ハイスペック恋愛クソザコお嬢様である黒乃姫奈に手を出したら俺の〇〇〇が飛ぶ~好きすぎて我慢できないから距離を置こうと思ってんのにウチに住むってマジで言ってんの??

高野 ケイ

第1話 ハイスペック恋愛クソザコお嬢様である黒乃姫奈に手を出したら俺の〇〇〇が飛ぶ~

「ごきげんよう」

「おはようございます。姫奈様」


 優雅なお辞儀と共に紡がれる彼女の一言で文芸部の部室で騒いでいた女生徒たちがピタッと言葉を止めて、俺の横にいるクラスメイトであり、幼馴染である黒乃姫奈くろのひめな に挨拶を返す。

 その反応に彼女は満足そうにうなづくと、隣にいる俺に目で合図をする。



「ただいま準備を致しますね。姫奈様」



 俺は慣れた手つきで部室のテーブルにテーブルクロスを引いて人数分のお茶菓子をセットして、姫奈の椅子をさっと引いて、彼女が座るのを待ち、紅茶を淹れるためにお湯を沸かす。そして、姫奈が座ったのを確認して他の女子達も椅子に座った。

 まるでお姫様の様な扱いを受けている彼女の名前は黒乃姫奈くろのひめなと言う。フランスの血をひくクォーターの彼女は美しい金髪に、見るものを魅了する大きい目、雪の様に白い肌を持つ美少女だ。彼女が優れているのは容姿だけではなく、学業や芸術面などにも秀でている。だからといって決して驕ったこともなく、むしろ面倒見がよく人望もある。現に彼女はここに集まっている文芸部友人たちの勉強を見ているのである。才色兼備という言葉はまさしく彼女にふさわしいと人は言う。



「一夜、彼女は甘いものは苦手だからちゃんと準備をしてあるかしら」

「もちろんですよ、姫奈様」



 俺は彼女の指示通り別個にもってきたビタークッキーを見せると満足そうにうなづいた。なぜ俺が幼馴染の彼女のいう事を聞いていたり、様づけなのかと言うとこれには大きな理由があるのだ。



「そんな……勉強をみていただくだけでもありがたいのに、そんな風に気をつかっていただかなくても……」

「何を言っているのかしら。私、黒乃姫奈は完璧なのよ。友人の好みにこたえるくらい当たり前なのよ。ねえ、セバスチャン」

「俺の名前は一夜ですよ。あなたの執事の黛一夜まゆずみいちやです」

「知ってるわよ、少しくらい乗ってくれてもいいじゃないの」



 そう言って、唇を尖らせる彼女を見て、俺だけではなく周りの子達も微笑ましいものを見るようになるのは気のせいだろうか? ちなみに甘いものが苦手な女子は『姫奈様推せるー、しゅきー』とかぶつぶつ言って目をハートマークにしている。百合の香りがするね。

 そう、俺と彼女は幼馴染ではあるものの平等な関係ではない。俺は彼女の執事として、彼女のお父さんに雇われているのだ。業務内容は日常生活のお世話と、様々なトラブルへのサポートである。自分の目が届かない学校で、愛しい一人娘がいじめられたりしないか心配だったのだろう。

 俺も彼女の事は嫌いではないし、一緒の学校に行ける上お金をもらえるなら願ってもないと二つ返事で了承したものだ。そして、それとは別に一つだけ絶対守ってくれと言われた約束があるが、まあ、それは俺が自制をすればいいだけの事であり、全てが順調に進んでいる。引っ込み思案だった彼女は今やリーダーシップにあふれ、人望もある一流のハイスペックなお嬢様になった。



「ふぅー疲れたわね」



 文芸部のみんなに勉強を教え終わった彼女は体を伸ばしながらそう言った。そんなポーズも様になるから美人はずるいと思う。俺はみんなが返った部室でそんな風にリラックスをした姿を見せてくれる彼女に微笑みながら答える。



「はしたないですよ、姫奈様」

「今はあなたと私しかいないからいいじゃないの? それと二人っきりの時は敬語は禁止と言ったはずよ」

「本当はいけないんだけどなぁ、おじさんにばれたら俺が怒られるんだよ」

「その時は私も怒られてあげるわよ、一夜」

「結局怒られるんだ……」



 彼女の軽口に俺はツッコミをいれる。俺達の本当の関係は一言では説明はできない。俺は執事であり、彼女の友人であり、幼馴染である。こんな砕けた彼女を見れるのはこの学校では俺くらいだろう。そんな些細なことに優越感を感じて思わず笑みを浮かべるとなにを勘違いしたのか姫奈が不満そうに唇を尖らせた。



「なによ、人の顔を見て笑って。大体、私の顏なんて見慣れてるでしょうに……」

「いやぁ、いつもの頑張っている姫奈も美しいいけどさ、素の可愛らしい姫奈を見れるのは俺だけなんだって思うと嬉しいなって思っただけだよ」

「はいはい、誰にでも可愛いとかそういう事をいってるんでしょう? もう、チャラいんだから。そういうのは嫌いよ」

「いや、そんなこと言うの姫奈だけに決まってるでしょ。俺を何だと思っているんだ……」



 なぜかツンツンとしている姫奈に俺がツッコミをいれると彼女は顔をなぜか顔を逸らした。そして「ふーん、私だけなのね」とぶつぶつ言っている。心なしか顔が赤いのは気のせいだろうか?



