第3話

 家族4人で朝食のパンを食べながら、俺たちはこれからのことを話していた。



「朝食の前に家のことを調べてきた。予想はしていたけど、この家には、今電気や水道は来ていない!幸い太陽光発電と蓄電池は無事だったから、最低限の電力は確保できてる。ただ極力節電していかないと蓄電池の電力なんてすぐに枯渇するんじゃないかと思ってる。」



「そうね。暗くなってから電気が無くなったら困るもんね。料理するのにも必要だしね。」



「今のところ生活に必要な衣食住の全てがここに揃っている。食料はそれなりに備蓄していたし、ウォーターサーバーの水があるから当面は何とかなると思っている。


これらを節約しながら消費していけば少なくとも2週間は生活できるとは思う。



突然こんな状況だ!問題は数多くあるとは思う。しかし当面の問題は、家のあるこの場所が安全な場所にあるのかということだ!



朝食の後、俺はこの辺りを探索してこようと思っている。」




「みんなで行く?」



「いや、何があるか分からない。俺も自分のことで手一杯になると思う。子どもたちのことを守りながらの探索は逆に危険だ!


まずは俺だけで行くから、ママはここで子どもたちのことを頼む!」



「分かったわ。」



「えー!ひかりも外に行きたかったー!」


「あかりも〜!」



「ごめんな。後で余裕ができたら遊んであげるから、今は家でママを守ってあげてくれないかな?ママもきっと不安なんだ。ひかりとあかりが傍に居てくれたら、ママはきっと安心できるからね。ママのことお願いできるかな?」



「「うん!分かったー!!」」



「いい子たちだ!!」



俺は2人の頭を撫で回した。




「そうだ!新しいおもちゃを上げるよ!これで遊んでたらいい。」



俺は玩具メーカーを連続で使用した。



「わあ!アカとエルザの人形だー♪こっちは端っこぐらしの人形たちだ!いっぱいだ〜♪あかり、一緒に人形ごっこしよー!」



「いいよー!」




浩美が不思議そうな顔で聞いてきた。



「今のは何?何もない所から人形が現れたわよ?」



「今のが俺のユニークスキルの玩具メーカーだ。全長10センチ迄のおもちゃなら簡単に作れるぞ!構造がある程度イメージできないと作ることはできないようだが、幸い俺は仕事柄大抵のおもちゃの構造は知っている。


戦闘には向かないスキルだが、人がたくさんいる街に行けば、おもちゃ屋さんが開けるな!元手も無料だし、それなりに儲かるんじゃないか?」



「それいいわね!私のユニークスキルも役に立つのかしら?」



「ステータスを開いて、ユニークスキルの詳細を知りたいと思えばママのユニークスキルの詳細も見ることができる。やってみて!」





浩美のユニークスキルは、



ネットスーパー

お金、若しくは1ルピー以上の価値のあるものを入金し、ネットスーパーで様々な食材を購入できる。スキルレベルに応じて購入できる食材が増えていく。



食品収納

食材と料理を収納できる倉庫。倉庫内は時間経過しない。MPは消費しない。

収納容量は大きさに関係なく、スキルレベル✕100個迄。



だった。とても便利な能力であり、これで食料や飲み物に苦労することは無くなった。それに冷蔵庫の電力も節約できそうだ!



「私の能力ってどうなの?」



「俺の能力と一緒で戦闘には役に立たないけど、俺の能力なんかとは比べものにならないくらい便利な能力なのは間違いないよ!異世界で地球の食べ物が手に入るのは凄いことだよ!!さすがは浩美だ!!」



俺はそう言いながら浩美を抱きしめた。


これはいつものことなのだが、何かと理由をつけて、俺は浩美に抱きついたりして甘えてしまう。結婚して10年変わらずラブラブでいる為の秘訣の1つかもしれない。




.....

....

...

..





 家を出て周りを散策すること10分ほど経過したところで、俺は森の中に人影を見つけた。思わず声を掛けようとしてしまったが、慌てて止めた。


何故ならそこにいたのは普通の人間ではなく、肌は緑色で、体は子供程しかない癖に口からは牙が出ており、残忍な顔をした、どう見てもザコモンスターの代表ゴブリンだったからだ!



あんなのが普通にいるってことは、やはり間違いなくここは異世界のようだな…その事実を残念に思う気持ちと、どこかワクワクする気持ちが入り混じっていた。


やはり俺は何だかんだで異世界への憧れる気持ちは本物だったらしい。




先手必勝攻撃を仕掛けるか?


