異世界で聖騎士の箱推ししてたら尊みが過ぎて聖女になってた

のんべんだらり/ビーズログ文庫

1 異世界で聖騎士の箱推ししてたら尊みが過ぎて聖女になってた

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し』、という言葉を、あなたはだんどのように使っているだろうか。


『イヨッ、姉ちゃん見てってこれ! 一推しのイワシだよこれ!』

『この流行に乗って我が社の新商品を推していきましょう』

『ツアーファイナルライブ……推して参る』


 あ、最後のは同類の台詞せりふですかね。

 ──まあ大体、『推し』と発言する場面は右記の感じになるかと思う。自分が『てきだ』と思うものをいだし、それをだれかにアピールするこう。またはその『素敵なもの』自体へのけいしょう。あーいい。私なんて呼吸するように言ってたもんね、「これが私の推したちです!」って……。

 そんなふうに連呼する私の原動力はただ一つ、『尊み』だ。

 素敵なものは素敵すぎて見てるだけで幸せになるし自分の脳内でこねくり回してるとこうよう感で体温上がってくるしお金でもなんでも推しのえんになるならいくらでも注ぎ込めるし……とにかく推しがいる人生は豊かなのだ。だから私はそのことに感謝し、つねごろから推したちのことを見守り、そして何かあるたびに『尊い……』と両手を合わせて拝んでいたのである。

 そんな私のしょうぶんは、異世界に転生しても変わることがなかった。

 そう私は、ファンタジー世界に生まれ直した今でさえ、推しからの尊みで生きているのである。


◇◆◇


 山あいに広がるようさい国家、アハト・オーアイン。

 王の住まうきゅう殿でんたちがめているじょうさい、そしてにぎわう城下町。じょうへきに囲まれた石造りの国は今、大きな大きな正門を開き、えんせいから帰ってきた騎士隊を領内へとむかれていた。

「──三騎士様たちのお帰りだ!」

 はなばなしいがいせんを遠目に見ながら、若い青年が声をあげる。並み居るくっきょうな兵士たちの先頭では、オーアインがほこる聖騎士長三名が馬上からたみくさに手をっていた。三人ともそのよろいにはよごれも傷もなく、せいかんたんせいな顔にはろうの色など欠片かけらもない。

 行列の先頭を行くのは、騎士団序列第一位『きんろう』のヴァルガー・アレクシスだ。

 彼は現王家の分家の出で、約180センチという長身と、さらに王族のけいを表すあざやかな長いきんぱつが印象的だった。流石さすがしゅっせいの折にはかみを一つにしばっているが、結んだ髪をかぶとの後ろから出してたなびかせて走る姿は、『まるでいなずまのよう』と評判だ。三騎士の中では最年長だが、とはいえいまだ二十五歳であり、端正ながら男性らしいしっかりとした顔つきは絶世の美男と言ってつかえない。

 そして彼の後ろに続く二人のうち、兜をかぶっていないのが序列第二位の『こうりゅう』グリム・サラマンダで、フルフェイスの兜を被っているのが序列第三位の『そうよう』ヒヨウ・ザックローだ。

 二十一歳のサラマンダは長身のアレクシスよりもさらに大きいのだが、筋肉ダルマではなくアスリート然としてまったたいをしている。彼はこの国ではきわめてめずらしい燃えるようなあかがみであり、それを短くそろえた無骨な顔と、するどい眼光はいかにもおそろしげだ。しかし、おとこらしさにあふれるその姿は、実直で誠実なじょうと呼ばれるに相応ふさわしかった。

 そして、のザックローは他の二人に比べるとがらで細身ではあったが、馬の上でれるその姿にどうきんちょうは一切ない。うすいフルフェイスマスクの下は今は明らかでないが、国民は彼がれいくろかみで、若者らしくひとなつこいみをかべることを知っている。それは年相応の幼さと、一方でひゃくせんれんこうさをそなえたようえんぼうであり、彼を百年に一人の美少年──と言われると本人は「もうガキじゃねぇ」とげんになるので──美青年とたたえる声は後を絶たないほどだ。

