②『術師軍団』と甲骨の妹

『平凡な町の都』は、普通の異世界町だった。平凡な町の都にやって来たクケ子が言った。

「この町は、魔勇者から何もされなかったみたいね」

 町の通りを歩いている住民も、これと言って変わったところはない。

 クケ子がレミファに訊ねる。

「宿の予約ってどうやったの? 魔法とかで?」

「『伝達屋』を使ったぜら」

「伝達屋って?」

「それは……あっ、説明する前に、こっちに向かって一人走ってきたぜら」

 それは、赤い服を着た男性だった。

 かぶっている帽子にレザリムス文字で『伝達』と、書かれていた。

 走ってきた男性が、レミファの前で止まって、カバンから取り出した分厚いメモ帳のようなモノを開いて、何度も何度もレミファの顔とメモ帳を往復して見て確認する。

「パーティーメンバーの特徴も、描いてもらった似顔絵から推測して本人に間違いない……と、邪魔魔女レミファさんですか?」

「そうぜら」

「科学召喚請け負い業のおっちゃんから、受取人払いの伝達です……内密に伝えますか? それとも普通に?」

「普通料金でいいぜら」

 レミファは、普通伝達の料金を伝達屋に支払った。


「それでは伝えます、耳の穴をかっぽじって良く聞いてください……【脂肉で煮物が洗われたから火をつけろ】……確かに伝えましたからね」

 そう言い残して、伝達屋は走り去って行った。

 伝達屋の姿が見えなくなると、クケ子がレミファに訊ねる。

「どういう意味?」

「伝達屋から伝達屋に伝わっていく間に、元の伝言から変化してきたぜら……今の伝言から推測すると【脂身で偽物が現れたから気をつけろ】と、なるぜら」

「偽物?」

「デジーマ島で、おっさんが言っていたぜら……クケ子どのの脂身が高く売れたと……その脂身を使って、クケ子どのの偽物を作った者がいるぜら」

「え────っ!? あたしの偽物?」

 この時、平凡な町の都には。クケ子を狙って温泉村のリーダー軍団の時のように。

 魔勇者の娘配下の別グループがすでに町に入り込んでいた。



 ギルドの食堂で、勝手にテーブルや椅子を移動させて食堂を貸し切り状態にした。

 魔法使い、魔獣召喚師、死霊使い、呪術師などの『術師グループ』が、我が物顔で食堂を占拠していた。

 魔法学校を素行が少し悪くて追放された、目つきが悪い黒衣の若い魔法使いが大声で言った。

「リーダー軍団の奴らは、赤いガイコツに尻尾を巻いて逃げてきた……オレたち『術師軍団』が、赤いガイコツ傭兵を倒す!」

 木製のカップに入っていた酒を飲みながら、酒癖が悪い魔獣召喚師の男が言った。

「ぷはぁ……赤いガイコツを倒した者が、術師軍団のリーダーだぁぁ」

 顔色が悪い死霊使いと、南方のお面をつけて腰ミノ姿で全身タトゥーの呪術師が、カンパーイと木製カップをぶつけて割る。


 大声で騒いでいる術師たちに、食堂の給仕女性が小声で注意をする。

「あのぅ……他にもお客さまがいらっしゃいますので、あまりご迷惑になるような大声での会話は」

 魔法使いが、女性給仕をギロッと睨む。

「はぁ、オレたちに説教するか……いい度胸だ、魔法でブタに変えてやる」

 魔法使いは、短い木の魔法ステックを取り出すと呪文を唱え、女性給仕に向かって振り下ろした。

「ブタになれ!」

「ひっ!」

 頭を押さえて、その場にしゃがみ込む女性給仕。

 魔法使いの持っている魔法のステックから、ポンッと白い煙が出て花が咲いた。

「ブタになれ! ブタになれ!」

 魔法使いが魔法で、女性給仕をブタに変えようと必死に、魔法のステックを振るたびにポンッポンッと花が咲く。


 立ち上がった女性給仕は、少し小バカにしたような目で魔法使いを見て言った。

「手品師の方でしたか……手品で出した花は片付けてください……フッ」

 そう言って仕事にもどった。


 花に埋もれた魔法使いは、テーブルに顔を伏せて泣く。

「ちくしょう、また手品師扱いされた……オレは魔法使いなんだよぅ、信じてくれよう」

 魔法使いの肩を軽く数回叩いて慰める、仮面の呪術師。

 術師軍団の連中は、魔勇者に屈伏して魔勇者に忠誠を誓わされた時に。

 魔勇者から力の半分を奪われ、反逆しないように、弱体化させられていた。


 魔獣召喚師が言った。

「とにかく、赤いガイコツ傭兵を倒せば。名声を得る……倒せばいいのさ、倒せば」

 術師たちが、そんな話しをしていると。

 背が高い紫系の裾が長い魔女服を着た、一人の成人女性が食堂に入ってきて、いきなり魔法使いの頭を平手で軽く叩いた。

「いてぇ! いきなり何するんだ!」

「同じ魔法学校の先輩から、後輩への挨拶ドスドス。一週間前に完成したばかりの甲骨さまの妹を見なかったドスドス? ちょっと、目を離した隙にいなくなったドスドス」

「知らねぇな……第一、オレたちは。どんな顔をしているかも知らねぇ」

「そうだった、ドスドス……特徴としては、イヌの尻尾が生えた盾を持っているドスドス……別のところを探してみるドスドス、邪魔をした」

 そう言って、ドスドス女はギルド食堂から出て行った。

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