だが、見た目があれなだけで実は優しい心を持ってるなんてレアパターンもあるので念の為、準備をした上で声を掛けることにした。距離は20メートルはとってある。



「すいません!言葉は通じますか?少しお話を伺いたいのですが。」




俺の言葉を聞き、ゴブリンは驚いた表情をし、すぐに俺に向かって駆け出した。その右手にはボロボロの短剣が握られ、俺の方へ構えられている。



「やっぱり普通にモンスターだよな…」



俺はため息混じりに、用意していた武器を構えた。


俺の武器はこれまた趣味というより、男のロマンとして以前ネットで購入していたスリングショットファルコン2という大人のおもちゃだ。別名パチンコショットともいう。


日本で練習した時には、正直なかなか狙いが定まらなかった。これは元々武器としての目的ではなく、農家などが鳥などを追い払う目的で作られたものだ。

連射もできず、命中率も低く、武器としての性能は低いのは仕方ないことだろう。



素材を探していた時にこの懐かしいおもちゃを見つけたとき、何か役に立つかもしれないと所持していたのだ。



家を離れる前、俺は久しぶりにこのスリングショットを試してみた。いきなり命を失うかもしれない実戦には使えないから当然である。


すると不思議なことに、以前は2メートルの距離でも中々的に当てることができなかったのに、何故か5メートル以内ならほぼ狙い通りに当てることができるようになっていた。



俺はこれは射撃スキルの恩恵だと結論付けた。まだレベル1なのにこれほど違うのであれば、スキルレベルが2まで育ってる格闘スキルはかなり使えるのではないか?と…



俺は早速20年以上してなかったシャドーボクジングを久しぶりに試してみた。驚くことに、10代の頃よりもはるかにキレのあるパンチを次々と繰り出すことができた。


結婚してから10年、情けないことに幸せ太りで20キロも太ってしまったこの重たい体でだ。


俺は楽しくなって時間を忘れてシャドーを続けてしまった。気付いたときには全身汗まみれになってしまっており、これから探索を始めるというのに、その前に体力を無駄に使ってしまったのは大人げなかったと思う。




話が逸れたが、今の俺ならこのスリングショットを5メートルの距離ならまず外すことはないのだ!


そして弾も普通のパチンコ玉ではない。玩具メーカーのスキルで自作した鋼100%の固く重い弾なのだ!



俺は弓道の矢を放つように心を静かに構え、狙いを定めたままゴブリンが近づいてくるのを待っていた。俺は焦らず呼吸を整え、必ず当てられる距離まで来たところで一気に伸びきっていたゴムを手放した。


弾は狙い通りゴブリンの左目に着弾し、その衝撃でゴブリンの頭の一部が弾け、息絶えた。



「やった!何とか初めての戦闘を勝利することができたぞ!!」




 それからゴブリンの遺体を調べてみたが、特に時間経過で消滅することもなく、ゲームのようにドロップ品が現れたりもしなかった。


念の為、ゴブリンの遺体や武器のナイフ、質素な服もまとめて素材登録してみたが、新たに素材が解放されることはなかった。



まあ、ゴブリン程度ならおもちゃではあるスリリングショットでも十分倒すことができることが証明できただけでも収穫か!



さらにステータスを確認してみると、この戦闘だけでスキルポイントが15増えていた。



 これまでの行動で実はスキルポイントが少しずつ貯まってきていた。玩具メーカーを何度か使ったこと、シャドーボクジングをしたことでもスキルポイントが増えたのだ。現在の俺には132ポイントのスキルポイントを持っている。


俺はこのうちの120ポイントを使用し、射撃のスキルレベルを1つ上げ

レベル2にした!もっと遠くから確実に当てられるようになれば、安全に魔物たちを倒せると思ったからだ。




 それから俺は狙い通り、うちの周りにいるゴブリンたちを物陰からこっそりと狙撃して回った。家をモンスターに襲われたら堪らないからな。家の周辺には今のところゴブリンを除く魔物や動物は見かけていない。



射撃のスキルが上がったことで、体感では射程距離も7メートル以内ならほぼ狙いを外すことはなくなっていた。


今のところ2匹以上の集団は見かけていない。ゴブリンは群れるイメージだったのでこれは意外だった。



 ゴブリンの死体は全て一ヶ所に集めている。

後程実験したいことがあるのと、死体の血の臭いに引き寄せられてゴブリンが集まってくる習性があるかの確認である。


血の臭いで集まる習性があるのならば、それで誘導して家に近づいて来ないようにできないかと考えたのだが、残念ながらどうやらゴブリンは血の臭いでは寄ってくることはなかった。


代わりに、ゴブリンは音には敏感に反応し集まってくることが分かった。

わざと弾を外して適当なところで音を立ててやると、そこに周りにいたゴブリンが集まってきて、「ギャーギャー」と騒いでいた。



そこで家の周囲一帯に、玩具メーカーで作成した釣糸を伸ばし、それに触れると家から離れた場所で同じく玩具メーカーで作ったハンドベルが鳴り響く簡単な罠を仕掛けて回った。どの程度役に立つかは分からないが、何もしないよりはましだろう。


忍者のアニメなんかでこんな罠を仕掛けていたのを思い出したのだ。まあアニメでは侵入者が来たことを知らせる為に使っていたのだが、俺は侵入すらして欲しくないのだ。


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