第4話

 俺は家の周りに罠を仕掛け終えると、一旦家に戻った。浩美は俺の言い付け通り、完全に施錠した状態で子供たちと過ごしていた。



「パパ、おかえりなさい!外はどうだった?危険はなかった?」



「ただいま!今回はそれほど遠くには行ってないが、外には普通に魔物たちが存在していた。俺のことを認識すると、問答無用で襲いかかってきたよ。やはりここは異世界で間違いないようだ


幸いこの辺りには弱い魔物しか見かけなかったが、決して安全とはいえないようだ。」



「そんな!!じゃー私たちその魔物に襲われて殺されちゃうの?」



「大丈夫!俺がそんなことはさせない!!それは絶対にだ!!」



俺はしばらく家族を抱きしめ続けた。




「今のところ周りの魔物は全て俺が退治した。そして、この家に近づかないように罠を仕掛けてはきた。」



「そう。でもやっぱり不安ね…」



「日本のような安全は今は用意できないが、出来る限りのことはする!だから俺を信じてくれ!俺は知識だけは異世界マスターだぞ!!」



「そうね。パパを信じるわ!」



浩美は不安は消えてないだろうが、優しく俺に微笑んでくれた。




「それとな、倒した魔物の死体を一ヶ所に集めているんだ。今からそこにみんなで行こうと思ってるんだがいいか?」



「危なくないの?」



「その場所までは危険はないよ!その辺りまでの安全は確保してる。」



「でも死体に何をするの?」



「それはね…」






.....

....

...

..






 今俺たち家族は家を出たところだ。



「わー!すごーい!森だね?木がいっぱいだよー♪」



長女のひかりが外の光景に大興奮だ!次女のあかりはいつもと違う景色に不思議そうにしている。




「地面が滑るところもあるから気を付けるんだぞ!

それとあまりパパたちから離れないようにするんだぞ!!」



「はーい!」



と返事だけは立派だが、はしゃいでまともに前を見てもいない。案の定、木の根っこに引っ掛けて盛大に転んでしまった。



「ひかり、大丈夫かい?」



「大丈夫!痛くなんかないもん!」



と言いつつ、涙目になってしまっている。




「ほら、ママに怪我を見せて?」



浩美はあっという間に道具もないのに怪我の手当てを終えた。手をかざすだけで怪我の周りの汚れはきれいになり、血が固まっていったのだ。傷跡はまだ残っているが、後は放っておいてもすぐに治ってしまいそうだ。




「今のは応急処置のスキルか?」



「ええ、何故だかこうすればいいって何となく分かったの!」



「便利なものだな!さすがはスキルレベル3だな!?少々の怪我ならママに診てもらえば何とかなりそうだ。」



何かあっても病院に行けない今の環境では本当にありがたい能力だ!




「一応元看護師だしね!」



「頼りにしてるよ!」



「任せて♪」



浩美は自分にもこの環境で役立てることがあることを実感できたのか、非常に良い顔をしていた。やはり浩美は直接戦闘をするよりも、ヒーラーや補助役としてサポート役になる方が合ってるのかもしれない。




その後すぐに、ゴブリンの死体の山の前に到着した。



「こんな化け物がたくさんいる世界なのね?」



「「お化け~お化け~♪」」



子供たちははしゃいでるが、浩美にはショックだったようで顔を真っ青に染めていた。



「ひかり、あかり。こいつらは危険な生き物なんだ!もし見かけたらすぐに逃げて、パパかママに報告するんだ!分かったかい?」



「うん、分かった~!」


「あかりも~!」



「よし!いい子達だ!!


