第8話 姫奈のおねだり

 あの後誤解を解いた俺はお風呂に入って布団に潜って今日あったことを整理しているところだった。なんというか色々とあったものだ。屋敷の執事を止めて、久々に実家に帰ったと思えば想い人である姫奈と二人っきりで過ごすというイベントがおきた。まるでギャルゲーのような展開だが、これはリアルだ。ギャルゲーとは違うのである。

 俺と彼女は執事とお嬢様という関係こそなくなったが、それでも彼女は大企業のお嬢様でごく平凡な高校生の俺とでは身分が違いすぎる。仮に両想いでも、王牙おじさんは俺達の関係を認めないだろう。あの人は本当に姫奈の事を大事に思っているし、愛しているんだもんなぁ。

 だからこそ、姫奈と喧嘩した内容は本当に大事な事なのだろう。王牙おじさんにも恩はあるが、姫奈の味方をしている俺ができるせめてもの誠意といえば彼女に変な事をせず清い体のまま送り返すことくらいだろう。

 姫奈は慣れない環境のせいか早々に隣の部屋の親の寝室で横になっている。だから今しかないのだ。そうでもしないと俺の愛馬が冷静を保てない。そう言い聞かせて俺はタブレットを起動させる。



「これは違うんだ。姫奈がいるというこのギャルゲーのような状況で間違いがおきないようにするように仕方なくするだけだ。しかし、想い人が隣にいるとおもうとちょっといつもより興奮するな……」



 俺はお気に入りである『クオーターお嬢様とラブラブ同棲生活』というファイルを開く。金髪の美少女とイチャイチャするだけのエッチな漫画である。これには俺の愛馬も元気になるというものだ。ちょうど家出をした美少女が主人公の家に来て、眠れないのと言って、部屋に訪れるところだった、そして話の流れでエッチな事をはじめている。俺だって本当は姫奈とこんなことをしてみたい……しかし、姫奈の事を想って興奮すると俺の愛馬が悲鳴をあげる。マジでこれなんとかならないかなぁ!! 俺は悲鳴を上げながらエロ漫画に全集中の呼吸をしていた時だった。



「一夜……起きてる?」

「うおおおおおおおおおお!!! 姫奈どうした?」



 ノックと共にいつもの自信にあふれた声ではなく、少し、不安そうな声が聞こえる。俺は心臓が止まるかと思った……あぶない。俺の愛馬が暴発するところだった。無茶苦茶あわてながらも俺はスマホを閉じて、扉をあけて彼女を招く。

 可愛らしいワンピースからちらりと見える谷間が眩しい、先ほどまでエッチな漫画を読んでいたからか余計ヤバイ。落ち着けよ、俺ぇぇぇぇぇぇ!!



「こんな夜にごめんなさい……その、いつものぬいぐるみがないから寝れなくて……」

「ぬいぐるみ?」

「あれよ、あんたが小学校の時にとってくれたやつあったじゃない」

「ああ、あれか。遊園地のゲーセンでどうしても欲しいって言ってたやつだよね。まだもっていたのか」

「当たり前じゃないの……だって、たいせつなものだもの」



 俺の言葉に彼女は不満そうに唇を尖らした。あれは小学校の時に王牙おじさんに遊園地に連れて行ってもらった時の事だ、彼女はそこのイメージキャラが好きなのかどうしても欲しいといっていたので頑張ってとったのである。もう何年もたっているのにまだ大事に持っていてくれたのか……俺は嬉しさと愛おしさで胸が熱くなるのを感じる。

 引き留めてもらえなかったときは悲しかったけどさ、彼女にとって俺はちゃんと大切な人だったんだね。もしかしたら彼女が俺を引き留めなかったのも俺の気持ちを第一に思ってくれからかもしれない。だったら俺は俺のできる事をしようと思う。



「ああ、大丈夫か? 何か俺でできることはあるか? 子守歌を歌うとか……」

「あのね、私を何歳だと思っているのよ……その……一人だと寝れないから一緒に寝てくれないかしら}

「ああ、もちろんんんん? え、なんだって?」



 この展開さっきエロ漫画でみたやつじゃん。え、マジでこいつ何言っているの? きっと聞き間違いだろう。だて、彼女はお嬢様で……しかももう高校生だ。男がケダモノだってことくらいわかっているだろう。だけど、彼女の上目遣いの一言で俺は先ほどの事が勘違いでなかったというのを確信することになったのだ。



「だからね……一緒に寝てっていってるの。二回も言わせないでよ、バカ……」



 あまりの可愛さと愛おしさに俺の心の貞操帯が砕ける音がした。

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