④『盗賊軍団』と狂剣士ワオ・ン
クケ子たちが、お花畑で『回復系軍団』と戦っていた頃──ギルドの食堂では『盗賊軍団』と、非常識剣士ワオ・ンが会話をしていた。
ワオ・ンが、テーブルの上にフタを開けて置かれた、宝石小箱を眺めて言った。
「それが、王家の墓を荒らして持ってきた。【狂剣士の勾玉】か……きれいなモノだな」
小箱の中には、ゼリーのような質感の勾玉が一個入っていた。
ワオ・ンと向かい合って座り、素焼きの酒ビンに入った酒を、仰ぎ呑んでいるのは盗賊軍団のリーダー格。頭は和の盗っ人のようなドロボウ手拭いをかぶり口の回りが黒く、体は
メタボ腹気味の盗賊男が言った。
「苦労したんだぜ、包帯を巻いたミイラの大群に砂漠で襲われ、命からがら逃げてきた」
「それは大変だったな」
「やーい、ダマされた♪ ミイラの大群なんて遭遇していません、ウソっぴょん! 盗っ人の言葉を最初から信じるな」
苦笑いをするワオ・ン。
「ダマしたなぁ、こいつぅ。ほらっ、欲しがっていたシドレの純白下着だ……狂戦士の勾玉と交換だ」
そう言って、ワオ・ンは白い下着をテーブルの上に置いて、盗賊の方に差し出す。
リーダーの盗賊と、いつも行動を一緒にしている盗賊軍団のメンバーは。
首から下を体にフィットした全身タイツで、目元をマスカレードマスクで隠した『女怪盗』
半人半馬のケンタウルスの『馬賊男』
体の中に、アイテムが埋もれている等身の『デコスライム』
スライムの内部には、細胞核やゴルジ体やミトコンドリアも見える。
それと、座った女怪盗の膝の上に乗った、アチの世界からやって来た一匹の『ドロボウネコ』だった。
シドレの下着を、一回り大きい別の宝石に入れると、箱の中が下着の形に合わせて変形した。
ワオ・ンの持っている、特殊な形をした大剣の鞘になっているデコスライムの一部が細く伸びて、盗賊軍団のデコスライムが伸ばしてきた触手と触れあう……ワオ・ンの剣鞘スライムは、盗賊軍団のデコ母スライムから分離した、子スライムだった。
ワオ・ンが勾玉を箱の中から指先で摘まみ上げる、指で尻尾を摘ままれた勾玉がピクッピクッと暴れる──狂戦士の勾玉は生き物だった。
元気に動く勾玉を眺めながら、ワオ・ンが盗賊に訊ねる。
「これ、口に入れても大丈夫なのか?」
「まぁ、好き好んでそれを、生きたまま食べるヤツもいないと思うが……狂戦士の勾玉は猛毒だ」
「毒があるのか? 触っても大丈夫なのか?」
「ウソぴょん♪ 毒なんてない無毒だぴょん、食べても狂戦士になるだけだ」
「そうか、食べても平気なのか……それなら」
いきなり、非常識剣士は、摘まんでいた勾玉生物を口に入れると、ツルッと呑み込んでしまった。
女怪盗が、ワオ・ンにドン引きする。
「食べた!?」
ワオ・ンが食レポをする。
「喉ごしはツルッとしていて、舌の上でひんやりしていた、オレンジ味だな」
「だ、大丈夫か? あんなもの呑み込んで?」
「あぁ、大丈夫……だ!」
下を向いて両目を閉じたワオ・ンが、顔を上げて両目を開ける。
目が白目が黒い、黒白目に変わっていた。
驚くケンタウルスの馬賊。
「うわぁぁ! 狂戦士の目だ!」
特殊大剣を手に、フラッと椅子から立ち上がるワオ・ン。
「誰が……狂戦士だってぇ! あひゃははははははっ!」
剣鞘のスライムが、大剣の
「あひゃははははははっ、強いヤツ、出てこいやぁ! オレ、最強無双! あひゃははははっ!」
ギルド食堂に悲鳴が沸き起こる、ワオ・ンの振り回す大剣が木製のテーブルを炎の剣波で切断する。
「ひ──っ!」
ギルド外に逃げ出した、盗賊軍団を追って狂剣士ワオ・ンも外に出る。
「強いヤツどこだぁ! 出てきてオレと勝負しろ! オレ、ざまぁぁぁぁ! 許しを乞うても、もう遅い! あひゃはははっ」
盗賊が、大剣を振り回す狂剣士ワオ・ンから離れた場所で言った。
「落ち着け! あんたの過去にいったい何があった!」
ワオ・ンが大剣を振るうたびに、炎の剣波と波の剣波が、周囲の建造物を切断する……手がつけられない。
盗賊軍団たちが、どうすればいいのか困惑していると。
背後からナニ・ヌノ野の声が聞こえてきた。
「おもしれぇコトをやっているじゃねぇか、オレも遊びに加えろよ」
