第31話 収納バッグ

 ギルドに戻ると、一応気にしていたのかギルドマスターのランドルフさんと受付のプリシラさんが一緒に待っていてくれたようだ。


「はい、確かに村長さんのサインに間違いないようですね。こちらゴブリン討伐4体分も確認いたしました。初クエスト完了、おめでとうございます」


 あっという間に終わってしまったけど、みんなの力が合わさった結果だと思うと、とっても誇らしく感じられる。


「ありがとうございます」


「問題ないとは思ってはいたけど、あっさりクエスト終わらせちまったな」


「近くに巣を作ろうとしていたようですが、数もそこまで多くなくて、早めに見つけられてよかったです」


「運も実力の内と言いたいところだが、索敵に向いている召喚獣もいるし、攻撃力も申し分ない。まあ普通にお前らの実力だろうよ。これからもよろしく頼むぞ」


「とはいいましても、私たちは学園での実技や勉強が主となりますから、あまりギルドでクエストばかりもしてられません。でも、モンスターとの実戦は必要です。休息日などで、みなの都合が合った時にはまた来ますわ」


「討伐クエストについては、月に三回で構わないから、クエストを完了させておけばランクはキープできる。経験を積めば、もう少し強いモンスターのクエストも受注できるようになるはずだ。その辺も考えておいてくれ」


「そうですわね。ゴブリンばかりだとサバチャイさんが飽きてしまいそうですもの」


「サバチャイ、ゴブリンよりもキツネを倒したいね。次に会う時は、調理用のゴム長靴を履いたサバチャイがジャンピングキックお見舞いするよ」


「キツネって、雷獣のことか。俺の雷獣をそんないじめないでやってくれよ。というか、一度あのビリビリをくらうと、しばらくは嫌がるもんなんだけどな……」


「それじゃあ、サバチャイそろそろ帰るよ。だけどルーク、一時間ぐらいしたらまた呼んでほしいね」


「何でですか?」


「まったく、財布の中身をさらに倍にするつもりでしょー」


「黒い姉ちゃんの考えそうなことね。それもあるけど、サバチャイにも別の考えあるよ」


 それもあるんかいっ!


「えーっと、何かまた実験ですか?」


「サバチャイの装備品をこっちの世界に持ってきておきたいよ。それで、ルークに全部持っていてもらいたいね」


「それは構わないんですけど、装備品全部となるとさすがに僕も肌身離さず常に持っているというのは難しいというか……」


「ルーク、よく考えてみるね。茶色い姉ちゃんのバッグをサバチャイが持って分身する。バッグは二つになるね」


「収納バッグを二つにする!? そ、それって、いいんですか? つ、捕まらないで平気?」


 思わず、グッドアイデアとは思ってしまったが、シャーロット様とジゼル様の顔を見て様子をうかがってしまう。


「シャルはどう思う?」


「そうですね。これは誰にも迷惑を掛けていないから、セーフかなと思いますわ」


「そうだよね……。でもね、ルーク。これで収納バッグの商売を始めたら、貴族としては見て見ぬふりはできないよ」


「そ、そんなことやりませんって! そもそも、レイクルイーズ家の収納バッグなんだから、事前登録だって指定してもらわないと僕が使うことは出来ません」


「それもそうね。では、ルークは私の家までご一緒してもらえるかしら。さずがに収納バッグのことは、お父様に相談しないとならないわ」


「そ、そうなりますよね。かしこまりました」


 昨日、夜ご飯はお断りさせていただいたのに、一日も経たずに結局レイクルイーズ家当主であるレイモンド・レイクルイーズ公爵様と会うことになってしまった。どちらにしろ、遅かれ早かれ会うことになっていたのだろう。

父が知ったら泣きながら同席させろと騒ぐに違いない。それぐらい僕のような商人の息子が簡単に会える人物ではないのだから。


「それにしても、この収納バッグ、本当にビクともしませんね」


 サバチャイさんは、フィオレロさんの持っているバッグを床に置いてもらうと、さわったまま、また気持ち悪く分裂をした。もちろん、触れている収納バッグも二つに。ぬかりなく財布は計四つに増えていた。


 四つの財布を抱えたサバチャイさんは、逃げるようにして帰っていった。なんとなくいけないことをしているのは本人も理解している。あとは、どんな装備を持参してくるのか、ちょっと気になるところではある。


「このバッグはレイクルイーズ家の者か、フィオレロしか持てませんからね。フィオレロ、もう一つの収納バッグも持って帰ってくれるかしら」


「はい、シャーロット様」


「じゃあ、私はここで失礼するよ。シャル、ルーク、フィオレロまたね!」


「ええ、明日また学園で会いましょう。きっと同じクラスでしょうからね」


 明日から学園の授業が始まるようだ。クラス分けに関しては、みなさんAクラスになるはずだととのこと。きっとテオ様や、まだお会いしていないキース様も同じクラスなのだろう。


「ではルーク、行きましょうか。収納バッグは魔力認証をしなければならないの。登録者にはルークとサバチャイさんも入れておいた方がいいと思うのだけど」


「そうですね。戦闘中を考えたら、どちらでも開けられるようにしておきたいですね。少し、心配ですが……」


「そうね、少し心配ですわ……彼専用のバッグは与えないほうがいいわね。理由はわかりますね?」


「ええ。もちろんです」


 収納バッグいっぱいに増やした財布を入れて、異世界に持って帰る姿が目に浮かぶ。


 決してサバチャイさん専用収納バッグは、持たせてはならない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る