことなんだけど』

「どうしたの?ルーチェ。」

『あのね、リュゼミアっていう令嬢のことなんだけど、、、。』

「うん。それがどうかしたの?」

『そのね、、、。あの令嬢は気を付けた方がいいわ、、、。』

「どうして?」

『嫌な予感がするの、、、。微弱だけど私たちにとって嫌な気配をあの令嬢はまとっているわ、、、。』

「そんな、、、。」

『だから、今後どう動くかはわからないの、、、。アルトたちにも伝えた方がいいかも、、、。』

「確かにあの様子からすると、何かしらしてきそうだね。」

『ええ。だから、何か対策を考えないと、一歩間違ったら取り返しがつかなくなるかも、、、。』

「そこまで、いやな気配なの?」

『、、、。あのまとわりつくような気配は嫌いよ、、、。マリーには私たちがいるから大丈夫、、、。』

「でも、スノウ様たちにはその保証が出来ないということね。」

『そうよ、、、。だからお願い。』

「わかったわ。ルーチェの頼みだもの。明日言うわね。」

『ありがとう。』

「構わないわ。それじゃあお休み。」

『おやすみなさい。愛し仔、、、。私の予感が杞憂であってほしいわ、、、。』



次の日____


「おはようございます。ローズ様。」

「おはようございます。スノウ様。」

「昨日は災難でしたわね。大丈夫でしたか?」

「はい。問題ありません。」

学園までの道を歩いていると、ミルキー様が歩いているのが見えた。

「そういえば、昨日の朝ミルキー様いなかったような、、、。」

「確かに、、、、。声をかけてみましょう。」

あるアルの記憶ありか、、、それとも、、、。

「ミルキー様、おはようございます。」

「あっえっ、おっおはようございます、、、、。何か御用でしょうか?」

見た感じ私と同じように記憶あるわけではなさそうだ。

「昨日のことは知っていらっしゃいますか?」

「はい、、、。あの、ローズマリー様、スノウ様、昨日は従姉妹が申し訳ありませんでした!」

「えっ、、、。」

「私が謝ることで許されるとは微塵も思っておりません!ですがご容赦頂きたく、、、!」

急に頭を下げるミルキー様。その行動に驚かされる私達。いつも冷静なスノウ様も目を見開いている。

「頭を上げてください!、、ここは人目があります。とりあえず教室に行きましょう。」

「はっはい!」

とりあえず教室に行くことにした。


「あっ、待ってください。」

教室に行く途中で、ミルキー様に呼び止められる。

「どうかなさいましたか?」

「あの、きっと教室にはもうリュゼミア様がいます。詳しい話はその、、、。」

「教室ではできないということですね。」

「はい、、、。なので、、、。」

「では、放課後専用サロンに行きましょう。」

「私がですか、、、!?そんな恐れ多い、、、。」

「そうでもしなければ話が進まないでしょう?いいですね?」

「、、、はい。」

スノウ様が少し圧をかけて説得する。それに渋々うなずくミルキー様。

「それと、アルティーオ殿下もお呼びしますけどいいですね。」

「うっ、、、、。わかりました。」

「はい。では放課後に。逃げることは許しませんよ?」

「ひえっ。わかりました。」

ミルキー様は怯える仕草を見せると足早に去っていった。

流石、悪役令嬢というだけある、、、。あっ私も悪役令嬢か、、、。

でも、イベントとか起きてないし、、、、。

「殿下への伝達はどうしましょう、、、。」

「それでしたらわたくしにお任せください。アリス、」

「お呼びでしょうか。」

「話は聞いていたわね?するべきことはわかってる?」

「もちろんでございます。放課後アルティーオ殿下とライト様方をお呼びすればよろしいのですね。」

「お願いできる?」

「お任せください。」

そういってアリスはその場から姿を消した。

「流石、アリスさんですわ。」

「ふふ。また、最近腕を上げたようですの。」

「本当に優秀なのですね。」

「はい。わたくしの自慢のメイドですわ。」

「ふふ。、、、そろそろ教室へ参りましょう。」

「そうですね。」

そうして私たちは教室へ向かい、授業を受けた。



放課後____


私はミルキー様、スノウ様、エリス様、リリー様、レイ様、カメリア王女殿下様、ピアンフォード殿下と一緒に王族の方に割り振られている専用サロンへ向かっている。

傍から見たら、とても目立つ集団だろうが今は放課後。日中よりも人の数は少ない。

そして、アルティーオ殿下専用のサロンの扉の前まで来た。扉をノックする。


「殿下、ローズマリーです。失礼してもよろしいですか?」

少し待つと扉が開きお兄様の姿が見えた。

「待っていたよ。もう人数はそろっているからあとはローズたちを待つだけだったんだよ。」

「そうだったのですね。遅くなりましたわ。」

「気にしてないよ。さぁ、入って。」

「失礼します。」

そういって、中に入るとテーブルと人数分のソファ、数人の令息の方たち、殿下がいた。

「待っていたよ、ローズ。」

「お待たせして申し訳ありません。」

「ローズは、こっちに。ほかのみんなは好きなところに座って~。自分の婚約者の隣でもいいよ~」

その声を待っていましたとばかりに、各々移動する。

「たまには、気が利きますね。レイ、こっちに来なさい。」

「ハーイ!」

「そういってやるなって!リリー、俺の隣に来いよ!」

「最初から行くつもりですわ~」

「うぅ、、、。兄様がいつもお世話になっています、、、。エリスさん、こっちどうぞ。」

「わかりました!」

「ははは、馬鹿にされているな。スノウ嬢、こちらへどうぞ。僕は紅茶を淹れてくるよ。」

「お言葉に甘えさせていただきますわ。」

「もう!なんなで僕のこと馬鹿にしてさぁ~。ローズ、こっちへ来なよ!」

「でっでも、、、。」

「いいから!」

「、、、わかりましたわ。」

「お兄様、、、。わたくしはどうしたらいいですか?」

「クロエは呼んでないからなぁ、、、。そこの令嬢と一緒に座ってもらえる?」

クロエ様はカメリア様の婚約者で、生徒会長している。今日はお呼びしていないようだ。

「はい!わかりましたわ!ミルキー様こちらに座りましょう!」

「しっ失礼します。」

ミルキー様もおどおどしながら座る。

そのあと、お兄様が紅茶を持ってきたので、一口飲んで一息入れる。


「では、今日集まっていただいたのは先日の華クラスで起こったことについてですわ。」

「アリスからはそう聞いたけど、何かまだあるのかい?」

「はい。そのことについてまずはミルキーさんから語ってもらおうと思いますの。お願いできますか?」

「わかりました、、、。えっとまず初めまして。ヘルベーネ男爵家のミルキーと申します、、、。」

まずは挨拶が肝心ということもあって自己紹介から始めたミルキー様。何が語られるのやら。



episode15

【ミルキーが語ったこととは、、、。】


初めまして。ミルキー・ヘルベーネと申します。男爵令嬢です。

今日私は、もしかしたら死んでしまうのかもしれません。

だって、私の周りにはどうしてこんな身分の高い方々がいらっしゃるのですか!?

呼び出された理由は重々承知していますけれど、、、、。こんなに人数がいるだなんて聞いていませんわ、、、!

うう、、、、。私が編入した華クラスの人たちはみんな伯爵家以上の方たちばかり、、、。緊張してしまいます、、、。

特に、アルティーオ殿下!お顔を直視できません、、、。何か粗相をしてしまったら明日の朝日は拝めないかもしれませんわ、、、、。


でも、やらなければなりませんわ。これは私の従姉妹であるリュゼミアのためなのですから!

「ローズマリー様とスノウ様はご存知かと思われますが、リュゼミア様は私の従姉妹にあたります。私の父とヘルヴァイス家の当主が兄弟なのです。」

「ふむ、、、。そこはいいとして、なぜ貴女はあの日の朝教室内にいなかったのかな?」

「それは、、、、。その日の午前中私は私用があり朝から登校できなかったからです。」

ひぃ、、、。ライト様の目の奥が笑っていないぃ!

「私用?何か用事でも?」

「それが、、、。えっとぉ、、、。」

「はっきり言ってもらわないと困るよ?」

「ごめんなさい!、、、リュゼミア様の為に日用品や雑貨などを買い出しに行っていました、、、。」

「なぜ?ミルキー嬢がすることでもないだろうに、、、。」

「これは、ヘルヴァイス家の御当主様からの頼み事ですので断ることもできず、特別に許可をいただいて行っています。

朝のことを聴いたのはお昼、リュゼミア様の昼食の準備が終わった後でした。」

私はその日、リュゼミア様に頼まれた月一の買い出しの日でした。これはヘルヴァイス家の御当主様からの頼み事であり、男爵家である私たちは断ることもできずお父様に謝られながら頼まれました。こんな使用人がすることをなぜ私がしなければいけないのかは分かりません。ヘルヴァイス家のことを詳しく聞くことは許されていませんから。

その日、買い出しに行って戻ってきた後リュゼミアの昼食の準備をしていました。その時にリュゼミア本人から朝あったことを愚痴交じりに話されました。

その時は昼食の準備中だったため話半分でしたがよくよく話を思い出してみると、ローズマリー様方にはとても失礼なことをしてしまったと思い怖くなりました、、、。


「ふうん。まぁひとまずミルキー嬢の潔白は証明されたわけだね。でも、今日はそんなことだけの為に集められたわけではないんだろう?」

「はい。ここからはわたくしが話させていただきますね。実は昨日の夜、私の契約精霊であるルーチェから忠告を受けましたの。」

忠告、、、?それに契約精霊って、、、確かローズマリー様は複数の精霊と契約されているんだっけ、、、?すごいなぁ。

「忠告?どんなことかな?」

「ルーチェが言うには、そのリュゼミア様の周りには嫌な雰囲気の物がまとわりついていると。そのまとわりつく雰囲気はルーチェにとって、いえ、精霊や妖精にとって、忌避するものらしく、このまま放っておけばいつか取り返しのつかなくなることが起きる。と」

「へぇ、、、、。」

なんか、話跳んでいませんか?私だけでしょうか?話についていけないのは、、、。なんだかビリジオ様は考え込んでいますね、、、。

「だから、何か対策をした方がいいと言われました。」

「なるほどねぇ、、、。」

「ミルキー嬢、何か知っていることはあるかい?」

皆の目線がこっちに向いて怖いです、、、!なにかあったっかな、、、。あっ、、、。

「リュゼミア様はいつも黄色の宝石のペンダントしています。」

「黄色の宝石ねぇ。」

「それをいつも肌身離さず持ち歩いています。あとは初等部の時に行われた契約の実習で精霊と妖精に語り掛けをしても来なかったと憤っていらっしゃいました。」

「そんなことあるんだ、、、。」

『それだったら、あの子の違和感に説明がつくわ~』

「ひぃ!誰!」

急に聞こえた声に私はびっくりしました。

「ルーチェ、、、。」

『マリー、話は聞かせてもらったわ。これで辻褄が合うわ。』

「どういうこと?」

誰かと思ったら、ロ―ズマリー様の精霊でいでしたか、、、。

『その、リュゼミアっていう令嬢が持っているペンダントは、禁忌魔術の中の一級魔術である『魅了』がかかっている物よ。』

「なっ、、、!」

「うそ、、、。」

周りの人達の顔が驚愕の色に変わりましたね。どうしたのでしょう、、、。禁忌魔術ですか、、、。

「なぜ、そうだと言い切れる、、、。」

『あら、先日の朝に起こった時の光景を思い出してごらんなさい。合致するのではなくて?』

「、、、予想は外れてほしかったのだが、、。」

『残念だけど大当たりよ。精霊や妖精たちが近寄らないのもうなずけるわ。』

「あの、、、。禁忌魔術とは何でしょう、、、。すいません学がなくて、、、。」

「いいよ。禁忌魔術の範囲は高等部2年で習うものだから。」

高等部二年で習うことをこの方たちは知っているのですか!?恐ろしすぎます、、、。

「禁忌魔術とは読んで字の如く、書いて字の如くだよ。その中でも3級から1級まであるんだけど、魅了はその中でも1級に分類される。」

それってとても危険なのでは、、、。ライト様がとても苦い顔でおっしゃった。

「そして、我が国の法律では所持していただけでも厳罰に処するものなんだよ。使用なんてしていたらもっと厳しくなる、、、」

ライト様の言葉を引き継いだアルト様がとても恐ろしいことを言う。

「魅了は、言葉の通り対象のものを魅了する危険な魔術、、、。ずっと魅了の魔術にかかり続けたら、、、最悪廃人になっちゃう、、、。」

ピアンフォード殿下がおっしゃられたことが一番ショックです、、、。

「あれだろ?魔術にかかった人はかけた人に対して依存状態になり、その人から離れられなくなる。恐ろしいよな。」

これは現実を重く受け止めなければなりませんね。どうしましょう、、、。

「だからこそ、我が国では見つけ次第、無効化の薬を飲ませるんだが手遅れになった人もいる。」

「大罪級の物ですからね。魅了の魔術は」

『だから、あの朝その令嬢の周りには令息達が侍っていたでしょう?あれは初期症状の一つよ。きっと対象を令息に定めたのよ。』

「定めることもできるのですか、、?」

『ええ。媒介としている物に念じればいいそれだけで、対象を決めることができる。』

「でも、魅了の魔術をかけたものを持っている人自身もその魅了の魔力にかかってしまって、手放せなくなってしまいますの。」

「、、、怖いですね、、、。」

「1級禁忌魔術なんて大体そうよ。でもどこから入手したんでしょうね。」

「いつからつけているのかも気になるぞ?」

「いや、それはもう検討がついている。たぶんあのペンダントを所持してから何年もたっている。手遅れと言ってもいいだろう。」

重々しく告げるライト様。

「やはりか、、、。」

「じゃあ、リュゼミア様は、、、。」

「ああ。あのペンダントを壊したとき精神的ショックに加え精神崩壊で廃人へと化すだろうね。」

「そんな、、、。どうにかならないのですか?」

「魅了の魔術は精霊と妖精の愛し仔だけが解き方を知っている。だが、リスクが高い。」

「愛し仔、、、。」

『愛し仔にそんなリスクの高いことをさせるわけないでしょう!?私たちの唯一なのよ!』

「そうだよな、、、。」

「人を呪わば穴二つ。という言葉がある。自業自得と言ってもいいんじゃないか?」

「シル君?」

「俺の母の出身地であるサンライズ王国で言われてることわざだよ。人を呪えば自分に返ってくる。まさにぴったりな言葉だろ?」

「確かに、、、、。」

「それと、愛し仔を見つける方法は極めて困難だろう。」

「そうなのですか?」

金色の瞳というのしか聞いていないから尋ねてみる。

「そうだよ、ローズ。条件が合わないと。」

「条件、、、。」

『愛し仔を見つける条件は二つあるのよ。金色の瞳で私たちだけが見える紋様が瞳の中に入っているかどうか、そして精妖の大樹にある世界についての書物を読むことが出来る仔だけ。金色の瞳だったとしても紋様の有無を私たちが言わなければ意味がないわ。』

