第57話 コルモ火山

 コルモ火山への旅路はキングの引っ張る馬車の乗り心地もそう酷いものではなく、ゴーレムのくせに病み上がりのシャーロット様を気づかう優しさを感じさせる。やはり、そのあたりは人を見て判断しているのだろう。乗っているのが僕だけだったら、猛スピードで跳ねていたこと間違いない。


「シャル、左腕の痛みは本当に大丈夫なの?」


「痛みは平気よ。もう感じないといった方が正しいのかもしれないわね。麻痺したまま感触が無い感じといったらわかりやすいかしら。少し動かしづらいけど、もう慣れてきたわ」


「シャル、僕たちで必ずレッドドラゴンは倒してみせる。今回はゴドルフィン様とキングもいるからきっと大丈夫。だから約束してほしい。ウンディーネと一体化するのはギリギリまで待ってほしい。どうしても、せざるを得ない場合も右腕の代償までにすること」


 もちろん、僕がそんなことを言ったところで無意味なことなのかもしれない。シャーロット様はソフィアさんのためなら全身が代償となっても構わないと思っているだろう。命に関わるのはソフィアさんの方なのだからとでも思っているに違いない。


「そうね……わかったわ。ルークも無茶はしないでください」


 ゴドルフィン様は少し離れた席で目を瞑ったまま動いていない。瞑想というより、集中力を高めているような研ぎ澄まされた感じだろうか。僕たちの会話になんて興味はないのだろう。しっかり、一人でレッドドラゴンを倒してもらいたいところだ。


一応、特訓の最終日に連携の確認はしている。作戦としては、ゴドルフィン様とキングが前面に立ち、その後ろに僕ことピカピカが姿を見せておく。そうすることで、前面に視線を釘付けにする狙いがあるそうだ。相変わらずの生け贄ポジションに悲しくなるがゴドルフィン様とキングがいるのは心強い。


 サバチャイズとポリスマンは遊軍としてレッドドラゴンの後方から攻撃を重ねていく。そして。さらに斜め後方に待機するようにシャーロット様とタマが控える。シャーロット様の姿を見せることはレッドドラゴンから強めのヘイトを集めてしまうので姿は絶対にみせない。見せるときは最終手段の時で、もしもの場合に備えてタマで時間稼ぎも出来るように考えられている。


 ということで、前方のピカピカ、後方に尻尾を斬られたマグロ包丁バングラディッシュ人というレッドドラゴンからしたらちょっと気になる並びに感じられるかと思われる。


「そろそろ、コルモ火山が見えてくるか」


 カッと目を開いたゴドルフィン様が馬車の窓から煙を上げている山を見つめている。モクモクと白い煙をあげている辺りにレッドドラゴンは消えて行ったという。そんな危険なとこに住む気持ちが全くわからないよね。


「サバチャイとポリスマンを召喚しておけ。巣の在処については俺が調べにいく。お前らはサバチャイの準備を手伝っておけ」


 サバチャイさんの準備? はて、特にサバチャイさんから何も聞いていない。おそらく、テオ様が用意してくれた水袋と何か関係があるのだろう。


「サバチャイさん召喚!」


 胸もとの赤いペンダントを握って、いつも通りサバチャイさんを召喚すると、何やら大量の水が入った容器を持って登場してきた。


「そろそろ召喚されると思ってたよ。サバチャイレベルになると、召喚されるちょっと前に気づくみたいね」


 トイレ中に呼ばれた時は、まだその感覚が無かったのだろうか。こちらとしても、それはそれで助かる訳なんだけどね。お風呂に入ってるサバチャイさんとか来てもらっても困る。


「トイレにいたけど、サバチャイあわてて出てきたよ。呼び出される五分前ぐらいにわかるみたいね。大の方だと、うっかりそのまま呼ばれちゃいそうで困るよ」


 お腹の調子の悪い時とかは、そのまま来ちゃいそうだね。サバチャイさんに、その辺りの羞恥心はもちろん皆無だ。


「ところで、その手に持っているのは何ですか?」


「おー、よく気づいたね。これは、いわゆる薬草酒いうね。バングラディッシュでは毎晩飲まれているパクチー酒ね。これはアルコール度数九十を超える代物よ。お子様にはちょっと飲ませられないね」


「お酒ですか……。戦いの前にお酒を飲む風習も確かにあるそうですが、あまりよいとは思いません」


「何言ってるよ! パクチー酒ストレートでいくのバングラディッシュ人だけね。普通の人はすぐに倒れちゃうよ。これはドラゴンをぶっ殺す秘密のアイテムね。ルークも手伝うよ。ちょっと収納バッグ貸すいいね」


 そう言って、収納バッグから取り出したのは大量の水袋とパクチー酒だった。


「パクチー酒、収納バッグの中にこんなにいっぱいあったの!?」


「サバチャイ、分身しながら財布と一緒にいっぱい増やしてたよ。パクチー酒は貴重だから、いくらサバチャイでも、そういっぱい持ってこれないね」


 ゴドルフィン様が言ってた手伝いというのはこれのことか。


「サバチャイさん、このパクチー酒を水袋に移し替えればいいの?」


「さすがルークね! 話が早くて助かるよ。ポリスマンも呼ぶから、手分けしてやるよ。あのドラゴン、ぶっ殺してやるよ」


 パクチー酒は強烈な匂いをしていて、とても飲み物とは思えない悪臭を放っていた。

 シャーロット様には、馬車の窓を閉めて避難してもらっている。このお酒も召喚したことによって何かしらパワーアップしてしまっているのだろう。戦う前に、既に気持ち悪くなってしまいそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る