第7話
「あーパパ、また一発で倒しちゃったー!!これじゃー私たち全然することないよ!練習しろって言ったくせにー!」
俺がこれまでと同じようにゴブリンを一撃で退治して回っていると、ひかりがとうとう怒ってこんなことを言い始めた。昨日はあんなに目をキラキラに輝かせ褒め称えてくれていていたのに、今は自分が活躍したくてたまらないらしい。
「分かった。次はみんなに活躍してもらうようにするけど、きっと大変だよ?」
「いいよ!!私がんばるもん!」
俺は次に見つけたゴブリンをわざと一撃で倒すことなく、尚且つ動けないように右足を吹き飛ばした。
「グギャーーーー!!!」
案の定、大声で騒ぎだした。こうなることは予想通りで、本来は家族を危険に晒すことになるので、ひかりをやんわりと嗜めるべきだったのだろう。
しかしそれでは、せっかく俺の助けになりたいと一緒に戦う覚悟を持ってくれた家族を、戦力として頼りにしてないと言ってるも同義なのだ。俺は長い目で家族みんなで成長していきたいと思ったのだ!
今はゴブリンしかいないが、いつもっと強い魔物を相手にすることになるかもしれない。その時に俺1人の力だけで無事に先に進める保証はない。
ゴブリンしかいないこの辺りで、俺だけでなく家族にも多少なりとも戦闘の経験を積ませたいと思ったのだ。
それに昨日のことも含め、このくらいの状況はこれからいくらでも起きうる状況なのだ。これくらいで家族を守れないようなら、俺はこれから家族を守っていくなんてとても無理だろう。
昨日よりは集まるゴブリンが少ないことを祈ろう…
結論から言うと、そこに集まったゴブリンの数は5匹だった。まあ、それくらいは誤差の範囲だ。
「向かって来るゴブリンはパパが順番に倒すから、みんなはパパを背後から狙ってるゴブリンや自分たちに向かってるゴブリンを攻撃して牽制して欲しい!
背中を任せたぞ!!」
俺は向かって来るゴブリンをスリングショットで距離の近い順に倒していった。2匹倒したところで、残り3匹がかなり近くまで寄ってきてるのが分かった。このままいけば、あと1匹倒したところで俺たちのところへ辿り着くだろう。
家族たちは必死にスリングショットを放ってるが、やはり全くといっていいほど当たってはいない。それでも牽制にはなっており、こちらへ向かうゴブリンの足が遅くなっている。
俺はここで挑発のスキルを発動した。
それと同時にスリングショットで3匹目を倒す。
狙い通り、残されたゴブリンたちは俺の方へ向かって来る。俺はスリングショットを捨て、2匹のゴブリンへ向けて構えた。
懐かしい思い出程度のボクシングの経験を生かし、向かって来るゴブリンを素早いジャブで牽制し、そのままワンツーで吹き飛ばす。
「みんな、今のゴブリンのトドメを頼む!」
おそらくもう立ち上がることもできないゴブリンは家族に任せ、俺は最後のゴブリンと向き合う。
ゴブリンはナイフをこちらに向け牽制してくる。だがその動きは、所詮ゴブリン…たいして早くもなく、無駄な動きばかりでスキだらけだ!格闘スキルレベル2の恩恵を受けた今の俺には何の脅威も感じない。
隙をついて、右ストレートをカウンターで入れ吹き飛ばし、そのまま追いかけ、サッカーキックで顔面をおもいっきり蹴りあげた。
「ボキッ」
首の骨が折れたようですぐに絶命した。
覚悟はしていたつもりだったが、スリングショットに比べて、素手で殺すと多少の忌避感を感じてしまった。
それから家族の元に向かうと、既に先ほど殴り飛ばしたゴブリンは死んでおり、最初に片足を吹き飛ばされ騒いでいたゴブリンへ、1メートルくらいの距離から次々とスリングショットで攻撃をしていた。
ゴブリンも何とか逃げ出そうと這って移動していたが、とうとう諦め絶命してしまった。
家族たちはゴブリンが動かなくなると、ペタンと膝をついて黙ってしまった。
「みんな大丈夫か?怪我はないか?」
「パパ、私たちは大丈夫よ。怪我もないわ!でも今の戦いだけで疲れちゃった。パパはずっとこんなことをしてたんだね?」
「ひかり頑張ったよー!でも中々当たらなかった。」
「あかりも~!」
「みんな大変だっただろうが、頑張ってくれたな!俺たち家族が力を合わせればこのくらいは何とかできるみたいだ!
ひかり!今回は練習としてわざと最初に殺さなかった。でもゴブリンが騒いでも、昨日あかりが騒いだのと同様に他のゴブリンを呼び寄せてしまうことが分かっただろう?たくさん同時に来ちゃったらやっぱり大変だったよね?毎回こんなに大変だったらすぐに疲れちゃって長く狩りできないと思うんだ。
それにパパのスリングショットも100発100中ではないと思うんだ。今後、さっきのゴブリンのように生き残って騒ぐくらいの元気があるゴブリンもいるかもしれない。
その時は今日のようにパパもみんなを頼りにするから、練習は実戦でなく、家の傍に練習用の的を作ってあげるからそれで我慢してくれるかな?」
「うん!そうする!!ひかりも作るの手伝うからね!」
「あかりも~。」
「分かった。じゃー今日は早めに帰って、練習用の的を一緒に作ろうな!?」
「「うん!」」
.....
....
...
..
.
あれからさらに20匹ほど俺のこっそり不意討ちスリングショットで倒したところで本日は家路についた。
家に戻ると浩美はよっぽど疲れたのか、ネットスーパーでお昼のおにぎりとサンドイッチとオレンジジュースを出したあと、ちょっと横になりたいと布団に行ってしまった。
「ママ大丈夫かな?」
「ひかりは優しいね!きっと慣れないことをしたから、疲れちゃったんだよ。ひかりやあかりは大丈夫かい?」
「まだまだ元気だよ!」
「あかりも~!」
「そうか!ならご飯食べたら、パパと練習用の的を作ろうな!?」
「うん!じゃー早く食べようー。」
俺は今、玩具メーカーで次々にゴブリンの顔をした起き上がりこぼしの人形を作成していっている。起き上がりこぼしとは、転んでも必ず元のように起き上がる小さい子向けのおもちゃである。
これらを家の外にあったちょうどいい岩の上に子供たちが並べていけば、的の完成である。
この起き上がりこぼしは純チタン製にした。丈夫で鉄より軽く、子供たちのスリングショットの威力ではそうそう壊れることはなく、当たるとそれなりに揺れるので楽しさも申し分ないだろう。
チタンは地球ではそれなりに高級な素材なので、こんなおもちゃは売り物にはならないが、玩具メーカーのすごいところはそれを惜しみ無く使うことができることだ。
形だけの訓練なら正直、プラスチックのものでも良かったし、スリングショットの玉を弱いものにすればいいのだが、実戦を想定しての訓練ならばいつもと同じものを使った方が、より上達するだろうとこれにした。
子供たちは今できた練習用の的に向けて、次々とスリングショットを放っていた。俺はそれを近くで見ながら、今日貯まったスキルポイントの使い道を考えていた。
すると驚いたことを発見したのだ!!
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