第3話「縁結び玉、なるほどそういうのもあるのか」

 K越の街を歩き回って堪能して、最後はH川神社だ。


「ここは今から約千五百年前、古墳時代の欽明きんめい天皇に創建された由緒正しい神社で……」


 千五百年はさすがにすごいな、歴史を感じさせる眺めだなあと感心していると、渚ちゃんの様子がおかしいのに気がついた。

 今までのパターンからすると、ここで畳みかけるように説明が入って来るはずなのだが来ない。

 どうしたのかなと思って振り返ってみると……。


「あ~ら~、渚ちゃんじゃない。飴でも食べる~?」

「いらっしゃい、待ってたわよ」

「今日は天気が良くてよかったねえー」


 売店のおばさん、巫女さんに宮司さん。

 神社で働いている人たちが集まって来て、渚ちゃんを取り囲んでいる。

 顔見知りとかいうレベルじゃない、ほとんど親戚の子供にでも接するような砕けた態度だ。


「今日もお祈りしていくのかい? 熱心だねえ~」

「それだけ一途でいられるのも若さよねえ。いいなあ~」

「鎮守様は信心深き者の味方だからね、きっと良いように定まるよ」


 渚ちゃんはどうやら願掛けみたいなものをしに頻繁に神社に通っていたらしい。

 だからかな、みんなの目がやけに優しいのは。


 ま、そりゃそうだよな。

 俺が神社関係者でも、渚ちゃんみたいなコが足繁く通って来たらよくしてあげるもん。

 あれこれ教えてあげて、お茶屋やお菓子を振る舞ってあげて。

 なんだったら勢い余って告白するまである。

 はあ? 告白? てめえ人の彼女に何してくれてんだ? 

 NTRダメ、ゼッタイ。


 などとひとり妄想する俺をよそに、渚ちゃんはみんなへの対応に苦慮しているようだ。

 

「みなさん今日は色々とあるのでその件については一切触れないようにお願いします変なことを言われてしまうと困ってしまうので」


 唇に人差し指を当て、やたらと早口で何ごとかをお願いしている。


「「「???」」」


 不思議そうに首を傾げたみんなの顔が、俺の姿を認めた瞬間ハッとなった。


「「「あああ~、なぁるほどぉ~」」」


 何がなるほどなのかはわからないが、みんなはふにゃりと柔らかい表情でうなずいた。


「そういうことなら、ふたりの邪魔はしないほうがいいわね~」

「さ、仕事へ戻りましょう。なんだか今日は、いい気分で働けそうだわ」

「やはり良きように定まったねえー」


 口々に言いながら、それぞれの仕事に戻って行く。

 

 取り残された格好の渚ちゃんは、ハアと疲れたようにため息をついた。


「今の現象についてはあまり気にしないでください。みなさんいい人なんですけど、ちょっと過保護というか……いったい何を言っているのかわからないと思いますが……ともかくっ」


 語気を強めると、渚ちゃんはじろり俺をにらみつけた。


「先輩はここで待っていてください。すぐに戻りますので」


「え? ああ、うん」


「いいですか? 絶対ついて来ちゃダメですよ? 誰かに理由を聞いたりとかするのも許しませんからね?」


 何度も念押しした上でなおも不安なのだろう、こちらをチラチラと振り返りながら渚ちゃんは社務所の方に向かって行く。

 中から出て来た巫女さんに頭を下げて何かを渡したかと思うと、すぐにぱたぱた駆け戻って来た。


「納めて来ま……いえその、なんでもありません」


 渚ちゃんはコホンと咳払いすると。


「さあ、お参りに行きましょうすぐ行きましょう」


 やたらと俺をかすと、超速攻でお参りを済ませてH川神社を後にした。

 一連の出来事に対してまったく説明がなかったので、俺としてはひたすら困惑していたのだが……。








 ~~~現在~~~




 聞けば、H川神社には『縁結び玉』の伝説があるそうだ。

 境内の玉砂利を持ち帰って大切にすると良縁に恵まれるとのことで、つまりは……。


「その良縁が、先輩だったってことです。わたしはかねてから先輩と恋人になりたいと思っていて、神社にも足繫く通っていて、『縁結び玉』も持ち歩いていて。みなさんと顔見知りだったのもそのためなんです」


「そっか。するとあの時社務所に行ったのは……」


「恋人になることで願いが叶えられたから、『縁結び玉』を社務所に納めに行ったんです。それをまかり間違っても先輩には知られたくなくて……。あの時はすいませんでした。説明もないままで、やたらと急かして」


 渚ちゃんは、いかにも申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「いやあ、全然問題ないけどね。しかしそうかあ、そんなことになっていたとはなあ~……。というかさ、さっきも言ってたけど、渚ちゃんっていつから俺のことが好きだったの? ずっとっていうのはいつからの話なの?」


「いつから、ですか……」


 腕組みして考え込むようなしぐさをする渚ちゃん。


「恋愛感情として自覚したのは中学に入ってからですが、きっかけは小学校の頃ですね。たぶん覚えてはいらっしゃらないと思うんですが……」


 そう言うと、渚ちゃんは当時のことを語り出した。

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