「じゃあ、やっぱり、、、。」

「リュゼミア様のことはあきらめた方がいいですわ。」

「そうですか、、、。」

「被害を食い止める方法はないのか?」

『あることにはあるけど、埒が明かないから推奨できないわね。』

「そうですわ。解いたとしても、リュゼミア様本人の近くによれば意味がないですもの。」

『でも、ここにいる人たちが魅了の魔術にかからないようにすることはできるわ。ここにいるのは将来有望である大事な人材。廃人にするわけにもいかないのよ~』

「婚約者もいるしね。」

『そういうことよ。さて、方法なんだけど今そのアイテムを作るのは難しいわ。』

「材料は何が必要なのですか?」

『精妖の森の奥深くにある精妖の大樹付近にある果て無しの宝玉、これがないと始まらないわ。』

「果て無しの宝玉、、、ですか。」

聞いたことない名前だ。

「果て無しの宝玉とは、ありとあらゆるものを無効化できる宝石で、植物のように地面に生えると聞いたことがあります。」

『正解よ。その宝玉をとるには精霊王の許可が必要なの。無断で採るととったものにはそれ相応の天罰が下るわ。』

とんでもないですね、、、。

「精霊王ってどこにいるんだ?」

『人間が精霊王に会うためには愛し仔しか開けることを許されない精妖界の扉を開けなければならないわ。大樹を利用して通ることが出来るは私達だけだもの。』

「愛し仔の存在は、、、。」

愛し仔って、あれですよね?精霊と妖精に愛される唯一無二の存在。

『、、、。私たちは愛し仔の存在をつかんでいるしどこにいるかもわかっているわ。でも、教えない。身勝手な理由で命を散らせたりなんかしないわ。』

「愛し仔はすでにいるということか、、、。」

「ええ~、、、。前途多難じゃないですか?」

『だから、今は応急処置ね。さぁ、皆立って。』

ルーチェさんに言われその場に立つとルーチェさんが魔法をかけてくれたようだ。

『これは、私の力で邪気を払うことが出来る魔法よ。だから魅了の魔法は効きにくくなるはず。』

「ありがとうございます。」

『構わないわ。』

「これで、とりあえずは大丈夫だが、根本的なものではないか、、、。」

『宝玉が生えるのは二年に一度。それまでに何とかしないといけないわよ。』

「それまでにできることと言えば、、、。」

「まずは、リュゼミア様がどうして魅了の魔法を手に入れたのかを調べなければなりませんし、協力者を調べませんと。」

ローズマリー様が何かを決意したように言う。

「そして、愛し仔の存在を見つけなければ。」

「ローズ、、、。」

ローズマリー様のことをライト様が不安そうに見ていらっしゃるけどどうかなさったのかしら?

『、、、。私の方でも掛け合ってあげる。対価が必要だけど。』

対価?何か見返りが必要ということよね、、、。

『私が見返りとして求める対価は、主の幸せよ。主の幸せは私たちの幸せ。、、、そこでアルティーオ、貴方に任せるわ。』

「僕?」

『ええ。主の婚約者なのでしょう?これからの主の幸せはあなたにかかっているということよ。お分かり?』

「、、、。わかった。」

『ふふ。じゃあ契約は成立ね。』

ローズマリー様の幸せを願うのはとても素敵なことだわ、、、。アルティーオ殿下大丈夫かな?

「アルト、しっかりやってよね。、、、よし、今日の話はここまでにしよう。ここからは僕たちで話すことがある。ミルキー嬢、すまないが、ご退出を願おう。」

ライト様に言われたのであれば仕方がない。上の方へ盾突くことはできないのだから。

「わかりましたわ。皆様失礼いたします。」

私は一礼してサロンを出た。





どうしよう、、、、。私が愛し仔なのに、、、、。

「ローズ、、、。なりふり構ってはいられないのはわかっているね。」

『ごめんなさい。まさかこんなことになってしまうだなんて、、、。』

「大丈夫よ。お兄様、ルーチェ。いつかは言わなければいけなかったのだから、、、。」

「どういうことですの?ローズ様。」

もう、逃げられない。引き返せない。さぁ、言うのよ。

「精霊と妖精の愛し仔は、、、、。わたくしです。」

「、、、え?」

「ローズ様が愛し仔?」

「はい。、、、これを知っているのは私の家族と従者のみです。」

「なぜ、言わなかったの?」

「皆様に迷惑をかけたくなかったからです。」

『そもそも言えるわけがないのよ。私たちは愛し仔の存在を隠したがるのだから。ばれて、体よくつかわれるだなんてまっぴらごめんだわ。』

「いままで、黙っていてごめんなさい。きっと今のわたくしには世界の本も読めると思いますし異界への扉も開けれると思います。実証したことはありませんが。」

「、、、。言ってくれなかったのはちょっと悲しいけど、でも、ローズはローズなんだから。気にしないで?」

「アルティーオ殿下、、、。」

「そうですわ!愛し仔であろうとなかろうとローズ様はローズ様ですもの!」

「逆に、思い悩んでいることがあったら言って頂きたいくらいですわ!」

「そうだよ!愛し仔だからって言って何か変わるわけじゃないのですよ!」

「うんうん。そうですよ~きっと私達でも力になれることがあると思いますから~!」

「、、、ありがとうございます。皆さん!」

「さて、これからどうしよう?ビリジオ、何かわかった?」

アルティーオ殿下がビリジオ様に声をかける。すると下を向いていたビリジオ様が顔を上げる。

「今のところは何も。それっぽい人はいるけど全部隠蔽されてる、、、。詳しく探さないといけないよ。それこそ家宅捜索とかね。」

「ふむ、、、。わかった。引き続き調査を進めてほしい。」

「わかった。」

「ビリジオ様、大丈夫?目、疲れない?」

「大丈夫ですよ、レイ。耐えられます。」

さっきからビリジオ様が目をつぶっていると思ったら調査をしていたのね。

『あなた凄いわね。目を契約精霊と共有できるなんて。』

「おや、わかりますか?我が家は代々精霊の目を持っていますから。貿易関係で重宝してますよ。」

精霊の目、、、。精霊と契約したら視力を対価にすべてを見通すことが出来るという能力だっけ?だからビリジオ様は眼鏡をかけているんだ、、、、。

「協力者と魅力の魔術をかけた者の調査はビリジオに任せるとして、」

「次は、どうするか、、、。」

「、、、婚約者との仲を深めるのはどうでしょう?」

「え?」

「おお!それいいな!」

「ふふ。魅了の魔術にかかりにくくするためにはお互いに想いあっていればいいと思うのです。」

「うっ、、、。」

「僕たちはいいとして、問題は兄様とライトさんですよ。」

「それは、、、、。」

「宝玉が生えるまでまだ時間はあります。それまでに何とかしましょうね?兄様、ライト様」

おお、ピアンフォード殿下がいつにもましてやる気だ、、、!

「ということで、なるべく二人でいるようになさってはいかがでしょうか?学年は違うとはいえ、どうにでもなりますからね」

「でっでもだな、、、、。」

「いいですよね?」

「うっ、、、、。はい。」


ピアンフォード殿下の圧でうなずかざるを得ないお二人は少しかわいそうでした。


このあと、私たちは解散して一日を終えた。


episode16

【これが、嵐の前の静けさだなんて思いたくも無いです、、、。】



サロンでの会議から数日たった。その間もリュゼミア様が男子生徒を侍らせる行為や注意した令嬢に目をウルウルさせながら言い返したりというのは続いており、華クラスの令嬢やそのほかの人に限らずリュゼミア様は遠巻きにされる存在になっていた。

私達も陰ながらルーチェの魔法で他の男子生徒にかかっている魅力の魔術の緩和をしたりしているため、ほんの少しは被害が抑えられている。

宝玉が生える時期と、中等部3年生で行われる戦闘実習の時期がかぶっているため、その時に採りに行こうと思う。

実習の場所は毎年精妖の森の最深部。うまくいけば異界への扉が開けるかもしれない。


で、いま私はとてつもないほどイラついている、、、。令嬢らしさを忘れてしまいそうだ。

なぜかというといま、目の前で繰り広げられている攻防が原因だ。


「ねぇ~ライト様ぁ、こんな無表情なスノウ様なんかよりも私の方が良くないですかぁ?」

「なんてことを言っていらっしゃるのです!ライト様はスノウ様の婚約者なのですよ!」

「部外者は黙っててください!ねぇ?ライト様ぁ」

さっきから中庭で繰り広げられているこのくだらない茶番劇。リュゼミア様がお兄様の腕に自分の腕を巻き付いけているのだ。

事の発端は少し前。放課後、私とお兄様とスノウ様で中庭を歩いていたところ、リュゼミア様が近づいてお兄様にくっついてきたのだ。そして今に至る。

「、、、、。」

「スノウ様、大丈夫ですか?」

「、、、、。」

ああ、どうしてうまくいかないの?スノウ様とお兄様を幸せにするって決めたのに、、、、。

このままではお兄様が危ないわ、、、。スノウ様は俯いていらっしゃるし、、、。

「ねぇ~何とか言ったらどうなのですかぁ?スノウ様?もしかしてもう、ライト様に嫌われてしまったのでないですかぁ?」

「ッ!!!!」

もう我慢できませんわ、、、、。何か言って差し上げないと!

私がそう思い口を開こうとしたとき、スノウ様が顔を上げ、リュゼミア様につかつかと近寄って行った。

「なっなんですのぉ?そんなに睨まれるとぉ怖いですわぁ。」

パシンッ 高い音と共にリュゼミア様がよろめく。もしかしてなくともスノウ様がリュゼミア様を打ったのだ。

「ふざけないでくださいます?なぜ、貴女に好き勝手言われなければなりませんの?意味が分かりませんわ」

「このッ、、、!、、、ッひ!」

リュゼミア様を見つめるスノウ様の瞳は絶対零度。いやもうマイナス100度かもしれないですわ。

その絶対零度のまなざしに怖気づくリュゼミア様。

「あなた、聞いていればさっきから、ぺらぺらと減らず口をたたいてうるさいですわ。少しはお黙りになったらどうですの?ああ、できませんわよね?精神年齢5歳児のあなたには」

そうして嘲笑の笑みを浮かべるスノウ様。

スノウ様の精神年齢5歳児という煽りに周りの人たちがくすくすと笑いだし、それはだんだん大きくなり周りは笑い声でいっぱいになった。

羞恥心に駆られ真っ赤になるリュゼミア様は下を向いている。

「それに、言っておきますとわたくしライト様には嫌われておりませんのよ?ライト様が何も言わないのはあなたが近くにいることで不快感を覚えていらっしゃるからですわ。」

たしかに、お兄様は何も言わない。下を向いていたからね。

「ははは。スノウにはかなわないなぁ。その通りだよ。ヘルヴァイス嬢。僕はあなたの行動がとても不愉快だ。」

下を向いていたお兄様が顔を上げると、私が見たこともないくらいに冷たいまなざしをしていた。

「ローズを傷つけたことも僕は許してないよ?、、、、行こうかスノウ、ローズ。」

「はい、お兄様。」

「わかりましたわ。」

「、、、待ちなさいよ!!!」

三人でサロンに行こうとすると、リュゼミア様が顔をさっきよりも真っ赤にしてこちらを見ていた。

「なんで、なんでうまくいかないの!?なんで、攻略対象のライト・スティリスが私に靡かないの!?ふざけないで!!」

攻略対象、、、、。もしかしてリュゼミア様は前世の記憶を持っているということ?

ミルキー様は持っていなくて、リュゼミア様が持っているということか。

「それに、貴女よローズマリー・スティリス!あなたのせいでアルティーオ様の攻略を進められないじゃない!役立たずヒロインの変わりは私なのに!」

狙いは誰?ハーレムルート?それともアルティーオ殿下?、、、そんなの嫌。アルティーオ様は私の婚約者なのに。心の中はもやもやでいっぱいだ。

「ヒロイン?貴女は何を言っているんだい?、、、行こう。こんな人の言葉は戯言だよ。」

「はっはい、、、、。」

「今に見てなさい!絶対に私があなたからアルティーオ様を奪って見せるわ!幸せになるのは私よ!」

「ローズ聞いちゃだめだよ。」

まだ、何か言っているけれど、これだけが聞こえた。

「私が勝つわ!なぜなら、私にはこの幸せのペンダントがあるのだから!」

この先のことはお兄様に耳をふさがれ聞こえなかった。


この後、お兄様と分かれスノウ様と寮に戻った。お兄様は今日会ったことを殿下に伝えに行くそうだ。

スノウ様と分かれ部屋に入るとアリスが慌てて近寄ってきた。


「お嬢様、、、!顔が真っ青ですわ!大丈夫ですか!?」

「アリス、、、。」

アリスの顔を見たことで安心したのか、私の意識はそこでぷつんと切れた。


場所は変わり専用サロンにて。

「そんなことが、、、、。」

ライトはアルトに先ほど起こったことを話していた。顔は般若のようだ。

「これは早急に対処した方がよくないか?」

「そうだね、、、、。幸せのペンダント、、、、ね。」

「きっとそれがルーチェの言っていた魅了の魔術がかかったペンダントなのだろうね。」

「、、、わかった。報告ありがとう。」

「いや、構わないさ。なぁアルト」

「何かな?」

「もうそろそろ腹を決めたらどうだ?」

「なんのことかな?」

「しらばっくれないでよ。白々しい。ローズの事好きなんだろう?」

「それは、、、、。」

「ローズはきっとさっきのヘルヴァイス嬢の言葉で傷ついた。その時どう思った?」

「、、、、。」

「ねぇ、アルトこのままで本当にいいと思っているの?」

「僕は、、、、。」

「もし、他の令息に取られたらどうするの?立場は婚約者かもしれないけれど心までは?ねぇ、、、何か言ってよ!!」

「そうだよ、、、、。僕はローズに惹かれてるよ!最初は支えていこうと思うだけだった。でも、、、、でも!ローズの笑う顔困った顔、悲しそうな顔すべてを見ていたら僕は、、、僕は、、、。」

「はぁ、、、。やっと言った。」

呆れたように笑うライト

「どういうこと、、、。」

「自覚なさすぎじゃない?アルトは多分ねローズに一目惚れしてたよ?」

「へ?」

気の抜けた反応をするアルト。それに困ったように苦笑するライト。

「はぁ、、、。あのお茶会の時、アルトどんな顔してたと思う?婚約者発表のパーティーの日どんな顔してたと思う?いつもローズと話すときどんな顔してると思う?」

「、、、どんな顔?」

「お茶会の時は、スノウに嫉妬してる顔だったよ。パーティーの日は惚けてる顔、普段は心底愛おしいっていう顔してたよ。ここまでくると困ったものだよ、、、。

傍から見たら『僕はローズに惚れてます!』っていうアピールしてるようなものだったし砂糖吐くかと思った、、、。」

「そんなに?」

「うん、そんなに。」

「自覚してしまったらもうだめだね、、、。ローズのことしか考えられないよ、、、。」

「全く、、、。」

ライトは呆れたようにため息をつく。

「あのさぁ、僕も思ったんだけどライトはいつからスノウ嬢の事呼び捨てにしてるの?」

「は?」

こちらも気の抜けた声だ。アルトはジト目だが。

「いつの間にか距離近いし、呼び捨てだし、、、。何なの?」

「あーえっとだな、、、。」

「教えなよ。」

「、、、。実はだな、僕の誕生日会の日、婚約者発表があったでしょ?その時にローズから

『お兄様、スノウ嬢にはっきり言って差し上げてはどうですの?先ほどスノウ様にお兄様がいることが分かっていながらもアタックしてる人見かけましたわよ。』

と、言われてね、、、。こうしてはいられないと思って、チャンスを見て伝えたんだよ。」

「じゃあ、なんでそんなよそよそしかったの?」

「スノウ嬢が恥ずかしがっていたからだな。だから表向きは隠していたんだよ。でも、この前ピアンに言われただろう?だから腹くくって呼び捨てでいこう。という話になって今に至るんだよ。」