「まあ、あんたにいわれても別に嬉しくなんかないんだけどね」

「無茶苦茶顔をにやにやして何言ってんの? だいたい可愛いなんて姫奈は言われ馴れてるでしょ。俺のクラスでも美少女がいるって話がくるくらい有名なんだから」

「うるさいわね、あんたに可愛いって言われたから嬉しいのよ! 悪い? そんなことよりも、勉強したら肩が凝っちゃったわ。悪いけどマッサージしてくれないかしら?」

「はいはい、わかりましたよ、姫奈様」



 俺はなぜかキレた後に無防備に肩を向ける彼女に苦笑をしながら、彼女の肩をマッサージする。自慢じゃないがマッサージは得意である。執事に必要なスキルだと姫奈に言われ習得したのだが、これがクラスの連中にも好評で、以前は男女構わず頼まれていたのだが、姫奈に「私の執事なの!!」と言われ怒られてしまい、今では彼女にしか披露をすることになってしまったのが残念である。

 俺はそんなことを思い出しながら苦笑して彼女の肩をもむ。姫奈の肌に触ることができるのも執事である特権だろうか。でもさ、俺だって年頃の男子高校生なんだよ、美少女の柔肌に触るなんていつまでもたっても、馴れないし……興奮だってする。



「んっ、ああ……」



 よほど凝っていったのか、いつもより固い部分をもむと彼女が艶めかしい声を出す。そんな声出したらだめだって……あとさ、香水か何かわからないけど、無茶苦茶いい匂いがするんだが……これはまずい。マッサージを中断しよう。そう思った俺だったが、手遅れだった。俺の股間に痛みが走る。



「うおおおおおおお、俺の愛馬がぁぁぁ」

「きゃぁぁぁぁぁ、なにやってんのよ、いきなり壁に頭をぶつけて!? どうしよう、一夜が狂った?」



 突然の俺の壁に頭をぶつけるという奇行に姫奈が心配そうな声を上げて、俺を止めようとする。しかし、そうすると俺と彼女の体が密着するわけで……そうすると俺の愛馬に刺激をうけるわけで……俺は再び壁にぶつけて痛みで興奮を紛らわせる。



「うおおおおおお、大丈夫だ。問題はないよ」

「問題しかないわよ!! いきなり、頭をぶつけて何がおきたの? 何なのあんた薬でもやってるの? それとも変なものでも食べた?」

「本当に大丈夫だから!! 変なもの……お昼にもらったクッキーとか……いや、冗談です。本当にこわいからそんな殺人鬼みたいな目をしないで……とにかく、今日はもう帰ろう、あんまり遅くなるとおじさんも心配するよ」

「はぁー、もう慣れたけどさ、私としてはあんたの精神のほうが心配なんだけど……一体なんなのよ……」



 痛みのおかげで興奮が飛んだので俺の愛馬もおさまってくれた。よかった……俺が血の出た頭を止血していると彼女も慣れたとばかりに、ため息をついて実家に連絡をした。おそらく五分くらいで迎えが来るだろう。これでこのピンチ逃れれそうである。俺は彼女に密着しないよう気を付けて世間話をするのであった。



                    -----------------------

「姫奈様、お疲れ様です!! 一夜君もお疲れ様。この前は部活の助っ人ありがとうございました!!」

「ええ、皆さんお疲れ様。来年は部員がそろうといいわね。また、何かあったら声をかけなさい。私にできる事ならなんでも手を貸すわよ、もちろん、一夜もね」

「もちろん、お嬢様の命令とあれば何でも手伝いますとも」



 迎えが到着したという連絡が来たので、俺達が校門へと向かっていると様々な生徒から声をかけられる。姫奈は部活の助っ人をしたり、委員会などの手伝いをしていることもあってか、色んな生徒から慕われているのだ。



「姫奈様お疲れさまー。また勉強教えてねー」

「ああ、姫奈様……今日もお美しい……」



 気楽な感じで声をかける女子や、中には熱烈な視線を送る女子もいるようだ。そんな生徒たち一人一人に彼女は手を振ったり、笑顔で返したりと彼女はそつなくこなしている。しかし、そんな彼女もたった一つの質問で、顔を真っ赤にして固まった。



「姫奈様と、一夜君はいつもいっしょにいるよね。付き合っているのー?」

「え……あ……う……」

「はーい、姫奈様は車が待っているのでもう行きますよー、失礼します。皆さんまた明日ー」



 俺は顔を真っ赤にしながら口をパクパクとして、救いを求めるようにこちらを見つめている姫奈の手を取って車の方へと向かう。彼女はどうもこういう恋愛ネタだけはクソザコなのである。

 それは彼女の家の教育方針で、変な虫がつかないようにと、女性が多い学校に通っているのと、彼女の財閥のお嬢様という事とやその美貌に、気軽に声をかける度胸のある異性がいなかったのも原因だろう。

 俺に手を引かれている彼女を見て、一部の生徒がキャーキャーといっているが、それももう慣れたものだ。



「今日もお疲れ様ですぞ、姫奈様、一夜君」

「七海、今日もお疲れ様」

「七海さんいつもありがとうございます」



 俺が校門前に止まっている車の前に行くと、運転席から、40歳くらいのきっちりとしたスーツを着た初老の男性が出てきて、姫奈にお辞儀をする。彼は姫奈専属の運転手であり、子供のころから送迎をしているため俺との付き合いもかなり長い。

 姫奈は多少落ち着いたのかいつものように澄ました顔で七海さんに挨拶をしているが、少し顔が赤いのは気のせいではないだろう。そんな姫奈を見守るように見つめながら七海さんは声をかける。



「今日もお嬢様は学校を楽しめたようでなによりですぞ。それにしてもお二人は仲良しですな」

「え? 仲良し……?」

「あ……この手は……その……一夜!! いつまでも手を握っているのよ!!」



 七海さんの言葉で手をつなぎっぱなしだったことに気づいた俺達は慌てて手を放す。改めて指摘されるとかなり恥ずかしい。とはいえ、執事とお嬢様が手を繋いでいたらあらぬ誤解を受けそうである。俺は事情を説明しようと口を開く。



「これはですね……」

「ふふ、一夜君、私とてお二人をずっと見てきていますからな。大体事情はわかりますよ。お嬢様のピンチを救ってくれてありがとうですぞ。二人はまるで、騎士とお姫様の様ですな」

「うん、一夜はいつも私が困ったら助けてくれるのよ」



 そう言うと姫奈はさっきまで俺が握っていた手をさすりながら恥ずかしそうだけど、嬉しそうに笑った。なんでこのお嬢様は俺にだけはツンツンしているの!? まあ、可愛いからいいんだけどさ。



「さあさあ、お二人とも車にお乗りください。夕ご飯に間に合わなくなりますぞ」

「わかっているわ。行くわよ、一夜」

「はいはい、わかりましたよ、お嬢様」


 七海さんの言葉に従って姫奈が乗り込むのを確認して、俺も隣に座る。本当は助手席にすわるべきかもしれないけれど、姫奈の話し相手も俺の仕事のうちだからだ。というのは建前で、俺が助手席にいると姫奈が拗ねた顔をするのである。まあ、俺としても彼女の会話は楽しいので不満はない。というかむしろ嬉しい。



「全く困るわよね、クラスの子達ったら……私達の関係を勘違いしているんだから……その……一夜は嫌じゃなかったかしら?」

「もちろん、嫌ではありませんよ、姫奈様……痛っ!!」



 俺の他人行儀な態度に姫奈が拗ねた顔をして、足を踏んできやがった。だって、七海さんいるしさ……と思って彼に助けを求めるように見つめるとルームミラー越しにウインクをしてくれた。どうやら雇い主である姫奈の父には内緒にしてくれるようだ。ありがとう、七海さん。俺は心の中でお礼を言う。



「別に嫌なわけないでしょ。大体そんなの中学からずっと言われているんだよ。本当に嫌だったら姫奈の執事何てやるわけないでしょ」

「ふーん、一夜は私と一緒にからかわれるのが嫌じゃないんだ……えへへ」


 そう言うと彼女は少し顔を赤くしてはにかんだ。その表情があまりにも可愛らしくて、俺は思わずどきりとするとともに愛馬が反応しそうになったので、自分の膝をつねって誤魔化す。危ない……長男だから、我慢できた……次男だったら我慢できなかった……



「そういう姫奈はどうなのさ、俺と恋人みたいって言われるのさ」

「別に嫌じゃないに決まってるでしょ。だって私と一夜はそう思われるくらい仲良しって見られるんでしょう。私にとって一夜は執事である前に大事に幼馴染なんですもの。嬉しいわ」



