④恐竜男の娘の、ひいひいおばあちゃんはスーパーヒロイン

 パキケファロサウルス 娘の頭突きが、根性が腐った勇者や騎士をぶっ飛ばす。

 

 テリジノサウルス娘の、鋭い爪が戦士や武人を相手に暴れる。


 アマンガサウルス娘が操る縄クナイが自在に動き回り、女剣士や闘士を蹴散らす。

 

 数十分後──三人の恐竜娘にボッコボッコにされて、地面で呻く腐れリーダーたちの姿があった。

「ちくしょう……ちくしょう」

「いててててっ」


 鋭い爪を引っ込めて、テリジノサウルス娘が呟く。

「レザリムスの男、弱っ……やっぱり、男は知性よね。光輝くんにはもっと勉強してもらって、知性と知識の男になってもらわないと」


 縄クナイを束ねながら、アマンガサウルス娘が言った。

「あらあら、委員長それは違うわ……殿方に必要なのは包容力。あたしだけを見つめる純愛……それが、光輝さまの理想のお姿」

「そんな、童話みたいな理想いつまで抱いているのよ……光輝くんに必要なのは知性よ!」


 パキケファロサウルス娘がヘルメットをかぶり直して、横から口を挟む。

「えーっ、光輝に必要な魅力は健康と食欲だよ……男はたくさん、食べて健康でなきゃ」

「パキ、それはあなたでしょう……あたしに相応しい、光輝くんは知性派の光輝くん」

「あらあら、包容力がある純愛ですわ」

「健康! 健康! 食欲旺盛! これは譲れない!」

 恐竜娘たちは、それぞれ異なる主張でジュラ・光輝を求め。

 第二新大陸では、十人以上の恐竜娘たちが、ジュラ光輝の恋愛争奪戦を繰り広げていた。


 テリジノサウルスの委員長が、深呼吸をして落ち着く。

「少し冷静になりましょう……あたしたち三人が、この野蛮大陸に来た。本来の目的を思い出して」


「あらあら、そうでしたわね、学校のみんなが出しあって集まった、レザリムス大陸への往復の旅費三人分……あたしたち三人はクジ引きで決まって、光輝くんの身を守るためにやって来たのでしたね……遊びで第二新大陸から、最新の蒸気海竜船で海を渡って来たワケじゃなかったですわ」

「ムダな時間を費やしたわね」


 旅行バックを持って歩きはじめる三人。

 歩きながらパキケファロサウルス娘が、委員長に質問する。

「委員長、光輝がどこにいるかわかっているの?」

「ひいひいおばあちゃんの誕生日を祝うためにレザリムスに行くって、一週間前に聞いたけれど……おばあちゃんがやっている、温泉宿の名前までは知らない。

まぁ、手当たり次第に温泉宿に入って聞いて回れば、そのうちに当たるでしょう」

「委員長、適当」

 三人の恐竜娘は、温泉村でジュラ・光輝探しをはじめた。


 光輝は、ひいひいおばあちゃんがやっている温泉宿にクケ子たちを案内して来た。

 腰が曲がった老婆が、ひいひい孫を温泉宿の前で出迎える。

「おおっ光輝、しばらく見ないうちに大きくなって……制服のスカートも似合っているぞ」

「おばあちゃん、三百歳の誕生日おめでとう……お客さん案内してきた」

 クケ子たちがペコリと頭を下げる。

 光輝のおばあちゃんが、腰が折れると思うくらい深々とクケ子に頭を下げる。

「ようこそ、おいでくださりました……温泉村で、ゆっくりしていってくだされ」

 その時、慌てた様子の羊角のミノタウロス数名が、困り顔でやって来て言った。

「レイ・ナさん大変だ! また『人面ケルベロス』が畑に現れて口喧嘩をはじめちまった……あれじゃ畑仕事ができねぇ、なんとかしてけろ」


 温泉村人の話しにキョトンとするクケ子。

「レイ・ナって誰?」

 腰が曲がった老婆が言った。

「儂のコトじゃ【拳・レイ・ナ】キラキラなネームじゃろ……これでも若い時は、西方地域のナックラ・ビィビィさまと一緒に短い間だったが、旅をしたコトがある……儂らが国王から仰せつかったミッションは、ドラゴンの体内で生成される秘石薬を、ドラゴンを殺さずに取り出して……病弱な姫さまを元気にするコトで、元気になった姫さまは口から火を吹いて近隣の村々を焼き払い……」

