第2話 先生と雨

今日の私はというと、先生の完成した原稿をチェックしに来たわけで、きちっと仕事モードである。前回のようにダラダラと過ごす訳にはいかないのだが。



予想外も日常で。



天気予報が外れるなどは、日常茶飯事なわけで、予報の晴れは雨に変わり、私のやる気は、憂いに変わった。今日は、少し締まらない。



ところが、ご機嫌斜めな私と打って変わって、今日の先生はというと、少し機嫌がいい。雨は好きなんだとか。理由はよく知らない。上機嫌な先生は、窓枠に座ってタバコを吸っている。



窓の外を眺めている先生の色白い横顔が、オレンジの間接照明に照らされて、先生をやけにミステリアスにさせる。それに揺れる前髪から、チラチラと見え隠れする泣きぼくろも、また色っぽい。



先生は、何故か機嫌がいいと色っぽく見えてしまう。見ると、作業が進まなくなってしまうのだが、どうしてもチラチラ見てしまう。



眼福、 眼福



しばらくして、確認もある程度終わり、大きな修正点もなかった。さて終わったと、大きく伸びをしていると、先生がコーヒーをいれてくれた。

私が、「ありがとうございます」と受け取ると、「お疲れ様」と先生は微笑んだ。



今日のコーヒーは、少し苦味が強くって、私は、ほんの少しだけお砂糖を入れてかき混ぜた。ほんのり和らいだコーヒーは、見事に砂糖と調和しているようだ。



窓の外を見やると、いつの間にか雨足が強くなっていた。これはしばらく出られそうに無い。いつ、帰路につけるだろうか。



そんな、黄昏ている私を見てか、先生は、本棚の1番上から蓄音機を出して、机に置いた。そして、綺麗に収納ケースに入った、1つのレコードを取り出すと、中心にセットした。



ボツボツっと音がして、次第に大きく鳴り始めた。まるでBARさながらのゆったりとしたJAZZだ。雨と相まって、より一層オシャレな雰囲気が流れる。私が聴き入っていると先生が話し始めた、



「世の中、2つで1つみたいな物で溢れてると思うんです。砂糖とコーヒーだとかね。」


「JAZZと雨音、私はこれが大好きなんですよ。だから雨が好きなんです。」


雨には雨の、その時にはその時の楽しみ方。久しく忘れていた”何か”を思い出した気がして、私は、少し暖かな気持ちになっだ気がした。懐かしい。


小さな事だけれど、少し少女を思い出したのは、無邪気に、けれど静かに喋る先生を見たからなのかもしれませんね。



  

 私は、遅くまで先生と、この時間を楽しんだのでした。


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