ヌネ野が不適に笑う。
「ずっと、魔王城に閉じ込められていてムシャクシャしていたとこだ、買い物につき合っての。久しぶりの外出だ、ひと暴れさせろよ」
ヌネ野の能力を知っている盗賊軍団は、慌ててヌネ野から離れる。
ヌネ野が叫ぶ。
「背脂!」
近くにいた宿場の住人や旅人の血肉が、ヌネ野の体に吸収されていく。
人間の乾きモノが転がる中、恰幅が良い姿になったヌネ野が動物のように四肢を大地につけると、そのまま空中に跳躍した。
「くらえっ! 肉爆弾!」
落下してくるヌネ野の巨漢、間一髪で飛び避けたワオ・ンが特殊大剣を振るう。
「あひゃははははは!」
寸断される建物、肉爆弾の衝撃で壊れる石畳の道、広がっていく被害。
オロオロしている盗賊軍団に、話しかけてきた者がいた。
「いったい、これはなんの騒ぎぜら?」
振り返ると、回復系軍団との戦いを済ませて。一足先にギルド宿に帰ってきたレミファとヲワカが立っていた。
クケ子は、明日の魔王城突入に備えて、新しいウイッグの購入に。
ヤザは、魔法短剣の研ぎ屋に寄ってから、ギルド宿でレミファとヲワカと合流するコトになっている。
レミファとヲワカを見て、輪になってコソコソと相談をはじめる盗賊軍団。
「どうする? オレたちの戦い方はダンジョンとか迷路に相手を誘い込んで、アイテムやトラップで倒すやり方だぞ」
「こんな真っ昼間の町中じゃ、盗賊軍団はどうするコトもできないわよ」
「ここは、一時休戦だな」
「ニャー」
盗賊がレミファに休戦を申し出て、レミファはそれを承諾する。
「わかったぜら……あたしたちも突入前夜は、準備を整えて、ゆっくりしたいぜら……食事もしたいから」
「盗賊軍団のリーダーとして感謝する……そのお礼と言ってはなんだが、コレを」
ドロボウ顔の盗賊が一枚の、沼ドラゴンのなめし皮の裏に書かれている迷路の地図をレミファに手渡す。
「なんぜら? これ?」
「一般人が楽しむ魔王城迷路とは別の、侵入者を葬り去るトラップ迷路の近道だ……オレたちは、その迷路でトラップやレアアイテムを使って、あんたたちを迎え撃つ」
「ウソじゃないぜらか? 盗賊軍団はウソつきだと聞くぜら」
ドロボウネコを抱えた女怪盗が言った。
「その地図に関しては、ウソでないことは、あたしが保証する」
「ニャー」
「信じるぜら」
レミファは、ヌネ野と争い続けているワオ・ンを見て言った。
「非常識剣士のワオ・ンでぜら……なんで、狂戦士みたいな目を?」
「知っている人でありんすか?」
「魔法とかの術師系列には、最悪の相性の男ぜら……術師の天敵ぜら。非常識剣士ワオ・ンには、魔法攻撃は通じないぜら」
レミファの話しだとレザリムスには、極々まれに。術師の不思議な攻撃の類いを一切受けない、特殊体質の人間が存在する。
「クケ子どのが以前話していた、アチの世界のワクチン免疫みたいな体質ぜら……根本からレザリムスの存在を否定しているような特殊体質ぜら」
ヲワカが、暴れているワオ・ンを指差して言った。
「あちきの、魔矢を一発額にでも射ち込んでみるでありんすか? 大人しくなるかも知れないでありんす」
レミファは、斜めに切断されて今夜、泊まる部屋が丸見えになっているギルドの宿泊室を見ながら言った。
「ムダだと思うけれど、試しに射ってみるぜら。魔矢のムダ使いになるかも知れないぜらが」
ヲワカは、排泄魔矢を一本取り出すと、魔弓につがえて弓弦を引いて、ワオ・ンの眉間に狙いを定めて矢を放った。
刺さると相手が便意をもよおす魔矢は、狙った通りにワオ・ンの額に命中する。
命中した瞬間、魔矢から「当たりぃぃ」の女性の声と和太鼓の音が聞こえてきた。
ヲワカの魔矢は、殺傷力は無く、命中しても痛みはなく。そのまま刺さったままにしておいても、数日後には光りの粒子になって消える。
ヲワカの魔矢が命中した瞬間、大きくのけぞったワオ・ンの姿勢がバネのように元にもどる。
黒白目でワオ・ンが言った。
「効かんなぁ……あひゃははははははっ」
額に矢を刺したまま、特殊大剣を手にしたワオ・ンは、レミファたちの方に向かってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます