第一回目の漫遊旅の仲間を集めて

①東方地域のデジーマ島で「待っとるばい」

 東方地域・デジーマ島の町から離れた磯浜──不時着したような感じの萎んだ気球があった。

 気球のゴンドラカゴの近くには、バーナー器機をいじくっている男の姿がある。


 気球の近くには数人の鬼人の男女がいた。

 磯の岩の上に座っている、鍼のような細い角を額の両側に二本生やした、酒場の踊り子のような褐色肌の鬼女。


 石浜に座った東洋人風な童顔の、額にドリル一本角を生やした小柄な武闘鬼青年。


 磯に立って海を眺めている、カウガール風の格好をして。腰に日本刀と拳銃を提げた、蛾の触角のようにも見える炎型の鬼角を生やした成人女性が振り返って。

 バーナー器機の修理をしている技術者風の男性に訊ねる。

「どう、直りそう?」

「着陸の時に、少しネジが緩んだだけだ……軽くメンテナンスをすれば、大丈夫だ」

「良かった、この東方の地に技術者がいて助かった」

「数年間だけ、新大陸に技術留学したからな……まさか、あの人滅する血刃『邪狩流ジャッカル』が、巡回気流で気球に乗って新大陸から、東方地域の磯浜まで来るとは思ってもいなかった……人買いに連れ拐われた鬼の子を助け出すために、わざわざ海を越えるとは」

「どこへ逃げても邪狩流は悪党を追う……それだけだ」

 邪狩流のリーダー鬼、炎角のカウガールが、白波を眺めていると。


 バッファロー角を生やした大柄のネイティブアメリカン風の大男が、食べ物が入った朝袋を担いで現れた。

 鳥の羽飾りを頭にした、バッファロー角の大男が言った。

「この国の人たち優しい、事情を話したら食べ物を分けてくれた……オレこの国好き」

「そう、良かったわね」

 カウガールの鬼姫は、人滅する刃の柄を握り締めると。

 新大陸から追ってきたターゲットの悪党が隠れている、デジーマ島の浜町を眺めた。


 赤いガイコツ傭兵の彩夏こと【カキ・クケ子】は、邪魔魔女【レミファ】と一緒に、東方地域の【デジーマ島】にやって来た。

 今日のクケ子のウィッグは、ラッキーカラーの水色のツインテールだ。


 クケ子がいたアチの世界で見慣れた服装や、物品や町並みにクケ子はガイコツの歯をガチガチさせて興奮する。

「なんか、すごく懐かしい感じがする……時代劇の映画村みたいな町並み、わぁ! いろいろな時代の格好をした人とか、レザリムスの住人さんが歩いている」

 ゼンマイ仕掛けのクラッシックカーが走っていたかと思えば。

 大正時代の女学生やセーラー服やブレザー制服の格好をした、尖耳でエルフの女の子たちが、キャピキャピ言いながら、ファストフードを食べながら並んで歩いている道の端では。

 虚無僧姿のストリートミュージシャンが尺八をロック調に吹き鳴らして演奏していたりと、賑やかな通りだった。


 ガラス越しに瓦屋根の店先に並んだ商品に、ガイコツ顔を近づけて見ているクケ子にレミファが言った。

「この、デジーマ島はかなり昔からアチ世界と交流があった場所……でら」

「へぇ~そうなんだ、ねぇレミファ……売られている商品に、あたしが見覚えがあるモノと若干異なるモノが混じって売られているんだけれど?」

 クケ子が覗いているショーウィンドの店は骨董商の店だった。


「クマが、シャケを咥えている木彫りの像なんて初めて見た……普通はシャケが、クマを咥えているもんなんだけれど」

「それは、クケ子どのがいたアチの世界とは別のアチの世界にあったもの……ぜら。アチの世界は一つではないぜら」

「そうなんだ、レザリムスにもシャケとクマの木彫り像なんてあるの?」

「あるぜらよ、同じサイズでシカ角を生やしたシャケと、一本角を生やしたクマが喰うか喰われるかの、威嚇しあっている場面の木彫りが、北方地域にある……ぜら」


 クケ子がレミファに訊ねる。

「これからどうするの?」

「第一次漫遊の魔勇者を倒す旅の時に、一緒に旅をした仲間……狩人エルフの【ヌル・ヲワカ】と、魔法戦士の【YAZAヤザ】を探すぜら……二人は、このデジーマ島にいるはずぜら……とりあえずは、定番のギルドに立ち寄って情報収集ぜら」