ママ大丈夫かい?」



「ええ、大丈夫よ。それでこいつらをネットスーパーに入金したらいいのね?何となく今回もやり方が分かるわ。やってみるわね!」



浩美はゴブリンの死体に向け手をかざし、



「入金!」



と唱えると、ゴブリンの死体の山はあっという間に消えて無くなってしまった。



「150ルピー入金されましたって表示されたわ!」



ゴブリンの死体は10匹だった。1匹15ルピーか。

浩美から事前に聞いていたネットスーパーの相場でいうと、1ルピーが約10円くらいのようだ。


つまりゴブリンを10匹倒して得られた収入は1500円ってとこだ。家族4人が満足できるだけの食料と水を得るにはかなりたくさん狩らなければならない計算となる。


安全の確保の為にもこの辺りには生息する魔物は根こそぎ倒していくつもりだが、余裕のある生活はまだ遠いなーと考えずにはいられなかった。




「ママありがとう!これで、魔物を倒したら食料や飲料は手に入れることができることが判明したよ。


この先にさらに進むとこいつらがまだ生きてる状態でたくさん存在する。こいつら程度なら俺はもう怖くない。気を付けて倒せば安全に倒すことができる!


それを踏まえた上でママに選択して欲しい。



 1つは、午前中と同じように家で俺の帰りを待っていてくれること。後ろは崖だし、こちら側は罠を仕掛けてるからそうそう魔物に襲撃されることはないと思う。


この場合の利点は、俺が1人で行動する方が狩りの効率は圧倒的に早いとは思う。


逆にデメリットは、俺が怪我をした時に家まで帰れる可能性が低くなる。それと万が一俺が留守の時家を襲われたらママが1人で戦わなければならなくなることだ。



 もう1つは、これからは俺たち4人で一緒に狩りをするということ。といってもその場合も戦うのは基本的には俺1人だ。ママは俺たちが怪我をしたら治してくれる程度でいいし、子供たちを守ることに専念していて欲しい。


この場合のデメリットは先程も言ったが、より安全に配慮しなければならないこともあり、狩りの効率は圧倒的に下がるだろう。


逆にメリットは、常に家族が一緒に過ごせるので、離れている家族の心配をする必要がないこと。


それに万が一俺が怪我を負ってもママに治して貰えること。


同じくママが傍に居れば魔物を倒した後、すぐにネットスーパーに入金ができて、死体を運ぶ手間が省ける。



 最後にこの提案をするきっかけとなった内容なんだが、パーティーシステムというのを見つけた!俺たち4人がパーティーを組んだ状態で魔物を倒したら、そのスキルポイントが全員に分配されるらしい。これは距離が離れると無効になるらしいんだ。


その方法で全員の能力を上げていけば、最初は3人を危険に近づけるかもしれないが、最終的にはより安全に過ごせるようになるのではないかと思ったんだ!



俺は一緒に過ごす方がいいのではないかと考えているが、ママはどう思う?」




長い沈黙の後、浩美は真剣な顔で言った。



「正直、こんな化け物たちがうようよしてるところに行くのは怖い!そして、私だけでなく子供たちをそんな場所に連れていくことはもっと嫌よ!!」



「そうか…分かった!ならやはり、俺だけで探索は続けることにするよ。この辺りの安全が完全に確保できるまでは家でジッとしていてくれよ!」



「パパっ!話を最後まで黙って聞いて!!」



「はい!ごめんなさい!!」



浩美の真剣な声につい無条件で謝ってしまう。




「別に謝らなくていいのよ。パパだってこんな状況になって大変なのに、私たちの為に色々と考え、行動してくれてることはよく分かってるの!



さっきの話の続きだけど、私も子供たちもあんな魔物がうようよしてるとこに行くのは嫌!でも…それ以上にそんな危険なところにパパだけ行かせて、私たちはパパの帰りを心配しながら待つのはもっと嫌なの!!


私は少しでも役に立てるのならパパの助けになりたい!一緒に過ごして強くなれるのなら、みんなで成長していきたい!!


家でただ待っていてパパに何かあったら私はそんな選択をした自分を許せないわ!!パパだってそうでしょ?1人で行って、戻ったら私たちが家で殺されていたなんてことあったら絶対に置いていった自分を許せない筈よ!?」



「当たり前だ!そんな未来は絶対に許せない!!

よし!一緒に成長していこう!!こんな異世界転移なんかに俺たちは絶対に負けない!!


俺たちは強くなって、この世界でも必ず安全で幸せな日々を取り戻そう!!」


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