②クケ子の新しい力『肉盛り』
通りを歩いていたクケ子が、黒い建物のギルドに入ろうとするとレミファがクケ子を止めた。
「そこは悪党ギルドぜら、正規のギルドは通りを挟んだ向かい側にある白い建物だぜら……建物一角で甘い蜜をつけた『みたらし焼きトカゲ』を売っている建物の」
「悪党のギルドなんてあるの?」
「たまに、あるぜら……魔物ハンターに向かう途中に間違って。
悪党ギルドの建物に入ってしまったハンターの中には……そのまま、悪党になってしまう者もいるぜら」
「気をつけないといけないね」
クケ子とレミファは、ギルドの白い建物に入った。
レザリムスのギルドは、さまざまな役割を持っている。
食事、宿泊、ミッション情報、仕事の斡旋や銀行、時には武具を扱う店や、ちょっとした雑貨店やマッサージ屋や散髪屋のあるギルドもある。
ギルドに入ると、食堂でやたらと盛り上がっているテーブルがあった。
「どんどん、料理と酒持ってこーい! 金ならたっぷりあるぞぅ!」
メキシカンヒゲを生やして白いTシャツと、膝上丈までのハーフパンツ。
ビーチサンダルを履いた男が着ているTシャツ には、プリントされた『負けたら働く』の墨文字。
召喚請け負い業者の、おっちゃんだった。
召喚請け負い業者のテーブルには女性僧侶や女剣士などの、女性キャラをはべらかせている。
クケ子が小声で呟く。
「あちゃ、苦手な人に会っちゃった」
できる限り召喚請け負い男に近づかないように、ビニールシートで遮断されたギルド受付に向かう赤いガイコツ傭兵の目立つ姿は、すぐに男の目に留まる。
「おっ、久しぶりだな……こっちに帰ってきていたのか。邪魔魔女も一緒か……なるほど、一度科学召喚された者は魔導や魔術や呪術の力を使えば往復は容易になるからな……今回の目的は魔勇者の娘を倒すためか?」
「まぁ、そうですけれど。まるで実家に里帰りしていたみたいな言い方しないでください……ずいぶんと羽振りが良さそうですね」
「あるモノを、高値で買い取ってくれた人が現れたのでな……まさか、あんな爪クズみたいな脂肪の塊が高額で売れるとは思わなかった」
「そうですか」
請け負い業の男はクケ子に向かってコイコイと、手招きをする。
「なんですか?」
近づいたガイコツ、クケ子の額に請け負い業の男はいきなり、デコピンをした。
額から広がる、不思議な波紋の衝撃。
額を押さえたクケ子が、その場にしゃがみ込む。
「何するんですか! 脳震盪を起こしたらどうするんですか!」
「二度目の旅立ちを祝して、オレからのレベルアッププレゼントだ……ガイコツ姿のままだと、なにかと困るコトもあるだろう」
「別に……暑くもなく、寒くもなく快適ですけれど」
「………………」
「……………………」
続く沈黙。
請け負い業の男が言った。
「とにかく、新しい力を試してみろ……オレから離れて、もう少し……そんなもんか」
クケ子は、ギルドの受付嬢がいる位置まで下がる。
トイレからもどって来たレミファが、洗った手をハンカチで拭きながら、不思議そうな顔でクケ子を見る。
「なにが、はじまるぜら?」
請け負い業の男がレミファに、ピースサインを出して言った。
「一度見て見たいと言っていただろう……『肉盛り』の秘術を初めて試せる時がきた」
カエルが潰れたような声を出すレミファ。
「げっ!? 肉盛りぜらか!」
慌てて、クケ子から距離を開けるように、召喚請け負い業の男がいる位置まで走る。
不安になった、赤いガイコツ娘のクケ子が訊ねる。
「いったい何が起こるんですか? 『肉盛り』って?」
次の瞬間、クケ子の骨体に向かって血肉がまとまりつくように流れてきた。
肉付けされるクケ子のガイコツ──あっと言う間に、クケ子の体はガイコツ傭兵になる前の生身の体にもどった。
「えっ? これは、いったい?」
生身の手の平を眺め、自分の顔を触るクケ子。
髪は被っていたウィッグのまま、水色のツインテール髪だった。
「生身の姿にもどっちゃった? これは……い゛っ!?」
振り返って、ギルドの受付嬢を見たクケ子は絶句した。
ビニールの仕切りの向こう側に、白骨死体が座っていた。
召喚請け負い業の男が、皿に盛られた肉料理をかじりながら言った。
「忠告しておくが、その秘術は近くにいる生物の血肉を奪うから、注意して発動させろ……どうしても『肉盛り』をしたかったら調理された肉を近くに置いておくといいぞ」
ガイコツになった、受付嬢を眺めながらクケ子が、請け負い業の男に訊ねる。
「解除してガイコツに、もどる時はどうすればいいんですか?」
「『トリガラ』と叫べばいい」
「『トリガラ』!」
クケ子の体から血肉が離れて、肉付けされた受付嬢が生き返る。
キョトンとした顔で、受付嬢が呟く。
「はっ!? あたしは今まで何を?」
レミファが言った。
「『肉盛り』──おそろしい秘術ぜら」
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