「わかった」

 クケ子とレミファが、デジーマ島の大通りを歩いていると。

 頬に傷がある目つきが悪い元勇者らしき男が、いきなり剣を抜いてレミファに襲いかかってきた。

「しゅねぇぇ! 邪魔魔女! よくも、魔勇者の亀甲さまを!」

 咄嗟にクケ子が、犬の房尾が生えた盾でレミファに斬りかかってきた元勇者の剣を防ぐ。

 盾に受け止められた勇者の剣は、パキーンッと爽やかな金属音を響かせて折れた。

 盾から生えている犬の房尾が、嬉しそうに揺れる。

 折れた剣を手に、飛び下がって間合いを開ける腐れ勇者。

 赤いガイコツの眼孔で襲ってきた、男の顔を凝視するクケ子。

「魔勇者軍の残党か……哀れだな」

「うるさい! おまえたちが亀甲さまを倒してしまったから、オレたちは甘い汁を吸えなくなってパーティーは解散だ!」

 レミファが腐れ勇者に質問する。

「魔勇者の後継者になった、魔勇者の娘がいるだろう……確か五大厄災の一人になったと聞いたぜら、その東方地域の厄災に仕えたらぜら?」

「【甲骨】さまのコトを言っているのか……あの方とは接し方が分からない、苦手だから離れた。会うたびに年齢が変わっているんだぞ。

幼女になっていたり、老婆になっていたり、若い娘になっていたり、熟女になっていたり……年齢がコロコロ変わる女と、どんな会話をしろと……ロリコンのオレにババァの相手はムリだ」

 手にした魔法のステッキで、自分の肩をトントンと叩きながら、レミファが言った。

「なるほど、魔勇者の娘の名は甲骨というのか……能力は年齢不詳、厄介な能力だぜら……情報が少なかったから、教えてくれてありがとうぜら」

「しまったぁ! 敵に余計な情報を与えてしまった! こうなったら、邪魔魔女だけでも始末して」

 腐れ勇者の折れた剣から、別の剣先が斜めに生えてきた。

 まるで、植物の枝のように。

「驚いたか、これがオレが持っている『生育剣』の力だ。邪魔魔女レミファ、おまえの弱点は知っている、魔法的な攻撃には反射魔法でメチャクチャ強いが。

物理的攻撃には弱いということをなぁ……ボッコボッコにしてやる」


 クケ子がレミファの前に一歩踏み出して、刃が少し欠けた日本刀の柄に手を添えると、レミファが魔法のステッキで遮断機のようにクケ子を制して前に進み出てきて言った。

「ずいぶんとナメられたものぜら……弱点は克服されるものぜら、今からそれを証明するぜら……ボッコボッコにしてやるぜら」

 レミファが口笛を吹くと、どこからかマッチョな男の首がない体が走ってきた。

 レミファは『首貸し族』とレンタル契約を結んでいて、用途に合わせてさまざまなタイプの首なし胴体に交換するコトができる。

 レミファに呼ばれて走ってきた、マッチョ体はレミファの首を少しねじってスポッと引き抜くと、マッチョ体の首の位置にくっつけた。

 首がなくなったレミファの体は、道の傍らにある木製のベンチに移動して座って待機する。


 童顔の少女顔と、不釣り合いなマッチョな闘士の体になったレミファが、腐れ勇者を拳で連打する。

「ぜら! ぜら! ぜら! ぜら! ぜら! ぜら! ぜら! ぜら!」

「おごあぁぁぁ!」

 最後に強烈なアッパーパンチで、腐れ勇者の体は建物の向こう側に吹っ飛んで見えなくなった。


 腐れ勇者をぶっ飛ばしたレミファのマッチョ体は、首を元のレミファ体にもどすと手を上げて軽く会釈をしてから、首なしで走り去って行った。

「ふーっ、やっぱりこの体がバランスがいいぜら……クケ子どの、余計な道草を食ったぜら。早くギルドに行くぜら」

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