 国の誇る三聖騎士。彼らはなおも軍列を率いながら、大通りを真っ二つに割って進み続けた。彼らの目的地は当然ぐらである城砦であり、そしてその横にそびえ立つ、王や貴族たちの王宮でもある。

 ──そこに『私』もいた。

 王宮のえっけん室で、王ときさきぜんで、お二人の見守る前で。『オーアインの聖女』エナ・ミレーナは、おごそかなローブを身にまとってたたずんでいた。ウェーブしたくりいろちょうはつと、ほっそりとした身体からだ。絶世の美女、というわけではないが、はだつやがよくれいしょうほどこされた顔は、まだ幼さを残しながらも聖女の風格をただよわせている。

 そして、ほどなくミレーナたちの待つ部屋のとびらが開き、兵たちを引き連れた三騎士が誇らしげな顔をして入ってきた。

 王と妃が彼らに手を上げて労をねぎらい、騎士たちもおを返す。それを見て、ミレーナこと『私』も深く頭を下げ、自分の前に並んだ騎士たちにうやうやしく労いの言葉をかけたのである。

「お帰りなさいませ、騎士様がた。先の遠征、ご無事で何よりです」

「顔をお上げください、聖女様」

 りんと通る声でアレクシスが言う。それを聞いて身体を起こした私に、騎士たちはにこりと笑って口々に感謝の言葉をかけてきた。

「このたびの遠征も、貴女あなたいのりのおかげで我らは無敵の働きをすことができました。いつも通りのお力ながら、それゆえに感謝にえません」

 れいただしくそう告げるのはアレクシスで、

「……ありがとう、ございました。本当に……」

 静かに、けれど力強く口にするのはサラマンダ、

「ありがとうございました聖女様! オレ……ああいや、私たちの働きぶりは見ていただけましたでしょうか!」

 そう明るく話すのはザックローだ。

 軽い調子のザックローをサラマンダがにらみつけたが、アレクシスが軽くせきばらいをすると、二人ともすぐにピシッと姿勢を正す。二人の仲が悪いのはいつものことだったので、その様子を見た王もおうもクスクス笑っていた。お二人と同じく、私もふふっと笑って三人に言葉を返す。

「ええ。せんえつながら、今回のみなさまのごかつやくも、千里眼で見させていただきましたわ」

「おぉっ、あのせきの力で!」

 ザックローがパッとうれしそうに言う。それに続いて、アレクシスも満足そうに笑みをこぼした。

「それはちょうじょうです。では、我々の活躍についてはいまさら説明するまでもないでしょうか」

「…………」

 アレクシスの言葉に、サラマンダも静かに熱っぽい視線を私に向ける。ザックローも前のめりになっていて、そんな二人を見たアレクシスはやさしくほほんだ。

 目の前に立つ三人の聖騎士を見ながら、私もまた笑う。

「……ええ。ヴァルガー・アレクシス様、グリム・サラマンダ様、ヒヨウ・ザックロー様。皆様は、この度の戦場でも──」



 めっっっっっちゃげきれつに尊かったです!!!!!!!!!!!!!!


 

◇◆◇


 はる彼方かなたわたす、【千里眼の奇跡】。

 有事の際に騎士たちを強力な奇跡で守ること、そして戦場でけんを振るう彼らの姿を王たちにお見せすることが、『オーアインの聖女』たる私の役目の一つだ──しかし、当の私は大義名分をたてに、自らの『推し』である三騎士たちに熱い視線を注ぐ作業に余念がなかったのである。

 以下、じゃきょう団のアジトである古代せきみ込んだ三騎士を見守ってる時の、私の脳内モノローグになります。


(……きたとつにゅう! あーだいじょうかな……信じてるけどもしもってことは……ってうわっ! いきなりこんなおおけのトラップ!? あ、気付いてくれた……よかったわな探知の奇跡かけといて──アッ!? 今アレク、『感謝します聖女様』って言った!? あーもうりち! そんな奇跡いくらでもかけてあげるっての! ……ハッ、こっちではサラマンダ様が部下を守ってる! ああほらもう、ビビリの新兵くんがこいするおとみたいになってるじゃん! そういうとこやぞ!! ……あ、こっちではヒヨウきゅんがみちに気付いて……ってそのまま独走!? 危な……いやいやいや何その動き!? どこのにんじゃかアサシンですか!? ああでも、後続の仲間のためにトラップ解除してくれてるんだ……けなだねーヒヨウきゅん……)


