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「聖女様?」

「ハッ!」

 アレクシスに声をかけられて、『私』はあわてて目をしばたたく。

「大丈夫ですか? 名だたる『オーアインの聖女』とはいえ、あれだけの奇跡を使った後ですから、さぞおつかれでしょう」

「あ、いえいえいえ! 私なら……ェヘン、『わたくし』なら問題ありませんので。こころづかいありがとうございます」

「それならいいのですが……」

 なおも私に心配そうな目を向けるアレクシスたち三騎士。いや、これはただの尊みのじょうせっしゅによるトリップで、身体の方は本当に大丈夫なんです。そう言うとまた別の意味でヤバそうだけど。っていうか私がヤバいやつなのはその通りなんだけど。

 ──『オーアインの聖女』ことエナ・ミレーナ。しかしその正体は、なみレナなるごくごくへいぼんな人間が転生した姿なのだ。

 生まれは栃木、育ちは埼玉、職場は東京。奇跡も魔法もない世界で私は、典型的なお上りさんとして社会の歯車にてっしていた。そんな私はある時アッサリと命を落とし、次に気がついた時にはこのファンタジー世界で農民のむすめをやっていたのである。そして今となっては、なんの因果か国が誇る聖女様をやらせてもらってもいる。

 前世では神も仏も信用してなかった私がなぜ、という感じだが……かんじんなのはこの世界の『ルール』が、私が元いた世界とあまりにかけはなれていることだった。そしてさらに重要なことは、前世の私が友人の大半をドン引きさせるほどのアイドルオタクだったことなのである。

 かつての私はブラックじみた仕事の合間に、箱推し(グループのメンバー全員が好きでグループごとおうえんするファン、あるいはその生き様のこと)していたアイドルグループの出演番組をり切れるまで見たり、ライブチケットをものぐるいで求め彷徨さまよったり、ぶっぱんに並びまくって一月分の給料をかしたりしていた。それ以外にも、すきあらばSNSでアイドルたちの動向をチェックしたり同好のと熱く語り合ったりかいしゃくちがいと血みどろのなぐいをしたり……あーなつかしき限界ドルオタとしての日々。

 で、そんな感じだったからこそ、この世界で三騎士様たちにれ込んだしゅんかん、私はとてつもない聖女としてかくせいすることになったのである。

 ざっくり説明すると、

 聖騎士たちを『推し』として応援したり『尊さ』を感じる。

 →聖騎士は神力の代行者で神のしん

 →聖騎士をあがめること=神を崇めること。

 →聖騎士への尊みの強さ=神への信仰の強さ。

 →神は信仰が強い人間に力をさずける。

 →聖騎士への尊みが高まるほど聖女のレベルが上がる……というわけなのである。

 旧名:江波レナ、きょうねん三十二歳。

 そして今。私は十八歳の『オーアインの聖女』エナ・ミレーナとして、三騎士様たちを箱推ししつつ、彼らのそばに仕えているのだった。


 ひとしきり労いと報告をわし合ったところで、アレクシスが「さて」と私に言った。

「お疲れのところ申し訳ありません、聖女様。今回もまた、部下たちにいやしの奇跡を施してはいただけないでしょうか? 我々が今回も無傷で帰ってこられたのは、彼らの働きのおかげに他なりません。命に別状のある者はないのですが、それでも傷を負った者は少なくないのです」

「ええ、もちろん。それでは今すぐにでも奇跡を……」

 そうアレクシスに答えた私ののうに、キラリと見慣れない文字がおどった。

 ……【癒しの奇跡EX】? あれ、私が使える回復の奇跡って最大が【癒しの奇跡Ⅳ】じゃなかったっけ。あ、ひょっとして今回の尊みで新しく覚えたのかな!? ウッヒョーありがとう神! いきなことしてくれるじゃん! じゃあさっそく、新しく覚えたこの奇跡を……。

 と、祝詞のりとを唱えだした私の足元から、大きな魔法陣が広がる。

 それを見た騎士たちが「おぉ」とかんの表情を浮かべた。いつもの通りなら、部屋いっぱいに広がった魔法陣が光って消えると、騎士たちみんなの傷が綺麗にふさがっているはずなのだ。

 ──しかし今回は、魔法陣は部屋のかべえてさらに大きく広がっていた。

「……え……?」

 ザックローがギョッとして目を瞬く。サラマンダが慌てて窓の外を見ると、謁見室を中心に広がる魔法陣は周りの建物をとうして広がり続け、ついには王宮のしき全体を包むほどにきょだいなものとなっていたのだ。

 ちなみに、そんな彼らのどうようは、集中する私の耳には入ってこない。

「せ、聖女様、これは──」

 アレクシスが口を開いた瞬間、魔法陣は太陽のようなせんこうを放ち、大きな大きな光の柱が、オーアインの王宮を包み込んでいた──。




はいけい この世界の神様。

【癒しの奇跡EX】、すごいはんの広さと効果でした。王宮にいた人みんなの傷が指のさかむけに至るまで治ったし、王様のリウマチも治ってたし。

 ただ、あのまぶしさはダメだと思います。私の推しの目にダメージをあたえたあの奇跡は金輪際使いませんのでおとといきやがりませまったくもう。

敬具 



 ついしん

 そういえば【千里眼の奇跡】に録画機能って付きませんかね?

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