第56話 出発

「あ、あのー、ゴドルフィン様。他の上級召喚師様は?」


「残りは全員待機することとなった。レッドドラゴンの巣へは俺とシャーロット、ルークで向かう」


「あ、あの、こういった討伐隊って、荷物持ちとかもいないんですか?」


 幌馬車があることから、キングに引っ張らせるということなのだろう。こういう時、キングって便利だと思うよね。


「メンバーはこの三名といったはずだ。お前の右手にあるのは収納バッグだろう。倉庫から好きなだけ食料を詰め込んでおけ。それから、ポーション関係も忘れるなよ」


 どうやら荷物持ちは商人の息子が担当するようだ。ゴリラは命令するだけなので、部下からの信頼や尊敬とか皆無なのであろう。シャーロット様に手伝ってもらう訳にもいかないので、一人で必死に収納バッグに詰め込もう。気を使わせる訳にもいかない。僕は出来る商人の息子なのだ。


「あ、あの、ルーク様、お手伝いさせていただきます」


 僕のしのびない姿に、少なからず哀れみを感じてくれたのだろう。サバチャイボッコボコ訓練に参加していた召喚師さんと思われる数名が、倉庫からポーションや食料を種類別に持ってきてくれた。全員がゴリラではないのだ。


「あ、ありがとうございます」


「私たちは、レッドドラゴン討伐のお役には立てませんので、これぐらいはさせてください」


「こちらのマジックポーションはブランシュ侯爵家、ジゼル様からでございます」


「ザンブルグ辺境伯からは大量の食料とリカバリーポーションを提供頂いております」


 ザンブルグ辺境伯、キース様からだね。残りは、テオ様のグランデール侯爵家からか。


「グランデール侯爵家より、大量の水袋になります!」


「いや、ちょっと待って。こんなに大量に水袋いらないんですけど。しかも、水も入ってないじゃないですか!」


「テオ様からは、サバチャイ様のご指示だと伺っております」


「サバチャイさんの!?」


 何を考えているのかわからないが、テオ様に物資を用意させるとか本当に勘弁してもらいたい。この水袋は何に使うつもりなのだろうか。と、考えても僕の理解の及ばないところなのだろう。ゴリラに怒られる前にどんどん詰め込み作業を進めておこう。


 ちなみに、この水袋は魔物の皮を丁寧になめしたもので、約一リットル程度の容量があるものだ。一般的に流通している物で特別なものではなさそうに思える。


「水袋については、サバチャイから話を聞いている。全部余すことなく入れておけ」


 どうやらゴリラも話を聞いているらしい。つまり、この水袋が戦略物資ということなのだろう。よくわからないけど……。とりあえず、よくわからない時は良い返事をしておけばいい。


「イエッサー」


「あまり、のんびりもしてられん。そろそろ向かうぞ。このタイミングでレッドドラゴンがこちらに向かって来たら、たまったものではないからな」


 予定では一ヶ月程度。あと五日も経てばその一ヶ月が経過してしまうのだ。つまり、いつ再びレッドドラゴンの来襲があってもおかしくはない。特訓やら、シャーロット様の回復だったりと時間が掛かってしまったのでしょうがないのだけど、日程についてはギリギリのラインを見極めながら、上の方で決めたのだろう。


 レッドドラゴンの居場所については、目星はつけているらしく、あの時一緒だった公爵軍の囮部隊が、逃げた方角と見失ったポイントからコルモネア山脈の北西にあるコルモ火山の火口付近であろうと推測しているそうだ。場所が火山という、とても危険なところであることがわかり、心底行きたくなくなってきているのは正直なところだ。火口へ落ちたら、さすがのアイスアーマーでも数秒と持たないだろう。



 いざ出発というところで、同級生の貴族様方とソフィア様がお見送りに現れてくれた。ソフィア様は車椅子でフィオレロさんに押されている。今生の別れとならないことを、お祈りしてもらいたい。


「サバチャイはいないのか?」


「テオ様、お見送りありがとうございます。サバチャイさんは、コルモ火山近くになってから召喚することになっております。何かお伝えすることがありますか?」


「ふんっ、俺に倒される前に負けるんじゃねーぞとでも言っておいてくれ」


「かしこまりました」


「それから、ルーク。召喚主は死んだらそこでおしまいだ。わかってるとは思うが、死ぬ気でシャルを守れ、そして戻ったらまた勝負だぞ!」


 この貴族は頭の中に勝負しかないのだろうか。ちょっとだけグランデール侯爵家の未来が心配になってきた。


「しょ、承知いたしました」


 とはいえ、僕も召喚主な訳で死んだら最後、ここに戻ってくることは叶わない。テオ様なりの激励の意味も含まれているのだろう。少しはデレてきたのだと思いたい。何故だか、サバチャイさんとの関係が良好になってきているのは気のせいでもなさそうだ。特訓で何かあったのかもしれない……。



「キース様、大量の食料やポーションをありがとうございます。無駄にならぬよう、頑張って参ります」


「うむ。俺も同行したかったのだが、残念ながら、まだそのレベルに達していない。いつか、肩を並べられるようになってみせる。それまではシャルのことを頼む」


「は、はい」


 そして、キース様の後ろからひょっこり顔を出すようにして、目元を拭いながらジゼル様が手を振っている。さっきシャルと抱きあって、涙を流していたので少し恥ずかしいのかもしれない。


 こうして、少ししんみりとするなか、僕たちはレッドドラゴンの巣があるコルモ火山へと向かい馬車を進めることになった。

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