「うわ、、、。砂糖吐きそう、、、。」

「、、、、人のこと言えないからね?」

今度はライトがアルトをジト目で見る。

「、、、まぁ無事くっついていくれてよかった。今度は僕の番だね。」

「、、、頑張れよ。」

「ああ。ありがとう。」


こうしてアルトは自分の気持ちを自覚し、明日伝えようと思うことが出来た。

しかし、明日になっても明後日になってもローズの姿を見ることはなかった。



episode17

【事態は急変する】


「ローズが目覚めない?どういうこと?」

「はい。、、、、。」

「何があったの?」

「実は、、、、、。」

朝、始業時間までアルトとライトは専用サロンでくつろいでいた。するとローズの従者であるアリスが冷静さを欠いてサロンへ飛び込んできた。


「お嬢様は一昨日真っ青な顔で自室に戻ってこられ、そのあと気を失われました。その時はお疲れになっているのだろうと思いそのままベッドへお運びしその日を終えました。そして次の日お嬢様は起床の時間になっても起きてこられず、お部屋を見に行きました。するとお嬢様は眠っておられました。呼びかけても呼びかけても動かれることはなく、お医者様に見ていただいても異常はないと告げられその日は様子見となりました。今日の朝には起きてこられるだろうと思いましたがお嬢様は起きてこられず、まさかと思い、お部屋に行くと眠っておられました。これはおかしいと思いすぐさまこちらへ参上した次第でございます。」

「一昨日、、、。」

「ヘルヴァイス嬢がローズへ突っかかった日だね。」

「申し訳ありません。私がすぐさまお伝えしなければいけなかったのです。」

「いや、いいよ。それで、スノウたちに変化はあるかな?」

「スノウ様は、自分が不甲斐ないとおっしゃっていて落ち込んでおられ、今日も授業をお休みすると。ほかの方々は通常どうり登校するそうですが、あまり元気がないご様子でした。」

「そっか。僕はスノウの様子を見に行くけど、アルトは?」

「もちろん、様子を見に行くよ。」

「かしこまりました。教官には私がお伝えしておきます。」

「すまないね。」

「いえ、、、。では、先に女子寮の方へ参りましょう。立ち入りの許可は頂いております。」

「仕事早いね。」

「お褒めにあずかり光栄です。私には頼もしい相棒がいますので。」

「そうだったね。」




一行は移動し女子寮へ向かった。三人の後ろでは始業の鐘が鳴っていた。

「今は、授業中ですので、他の方々はいらっしゃいません。安心してお入りください。」

「ご迷惑をおかけします。」

「婚約者の方が心配なのはわかりますもの。」

寮母が朗らかに告げる。アリスに連れてきてもらった後、アリスは教官に授業を休む旨を伝えに行くと言って分かれた。

そのあとやってきたのは寮母であるマーガレットだ。彼女はもう何年も寮母をしており寮のことは何でも知っている。

「では、ご案内しますね。」

ゆったりとした動作でマーガレットは二人を部屋へ案内した。

「殿下、こちらがローズマリーさんのお部屋ですわ。その横がスノウさんのお部屋です。」

「わざわざありがとう。」

「いいえ。学園の二大令嬢と言われているお二人のためですもの。」

「そうか、、、。」

「それではわたくしはここで。」

そういって、マーガレットは去っていった。

「僕は先にスノウのところに行くから、アルトは先に行ってて。」

「言われなくても。」

アルトはローズマリーの元へ、ライトはスノウのところへそれぞれ分かれていった。



スノウの部屋の扉の前に立ち、ノックするとスノウの従者が中へ通してくれた。

「、、、お嬢様は昨日から何もお食べになっていないのです、、、。ライト様どうかお助け下さい。」

「、、、やってみるよ。」


スノウの部屋に入るとベッドには一つの山があった。

「スノウ?」

僕が声をかけるとその山はピクリと動いた。

「昨日から何も食べてないんだってね。ダメだよ」

近づいて声をかける。

「スノウ、顔を見せて?」

「こんな顔、、、見せられませんわ、、、。」

「大丈夫だよ。だから、、、ね?」

優しく声をかける。

「うぅ、、、。」

のそりと布団をめくって出てくるスノウ。場違いだけど可愛いなんて思う僕は相当重症だろう。

それは置いておいて、出てきたスノウは目の下に隈を作り、泣き腫らしたのだろう跡があった。

「ライト、、、様、、、。わたくし、、、。」

今にも泣きそうな顔のスノウ。いつもは凛としているのに今日は弱々しい。

「、、、おいで?」

とりあえず腕を広げてみる。ローズにこうしてあげると大抵は抱き着いてくるんだけど、、、スノウはどうかな?

「ライト様ぁ、、、、。」

スノウはゆっくりと僕の腕の中に収まってきた。すっぽりと覆うように抱きしめてみる。体格の違う僕とスノウだったら僕がスノウを覆い隠せそうっていうか隠せるんだよなぁ。

中等部2年なのにませているって?いいんだよ。社交界にデビューしたらほぼ大人になったようなものだから。

とりあえずこれで良いのかな?確か『お兄様がスノウ様にしてあげたらきっと喜びますわ!』ってローズが言ってきたんだけど。

「ライト様、わたくしが一番ローズ様の近くにいたのに、ローズ様から親友と言われたのに、、、。その親友であるわたくしが、、、。」

服が少し湿っているように感じるということは泣いているのだろう。また目が腫れしまう、、、。

「わたくし、親友失格ですわ、、、。」

「それは違うよ、スノウ。ローズは君のことが大好きなんだ。それに、気づけなかったのは仕方がないことなんだよ?」

「仕方がないの一言で片づけたくありませんわ!わたくしがあの時もっと、、、もっと」

ラピスラズリのような瞳からとめどなくあふれる涙をぬぐう。

「スノウのせいじゃない。わかるね?」

「そうであったとしても、、、。わたくしは、、、。」

「ローズは誰のせいかなんて気にしないよ。」

「そうで、、、しょうか、、。」

「そうだとも。ローズはやさしい。スノウが気に病まなくても大丈夫。だから、今はお眠り。従者も心配していたよ。」

「それは、、、。心配をかけてしまいましたわ。」

「早くいつものスノウに戻って、安心させてあげて?僕もそれを待ってるよ。」

「、、、はい。」

スノウは、微笑んだ。そのあと、スノウが寝るまで側にいた後、隣のローズの部屋へ向かった。



同時刻___


「ローズ、入るよ。」

勿論返事はない。部屋の主は眠ったままなのだから。

部屋の中に入ると、静かに眠っているローズがいた。近づいても反応を示さない。

いつもよりも白いローズの顔に心配になって口元に手を当ててみる。かすかながらに呼吸をしていることに安心してしまった。

「一体、、、どうして、、、。」

『アルト?』

「その声は、、、。」

声がした方を振り向くと元気がないルーチェがいた。隣にはいつもの覇気がないアルベロもいる。

「ルーチェ。、、、ローズの体には今何が起こっているんだい?」

『マリーの体は今、抜け殻の状態。』

「なんだって?」

『魂が抜けているの。その魂は今、精霊王のところにいる。』

「精霊王?何のために?」

『精霊王様たちはマリーを守るために連れて行った。』

「守る?」

『その魂で起こすことが出来る最悪の奇跡を起こさないようにするため。』

「最悪の奇跡、、、だって?」

『うん。最悪の奇跡は愛し仔の魂と禁忌魔術を媒介として起こるもの。禁忌の魔法陣の上に愛し仔の骸と禁忌魔術を施したものを乗せて願いを唱えれば簡単に発動できる。』

『最悪の奇跡はどんな願い事でもかなえることが出来る。死んだ人を蘇らせたり、世界を自分の物に出たりだってする。』

「魂を媒介にしたから、、、か。」

『うん。そのせいで何人もの愛し仔は散っていった。最悪の奇跡を止めることが出来るのもまた最悪の奇跡。皮肉なものでしょ?』

「ローズの魂は今どうなっている?」

『今は、精霊王様の元で休んでいるよ。過去の愛し仔の記憶を見ながら。』

「過去の記憶?」

『過去の記憶を見せることで、現世に帰りたくならないようにしてるの。』

「このまま時がたてばばどうなる?」

『ローズに関する記憶が消えていく。記憶が消えていくスピードは遅いけれど関りが少ない者はすぐ消えるよ。』

「どうすればいい?」

『精霊王様のいる異界へ行けばいい。』

「でも、それは愛し仔しか扉を開けられないだろう!?」

『、、、方法はあるよ。』

『ちょっと!アルベロ!』

『だって!だってマリーの存在をなかったことにさせるだなんていや!私たちはマリーの幸せを願ってるの!マリーの幸せを私たちが決めちゃだめだよ!』

『私だって記憶を忘れさせたくないわ!でも、、、このままマリーを失う可能性があるはもっといや、、、。』

「、、、ルーチェは僕と約束したことは覚えているかい?」

『ええ。アルトにマリーの幸せを託したことよね。』

「だったら僕がマリーを幸せにすればいい。最悪の奇跡を起こさせないようにすればいい。」

『そんなことが出来る確証もないのに?』

「今からあきらめるの?」

後ろからかかった声に振り向くとライトが立っていた。

「話は聞かせてもらったよ。それで、ローズの幸せだっけ?やろうと思えばできるよ。」

『根拠がないじゃない、、、。』

「僕たちをだれだと思ってるの?これでも貴族の子息だよ?人脈があるし伝手もある。出来ることはあるんじゃないのかな?」

「確かに。ビリジオには引き続き協力者を探させるとして、他には____」

「「「「私たちに任せてください!!」」」」

「えっ!?」

後ろにはエリス嬢、レイチェル嬢、リリーフィア嬢、ミルキー嬢がいた。

「全く、、、。皆様わたくしの静止を聞いて下さらなかったのですよ。」

「カメリア、、、。」

「将来のお義姉様になるローズマリー様のためですわ。わたくしも協力させていただきますわ。」

「水臭いですよ。何も言って下さらないなんて、、、。」

「ほんとにねー!これでも伯爵令嬢なのに!」

「使えるものはすべて使うのがモットーですわ!」

「わっ私も何かできることがあるなら協力したいです!」

「それにですねお兄様、わたくしたちの婚約者の方々も協力する気満々ですのよ!女子寮に入るのは憚られるということで今はいませんが。」

「どうして、こんなに情報が洩れてるんだ、、、。」

「それは私の契約精霊を通して聞かせていただいたからですわ。」

「アリス、、、。」

「もうしわけありません。ライト様。ですがこれもお嬢様のためですわ。」

「、、、ははは。ローズは恵まれてるね。」

「ほら、こんなに協力してくれる人がいる。今諦めるのは早いんじゃないかな?」

『、、、。みんな馬鹿ね、、、。でも、ありがとう。マリーの為に。』

『お願いしてもいいの?マリーを救ってあげて、、、。』

「任せてよ。でも、出払っている間はどうしよう、、、。だれがいつ入ってくるかなんてわからないし、、、。」

『そこは私達に任せて!鼠一匹通さないから!』

『ここにフランはないけれどきっとやる気だよ!だから安心して!』

「じゃあ、任せたよ。さて、今から対策を練りにサロンへ行こう。」


本当にローズは恵まれているね、、、。僕たちも頑張らないと。

新たな決意を胸に僕たちは動き出す。


しかし、僕たちが中等部3年生になっても大きな動きはなかった。

中等部3年での戦闘実習で果て無しの宝玉を見つけることはできたが精霊王からの許可がないため採ることはできなかった。ローズ、君は今どうしているんだい?僕は心に穴がぽっかりと開いたみたいだよ。


episode18

【愛し仔は真実を知る】


あれ?ここはどこ、、、。私は寮で意識を失って、、、、それから?どうなったっけ、、、。


『起きたかの?』

「どなたですの?」

目を覚ますと知らない場所だった。あたりを見渡すとどこかの部屋のようだが、、、。それに目の前にいる美女は誰!?

『そんなに警戒しないで。悲しくなっちゃう』

なんかもう一人いるんですけど、、、。

「私は、寮で意識を失ったはずですわ。なぜこのようなところにいるのです?」

『それは我が説明しよう。』

後ろからは美丈夫、、、、。

「その前にあなた方の名前を教えてくださいますか?」

、、、。気を取り直して聞いてみよう。

『おお、それはすまなんだ。我の名はネロ。水を司る精霊王だ。』

アクアマリンのような美しい髪と瞳の美丈夫はうっかりといった様子だ。

『わらわの名は、フォティアという。火を司る精霊王じゃ。』

紅い髪に金色のグラデーションがかかった髪とルビーのような瞳の美女は口元に扇子を当てながら言う。

『私の名前はツリーっていうの。木を司る精霊王よ。』

フォレストグリーンの長い髪とエメラルドのような瞳の美女は朗らかに言う。

「精霊王様、、、?!申し訳ありません!失礼な態度をとってしまって。」

精霊王、、、、。妖精と精霊の絶対的な君主。

『よいよい。気にするでないぞ。』

『そうよ~。えっとね、貴女が気を失ったタイミングで連れてきたのよ。どうか悪く思わないでね。』

「連れてきた、、、?」

『我らが愛し仔よ。どうか現世へ戻るのをやめてはくれぬか?』

「それは、ここから出るなということですか?」

『ああ。そなたが現世へ戻ってしまったらきっとそなたは長く生きられない。』

「どういうことですの?それにここは一体どこですか?」

『ここは、わらわ達の住まう精妖界じゃ。おぬしは今ここへ魂だけの状態で来ておる。』

「どうして?」

『マリーちゃんがこのまま現世で過ごしていたらいつか死んでしまうのよ。最悪の奇跡によって。』

「最悪の奇跡?」

『うむ。最悪の奇跡とはすなわちなんでも実現可能にしてしまう代物であり禁忌の魔術。』

『それが、そなたの身に降りかかるのだ。』

「それはいつですの?」

『近くて数日後、遠くて来年だ。』

「私は死んでしまうということですか?」

『残念だがの。最悪の奇跡は愛し仔の骸と禁忌魔術によって発動できてしまうからの。おぬしが死にその遺体の近くに媒介物を置く。そして魔法陣を描いて願い事を唱えるだけ。ただそれだけで起こせるものだ。』

「一体どうして、、、、。」

『それはマリーちゃんがよく知っているんじゃない?』

「、、、。リュゼミア・ヘルヴァイス、、、。」

『その者が持っている物は?』

「魅了の魔法のペンダント。」

『そこまでくればわかるだろう?おぬしは標的にされておる。』

「でも、私が愛し仔だということはあそこにいた方々しか知らないはずですわ。」

『その者が知らずとも、情報収集に長けているものはいるだろう?』

アリス?いいえアリスは違う。、、、じゃあ。

「精霊と妖精、、、。」

『正解じゃ。あの娘は魅了の魔術魅了した妖精に命じておぬしの周辺を嗅ぎまわっておった。』

「じゃあ、その時に、、、。」

『そうなの。だからねもしマリーちゃんが現世に戻ってしまったら死んでしまうのよ。』

「でも、私には残してきた人が、、、!」

『安心するがいい。ここにいる時間が長ければ長いほどあちらにいる者たちの中にあるそなたの記憶は薄れていく。』

「そんな、、、。いや!嫌ですわ!私を忘れるだなんて、、、。」

私に関する記憶がなくなる?アリスから、スノウ様から、お兄様から、、、、、アルティーオ殿下から、、、?