 俺の言葉に彼女は満面の笑みで答える。大事な幼馴染か……嬉しいけど少し複雑である。話は終わったとばかりに彼女は棚を開けて七海さんが用意してくれている漫画に手を伸ばす。その頬が少し赤いのは気のせいではないだろう。自分で言って恥ずかしくなったな、このお嬢様は……

 そんな彼女を見て、可愛らしいなと思いつつ、俺も少し恥ずかしくなってきたので、漫画本を読むことにする。


『幼馴染ヒロインっていいよなって言ってからいつもつるんでいる後輩が幼馴染を自称するようになったんだが……』

『片思いの幼馴染に惚れ薬を飲ませてみたがいつもと態度が変わらない件について』

『幼馴染しか勝たないラブコメ』

『お嬢様は告らせたい』


 なんかずいぶんと偏りがある気がするんだが……俺は七海さんの性癖に疑問を抱きながらも漫画を読むのであった。








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「一夜君、姫奈はどうだったかな? 特に問題はなく学園生活を過ごせていただろうか?」

「はい、今日も学友と勉学に励んでおりましたよ」

「彼女にスリつく虫はいないだろうね」

「はい、彼女のクラスは女子だけですし、部活の文芸部も男子は俺しかいませんので、大丈夫かと……」


 帰宅した俺は姫奈の父である王牙おうがおじさんに今日の彼女の行動を報告していた。もちろんこの事は姫奈も知っている。俺の執事の仕事の一つだからね。中学からの習慣である。王牙おじさんはよほど、姫奈が可愛くて心配なようで学校の様子をやたらと聞きたがるのである。



「そうか、君のおかげで彼女も学校に馴染めているようでなによりだ。ああ、すまないね、これを外そう」



 王牙おじさんがボタンを押すと俺の貞操帯が外れる。おお、気が楽になる。そう……俺が姫奈の執事をやる際の条件というのが、学校ではこの貞操帯をつけるという事である。姫奈の事が大好きすぎて心配しすぎる王牙おじさんは俺が万が一にもエッチな事をしないように身に着ける事を義務づけられたのだ。宦官かよって感じだし、マジで頭おかしいんだけど、中学の頃の俺は大して疑問も持たずにオッケーしちゃったんだよね。



「すまないね、一夜君、君を信じていないわけではないんだが、うちの姫奈は可愛いだろう? 微笑み一つで見るものを魅了し、囁けば全てを彼女に夢中になってしまう。幼馴染の君とはいえ万が一があるかもしれないからね。実際君も姫奈にムラムラするだろう」

「いやいや、俺と彼女は幼馴染ですし、ムラムラしませんよ」

「ふむ、つまり……うちの娘には魅力がないと……」

「いえいえ、すごい魅力的です。今日も貞操帯がないとやばいなってシーンが何回もありましたね!!」



 それまで申し訳なさそうにしていた王牙おじさんがいきなり無表情な顔になるのは無茶苦茶怖かった……この、娘を溺愛しすぎるのさえなければ本当にいい人なのになぁ……俺は内心大きなため息をつく。給料もくれるし、通っている高校の学費だって払ってくれている。元々俺がここに住んでいるのも幼い姫奈が俺とずっと一緒にいたいと駄々をこねたからだ。王牙おじさんはその様子をみて、本当に申し訳ないと言って頭を下げてくれたのだ。



「姫奈はとても魅力的だからね、彼女には一流の人間を婚約者を用意しようと思っているんだ、それまでは変な男に彼女がひっかからないように守ってくれたまえよ、ああ、ちなみに娘に手を出そうとした奴がいたらおしえてくれたまえ、私の権力の全てを使って、捕えて〇〇〇をちょんぎってやるさ」

「はい、もちろんです。それでは失礼します」



 その一言に俺の愛馬がきゅっとなった。この人は本当にやるだろう。婚約者か……まあ、彼女はとても魅力的なのだ。相手には困らないだろうし、王牙おじさんの眼鏡に叶った相手ならば問題はないだろう。

 俺は胸がずきりとするのに気づかないふりをして、自分の部屋に戻ることにする。わかっていたことだろ、俺と彼女とでは身分が違うのだ。

 そもそも、貞操帯がなくても絶対手をだすわけにはいかないのだ。俺が彼女に変な事をすれば普段は優しい王牙おじさんは本気で俺の愛馬を飛ばすだろう。そういう意味では今日は危なかった。マッサージの最中の姫奈ちょっとエロ過ぎない? 姫奈は昔みたいな距離で来るけど、俺はもう男子高校生である。年相応に恋愛にも興味はあるし、その……エッチな事にも興味はあるのだ。だから少し気を付けないとなぁ……などと今日の出来事を思い出しながら部屋の扉を開けた俺を待っていたのは信じられない光景だった。なんで姫奈が俺のベットで横になってるんだよぉぉぉ、しかもなんか枕の匂いと嗅いでいない?


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