四人目の後輩

  四人目の後輩


 四人目と五人目が時系列的に前後する。矛盾を感じるだろうが書き損じではなく、先述のルールに則っての事であると言う事に就いて説明を挟んでおく。


 五人目とは県西の定時制高校に進学した友人の紹介で出会った。第一印象は恐らく義務教育から抜けたばかりのあどけなさ垢抜けなさを多分に含んだ、童女から少し足が出る程度の物だったと思う。小柄な体躯もそんな印象を手伝っていたのか、その後折々に触れ交誼を結ぶ度彼女には歪んだ庇護欲を唆られ続けた。


 交際中は高校生男子特有の浅ましい情欲を懲りず叩き付け続けたが、彼女は私の遍歴に珍しく身持ちの固い女性だった。結局体を許されたのは成人を迎え、彼女との四度目の交際を経てから。既に他の男で花を散らした後と気付いた時には其れと気取られぬ様に嫉妬に燃えた事を覚えている。俺の方が先に好きになったんだぞ的な。後になって抑々セックスが好きじゃないんだと本人から聞かされた時にはマリアナ海溝より深く反省したもんだが。


 斯様な経緯から出会いの順で言えば五人目が先、交接の順で言えば四人目が先と言う奇妙な辻褄が成立した。ルールとの齟齬が生じる事を避けての表記だ。少々順序がややこしいのは此の時分に限っての話である為以降は安心して閲読されたい。


 表題の通り、四人目は委員会の後輩だった。当時公的な場では問題の無い学生を装っていた私は、気付けば周囲の後押しを受けるまま生徒会長と言う肩書で固定されていた。庶務として会に参加していた後輩は、前会長の交際相手だった。


 件の悪癖に就いて、少し補足をしておきたい。後輩と出会う前年、失踪癖の彼と思いがけぬ邂逅を得ていた。詳細は後述するとして、二度目の失踪から今日に至り彼の帰郷が果たされていない事が此処では重要となる。要約すれば、当時の私にとって倫理、罪悪感、良心の呵責と言った類の留め金は孤独に勝るだけの抑止力を有さなかったと言う事だ。


 彼是と言った事の経緯を話す内に同情を買えたのだろう。後輩が自身の私生活に鬱屈を溜め込んで居たのも手伝ってか、不逞の行為に手を染める背徳は互いに一定の精神安定に紐付く効能を与えていた。没入の度合いで言えば、何方がより深いかは言うまでも無い。


 今ではめっきりと鳴りを潜めたが、自死の選択肢が最有力となっていたのも当時の事だったと思う。二言目にはと言う程でも無いが、定期的と言うよりはもう少し頻繁に高所を求めて彷徨って居た筈だ。情緒が千々であると、後年に至り記憶も定かではないらしい。


 破綻した関係とそんな私に対して先に音を上げたのは後輩だった。無理からぬ事だろう、と言うのは飽く迄今になっての客観でしかない。当時の主観を筆舌には尽くしがたいが、有体に言って裏切られた事への逆上と言えば理解はし易いだろう。


 悪癖を良いがまま実践していた背景には、他人を同じ所に堕とす目的が少なからず有った。俺だけが不幸で在って良い筈は無い、彼だけが苦しんで良い訳が無い。彼の存在はお前ら等とは比べようも無い筈なのに、どうしてお前らだけが普通に生きていられると思うんだ。当時の私にとって、其れが在るべき理だった。


 前会長から受け取っていたアドレスに大量のjpgファイルを送り付けたのは後輩から関係の解消を突き付けられた翌日。「リベンジポルノ」と言う用語は、当時未だ無かった。






 後日談を添えておくと、半年後起き抜けに自宅を数人の黒手帳を持った公務員が訪ねてくる。


強制わいせつかと思ったら児ポだってよwwwそりゃそうだ当時後輩未成年だもんなぁwww

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