③『回復系軍団』と『援護軍団』

 神官の手から癒しの光りが消えたのと同時に、援護軍団の声がお花畑に響いた。

「赤いガイコツ見つけた! 回復系軍団! オレたち、援護軍団に任せろ!」

 たいして特徴がない、援護軍団の者たちが、移動式の投石機を組み立てる。

「くらえ! 投石!」

 勢いよく飛んだ石は、放物線を描いてクケ子たちの頭上を越えて、後方のお花畑に落下する。

「…………?」

「…………わぁ! 投石攻撃が効かない! 投げる石もない……先端を円錐に削った丸太を台車に乗せた破城槌はまだか! 丸太の破城チーム!」

 援護軍団は石を投げる『投石チーム』

 丸太で城門や城壁を破壊する『破城チーム』

 城壁の下に穴を掘って城内への侵入路を作る『穴堀チーム』

 ハシゴのような雲梯 うんてい車で、城壁を登る足場を作る『雲梯チーム』の四つがあった。


 尖った丸太を乗せた車を押して、破城チームが現れた。

「丸太車が完成したぞ! 攻める城はどこだ?」

「…………?」

「…………わぁ! 赤いガイコツ傭兵に丸太車は、意味ねぇ! 撤退!」

 投石機と丸太の破城槌を放置したまま、逃げ出す援護軍団に向かって。

 回復系軍団の女性神官は怒鳴る。

「こらぁぁ! 逃げるな! 使えない軍団連中。こうなったら、あたしたち回復系軍団がなんとか」

 神官は、凝った肩をトントンと叩きながら『秘孔師』に言った。

「秘孔師、とりあえず頼む」

 秘孔師が敷いた厚布の上に、うつ伏せで横たわる女性神官。

 秘孔師の体からオーラのようなモノが沸き上がり、

 秘孔師は親指で、神官の背中を「トットットットットット!」と、指圧する。

 秘孔師から処術された神官は、気持ち良さそうな顔で正座座りをすると、さっきまで凝っていた肩をさする。

「ふぅ……楽になったって! アポか!」

 秘孔師が言った。

「歩けば、さらに体力ステータスが回復するぞ」

「体のどこにステータス表示がある! 闇の白い魔道士、赤いガイコツたちに仕掛けろ!」


 白魔道士がクケ子たちに向かって、片手を広げる。

 クケ子たちの頭上に、それぞれバレーボール大の水球が浮かび、弾けると体力回復の霧雨となって優しく降る。

 旅の疲れが癒されて、元気になるクケ子たち。

「おぉ、なんだか元気が出てきたでござる」

「体力を回復させる水でありんすな」

「癒し系の水の魔法ぜら、少し疲れぎみだったから助かったぜら……ありがとうぜら」

 白い魔道士が、お礼を言われて照れているのを見て神官が怒鳴る。


「敵を元気にさせて、照れているんじゃねぇよ! 考えてみたら、あたしらお互いの体力を回復させるくらいしかできなかった、残っている回復系軍団と言えば」

 神官が一つ目の化け物の肩を軽く叩きながら言った。

「あまり期待はしていないが……とりあえず、やってみろ『回復生物』」

「ギョギョギョ」


 一つ目の化け物──『回復生物』の目が大きく見開かれ、なにか回復系っぽいエナジービームが発射されそうになった時、神官がポツと言った。

「わかっていると思うが……敵を元気にさせるんじゃないぞ、そんなコトをしたら茹でて喰ってやるからな」

「ギョ!?」

 エナジービームを発射しようとしていた一つ目生物は、ビーム発射を中断すると。

 腕組みをして少し思案してから、いきなり地面に仰向けで寝っ転がると空に向かって、エナジービームを放った。

「ギョギョ」

 放たれたビームは、空中でUターンして回復生物自身を直撃する。


 巨大化する回復生物──見上げる神官が言った。

「瀕死のヤツを強制的に回復させて、戦場に送り出すエナジービームに、まさか、そんな使い方があったとは……よしっ、巨大化した化け物。赤いガイコツを踏み潰せ!」

「ギョギョョョ」

 見下ろす一つ目の怪物の前に、進み出るヤザ。

「ここは、拙者が……二倍の大きさの分身で」

 ヤザが担いでいた大剣を地面に突き刺すと、回復生物の二倍の大きさのヤザの分身が現れた。

「ギョギョ!?」

 巨人分身のヤザが、拳の一撃を回復生物に浴びせると、回転生物は空中で回転しながら縮小して元のサイズにもどって、お花畑に落下した。

 ヤザが大剣を大地から引き抜くと、巨大ヤザの分身も消える。


 回復生物がやられたのを見て敗北を悟った回復系軍団の女性神官は、お花畑にの上にバタリと倒れ小声で回復系軍団の仲間に指示を出す。

「死んだフリをしろ、赤いガイコツが去るまで動くな」

 秘孔師と白魔道士が、回復系軍団リーダーの言葉に従って死んだフリをする。

 戦場花が、女性神官の体に根を張りはじめる。

 のたうち回る回復系軍団。

「ぎゃあぁ! 痛っ痛っ痛っ、根が! 体に根がぁぁぁ!」


 地面で、もがき転がりまくっている神官を眺めながら、レミファが言った。

「お腹が空いたぜら、宿場にもどって何か食べるぜら」

 クケ子たちは、お花畑から宿場のギルド食堂へともどった。

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