嫌、、、、嫌よ。お願い、、、私を忘れないで。私の存在をなかったことにしないで!

『だから、ここにいましょう。記憶がなくなればマリーちゃんの居場所はなくなる。それを目の当たりにするよりもここにいた方がいいでしょう?』

「、、、帰ります!」

『おぬしは魂だけの存在なのじゃよ?精妖界の扉をくぐった時魂は耐えられぬぞ。』

『それに、現世での時間はもう数か月、いや一年近くはたっておる、、、。』

「、、、、。」

呆然とする。頭が真っ白になる。まさに八方塞がり、、、。

『かわいそうな愛し仔。でも、大丈夫。ここにいれば幸せよ。』

『次に、目が覚めた時おぬしは現世に帰りたくなどなくなるであろう。』

『辛いものを見せることにはなるが、これも愛し仔のため。すまなんだ。』

呆然とした私の目の前が真っ暗になり、意識が沈んでいく。、、、、誰か助けて。アルティーオ殿下、、、。いえアルト様、、、。




「?ローズ?」

「どうしたの?」

「なんだか今ローズの声が聞こえたような、、、。」

「どんな声?」

「助けてっていっていたような、、、。」

『!時間がない!』

「ルーチェ?どうしたの?」

『精霊王様たちはマリーをこちらに返す気がないわ。、、、きっと今過去の愛し仔達の様子を見せられているわ。向こうの事案とこちらの時間は違う。こっちで一年たっていたとしても向こうでは数日しかたっていない。記憶がなくなっているだろうというタイミングで精霊王は行動に移したわ。こっちはまだあきらめていないっていうのに、、、!』

「?どういうことだ?」

『愛し仔達の記憶を見せることで、マリーからこちらへ返す気をなくそうとしているの。悲惨な記憶を見せることでね』

「なら、どうすればいい!?ローズが目を覚まさなくなってもう数か月どころか1年も経つ。中等部3年まであと少しだぞ!?僕たちはもう卒業だっていうのに、、、!」

アルトたちは今現在中等部3年で、スノウたちは中等部2年である。

「戦闘実習は7月、、、。猶予が短くなってきていますね、、、。」

「学園内の者たちから記憶はミルキー嬢が何とかしてくれているが時間の問題か、、、、。」

『、、、本当にどうすればいいの、、、。』

「何か、お困りのようねぇ?助けになってあげましょうか?」

急な来客に目を見開く一行。

「あっあなたは、、、!?」





真っ暗な世界、、、。ふわふわと揺蕩ってる感覚、、、、。私どうしてしまったの?

あの時精霊王様に目を覆われて、、、。ん?あっちが明るい、、、。何だろう?

私は自分の意識に任せ明るいほうを見た。


『待ってよ~。』

『こっち、こっち!』

なに?二人の女の子?競争しているのかな?楽しそう、、、。

『私達、ずっと友達よ!』

『うーん。私達は友達じゃなくて親友よ!』

『そうね!私達ずっとこれからも親友よ!』

『親友か、、、。良い響きじゃな。』

『あっ!精霊王様!』

あれは、フォティア様?

『そうなんです!私達親友なんです!』

『そうかそうか。その友情を大事にするのじゃぞ?』

『はい!』

フォティア様が女の子の頭をなでる。


場面が移り変わる。


『お願い!お母さんを助けて!精霊様の愛し仔なんでしょう!?』

『でも、どうすれば、、、。』

『私にいい考えがあるの。それをすればきっと、、、。』

『、、、。わかった。』

また場面が移り変わる。二人は何をしているの?魔法陣と、あれは、、、、。


『これでお母さんが、、、。』

『そうだね、、、。』

『ねぇ、、、。本当に良かったの?』

『、、、、。親友の頼みだもん。』

『本で調べてわかったの。これは、、、貴女がいないと完成しないって、、、。』

『知ってるよ。でももう、決めたの。だから幸せになって?』

『ありがとう。、、、そしてごめんなさい。』

『いいよ。でも最期にいいかな?』

『なあに?』

『この魔法に名前を付けよう。』

『名前?』

『うん。私達が今から起こすことは奇跡で、でも私が死ぬから最悪なことなの。』

『そうだね、、、。』

『もう、、、。そんなに落ち込まないでよ。』

『お母さんが病気から生き返るのにあなたは死ぬって皮肉だね、、、。』

『そう、だからこの魔法の名前は最悪の奇跡にしよう。』

『最悪の奇跡?』

『うん。それで私が死んだあと、貴女がこの魔法を本に書いて残すの。私が最期までこの世に居たという証として。』

『私が本に?』

『そう。そうすれば貴女は私を忘れることなんてないでしょう?』

『、、、わかった。この魔法を本に残すよ。』

『ありがとう。これが私の最期の願いだよ。』

魔法陣の上に乗っている女の子が目をつぶる。

『本当にありがとう。そしてさようなら、、、、。私の一生に一人の大親友。』

そして、もう一人の女の子は魔法陣の上にいる女の子を刺した。


ここで映像は途切れた。


「なんだったの、、、。」

『これは、最悪の奇跡が出来るまでの話じゃ。刺されて死んだ子は我らの愛し仔であり、初めての愛し仔であったのじゃ。』

「フォティア様、、、。、、、、どうしてこの子は死ななければならなかったの?ほかにも方法はあったのではないですか?」

『親友の子の母親が不治の病に罹ってしまっての。この時代、その病は治すことが困難であった。

しかし、親友の子の母親はその病に罹ってしまった。それを助けるために二人は協力して最悪の奇跡を完成させたのじゃ。これは最悪の奇跡が出来た瞬間じゃ。』

「この後はどうなったのですか?」

『愛し仔が死んだあと母親は回復した。そして親友の子は願い通り本に記した。そして、自決したのじゃ。』

「え?」

『愛し仔が死んだことに耐えきれなかったのだろう。一生に一度の大親友と言っておったのだから。』

目から涙が流れてきて止まらない。

『、、、辛いものを見せてしまったが、まだ続くのじゃ。すまない。』



私の意思に反して映像が映し出される。


時代は流れてまた愛し仔が生まれた。精霊王たちは前の悲劇が起きぬように努めた。でも、その頑張りも水の泡となる。

『嫌!離して!』

『うるさい!お前がお前が俺のことを好きにならないのがいけないんだ!大人しくしていろ!』

女の人が男に押さえつけられている。そして男の目の前には見たことのある魔法陣と倒れている男の人。

『ダメ!殺さないで!』

女の人は悲痛な声で訴えている。

だがその声も届かず。男は倒れている男をめった刺しにした。

『いやよ、、、、。』

『ははは。やったぞ。これで俺の物だ。』

あたりには女の人の悲痛な叫びと嘆きが木霊していた。


映像が消える。


「なんてひどい、、、。」

『あれは、二人目の愛し仔。精霊に恋をしまったものの、その精霊は愛し仔の恋人で叶わぬ恋だった。でも、欲望が強い男は精霊を略奪することにした。その時その男の目の前にあったのが最悪の奇跡を記した本。そして、男はその本の中にある愛し仔という存在を知り、精霊の恋人である男がその愛し仔であると知った。

あとは、今見た通りだ。そして、その時魔法陣のなかにおいてあった鎖が媒介となって、精霊は男に縛り付けられることになった。』

「まさか、、、。!」

『察しがいいな。そうだ、その瞬間禁術、妖精縛りの魔法が完成してしまった。』

「ということは、この世界にある禁忌魔術は、、、。」

『ああ。すべては最悪の奇跡があったからこそ生まれたのだ、、、、。』

悲しそうにネロ様は目を伏せる。

「まだ、見なければいけませんの?」

『すまないがな、、、。』

強制的に映し出される映像。


次は、縛られた精霊を助け出すために命を散らした愛し仔。精霊は縛りから解放されたけど愛し仔は助からない。


その次は、愛に飢えた女が人に愛されたいがためにある愛し仔は命を散らした。この時完成したのが魅了の魔術。女は確かに誰からも愛されるようになった。だが、彼女が本当に欲しかったのは複数から向けられる愛じゃなくて一人から向けられる愛だった。


そのまた次は、世界を統一したかった男が、世界を統一するために最悪の奇跡を使って、愛し仔は命を散らした。世界を統一できたのはよかったけれどそれは最初だけ。時がったころには貧困が起きていた。


そのまたまた次は、貧困を止めたいという民の願いを聞き届けるために命を散らした愛し仔。


同じことの繰り返し。私利私欲の為にその命を散らす愛し仔達。

時はどんどん流れ、最悪の奇跡という魔術は人の暮らしから忘れ去られていった。

なぜなら、この悪循環に耐えられなかった精霊王様たちが繁栄の為に祝福を授けたから。

そして、愛し仔の存在は秘匿された。

新しく生まれる精霊や妖精には大部分を隠して伝え、愛し仔がいたらすぐ伝えるようにと言って。

古くから生きている精霊と妖精には愛し仔を見つけたら傍で守るようにと伝え、それが精霊王様たちにすぐ伝わるようにした。


ひどい、、、。ひどすぎる。最初は親友の為に形として出来上がったものなのに。

時がたつにつれてその形は悪い方向に変わり、ついには人の暮らしから忘れ去られてしまい

犠牲になった愛し仔達の存在をだれも知らない、、、。


私、、、、。


『わかっただろう?愛し仔が生きていくためには現世は厳しすぎる。』

「そうですね、、、、。現世なんて、、、」

『おぬしの持っている別の世界の記憶はただの記憶にすぎなのじゃよ。』

「うすうす気付いてはいたわ。起こるイベントも、攻略対象者とヒロインのかかわりも何も起きない。」

『そうでしょう。だったらマリーがしていたことは何になるのかしらね?』

「私がしていたこと、、、。破滅しないようにすること、、、。」

『だったら、ここにいれば破滅することなんてないのよ。幸せでいられる。』

「確かに、、、。そうかも、、、。」

『現世においてきた人たちのことはどう思う?』

「、、、。私がいなくても大丈夫かな、、、。私がいなくてもきっと幸せよ。」

『じゃあ、私たちと一緒に楽しく幸せに暮らしましょう?』

手を差し伸べられる。この手を取ればきっと、、、。

私は、脳裏に浮かぶあの人の顔と声を見て見ぬふりして差し伸べられた手を取った。

意識がまた沈んでいく。


episode19

【助ける方法を考えよう。】


時はローズが目を覚まさないまま3日立ったところまで遡る。

アルトたちからローズを助け出す方法をきいたクロエは、それをクロノ教官に伝えに言っていた。


「ふむ、、、。スティリス嬢がね、、、。」

「ああ。だからこれから対策を考えたいと思うんだ。どうしたらいいと思う?兄さん。」

クロノ教官に事情を伝えているのはクロノの弟であるクロエ・ヴェレリチアだ。

婚約者であるカメリアから事情を説明され、高等部からやってきたのであった。


「よし、わかった。うちの華クラスにはスティリス嬢を病気のため帰宅しているということにしておいてもらうとして、問題は、別クラスだな、、、。」

「それに関しては、ヘルベーネ嬢が動いてくれるそうです。」

「へぇ、、、。どんなふうに?」

「カメリアによればスティリス嬢の存在をそれとなく口にするのだとか。よくわかりませんが。」

「なるほど、、、。(さりげなく日常会話に話題を出すことによって記憶が消えるスピードを遅くするって魂胆か。面白いねぇ)」

クロノは目を細めてにやりと笑う。

「兄さん、悪い顔してるよ?」

「ん~?面白いことになってるなと思ってな。それよりヘルヴァイス嬢はどうだ?」

「これもカメリアからの情報ですが、スティリス嬢がいなくなったことにより好き勝手しているそうですよ。王族専用サロンに許可なしに入ったり、『アルト君の本当の婚約者は自分だ!」とか。男子生徒を侍らせている行為もやめてはいないようです。」

「周りの反応は?」

「令嬢たちからは大いに嫌われています。でもその状況を逆手に取るそうです。」

「逆手にねぇ、、、。例えば?」

「例えば、アルト君の婚約者だとヘルヴァイス嬢が言ったとしましょう。そしたら近くにいるであろうアルト君が『僕の婚約者はローズマリー・スティリス嬢だ!』と反論することで、スティリス嬢の存在を周知させる。ということらしいです。」

「よく考えたもんだな。」

「ええ。本当に。しかもこの案を考えたのはヘルベーネ嬢だとか。」

「ほう、、、。」

「一種の罪滅ぼしということで請け負ってましたね。」

「そうか、、、。報告ありがとう。そういえばライト達はどうした?」

「彼らなら、いつもどうり防音結界を張った専用サロンで。というわけではなく、王宮にあるアルト君の執務室で会議中ですよ。」

「立ち入りをよく許可したな。」

「この事態には、国王陛下と王妃殿下も目を背けるわけにはいかないということで全面協力ですよ。」

「スティリス嬢は人タラシか何かか?王族が自ら動くだなんてな。」

「兄さん、失礼ですよ。なんでも王妃殿下の熱気に押されたと陛下がおっしゃっていました。」

「ああ、今クロエは国王陛下の元で修行中だったな、、、。」

「はい。とても勉強になっています。時々惚気話を聴くこともあるんですよ。」

「楽しそうだな、、、。」

「その過程で怪しそうな大臣も探したりしてるんですよ。」

「、、、、お前もしかしなくてもやる気だな?」

「?何当たり前のことをおっしゃっているんです?カメリアの将来の義姉になる人のためですよ?それに個人的にスティリス嬢のことは気に入っているし、スティリス家にはいつもお世話になっていますから。」

「流石だな、、、。よし、じゃあ俺も動こう。クラスへの通達は掻い摘んで俺が伝えておこう。お前たちは好きなように動け。」

「ありがとうございます。是非そうさせてもらいます。」

「あとは、戦闘自習だな、、、。学年が違うんだよなぁ、、、。」

「それについてはお任せを。今年から中等部3年、高等部1年、2年による合同戦闘実習を行うことにします。」

「もう、手をまわしていたか、、、。」

「はい。アルト君たちは今年で卒業、カメリアたちは来年3年生。僕は高等部2年になります。ちょうどいいでしょう?先輩の背を見ながら戦闘実習をするという名目でやればごまかしは完璧です。」

「はぁ、、、。お前の手腕には驚かされるよ、、、。」

「ありがとうございます。合同戦闘実習のときにヘルヴァイス嬢を含めた他の生徒たちが実習をしているとき、アルト君たちには別行動をしてもらいますので何とかなりますよ。他の教官方への通達に関してもお任せを。明日、国王陛下直々の通達書を配付いたしますので。しかし、今年はもう無理です。魅了の魔術を何とか出来るというものが生えるのは今年なのですが精霊王からの許可がないということで採れません。」

「なるほど。国王陛下からの要望ならば逆らえないか、、、。今年は無理か。それならローズマリーには特別措置をとるか。」

「そういうことです。特別措置のことに関しては了解いたしました。」

「よし、報告は以上だな?行っていいぞ。」

「はい。それでは失礼いたします。」

そうして、クロエは退出していった。



時は少し遡り、王城の執務室にて


ローズが眠りから覚めないまま三日たった。

今現在、アルトたちは王城になるアルトの執務室で会議を行っていた。リュゼミアの妖精からの監視を防ぐためだ。

「さて、どうしようか、、、。」

「ローズ様の存在がなかったことにならないようにするにはどうすればいいかな?」

「うーん、、、。」

「あの、、、。」

ミルキーがおずおずと手を上げる。

「どうかしたのかな?」

「私、そのことについていい考えがあります。」

「言ってみてくれる?」

「はい。日常会話にローズマリー様の話題を含ませるのはどうでしょう?」

「例えば?」

「例えば、華クラスの令嬢とと私が話していたとして、私がローズマリー様の話題を出したとしましょう。ですが華クラスの令嬢はきっと忘れていらっしゃるかもしれません。なのでローズマリー様のことを教えたら記憶に残る。ということです」

「だが、それは華クラス内だけにしか効果がないんじゃない?」

「そうです。なのでここではアルティーオ殿下にご協力いただきたく、、、。」

「僕?」

「はい。リュゼミア様が勝手な行動をして、もしローズマリー様のことを話題に出したとしましょう。その時に殿下に取っていただきたい行動は否定と肯定です。」

「否定と肯定?」

「リュゼミア様がローズマリー様のことについて事実を言った時は肯定。嘘のことを言った時は否定して頂けばいいのです。」

「ふむ、、、、。なるほど。事情は分かった。それで大体は周知できるかもね。」

「それと、人脈なら俺とライトに任せられるだろ!あとはクロエにも任せようぜ!」

「クロエ様にですか?」

「おう!クロエは公爵家の人間だろ?それなりに人脈はあると思うぞ!」

「なぜ、クロエ様を呼び捨てに、、、。」

「んあ?言ってなかったか?俺とクロエは親戚なんだぜ!母上がクロエの母の妹なんだ!」

「なんだか、、、。親戚同士つながりすぎではありませんこと?」

「うーん、、、。私も知ったのがつい最近だったのよね、、、。二人でいるときは多かったけどあまりシル君の家にクロエ様はいらっしゃらなかったから」

リリーフィアは苦笑いだ。

「あっあの、クロエ様への伝言でしたらわたくしにお任せください!今日会う予定がありますの。一言一句丸々とお伝えしますわ。」

カメリアはうれしそうに言っている。自分のするべきことが見つかって嬉しいのだ。

「じゃあ、クロエへの通達はカメリアに任せるとして、別クラスはどうするかな、、、。」

「でしたら、ほかのクラスの方のついてもご安心を。元鳥クラスの私ならば顔が知れているところもありますから。」

「ありがとう。でもなぜそんなに動いてくれるんだい?言ってしまえば無関係だろう?」

「そうですね、、、、。無関係と言われてしまえばそうかもしれませんが、今回の発端は私の親戚です。

身から出た錆というわけではありませんが、後始末は必要です。自分の為に、親戚の為に。」

「まぁ理屈としてはかなっている?のかな、、、。」

「まぁ、いいんじゃないの?自分で好きなように動いたら?」

ソファアで横になっていたビリジオが反応した。

「ビリジオ!大丈夫か?」

ビリジオは今までリュゼミアが魅了の魔術を施したネックレスをどのように手に入れたのか、周辺のかかわりを調べていた。

寝ていたわけではなく、精霊の目を使用するときは横になっていた方がいいからだ。

「ええ。ようやくつかむことが出来たので。」

「それは本当!?」

「はい。欲を言うとこのまま芋づる式に国の膿を出したいところですね。」

「国の膿?」

「はい。怪しい動きをしている貴族と商人の繋がりを見つけることが出来たので。」

「あとは証拠だな、、、。」

「証拠についてはヘルヴァイス嬢の持っているペンダントが一つ、それと複製魔術を使い、文書の証拠集めが最適かと。」

「複製魔術、、、。しかしどうやって複製する?」

「そうですね、、、。ここはレイにやってもらいましょう。」

「私ですか?いいですよ!」

「それはいい考えね!」

「レイは複製魔術が得意ですものね。それに話術を駆使して相手の懐に入るのも得意ですから。」

「ふふーん。ティールズ家が得意とすることだからね!」

「そういえば、ティールズ家は写本などの模写などを生業としているのか、、、。」

「写本だけではなく、書物の写しや絵の複製も行っていますよ。絵の複製に関しては絵画ではなく本の挿絵のみですが。」

「絵本の挿絵の複製は作者が書くよりも複製した方が早いですからね!」

レイチェルの実家はヴェルト王国有数の本屋で、たくさんの書物を扱っている。書物の重版や挿絵の複製は複製魔術を駆使するもので、より精密なコントロールが必要になってくる。その中でも複製魔術を精密に使えるのはティールズ家のみなのだ。

それともう一つ言うと、複製魔術は本を一度読む必要があるので、レイチェルは頭がいい。

「いつ証拠を複製するか、、、。」

「あっ、そういえばビリジオ様!実家がそろそろ書物の個別売りを始めますよ!今年はたくさんの貴族の方にご相談をいただいたそうなので!」

「それを使おう。名簿は?」

「ちゃんと覚えてきました!あとはその中に該当する貴族がいるか確認するだけですよ!」

「よし。それなら___」

「まって。何のこと?先に説明してくれるかな?」

「すまない。まずは怪しい貴族と商人についてだな。怪しい貴族はストラーナ男爵とアロガン商会だ。」

「ストラーナ男爵、、、。確かに最近はきな臭いな。」

「アロガン商会ですか、、、。最近は動きが活発化していますね。」

「その、ストラーナ男爵とアロガン商会はつながっている。そして、ヘルヴァイス嬢が幼い時にアロガン商会の会頭と接触していることが確認された。」

「となると、商会と男爵がグルということだな。」

「ああ。」

「しかし、文書を証拠とするのだろう?レイチェル嬢の複製魔術を用いたとしても、、、。」

「そこで出てくるのが個別売りですよ。ティールズ家は毎年貴族の一人一人に個別で書物を売っているので。」

「個別売りに参加する貴族名簿の中にストラーナ男爵の名前があったので、私が行けば証拠が見つかりますよ!」

「そうか、、、。じゃあそこはレイチェル嬢一任しよう。」

「お任せください!」

「事が進んできたね。あとはいつ断罪するか、、、。」

「アルトが卒業するときで良いんじゃないかな?ぎりぎりまで泳がせて捕まえようよ。」

「となると、卒業パーティーの時になるな、、、、。」

「ヘルヴァイス嬢はきっとここで何かを起こすつもりだろう。その時にすべてを終わらせることにしよう。」

「おめでたい場所なんだけど、、、。」

「仕方がないだろう?それに仕切り直しをすればいいさ。」

「だが、アロガン商会とストラーナ男爵はどうする?」

「それについてはアロガン商会からは子息が、ストラーナ男爵からは双子の令息と令嬢がいますね。どちらもクラスは別ですが同学年ですよ。」

「なら、保護者として来る可能性があるということか。」

「捕まえた後は、屋敷の中を捜索して、他の繋がりを見つけよう。」

「よし!順調だな。」

「、、、、兄様、待ってください。」

「どうした?ピアン。」

ずっと黙って話を聴いていたピアンフォードが口を開く。

「戦闘実習は中等部三年だけだよ?、、、ついてこれるの?兄様たちは戦闘実習もうすぐだよね?」

「考えたくはなかったがそれが問題だな、、、。精霊王からの許可がないから採れない。」

「これが一番大きな壁だな、、、。」

「僕たちの卒業は今年、、、。どうするか、、、。」

「ごめんなさい、、、。大事なことだと思ったので。」

「いや、ピアンは悪くない。」

「、、、。アルト、今日はここまでにしよう。皆が疲労している。明日からは個人で動いてもらうから今日は休んだ方がいいよ。」

「それもそうか。じゃあ最後に確認しようか。一つ目、ローズの記憶のことに関しては全員で動いていく。この時にヘルヴァイス嬢の怪しい動きとかも見ていてほしい。

二つ目、証拠集めは、ビリジオとレイチェル嬢メインで動いてもらう。集めるものは商会と男爵の繋がりを示すものと、ヘルヴァイス嬢とのつながりだ。

これでいいかな?じゃあ、それぞれ明日から動いてもらう。頑張っていこう。すべてはローズを取り戻すためだ。」

「「「「はい!!!」」」



この日から、ローズを取り戻すため、戻ってきてからローズが安全に暮らせるための動きが始まった。

まず、全員でローズマリーのことを周知させ、記憶が消えることを阻止する。

次に、ビリジオは証拠集めや国の膿を出すために精霊の目を使って探していく。レイチェルは実家から顧客名簿を取り寄せ証拠を集める。

最後に、全員でリュゼミアの動きを徹底監視。これにはルーチェやアルベロに協力してもらう。


そして、この動きを始めてから数か月がたった。いまだにローズマリーが目を覚ますことはなく、とうとうスティリス家へ帰宅させることになった。

スティリス家で療養するという名目のもと、ローズマリーの身体はスティリス家の屋敷、ではなくスティリス家が治める領地へ速やかに運ばれた。



スティリス領の中で最も栄えている街「エビベロ」

そこにライトとアルト、アリスが訪れていた。


「アリス、ローズの事頼んだよ。」

ライトの目線の先には着替えさせられ、ベッドで静かに眠るローズマリーがいた。

「お任せください。必ずお守りします。ジュディ家の名に懸けて」

「在学中に何かあったら心配だからエビベロに連れてきたけれど、本当に大丈夫だよね?」

「大丈夫だよ、アルト。エビメロは栄えている街でもあり、今の統治は父上に代わりジュディ家が統治しているから。」

「はい。私の母が主体となって動いてくれています。屋敷の中にいるメイドや執事は全員ジェーン一族ですから、何かあっても

すぐに対処できます。24時間体制でお守りできますわ。」

「だそうだ。だから安心して僕たちは学園に戻ろう。」

「ジュディ一族なら安心だね、、、。わかった。」

「ライト様、アルティーオ殿下、ご武運を。」

「ありがとう、アリス。行ってくるね」

「いってらっしゃいませ。」



episode20

【いざ、ローズマリーの救出へ。】


ローズマリーの身体をエビメロへ届け、アルトたちが学園へ戻ってきてから一年経つ。

現在は、12月。アルトたちが中等部を卒業し、高等部まで進学するまであと3か月とちょっとになった。

そして、アルトたちは執務室で会議をしており、アルトの耳にローズマリーの声が聴こえたところまで戻る。



「何か、お困りのようねぇ?助けになってあげましょうか?」

急な来客に目を見開く一行。

「あっあなたは、、、!?」


「王妃殿下、、、!」

そこに現れたのはヴェルト王国の王妃、シルエラ・ヴェルトその人であった。

「母上、、、。なぜここに、、、。」

「なぜって、ローズマリーちゃんを助けるためよ?事情はなんとなくセレナードから聞いているわ。」

「そうでしたか。」

「うん。それで困っていることはなあに?力になれることがあるなら協力するわ。」

「実は、」

アルトはつい数分前に起きたことを説明した。

「なるほどねぇ、、、。ローズマリーちゃんの声が聴こえて、そして精霊王たちはローズマリーちゃんを返す気がないということね。」

「はい、、、。」

「うーん、、、。精霊王に掛け合うことはできるわ。でも、ローズマリーちゃんを取り戻すのは自分たちでやってほしいわね。」

「精霊王に掛け合うことが出来る!?どういうことですか母上。」

「精霊王とは学生時代に知り合ったのよ。今はどうしているかわからないけれど。」

「王妃殿下にそのような過去が、、、!」

「お母様、、、。」

カメリアがシルエラを不安そうな顔で見ている。

「あぁそんな顔をしないで、カメリア。大丈夫よ。あの人たちは過去に囚われているだけ。」

「過去?」

「そうよ。初めての愛し仔が誕生してから今まで何人もの愛し仔の命は散っていった。その命の散り方は様々だけど。

そして、あの人たちは過去を繰り返したくないから愛し仔を閉じ込めることにした。というところね」

「だから、連れ去ったということですか?」

「ええ。愛し仔は精霊からも妖精からも無償で愛される存在であり唯一無二。変わりはいないのよ。」

「でも、僕たちからローズを奪っていい理由にはなりません、、、!」

「そうね。あの人たちはね過去にあったことと現在起きていることを重ねてもいるのよ。」

「どういうことですか?」

「、、、昔話をしましょう。あるところに一人の女がいました。女は人に愛されたことがありませんでした。両親も周囲の人たちも誰も愛してくれません。悲しみに明け暮れているその時、女は一人の男と出会いました。男だけは自分を見てくれました。女は愛されることを知りました。そしていつしか誰からも愛されたいと思うようになりました。男にそれを伝えると、男はペンダントと一冊の本を持ってきました。男は本を渡しながら言いました。『この魔法を使えば愛されるよ』と。

女は渡された本を見ながら『いいの?』と聞きます。男は『いいよ。』と答えました。そして女は泣きながら『ありがとう。そしてごめんなさい。』といい、描いた魔法陣の上にペンダントを乗せ、本と一緒に同封されていたナイフで男を刺しました。女は願い通り誰からも愛されるようになりました。最初はうれしかったけれど、月日が経つにつれて女は心にはぽっかりと穴が開いたような感覚に襲われるようになりました。その感覚が分からず女はもっと愛されることを望みました。

でも、愛されても愛されても穴は埋まらないまま。困り果てた時、部屋の中にあったいつしか一人でいたころであった男との思い出であるペンダントが目に入りました。

そこでようやく女は理解しました。『自分が本当に欲しかったのは複数から向けられる愛じゃなくて、一人から向けられる愛だ。』と。

そして一人から向けられる愛はかつて自分を救ってくれた男から向けられた方のだと。女は後悔しました。その後女は自分が死ぬその時まで思い出のペンダントを持っていたのでした。」


