第2話 一夜と姫奈

 扉を開けた俺を待っていたのは、何やら俺のベットで幸せそうな顔をして横になって何やらにやにやとしている姫奈だった。待って今この子枕の匂い嗅いでなかった? というか一応鍵がかかっていたはずなんだけどどうしたの?



「なんで俺のベットにいるんだよ!! いや、いらっしゃるんですか?」 

「遅かったじゃないの。二人っきりの時は敬語はやめてっていってるでしょ、それよりお父様と何を長話しをしてたのよ。マッサージの事とか……?」

「話すわけないでしょ。ぶっ殺されるよ。てか……その格好はどうしたんだの」

「うふふ、似合うでしょう? この前お父様に内緒でデザイナーに作ってもらったのよ」



 そういって、ベットから起き上がり彼女は俺の前でくるりと回る。レースをあしらったワンピース型の可愛らしいルームウェアから彼女の谷間と生足がちらっとのぞく。しかもさ、そんな風にまわるからふとももまで見えてしまう。その様子に俺は俺は思わず生唾を飲むのであった。あぶねえ、貞操帯があったら俺の愛馬が死んでいた所だった。



「それで何かないの? 私がわざわざあなたのためにこんな格好をして遊びに来たのよ」

「え? 何かって? むしろ不法侵入されて恐怖しかないんだが!? ていか俺の枕の匂い嗅いでなかった?」

「そ、そんなはずないでしょ、なんであなたの枕の匂いを嗅いで一夜のにおいだぁーとか言うと思うのよ! それよりも、こういう時にレディに言う言葉があるでしょ」



 俺の反応に彼女は冷や汗を流しながら目を逸らした後に、唇を尖らして不満そうにアピールをしてくる。いや、わかってるさ。姫奈の欲しい言葉くらいはさ。でも、なんていうか言ったら自分の気持ちが抑えれなそうになるんだよ。許してくれないかと思い彼女を見るが、こちらをにらみつつも少し、不安そうな色が瞳に映っているのがわかる。くっそ、そんな顔をされたら言うしかないじゃないか。



「世界一可愛いよ、姫奈。すっごい似合ってる」

「うふふ、当たり前でしょう、これは私のために作られた服ですもの。それで……少しは気分転換になったかしら」

「え? 気分転換って?」

「その……あなた今日も様子がおかしかったじゃない? 男性は普段とは違う恰好の女性がいると元気になるって友人に聞いたから……」



 彼女は得意げな顔をした後に少し恥ずかしそうに言った。誰だよ、そんなこといったやつは……グッジョブだぜ。まあ、俺の様子がおかしいのは最近姫奈からのスキンシップが増えたからなんだけどね。ああ、でも……彼女に助言をしたのは、まさか、男子じゃないよな。変な男と仲良くなっていったらと、心配になる。王牙おじさんにも言われてるからな。けっして俺が気になるわけじゃない。



「全く、誰から聞いたやら……」

「ああ、クラスの最近仲良くなった友達に聞いたのよ。ほら、この子。かっこいいでしょう」



 そう言って彼女はスマホに移った写真をみせてくる。姫奈とショートカットの中世的なイケメンの二ショットが写っていた。こいつ誰だよ。しかもなんか距離が近くないか? この距離は俺と姫奈の距離だろ? 婚約者を探しているという話を聞いた時に感じた俺の胸の中のモヤモヤが更に強くなるのを感じてしまった。



「何よ、怖い顔をして? わたしにだって友達くらいいるんだから」

「いや……別に……」



 しまったと思った時にはもう遅かった。俺が黙ったのを彼女はなぜかにやにやと嬉しそうに笑みを浮かべている。そんなにそいつと仲良くなったのが嬉しいのかよ……同じクラスよりも幼馴染の方が絆は強いはずだろ。あれ、同じクラス……?



「なあ、姫奈、その子って同じクラスって事は女子なのか?」

「当たり前じゃないの。女子クラスに男子がいるはずないし、あんた以外にこんな近づけさせるはずないでしょ? 彼女は演劇部のエースなの。男子よりかっこいいって有名だけど聞いたことない?」

「あー、そういうことね。そういえばクラスの女子が騒いでいたなぁ……なんでうちのクラスにいないんだろうって」



 我が高校は元が女子校だったためか女子が多く男子は少ない事と、伝統なのか女子の方が権力が強いし、かっこいい女子がいたらそちらのほうが目立つのである。男子の立場は……平等と言いたいが俺達には人権なんぞないのが現実だ。



「ねえ、一夜……さっき少し不機嫌そうな顔をしてたけど、もしかして嫉妬しちゃったのかしら?」



 姫奈がこちらをうかがうように覗き込みながら聞いてくる。その顔は珍しくにやにやと少しだらしない笑みを浮かべている。俺と彼女は幼馴染だ。彼女の俺に対する気持ちが家族への好意なのか、それとも俺の様に異性への好意なのかはわからないが、欲しい言葉がわからないほど俺はバカじゃない。だから俺は自分の気持ちと彼女の期待ぎりぎりのセリフを吐くことにした。



「そりゃあ、焼きもちくらいやくさ。俺が姫奈の一番の友人なんだからさ」

「ふーん、友人ね」



 俺の言葉に彼女は眉をひそめる。少し不満そうだけど、一番と言われてまんざらでもないそんな顔である。



「そろそろ、ご飯の時間だよ。早くいかないと冷めちゃうし食後は勉強があるんでしょ。家庭教師の人を待たせるわけにはいかないから行こうよ」

「あらもうそんな時間なの!? 一流のお嬢様たるもの遅刻はまずいわね。それで……少しは元気が出たかしら」

「え……? ああ、心配してくれてありがとう。姫奈」



 いきなり来たのは俺を心配してだったのか……俺は彼女の優しさに感謝しながら、食堂へと向かう。心なしか彼女が嬉しそうな顔をしていたのは気のせいかではないだろう。もしかして、両想いだったりして……なんてね。浮かれたことを考える俺を戒めるかのように昔撮った家族写真の母親が俺を見つめている。俺はとりあえず食事へと向かう事にするのであった。

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