 大体いつもこんな感じ。で、ここらへんで王様から「聖女様、具合はいかがですか」と声をかけられるのもいつものことだったりする。いやあの、確かに鼻息あらかったし口パクパクさせてたし表情もキモい感じになってたと思うんですけど、すみません大丈夫です王様……それただ興奮してただけなんで……。

 やがて、先行していたザックローと合流したアレクシスとサラマンダは、各小隊を率いて遺跡の最深部に足を踏み入れた(サラマンダがザックローの独走をしっせきし、二人のいがみ合いをアレクシスが止めてからだったけど)。

 そこでは今まさにじゃしんけんぞくしょうかんが行われていた。聖騎士たちのとうちゃくと同時に、ゆかほうじんからはまがまがしい光とともに首のないきょじんが現れたのだ。

 アハト・オーアインでは、たみじゅんきょうかいいるような思想の宗教を『邪教』とし、そのしんこうのために悪行を働く信徒のことを『邪教』と呼んでいる。そんな彼らは折にれ、自分たちの命やりょくささげてしきを行い、彼方から『邪神』と呼ばれる強大なモンスターをび出していた。今回アレクシスたちは彼らの動向を事前にキャッチし、それをしようとしゅつげきしていたのである──が、どうやらギリギリ間に合わなかったらしい。

 首がないのに、背筋をこおらせるようなほうこうが巨人のからだからとどろく。足をすくませた兵たちの前で、しかし三騎士はひるむことなく前に一歩を進めた。

退たいの奇跡】が宿った剣をかかげて、ヴァルガー・アレクシスが高らかにさけぶ。

「聞け! 国に、そして世界にあだなす邪教徒たちよ! 我々はアハト・オーアインが誇る聖騎士隊! 神の名にいて貴様らを調ちょうぶくする!」

 その宣言とともに、アレクシスは巨人に向けて剣を振るった。すると、かがやく刀身からは鋭い光がほとばしり、巨人の軀に深い傷をつけたのである。

 ──グオオオオッ!

「恐れるな、兵たちよ! 我々には聖女様の加護がある! その剣を振るい、オーアインのこうを示せ!!」

 士気を鼓舞し、『金狼』がせんじんを切って巨人へとす。それを見て、さっきまでしゅくしていた兵たちはしゅんに奮い立ち、我らがリーダーを死なすまいと地面をった。

 もちろん、彼らの前を行くのは序列二位三位のサラマンダとザックローだ。

「オレたちも行くぞ『紅竜』っ!」

「言われずとも分かっている『蒼鷹』……!」

 バチバチと火花を散らしながら、しかしばつぐんれんけいで巨人にりかかる二人の聖騎士。

 あらしのようなざんげきを前にして、巨人ははんげきしつつもだいに傷を増やしていった。やがて、巨人がせいとともに遺跡を強くたたくと、しょうげきで地面は揺れ、てんじょうほうらくする。それを見た三騎士は、それぞれのそばにいた負傷者たちのもとに駆けつけた。

 アレクシスは防護のじゅもんとなえ。

 サラマンダは降ってくるれきこぶしで破壊し。

 ザックローはかろやかに負傷者を背負って安全地帯へとおおせた。

 つちけむりい、程なく落ち着く。深い深い遺跡の地下には太陽の光が差し込み、無傷かつ堂々と立つ三人の聖騎士たちを照らしていた。

「……かつもくせよ、そしておくに焼きつけよ。これが我がオーアインの聖騎士隊と──聖女様の奇跡の力だ」

 アレクシスの声をいて、ぼうぜんとする邪教徒とまんしんそうの巨人。

 なおも騎士たちは光を背にして、高らかにときこえをあげていた──。


(………………尊い……………………………)


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