「、、、。」

誰もしゃべることが出来ない。いやしゃべれない。

「さぁ、この話を聴いて何か気づいたことはない?」

「、、、。もしかして、最悪の奇跡?」

「そうよ。これは最悪の奇跡と一つの禁忌魔法が出来た時のお話。」

「その一つの禁忌魔法って、、、!」

「ライト君が予想している通り、『魅了の魔術』。これは今の話があって完成したものよ。」

「今、魅了の魔術を使っているのはヘルヴァイス嬢、、、。ということは」

「そう。彼女は愛されることを望んでいる。でも、望みは大きすぎて禁忌にまで手を伸ばしてしまった。」

「それが、過去と重ねているということですね。」

「ご名答。さて、どうするのかしら?」

「このままでは、本当に今の話のようなことが起きてしまいますね。」

「ローズ様、、、。」

「はぁ。それを助けるために私が助けに来たのでしょう?」

「はい、、、。」

「じゃあ、一つ問題です。私はなぜあの話を知っていたでしょうか?」

「そんなの、本を見たからに決まっているのでは、、、?」

「不正解。この話は本にされていないのよ。」

「もしかして、記憶?」

「あら、スノウちゃん気づいたの?」

「仮説ですが、、、、。。先ほどルーチェ様がローズ様は記憶を見せられているとおっしゃっていました。そして、王妃殿下のお話も記憶のお話。

ということは、この話は愛し仔しか聞くことが出来ないものということですか?」

「大正解!そうよ。このお話は私が過去に見たもの。記憶の断片としてね。」

「じゃあ、お母様は愛し仔ということですの?」

「元、愛し仔だけれどね。だから、そのお話を知っているの。連れていかれたことあったからね。」

「元?」

「私は、確かに愛し仔だったわよ。でもそれは過去のお話。今の私は愛し仔ではない。だってその愛し仔としての力を破棄したのだもの。」

「破棄?そんなことが出来るのですか?」

「一応ね。だから今の私は金色の瞳じゃない。愛し仔の特徴に金色の瞳があったでしょう?」

「異界の扉を開くことが出来る。でしたっけ?ほかにも条件があるのだとか。」

「そうそう。ただ金色の瞳だけではだめと言うことよ。」

「しかし、どうやって破棄なさったのですか?」

「これは代償。一つの物を救うために私が代償としたものよ。ピアンちゃん、私の契約精霊わかる?」

「はい、、、。スティヒオさんでしたよね?」

「そうよ。スティヒオは何の属性でしょう?」

「すべて使っていたような、、、、。」

「あの子はね、一つの属性ではなくて全属性を持った精霊だったのよ。そして、『妖精縛りの術』にかかっていた。

それを解くために私は愛し仔としての物をすべて破棄した。」

「でも、最悪の奇跡は魂を媒介に、、、。」

「ええ。だから私は魂の半分と愛し仔の素質を媒介にしたわよ。」

「魂の半分!?」

「そうよ。私は自分の人生が終わったら精妖界に行くことになっているから。」

「まさかの事実、、、。」

「これを承諾したうえでセレナードは一緒にいてくれるからね。」

「ははは。」

アルトは苦笑いをする

「さて!お話は終わり!次よ。ローズマリーちゃんを助け出す方法よ!」

「そうでした、、、。どうすればよいのでしょう、、、。」

スノウがそうつぶやくとシルエラは表情を変え、まっすぐとアルトを見る。

「アルト、あなたには精妖界へ入ってもらいます。ローズマリーの花をもって。」

「でも、人間は愛し仔しか、、、。それにローズマリーって、、、。」

「そうね。でも、精妖界への扉がチャンスがあるわ。その時に行きなさい。」

「チャンスとは、、、。」

「それは、新月の日よ。」

「新月の?」

「ええ。その時にローズマリーをもって入りなさい。」

「ローズマリーって、、、。」

「ローズマリーの花のことよ。ローズマリーの花言葉は『思い出』『変わらぬ愛』『あなたは私を蘇らせる』そして『私を忘れないで』」

「!!!」

「アルト、ローズマリーちゃんはね記憶を見せられて自分に関しての記憶は消えていくと言われたとしても心の奥底では私を忘れないでほしいと思っているはずよ。

アルトは、どう?ローズマリーちゃんの事考えてる?忘れてない?」

「もちろんです。あの日から一年たってもずっと、、、。頭の中にはローズのことばかりで、、、忘れられません。」

「なら、必ず助けに行きなさい。幼いころのアルトが分からないといった愛する人はまさに今目の前から消えようとしているわ。それでもいいの?」

「いやです。僕は絶対にローズを支えていくと決めました。絶対に取り戻して見せます!」

「その言葉が聞けて良かった。日時は戦闘実習の日。頑張りなさい。」

「ありがとうございます、、、。」

「みんなも、どうかアルトの事よろしくね。」

「「「「はい!!」」」



「過去に囚われ、あったことを忘れないようにすることは大事よ。でも、囚われすぎて誰かの人生をダメにするのはいけないことよ。過去は過去で割り切らなきゃいけない。過去を振り切った先に見えるのは美しい未来。、、、、、頑張ってね、アルト。」



窓から見える美しい景色とヴェルト王国を眺めながらシルエラは呟いた。




月日は流れ、アルトたちは高等部1年生にスノウたちは中等部3年生になった。

今日がいよいよ戦闘実習の日であり、新月の日だ。

今のところミルキーの案が功を奏し、ローズマリーの記憶を失うという事態は防げている。

だが、すべてがうまくいっているということはなく記憶を失っている人はいる。


「今日が、、、、。」

アルトが緊張したように言う。

「大丈夫だって。アルトならできるだろ?」

「やるしかないよね。これも持ったしあとは僕が頑張ろう。」

「その意気だよ!」

今アルトたち高等部1年生、2年生と中等部3年生は戦闘実習が行われる精妖の森へ向かう馬車に乗っている。

アルトの手にはローズマリーの花を使って作られたしおりが握られている。


馬車が止まる。到着したのだ。

そして、一行は森の入り口から奥へと進み最深部近くへと到着した。

「いいか?ここからは魔獣の数が増え、強さも格段に上がる。そのときに日ごろの成果を発揮して見せろ。一班につき教官と高等部の先輩が付く。心強くなったとしても油断するな、気を抜くな。いいな?そして全員生きて学園に帰ろう。」

クロノはそう締めくくった。

「じゃあ、前日に伝えた班に分かれて早速開始してくれ。」

生徒たちが動き始める。

「アルティーオ様ぁ、同じ班になれなくて残念ですぅ。」

「仕方がない。教官が決めたことだからね。」

「アルティーオ様に守ってもらえたらとても心強いのにぃ。」

まとわりついてくるリュゼミアを何とかかわしながらアルティーオたちは歩を進めた。




アルティーオたちは順調に最深部へ進んでいた。しかし、精妖界とつながる大樹の一歩手前でその大樹を守るかのように大きな魔獣が出現したのだ。

「強い、、、!」

スノウが魔弾を乱発させ、魔獣の目をくらまし隙が出来るように誘導する。

「でも、ローズ様の苦しみに比べたらなんてことありませんわ!」

そういいながらエリスは隙が出来た魔獣に剣を振りかざし首を切った。

魔獣は物理攻撃も魔法攻撃も使える厄介な魔獣で、苦戦を強いられていたがエリスが機転を利かせ、討伐に成功したのだった。


「これで、ようやく入口が見えてきましたね。」

「みんな大丈夫?」

「問題ありません。」

スノウが答え、周りの面々も首を縦に振る。

「よし。じゃあ行こう。」

『ここからは精妖界よ。みんな今まで以上に気を引き締めてね。』

精妖の森に入った直後に合流したルーチェが言う。

精妖界への入り口は人が通れるぐらいの広さで仲が見えないほどに暗かった。

そして一行は中へ入っていった。


精妖界、それは妖精と精霊の住処。生い茂る木々に永遠と湧き出る水、赤々と燃え盛る炎。すべては生まれてくる精霊と妖精のために精霊王が作り出した尊き場所。

今まで見たことがない景色に目を奪われるアルティーオたち。

『さぁ、ついたわ。ここが精妖界よ。私達の生まれた場所。』

「綺麗だね、、、。」

『ありがとう。ここで全ての精霊と妖精が生まれるのよ。』

「そうなんだ、、、。」

『さて、精霊王様の住まう王宮へ行きましょう。』

「ああ。」

ルーチェとアルベロが先導し、後ろからはフランが。一行は着々とローズマリー奪還へ進んでいくのだ。



王宮は立派なところだった。ヴェルト王国では王宮の床材にしか使われない白床の結晶をこれでもかと贅沢に使用した柱と壁。それらには細かな模様が描かれており

人間の技術では到底追いつけぬほどに立派なものだった。そして、天井からは自ら光を発する鉱物を使用したシャンデリアが。未知なるものの存在にアルトたちは圧倒されていた。

『すごいでしょう?これはすべてこの世界の自然界に存在する物だけで造られたものなのよ。』

「凄すぎて言葉が出ないよ。」

ライトはあたりを見渡しながら言う。

『ふふふ。私達にとって自慢の建造物なの!』

「ああ。本当にすごい。」


『やっと来たのか。』

王宮の中に声が響き渡る。アルトたちは警戒態勢をとる。

『そんなに警戒しないで?』

『待ちくたびれたのぉ』

「誰ですか?」

『私たちの生みの親である精霊王様よ。』

「えっ」


『いかにも。我らはこの精妖界を統べる者だ。』

「姿を現してほしいのだが?」

『そんなに焦らずともよいではないか。せっかちじゃのう』

『うふふ。でも、姿が見えた方がいいのも確かよね。』

女性の声が聴こえたかと思うと次の瞬間には美女が二人と美丈夫が立っていた。

『初めまして。我の名はネロ。水の精霊王だ。』

『わらわの名は、フォティア。火の精霊王だ。』

『ツリーよ。木の精霊王をやっているわ。』

『それで、ここに来た人間たちよ、そなたらは何をしにここへ来た?』

「それは、僕の婚約者であるローズマリーを取り戻しにです。」

アルトの言葉にネロは目を少し見開いた。

『驚いた。記憶をなくしておらぬとは、、、、。』

「ここにいるみんなも現世にいる人たちもローズのことは忘れていないよ。」

『人間の行動力にはいつも驚かされてばかりじゃ。』

『ほんとねぇ。』

「それで、ローズマリーはどこにいる?」

『、、、。愛し仔を現世に連れ戻すのはやめてほしい。と言ってもそなたらは意地でも連れ戻すのであろう?』

「もちろんですわ!ローズ様はわたくしの親友なのですから!」

『親友、、、、。ルミ、、、じゃなかった。今の名はルーチェだったのう。』

『ええ。マリーからもらった大事な名前よ。』

『そうか、、、。そこの者よ、愛し仔に何があっても親友だとそなたは言うか?』

フォティアはスノウを見ながら言う。

「はい!わたくしの親友はローズ様ただおひとり!一生に一人しかいない大事な方ですわ!」

スノウは誇らしそうに言う。

『!!。そうか、、、、。ネロ、もうあきらめた方がよいのではないか?』

フォティアはスノウの言葉に懐かしそうな、嬉しそうな表情でネロに言う。

『フォティアちゃん、、、、。』

ツリーはそんなフォティアの様子に泣きそうだ。

『、、、、。流石はエルの子供か、、、。』

「エル?」

『全く、、、。貫きたくても貫けないものだな、、、。』

「あの、さっきから何をおっしゃっているのですか?」

『ああ、すまない。、、、さて、人間たちよ。そなたたちは愛し仔であるマリーをこれからも守ることが出来ると誓えるか?』

ネロはアルトたちに向き直ると真剣な表情になる。

「僕は、、、。絶対に誓えるとはいえません。」

『なに?』

アルトの言葉に眉を顰めるネロ。

「なぜなら、人は間違いを起こすものだからです。誰しもが完璧ではありません。過ちを犯しながら人は成長していきます。僕は、ローズのことを最大限守りたいとは思います。しかし、守っていく中で必ず間違いを起こし大きな壁にぶつかってしまうときがあります。その時は二人で、、、いや、皆で大きな壁を乗り越えていきたいとそう思います。」

アルトは言い切る。

『ははは、血は争えんなぁ。、、、いいだろう。マリーに会わせてやる。マリーはこの先だ。』

ネロはあきらめたように言った。するとネロの後ろに扉が現れた。

「ありがとうございます。」

アルトはそう言って扉をくぐった。その後ろにライト達も進もうとする。しかしフォティアが前に立ちふさがった。

『ここから先はあの者しか行かせぬぞ。おぬしたちはそこで待っておれ。』

「なぜ、、、。」

『囚われた姫を助け出すのは王子だろう?』

「なるほど、、、。」

『なぜ、すんなりと通したのですか?』

ルーチェが訪ねる。

『本当は試練を課すつもりだった。しかしお主たちの姿にエルたちの姿が重なってしまってな。試練を課す気も失せた。』

『それに、エルちゃんからお小言も頂いちゃったしね。』

『立派になったのう、、、。安心したのじゃ。』

「さっきから言うエルとは誰ですか?」

ピアンが訪ねる。

『知らぬのか?シルエラ・ペルシクムのことじゃよ。』

「母上のことだったのですね。納得がいきました。」

『そうか。では、二人の様子を見届けようかの』

フォティアは虚空に手をかざす。するとアルトの姿が映し出された。



episode21

【愛し仔の帰還。】


「ここは、、、。」

扉を抜けた先にあったのは部屋だった。大きなベッドにチェストやテーブル、部屋の中は充実している。

アルトは周りを見渡し、一つのところをみつめる。アルトの視線の先には、椅子に座っているローズの姿があった。

「ローズ?」

アルトの声に、ローズは反応し振り返る。そしてアルトは、ローズの姿に目を見開く。

ローズはネグリジェに着替えている。そこまでは良かった。でも肝心なのはその表情だ。

ローズの目からは光が抜けており、ただ微笑しているだけの機械的な表情だった。

「アルティーオ様、ですか?どうしてここに?」

「どうしてって、君を連れ戻しにだよ。」

「なぜですか?」

「なぜって、、、。君が必要だからさ。」

「そうですか、、、。でも、私は現世に帰る気はありません。」

「どうしてだい?」

「現世に居たら私、幸せになれないじゃないですか、、、。ここはいいところです。殺されることも利用されることもない。自分が好きなことが思いっきりできる。」

「殺されるって、、、。」

「私ですね、これまでの愛し仔の記憶を見たんです。そしたら怖くなったのです。自分がもしこんな目に遭ったらって、、、。」

「それでも、現世には君を待っている人たちがいる!その人たちの気持ちはどうなるんだい!?」

「そんなのは嘘です!私の存在はなかったことになるって記憶はなくなるって言われたのです!、、、、居場所がない現世に帰ってどうするのですか、、、。」

とうとう、ローズは金色の瞳から涙をこぼし始めた。

「ローズ、君の存在はなかったことになんてなっていないよ。みんながローズの帰りを待っている。それにこっちでは1年たっているけれど僕は記憶をなくしてなんてないだろう?」

「嘘です、、、。そんなことはないのです、、、。アルティーオ殿下が覚えていても他の方々はわからないじゃないですか!」

泣きじゃくるローズ、それに近づくアルト。

「やめて、、、。来ないで、、、。私の居場所はもうとっくにない!帰っても意味はないの!」

「いいや、あるよ。僕にとって君は必要な人だからね。」

「なんで?、、、私がいなくなったのに好いた方と結ばれてくれないんですか、、、?」

「え?」

ローズの言葉に固まるアルト。

「アルティーオ様には好いた方と結ばれてほしいのに、私は当て馬的な存在だったのに、、、。」

「待って待って。なんでそうなるの?」

「え?だって私は悪役令嬢で、、、。」

「悪役令嬢?そんなの知らないし、僕ローズの事好きだよ?」

今度はローズが固まる番だった。

「だって、そんな素振りなかったでしょう?てっきり私は好かれていないと思っていたのですが、、、。」

「はぁ、、、。こればかりは僕のせいだね。ごめんね。それと、好いた方って誰の事?」

「ミルキー様ですね。」

「なんで!?ミルキー嬢には婚約者いるよ!?」

「婚約者の方いらっしゃったのですか、、、。」

「そうだよ。もう、、、。ローズが思っている以上に僕はローズの事好きだよ。まぁ自覚したのはだいぶ遅かったけどね。」

「うう、、、、。でも、私はきっとリュゼミア様に殺されてしまいますわ。聞きましたもの、精霊王様から。」

「そっか、、、。ヘルヴァイス嬢の目的は知っていたんだね。」

「はい。なので____」

「それ以上は言わせないよ。ローズがいなかったら僕は幸せになんてなれないんだからね。ローズは僕のことどう思ってるの?」

「わっ私は、、、、」

下を向くローズ。

「顔、上げてほしいなぁ。」

そういわれ渋々顔を上げるローズ。どこかで見た光景だ。そのローズの顔は赤くなっていた。瞳に光は戻っていないが。

「、、、、。お慕いしております、、、。」

「やっと言ってくれたね。うん、僕もローズのことが好きだよ。」

「でも、わたくし記憶がないのです。」

「記憶が?」

「私に関しての記憶がなくなるのならば私の中にある記憶もいらないと思いまして消していただいたのです。だから、今は名前だけしか思い出せないのですよ。」

「じゃあ、今のはなに?僕たちに関しての記憶がないならなぜ、」

「それは、、、、。今の私には二つの心があるからです。それは頭の中にあった私と心の中にある私です。頭の中の私は記憶がなくて抜け殻の状態なんです。でも、心の中の私は違います。心の中の私はずっと叫んでいます。『自分の気持ちに素直になれ』と。なので、私はそれに従ったまでです。」

「ふむ、、、。素直になれと言われて出てきた言葉がそれはうれしいかな、、、。でも、大丈夫。ローズの記憶は元に戻るよ。」

「根拠がありません!方法なんてあるわけが、、、。」

「あるよ。これを使う。」

そういってアルトが取り出したのはローズマリーの花を使ったしおりである。

「それは、、、。」

「ローズマリーの花だよ。まぁ見ててよ。、、、【アプレ・レヴェイエ】」

アルトがそう唱えるとしおりが光る。正確にはローズマリーの花が光っているのだが。これはフランに渡されたもので特定の言葉を唱えると効果を発揮するというものだ。

今回の特定の言葉とは花言葉を基にしたもの。記憶を思い出させたいという願いから、呼ぶという単語と起こすという単語を組み合わせたものだった。

それが特定の言葉である。

光が収まるとローズは目を開ける。ローズ瞳の中には光が戻っており、ローズは涙をこぼしていた。

「アルティーオ様、、、。」

「ローズ、思い出したんだね。」

「はい、すべて。連れ戻しに来てくださってありがとうございました。」

「、、、アルトって呼んでほしいな?せっかく想いは通じたのに。」

「えっあっ、、、、。アルト、、、様、、、。」

顔を赤くしてローズは言葉にする。

「今はそれで勘弁してあげるね。」

「がっ頑張ります!、、、、あっ」

その瞬間ローズの身体が透け始めた。

「ローズ!?」

「大丈夫ですよ。ただ私の身体に魂が戻るだけです。だから、私をまた迎えに来てくださいね。」

「もちろんだよ。また、現世で会おうね」

「はい!」

そして、完全にローズの姿が消え、場所は扉をくぐる前にいたところに戻る。


「終わった、、、?」

『ローズの魂は身体に戻ったか、、、。まぁいいだろう。、、、愛し仔は返したぞ。』

「アルト!やったな!!」

「おめでとうございます。アルト様。」

口々に祝福の言葉をかけられ嬉しくなるアルト。

『精霊王様、、、、。』

『よいよい。これも運命じゃ。さてと、人間たちよここまで頑張ってきたのであろう?これはわたわたちからの餞別じゃ。受け取るがよい。』

そういって、フォティアはアルトの手に何かを渡す。

「これは、、、。」

『禁忌の魔法を防ぐための耳飾りじゃ。見たところおぬしらは婚約者同士なのであろう?お揃いにしてあるから大事に使うがよいぞ。』

「ありがとうございます。」

『よかったわね。、、、、これからきっと最悪の奇跡が降りかかると思うわ。その時はみんなで助け合ってね。』

『それと、必ずマリーを守るのだぞ。もし、またここに連れてこられるようなことがあったときはどうなるかゆめゆめ忘れる出ないぞ。』

「肝に銘じておきます。」

『うむ。、、、では、現世に戻すとしよう。、、、シルエラによろしく頼むぞ。』

『達者でのう』

『いつか、遊びに着て頂戴ね!』

「なぜ、母上が、、、。まぁわかりました。それでは!」

そういって、アルトたちの目の前から精妖界の姿は消えていき、気が付くと大樹の前に立っていた。

「おっ終わったか?」

「クロイ教官、、、。」

「その様子だとうまくいったみたいだな。」

「はい。ご協力ありがとうございました。」

「まぁ、礼なら今度にしてくれ。ほかの生徒は先に帰っているから早くいくぞ。」

「はい。」


こうして、アルトたちはローズを取り戻すことに成功したのであった。そして、これから学園に戻っても問題は山積みだ。

それでも、アルトは頑張っていける。なぜなら、愛しい人と信頼できる仲間がいるからだ。



episode22

【学園に戻ってからのこれからと卒業式】



ローズが精妖界から戻ってから約半年がたった。ローズは中等部2年から休学していたので進級できるかどうか不安だったが進級試験を特別に受けられることになったため進級試験を受け、合格し今は中等部3年になり、現在は1月だ。僕たちは今年、高等部2年となりローズたちは高等部へ進学となる。そして、この半年の間でたくさんのことが起きた。

まずは、ストラーナ男爵とアロガン商会についての証拠が集まったことだ。

ストラーナ男爵は賄賂と資金着服の証拠が、アロガン商会は奴隷商売と密猟の証拠が集まった。すべてを複製魔術で複製してあるため逃げられても問題ない。

まぁ逃がす気はないが。卒業パーティーで断罪してやる、、、、。

次に、僕が正式に立太子したことだ。これで僕の次期国王としての着任が確実となった。

最後にヘルヴァイス嬢のことについてだが、彼女はストラーナ男爵とアロガン商会に利用されていただけだったが禁忌に手を触れているため牢屋行きということに変わりはない。

未成年であるからただの牢屋行きで済んだのだ。普通なら絞首刑になってもおかしくはない。

そしてローズへの嫌がらせだが、ローズが学園に戻ってきてからエスカレートしており、階段から落とされそうになったり戦闘訓練中に誤爆させようとするなど結構悪質だ。すべては契約精霊の協力とスノウ嬢たちのおかげでローズ自身に被害が起きたことはないのでよしとする。

このまま、卒業パーティーでは何も起きずに終わってほしいがそれは問屋が卸さないというものだ。



3か月経ち、ローズたちがが高等部へ無事進学してから、早4ヶ月。月日の流れは速い、、、。

そんなこんなで僕とローズは今、執務室で小さなお茶会をしていた。

「ローズとのお茶会っていつぶりかな?」

「最近は執務が忙しかったのもありますし、数か月ぶりですわ。」

「一応ひと段落付いたから、今日は卒業パーティーでローズが着るドレスを決めようと思うんだ。」

「ドレスですか、、、。」

「うん。無事に終わるかどうかは置いておくとして、どうしようかな?」

「アルト様にお任せしてもよろしいですか?」

「それはいいけど、、、。」

「アルト様がデザインしたドレスを着て、アルト様を送り出したいので、、、。」

わお、、、、。僕の婚約者がこんなにもかわいい、、、、。

「わかった。最高のものを仕立てるよ。出来上がるまでは見せないよ?」

「はい。楽しみにしていますね!」

うんうん。ローズには笑顔が似合うね。

さて、卒業パーティーでの対策はどうしようかな?



ローズとの小さなお茶会が終わってからまた数か月がたった。僕はローズの為にドレスをデザインし、布から装飾から何から何まで手配し、ついに完成したと報告を受けた。卒業式まであと1か月ちょっとである。

「凄いな、、、。」

ドレスが飾ってある部屋にライトを呼んでみた。一応お義兄様から合格をもらっておこうと思ってね。

「でしょ?ローズの為にあるこの世で一つのものだよ。」

「しかもこの布、丈夫だね、、、。」

「おっわかってくれた?ローズに何があっても守れるように丈夫で軽い布を使ったんだよ。」

「流石だね。」

「これには母上が協力してくれてね。とても参考になったよ。」

「そっか。、、、あと1か月だね。」

「うん。これで決着がつく。」

「お互いに、できることをしようね。」

「そうだね。配置はどうする?」

「もちろん、ジュディ一族に協力してもらうよ。」

「本気だねぇ。」

「当り前でしょ。妹のためだよ。」

「変わらないね。、、、さてあと少しだ。」



お前たちが地獄を見るのはあと少しだ、、、。首を洗って待っておいてね。



ついに一か月がたち僕は今日ヴェルト王立ヴェルト学園を卒業する。

式典を終え、今は卒業パーティーの準備をしている。

「アリス、二人の動きは?」

「問題ありません。先ほどホールに入っていきました。」

「ありがとう。もうそろそろかな?」

「殿下、お嬢様の準備が整いました。」

ひょっこりと扉からメイドが顔を出す。

「ありがとう。入っても?」

「大丈夫です。お嬢様、アルティーオ王太子殿下がいらっしゃいました。」

メイドが呼びかけると少し遠くで声がする。

「いいわよ。」

という声が聴こえメイドが再び扉の前に戻ってくる。

「お入りください。」

メイドに促され僕は中に入る。

中にいたローズはびっくりするほどに綺麗だった。

プリンセスラインのドレスにはラベンダー色の布を使い、銀糸で刺繍をしてある。そこに白いバラとブルーパールを縫い付けている。

何重にも布を重ね、ふんわりとさせてある。そしてこの布は軽いが丈夫であり耐久性も問題ない。

上半身はベアトップとクロスホルターを組み合わせたものにしてあり、クロスしている部分の中心には大きな白いバラを付けている。

耳飾りには精霊王からもらったお揃いのものを付け、長い手袋をはめる。バラとパールを組み合わせた髪飾りには銀色のチェーンをつなげておく。

ローズが動くたびにチャラチャラと動く仕組みだ。髪型も今までで一番凝っているものにしてもらった。

「どうでしょうか?」

恥ずかしそうに言うローズ。

「、、、とっても似合うよ。綺麗すぎて反応が遅れちゃったよ、、、。」

「嬉しいです。」

社交界デビューの時のようにはにかむローズ。

「さぁ、入場の時間が迫っているよ。行こうか。」

「はい。」

ローズをホールの扉前までエスコトートしていく。周りにいる保護者の人たちや騎士たちははローズを見ただけで頬を染めてため息をついている。

『アルティーオ・ヴェルト王太子殿下並びにローズマリー・スティリス侯爵令嬢、入場。』

僕たちは一番最後。今回は爵位の低い人たちからの入場である。

ホールに入り、僕たちは大きな拍手を受ける。周りを見ると先に入場していたスノウ嬢たちやライト達がいた。その後ろ側にはミルキー嬢がいた。婚約者の人が卒業生なのだろう。そしてヘルヴァイス嬢が男子生徒を侍らせた状態でこちらをすごい形相でこちらを見ていた。でも、それを無視してローズと一緒に中央へ向かう。壁側にはジュディ一族の人たちが配置してある。きっと何とかなるだろう。

「さて、卒業生諸君とパートナーの皆さん、本日は卒業パーティーですね。この日までに沢山のことがあったでしょう。そのことを思い出しながら今日は楽しんでください。

学友と懐かしい話をするのも良し、パートナーの方と過ごすも良しです。今日という日が一番の思い出になるようにしましょう。」

そう締めくくった。あたりからは拍手が聴こえる。さて、この言葉に彼女はきっと食いついてくるはず。

「そして、僕からもう一つ。僕、アルティーオ・ヴェルトはローズマリー・スティリス嬢と共に未来を歩み幸せになると誓い、また、彼女が学園を卒業した後正式に国王と国母としてこのヴェルト王国を発展していくと誓います。」

あたりはまた大きな拍手と歓声に包まれた。さて、これにどう動く?

「お待ちください!」

来た。さぁここからだよ?

「どうしたのかな?大きな声を出して。、、、ヘルヴァイス嬢?」

「殿下は、ローズマリー様に騙されています!」

「えっ、、、。」

ローズが顔を青くする。心当たりがなくて戸惑っているのだろう。

「ローズマリー様は私に嫌がらせをしたり、階段から落とそうとしたり殿下がいらっしゃるのに他の殿方をたぶらかしたりなさっていました、、、。ひどいことをしました!そのような方が国母としてふさわしいのでしょうか!?」

声高らかに言ったね、、、。

「でも、私はそんなローズマリー様を許したいと思います。そして、おかわいそうな殿下を支えていきたいですわ。」

何を言っているのだろうか、、、、。後ろをよく見ると令嬢たちがこそこそ噂話してるね。

『ローズマリー様がそんなことなさるわけがないわよね、、、。』

『当り前ですわ、、、。ローズマリー様は侯爵令嬢として殿下の婚約者としてふさわしい行動しかなさっていますものね。』

『それよりも、リュゼミア様の方が令嬢としての礼儀やマナーを欠いていませんこと?』

などなどが聴こえる、、、。

「リュゼミア様、あなたの方がおかしいと思いますわ。」

スノウ嬢が冷徹な目でヘルヴァイス嬢をにらんでいる。

「なっなぜそう思いますの?」

「あら?お分かりになりませんか?リュゼミア様がローズ様にしたと言ったことはすべて、リュゼミア様がローズ様にしたことですよ?自覚がおありでないのですか?」

「どこにそんな根拠があるのです?」

「根拠はありますわ。フローズ、お願い。」

『はーい!』

声がするとスノウ嬢の横には精霊がいた。彼女の契約精霊だろう。おどろいた。スノウ嬢が語り掛けをせずに呼び出せるようになっていたなんて。

『僕はヘルヴァイスさんを見張っていたんだけど、ローズさんを階段から突き落とそうとしているのを見たよ。』

「だそうですが?、、、精霊と妖精は嘘をつけませんからね。証拠になりますでしょう?」

「、、、、。」

悔しそうに俯くリュゼミア嬢。すまないけど追い打ちをかけさせてもらうね。

「僕も思うけど、ヘルヴァイス嬢の方が国母としてふさわしくないと思うよ?ローズに濡れ衣を着せようとしてるんだから。それと、ヘルヴァイス嬢には禁忌を犯したということで禁忌罪の容疑が掛けられているからね。」

「禁忌罪!?なぜですか!?」

「それはヘルヴァイス嬢の方がよくわかってると思うんだけど?そうだね、、、そのペンダントとか。」

僕の言葉に胸元のペンダントをおさえるヘルヴァイス嬢。

「なんのことでしょう?」

口元をひくりとさせるヘルヴァイス嬢。

「それと、そのペンダントに関連して、ストラーナ男爵、アロガン会頭にも犯罪の容疑がかかっているんだよね。証拠もあるし、王城までご同行願おうか。連れて行って。」

名前を出された二人は顔が青色を通り越して土色だ。そして二人は騎士に連行されていった。ふたりの子供たちは何があったのかわからないといった様子だ。

「さて、ヘルヴァイス嬢も同行してもらおうか?」

騎士ではなく、ジュディ一族のメイドが近寄る。そして、ヘルヴァイス嬢を取り押さえようとするがヘルヴァイス嬢の叫びによって動きを止めてしまう。

「近寄らないで!、、、なんで、なんでうまくいかないの!?イベントが起こる場所に行っても何も起こらない!殿下はローズマリーを嫌うどころかずっと近くにいて、何もできないじゃない!私の魅了の魔法も効かない、全部失敗するし何なの!?これじゃあこの世界に来た意味がないわ!」

顔を真っ赤にして怒鳴るリュゼミア嬢。滑稽だな。

「全部全部、あなたのせいよ!ローズマリー!あなたが悪役令嬢として何もしないから私が幸せになれないじゃない!?」

「私、、、?」

ローズに飛び火した、、、、。何のことかわかっていないような表情にもっと腹を立てたのかヘルヴァイス嬢は憤慨する。

「いつまでも愛されていると思ったら大間違いよ!私がそれをわからせてあげる!」

何をとち狂ったのか、リュゼミア嬢はナイフを取り出す。

「あなたが死ねば殿下はきっと私に振り向いてくれるわ!!そうね、、、愛し仔のあなた死ねば奇跡が起きるわね!!」

目を血走らせてこちらに向かってくるリュゼミア嬢。ローズは顔が真っ青だ。怖いのだろう。

アリスが動くも間に合う距離じゃない。どうするべきか?そんなの決まってる。僕がローズを守ればいい。それだけだ。

「アルト様、、、、!!」

ローズを守るように立ち、その時僕の腹部にナイフが刺さる。うわ、、、、結構、、、刺さってるなぁ、、、。血も出てるし、、、。

僕が動くと思わなかったのだろう、ヘルヴァイス嬢も呆然としナイフから手を放す。そのまま僕は倒れこむ。

「アルト様!」

ローズが近寄ってこようとするが走ってきたアリスが抑える。ライトもスノウも急いでこっちに近寄ってくる。

「近寄ってはいけません!危険ですわ!」

「いやよ!そんなの関係ないわ!ドレスが汚れてしまうとしても危なかったとしてもアルト様が危ないのよ!?」

「いま、医者を呼びに行ってもらいましたので、お待ちください!」

「駄目よ!この出血量では時間もないの!アリスならわかるでしょう!?」

「それでもです、、、、。」

「そんな、、、。」

朦朧とする意識の中でローズとアリスの声が聴こえる。

「僕は、、、、。だい、、、じょうぶだよ、、、。」

ああ、情けない。大丈夫って言っているのに自分の身体は大丈夫じゃないみたいだ。瞼がだんだん下がってくる、、、。

「アルト様!!目を閉じてはいけませんわ!!目を開けてください!!!」

ローズの叫びもむなしく僕は目を閉じてしまった。

「アルト様、、、!!!嫌、、、嫌よ!!!!。」




「ふ、、ふふふ。どう!?理解できた!?貴女がいると誰も幸せになんかなれないわ!!」

ようやく今の状況が理解できたのかリュゼミアがローズを煽る。

「、、、さない、、、。」

「え?」

へたり込んでいたローズがゆらりと立ち上がる。

「絶対に許すものですか、、!!私の大事な人を傷つけたあなたにはその身体で償ってもらうわ!!!」

顔を上げたローズは目にいっぱい涙を溜め、唇をかんでいる。その時風が吹き荒れ、その場に重圧がかかる。

「なに、、、これ、、、。」

重圧によって身動きの取れないリュゼミア達。ライトとアリスも少し苦しそうだ。周囲の人々の中には気絶している者もいる。

「ローズ、ダメだ、、、、。魔力を抑えるんだ、、、、。」

ローズは怒りと自分の不甲斐なさのせいで魔力を暴走させていた。そのため、重圧がかかるほどにローズの魔力が出ているのだ。風が入ってこないような室内でも風が吹くのはそのせいだ。

ローズは周囲の人が身動きをとれないうちにヘルヴァイス嬢に近づく。その手には短剣をもって。

「だれか、、、お嬢様を、、、止めて、、、。このままでは、、、お嬢様が、、、。」

アリスが、助けを求めるようにか細く言う。その願いが通じたのか次の瞬間には重圧も風も消えていた。ある者たちの手によって。

『愚かな者の為にマリーが手を汚す必要はないぞ。』

「ネロ様、、、。」

ある者たちとは妖精王たちのことだった。現れたネロはローズの目を手で覆っていた。

『全く、、、。愛し仔の魔力が暴走する気配を感じたから来てみればなんじゃこの状況は。』

「フォティア様、、、。」

『あらまぁ、、、。アルト君が死にそうじゃない。助けてあげましょう。』

「ツリー様、、、。」

『はぁ、、。それで禁忌を犯した愚か者はお前か?』

ネロがリュゼミアを睨んだ。その厳しい目にリュゼミアはへたり込む。

「私は、、、悪くない、、、。悪いのはローズマリーよ!私を殺そうとしたのだもの!!」

『アルト君を殺そうとしたあなたが何言ってるのかしら?』

ツリーが絶対零度の目を向ける。

「ひっ。」

『安心せよ、マリー。アルティーオは助かる。おぬしが手を汚さずともわらわ達がそれ相応の罰を下してやろう。』

『だから、今は眠れ。次に起きた時にはすべて終わっている。』

ネロの言葉でローズは膝から崩れ落ち、ネロはローズを抱きとめる。

「お嬢様、、!!」

近寄ってきたアリスはローズを心配そうに見る。

『アリスだったな。何があってもマリーを止めようとしてくれてありがとう。』

「勿体なきお言葉です、、、。私はお嬢様を止められなかったのですから。」

『そういわずとも、お主はよくやったのじゃ。自信を持つとよい。』

「ありがとうございます、、、。」

『ふふふ。さて、二人ともこの後はこの愚か者の対処をしなきゃね。』

『目が笑っていないぞ、ツリー。』

『あら?久しぶりに怒ったからかしらね?』

『はぁ、、、。まぁ良い。、、、ライト、この場は任せても良いか?』

「わかりました。この場はうまくまとめますのでお三方はお好きなようになさってください。」

『恩に着る。』


こうして、波乱の卒業パーティーは一度幕を下ろすこととなった。



【エピローグ】


卒業パーティーが一度幕を下ろしてから数週間たった。アルトは無事に目を覚まし一命をとりとめたがローズはまだ目を覚まさないでいた。

アルトは毎日見舞いに行き、今日も来ていた。

「まだ、目を覚ましてくれないんだね、、、。君はいつも無茶をしてばかりだよ、、、。はやく目を覚ましてよ、、、ローズ、、、。ローズがいないと僕、寒いんだ。あの時もそうだった。」

眠っているローズの手を取り目覚めてほしいと願う。その時ローズの手がピクリと動く。

「アルト、、、様?」

「ローズ!!大丈夫!?」

「私、また迷惑をかけたのですね、、、。」

「そんなことないよ!今、医者を呼んでくるから」

「まって、、、。行かないで、、、ください。」

アルトの服の裾をつまむローズ。その顔は寂しそうだ。

「、、、。仕方がないなぁ。」

「ふふ。ありがとうございます。」

「もう、、、。僕ね、ローズがいない間寒かったんだよ?」

「服を着ますか?」

「そうじゃなくて、心が寒かったんだ。何か物足りないっていうか。」

「そうだったのですか、、、。申し訳ありません。」

「謝らないで。ローズがちゃんと起きてくれて本当に良かった。」

「ただいま戻りました。アルト様。」

「うん。お帰り。」



この後、医者をちゃんと呼び、問診の後、問題はないが経過を見るためにもう少し入院されるように言い渡された。

経過入院している間に、ヴェルデやダリアがお見舞いに来て二人とも涙を流しながら回復したことを喜んだ。

また、スノウをはじめとする仲良しの令嬢やライト達もお見舞いに来るなど緩やかに日々は過ぎていった。


学園に戻った後も、大きな問題は起きず楽しく学生生活を送っていった。

そして、今日はついにローズたちが学園を卒業する日で、式典もパーティーも滞りなく終わった。去年のパーティーのやり直しも行われたため、例年よりも大きなパーティーだった。

ローズは次の日から王城に住むことになり、来週はとうとう国を挙げての結婚式である。

そんなローズは王城にあるアルトの部屋に来ていた。


「終わったね。」

「はい。学園生活も終わりです。」

アルトとローズはカウチに座りゆったりとお茶を飲んでいた。

「そして、ローズを苦しめるようなものもいなくなったしね。」

「結局、リュゼミア様はどうなったのでしょう?」

「さぁ?精霊王たちに任せてしまったから僕は知らない。」

アルトもライトからは精霊王たちがリュゼミアを連れて行ったということしかい聞いていない。

「そうですよね。」

「仕方ないよ。ヘルヴァイス嬢はそれ相応のことをしたんだから。」

「はい、、、。」

「もう、そんな顔しないで?楽しいことを考えようよ!」

「そうですね。」

「そういえば明日からローズはここに住むんだったね。」

「はい。実家の荷物も運び終わりましたから。アリスもついてきますし。」

「じゃあ、一緒に居られるね!」

「ちゃんと、執務もなさってくださいね?後処理終わっていないものもありますよね?」

「う、、、。ちゃんとするよ。」

「なら、いいです。」

「ローズ、吹っ切れたね?」

「ええ、まぁ。アルト様が遠慮なしになってしまったので私もする必要なくなったかなぁって。」

「ローズ、変わったね?」

「そうですか?」

「うん。初めてあった時とは大違い。」

「その時は、破滅しないように躍起になっていましたからね。自分の気持ちも見て見ぬふりでしたから。」

「自分の気持ちってことは、、、。」

「あっ、、、、。聞かなかったことにしてください、、、。。」

「あれれ?まさか、ローズは僕の事好きだった?」

「、、、、。」

「ねぇ~黙らないでよ~。」

「うう~。だったら何ですか!アルト様のことは好きですよ!今も昔も!!」

「可愛いねぇ。」

真っ赤な顔のローズの頬に口づけをするアルト。

「なっ、、、!」

「真っ赤だね。はぁ、、、来週が待ち遠しいよ。」

「すぐそこですよ。執務でもやってればすぐに来ますよ。」

「厳しい、、、。」

「国王様になるのですからしっかりなさってくださいね?」

「ローズは国母だけどね。」

「そうですが、私は自分の執務はちゃんとやってますよ。スノウ様もいますし。」

「まさか、二人そろって僕たち専属になるなんてね、、、。」

ライトはスティリス家の跡継ぎなので宰相になることは決まっていた。しかしスノウはローズ専属の秘書という宰相に近い立ち位置に就くことになったのだ。

「お兄様は跡継ぎですからね。スノウ様のことについてはびっくりしましたけど。でも、助かります。もとはと言えばアルト様がお選びになったでしょう?」

「まぁ、そうだけど。、、、ライトは卒業してから僕に容赦ないし。」

「ふふふ。いいではないですか。気心が知れている人の方が安心できますでしょう?」

「そうだけどさぁ、、、。まぁいいか。ねぇローズ、これからヴェルト王国を発展させていこうね?」

まじめな顔になったアルトに少し驚くローズ。

「急に何ですか、、、?当り前ですよ。貴方がいてくれる限り私はずっと傍にいますから。」

「そっかぁ、、、。じゃあ安心だね。」

「はい。」

そんな会話から数日後、ヴェルト王国はお祭り騒ぎになっている。

なぜなら、王国に新しい国王とその王妃が誕生するからだ。


『汝、何があってもローズマリー・スティリスを守り続けると誓いますか?』

「はい。誓います。」

『汝、何があってもアルティーオ・ヴェルトを支え続けると誓いますか?』

「はい。誓います。」

『では、指輪の交換を。そしてお二方の新たなる門出とヴェルト王国の発展に盛大な拍手を!』

神父の言葉で、式を見に来ていた人たちは大きな拍手をする。そして二人は指輪を交換する。

ヴェルト王国の王族の結婚式は花の意匠に宝石を付けた指輪を交換するというもの。

ちなみに、ローズの指輪はローズマリーの花の意匠にアメジストがついており、

アルトの指輪はローズマリーの意匠にマラカイトがついている。

「絶対に守ってみせるよ。」

「私は絶対に支えますからね。」

「それは頼もしいね。」

そして、大きな拍手に包まれながら二人は唇を重ねた。




このお話は、一人の令嬢が自分の未来の為に頑張り、数々の問題に立ち向かい

ながらも最後には愛する人と結ばれるお話。


「おしまい。さぁ、もう寝ましょうね。」

「うん。ねぇお母様」

「なあに?」

「私も幸せになれる?」

「もちろんよ。でもね、幸せはねやってくるものじゃなくて自分で作るものなのよ。」

「作るもの?」

「ええ。お母様もね自分の幸せの為にがんばって、お父様と結婚したのよ。」

「私も、好きな人できるかなぁ?」

「あらあら。おませさんね。」

「だって、私も幸せになりたいもん。」

「ちゃんとなれるわ。だって今頑張っているものね。」

「うん!お母様みたいな立派な淑女になりたいもん!」

「まぁ嬉しい。でももう眠いでしょう?だから今日は寝ましょうね。」

「うん。、、、おやすみなさいお母様。」

「おやすみなさい。愛しい子。」

女性は女の子の頭をなでる。少しすると規則正しい寝息が聞こえ始める。

それを確認すると女性は部屋を出て、廊下を進み一つの部屋に入る。

部屋の中には男性がソファーに座り本を読んでいる。

「寝た?」

「はい。寝かしつけてきましたよ。」

女性は男性に近づく。男性は読んでいた本を閉じ女性をみつめる。

「そっかぁ。じゃあ今からは僕たち二人だけの時間だね。」

「、、、ふふふ。」

「何がおかしいの?」

「いえ、甘えん坊になったと思いまして。」

「誰のせいと思ってるの!いいからはやく!!」

「はいはい。わかりましたよ。」



月光が輝き部屋を照らす。

部屋の窓際に置いてある二つの指輪についているアメジストとマラカイトが照らされて光り輝いている。

月光に照らされた二人の影は重なり時間を告げる。

幸せそうな二人の様子を月夜に浮かぶ月だけが見ていた。

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悪役令嬢に転生したので対策したいと思ったのですが、どうしてこうなった!? スピカ @supika_chimachimahosikuzu

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