第30話 ゴブリンクエスト2

「ルークさん、この距離だとそうそう当たらないです。まー、気楽にいきましょうぜ」


「りょ、了解です」


 僕とポリスマンの位置からゴブリンの場所まで約十五メートルぐらい。これ以上近づくとさすがに見つかってしまうかもしれない。


「外したことを前提に話しますけど、撃ったらゴブリンに向かって突進する。そして、距離二メートルから再度発泡、狙いは心臓か頭。ルークさんは心臓を狙った方がいいか」


「わかりました。撃ったらゴーですね」


「ああ。じゃあ、ゆっくり狙いを定めるんだ。俺は左側、ルークさんは右のゴブリンをお願いしますぜ。カウントを始めます……三、二、一、ゴー!」


 運良く動きを止めていたゴブリンは狙いやすく、狙いとは少しズレながらも何とか命中させることができた。ポリスマンはヘッドショットを決め、頭を綺麗に吹き飛ばしており、僕は右肩から首にかけて命中させゴブリンを絶命させていた。


「おおー、普通の拳銃と違って爆発の範囲が大きかったんだっけか。こりゃ半端ねぇーな」


 凄まじい音に洞穴から三体のゴブリンが出てくるが、シャーロット様の精霊魔法がすぐに押し返す。


「ウォーターランス!」


 一角ウサギとサバチャイさんが向かう中、ジゼル様の召喚獣であるウィンディが飛びながら魔法の準備をしている。


「ウィンディ、ウィンドカッターよ!」


 洞穴に飛びこんでいく風の刃。見えないけど、ゴブリンのうめき声から察するに、効果は絶大のようだ。


「黒い姉ちゃん、やりすぎね! サバチャイのゴブリンもう動いてないよ!」


 どうやら、ウィンディの攻撃で完全に討伐を終えてしまったようだ。


 それにしても、武器を持っていないサバチャイさんのやる気が不思議でならない。

 まさかとは思うが、本当に神の左を使おうとしていたのだろうか……。


「ごめんねー。まだ力加減が慣れていないのよ。次があったら気をつけるわ」


「貸し一つね。それにしても、いくらサバチャイが料理人だからといって、この惨状を見ても何とも思わないのはとても不思議ね」


「サバチャイさんもか。俺もこんな血だらけの現場は見たこともないんだが、気持ち悪くも思わねーし、吐き気すら感じねー」


「召喚獣ならではのことなのでしょうか。魔法陣を介することで嫌忌感が抑えられているということがあるのかもしれませんね」


 サバチャイさんの持ち物はかなり強化されていた。ひょっとしたら召喚獣自信も何かしらの強化がされていると見るべきなのかもしれない。


「サバチャイさんを見ていると、とても好戦的に思えたんだよね。今回は武器も何もない素手なのに。この世界の人間だって、素手でゴブリンには戦いを挑まないよ」


「やはり、何かしらアドレナリンのようなものが出ている状態で召喚されてくると考えた方がいいかもしれませんね」


 そう考えるといろいろと納得も出来る部分が多い。サバチャイさんとか特にテンション高いし、基本的に考え方とかおかしいところがいっぱいだもんね。


「ポリスマンがクスリをキメた状態で召喚されてくるのは職業的にとても微妙ね」


「おいおいおい、サバチャイさん。俺はクスリとかやってねぇーし、いたって普段通りだぜ」


「ジャパンのポリスマンなら、いきなり射殺とかしないね。事件を解決するにはゴブリンの動機や周囲の聞き込みから始めるはずね」


「何で、俺がゴブリンの動機を調べなきゃならねぇんだよ。こいつらと会話できるわけねぇだろ」


 そんな掛け合いのような話を聞いていたら、洞穴からはゴブリンの血が大量の水とともに流れ出てきており、さらに血生臭くなってしまった。


「ウィンディ、この臭いを風で上空に散らして」


「とはいえ、元を絶たないと消えないわ」


「今回のクエストは巣穴の破壊ですよね。ならばポリスマンと僕で洞穴ごと崩して埋めてしまいましょうか」


「それが一番早いのかもしれないわね。それじゃあ、討伐証明の左耳をとりましょう。その後、ルークとポリスマンで巣穴ごと破壊して埋めてしまう方向で」


「うん、了解!」


 ポリスマンが頭を吹き飛ばした一体以外は、無事に討伐証明も確保でき、洞穴の周辺ごと崩すように拳銃で爆破させ埋めてしまった。


 これで僕たちのはじめてのクエストは完了ということになる。ゴブリンクエストは、それなりに危険もあるので、新人の討伐クエストとしてはとても慎重に行う必要がある。ゴブリンとはいえ、殺し合いをすることになるので、その緊張や恐怖に耐えられない新人も少なからず出てきてしまう。パーティの今後を占う上でも、とても大事なクエストなのだそうだ。


「村長さん、周辺に巣を作っていたゴブリンを無事に討伐してきました」


「ずいぶんと早かったね。さすがは優秀な生徒さん達だ。討伐もしているんだね、えっと……四体かな」


「はい、ではこちらの書類に完了のサインをお願いします」


「うん、討伐四体とクエスト完了のサインと。はい、ご苦労様です」


「ありがとうございます。またのご利用をお願いしますわ」


 思いの外、あっさりと最初のクエストを完了させてしまった。定期的に討伐クエストを行うことで、ギルドカードのランクが変わることになる。今僕たちが持っているカードはEと記載されている。通常なら登録時は採取クエストしか受けられないFで表記されるそうだ。


「サバチャイ消化不良ね。せっかく召喚されたのにビリビリ魔法くらっただけよ。あのキツネ、いつか絶対ぶっ飛ばすね」


 どうやら、雷獣さんへの怒りがまだ残っているらしい。


「まあ、そんな日もありますよ。それに、ポリスマンやタマの活躍はサバチャイさんの活躍でもあるんですからね。ギルドでのランクが上がっていけば、もう少しレベルの高いモンスターとも戦うことになると思いますよ」


「まあ、いいね。サバチャイの財布二つになったから、最低限のノルマはクリアしているよ」


「そ、そうですね。それはよかったです……」

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