 光輝が、長くなりそうな年寄りの想い出話しを止める。

「おばあちゃん、早く畑に行って、人面ケルベロスをおっ払わないと」

「おぉ、そうじゃった……お客さんも、希少な珍獣を畑に一緒に見に来るとえぇ」

 クケ子たちも、一緒に人面ケルベロスが現れたという畑に向かった。



 案内された畑では、羊角ミノタウロスたちが遠巻きに見ている畑の真ん中で。

 子牛のように大きい、人面ケルベロスが言い争いをしていた。

 人間の頭に犬の耳を生やした、リーゼント髪のヤンキー左頭が吼えていた。

「いいじゃねぇか……キスさせろよ、右頭」

 人面ケルベロスの右側の頭は美少女の頭で、左頭が嫌そうな顔をする。

「話しかけないで、あたしあなた嫌いだから」

「そんなコト言わねぇで、キスさせろ!」

 中頭の美少女の父親が、左のリーゼント頭を突っぱねる。

「うちの娘に近づくな! この不良が!」

「あぁん? 同じ体なんだから、うちの娘はねぇだろう……口出しするなよ、おっさん」

「なんだと! 若造がぁ! 年長者を敬ったらどうだ!」

「うっせい、うっせい、うっせいよ!」

「お父さん、息くさい! 顔を近づけないで……もうイヤ、こんな生活!」

 最悪の人面ケルベロスだった。

 畑にやって来た、レイ・ナおばあちゃんは臆するコトなく、人面ケルベロスにツカツカと近づくと拳でケルベロスの頭を一回づつ殴る。

「いてぇ! なにするんだババァ」

「うぉっ、レイ・ナさん」

「痛っ、なんであたしまで」

 レイ・ナおばあちゃんが、人面ケルベロスに向かって凄む。

「ケンカなら他の場所でやれ!」

 悪態をつく左のリーゼント頭。

「うっせい! 引っ込んで……いてぇ!」

 リーゼント頭には、同時に二発の拳が入れられていた。

 レイ・ナおばあちゃんの表情が和らぎ、少し悲しむような表情で人面ケルベロスの頭を撫でながら言った。

「明日、儂の三百歳の誕生日なんじゃ……あまり、儂を困らせないでくれ、ショコラ」

 ショコラと呼ばれた、人面ケルベロスが「クゥ~ン」と大人しく伏せる。

 実は人面ケルベロスは子犬の時に、レイ・ナおばあちゃんの家で飼われていて。

 その後、逃げ出して野生化した珍獣だった。

 リーゼント頭が言った。

「ババァ、明日誕生日なのかよ」

 親父頭が言った。

「それは知らなかった」

 娘頭が言った。

「お誕生日、おめでとうございます」

「ありがとう、どうじゃ。今日は儂の顔に免じて山に帰ってくれないかのぅ……ショコラ」

「チッ、しょうがねぇな」

 反転した人面ケルベロスが、尾を振りながら山に向かって走り出す。

 走りながらリーゼント頭が言った。

「ババァ、いつまでも長生きしろよ!」


 畑から人面ケルベロスが去ると、羊角のミノタウロスたちから拍手が起こる。

 畑を取り囲む、ミノタウロスたちに混じって。

 テリジノサウルス娘。

 アマンガサウルス娘。

 パキケファロサウルス娘。の三人もいた。

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