俺の【成長促進】スキルがもはや用済みだと勇者パーティを追放されてしまった件 ~退職金で悠々と生活? それも悪くはないけどなあ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

第1話

 聖剣の導き手。

Sランク冒険者であり勇者でもあるレオンが率いるパーティである。

構成員は、勇者レオン、魔道士リーファ、僧侶ユニ、そして斥候エイガ……つまり俺だ。


「ふう。無事に聖なる兜を手に入れることができたな。よかったよ」


 俺はそう言う。

今の俺たちでは、魔王にはまだ勝てない。

世界各地に封印されている聖具を集める必要がある。


 今日は、とあるダンジョンの探索を無事に終えて、聖なる兜を入手することに成功した。

これで、魔王の討伐に向けて大きく前進したことになる。


 また、道中の魔物退治によるレベル上げも大きい。

俺のユニークスキル【パーティメンバー:成長促進10倍】のスキルによって、レオンたちは順調に実力を上げている。

最近は、さすがにレベルが上がる速度が鈍化してきてはいるが。

俺以外の3人は、もうかなりのレベルに達しているからな。


 今は、無事にダンジョンから最寄りの街にまで戻ってきたところだ。

次はどこに行こうか。

俺たちの旅は極めて順調だ。


「ん? ああ、そうだな……」


 レオンがなぜか歯切れ悪くそう言う。

妙だな?

順調に探索を終えたというのに。


「なあ……。エイガ。お前に言っておかなければならないことがある」


 レオンが神妙な顔でそう切り出す。


「どうした? まさか、とうとうリーファと結婚する気になったか?」


 勇者レオンと魔道士リーファは、普段からいい雰囲気だ。

”魔王を倒すまではそういうことはしない”と言っていた彼らであるが、とうとう我慢の限界になったのかもしれない。


 だが、俺の茶化すような言葉を受けても、レオンの神妙な顔は崩れない。


「エイガ。悪いが、パーティを抜けてくれ。これは、リーファやユニとも話し合った結果だ」

「……なんだと?」


 レオンの言葉を受けて、俺は耳を疑った。


「お前の実力では、もう俺たちに付いてこれないだろう。足手まといを守って戦うのは、もううんざりなんだ!」

「冗談だろ? 確かに、戦闘では俺は足手まといだ。しかし、俺の成長促進のスキルの強さはお前たちも知っているはずだ」


 俺はそう反論する。


「その心配には及びません。わたくしたちのレベルは、もう十分に上がりました」

「……ん。それに、今日手に入れた聖なる兜があれば、レオンさんの戦闘能力も上がる……」


 魔道士リーファと僧侶ユニも、そう冷たい言葉を口にする。

あまりのことに、俺は呆然と3人の顔を見つめることしかできない。

3人の気持ちは変わらないようだ。


「分かっただろう? お前はもう用済みなんだ。……せめてもの餞別だ。退職金としてこれをくれてやる。それに、俺たちが無事に魔王を討伐すれば、かつての仲間としてお前にも報奨金が出るだろうよ」


 レオンがそう言って、袋を1つ渡してくる。

ずしりと重い。

金貨が何十枚と入っているようだ。

勇者パーティの活動資金全体からすれば、はした金だろう。

だが、一般人として生きるだけならば、悠々と生きていけるだけの金はありそうだ。


「ああ、そうかよ……。ありがたくもらっていくぜ。じゃあな……」

「ふん……」


 俺とレオンたちは、たったそれだけのやりとりを最後のあいさつとして、別れた。

金はたくさんある。

だが、信じていた仲間から用済みとしてパーティを追放された俺は、胸にぽっかりと穴が空いてしまったかのような虚しさを覚えたのだった。



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「……行ったか」


 レオンは立ち去るエイガを見届け、そうつぶやく。


「本当にこれでよかったのでしょうか……。特にユニ。あなたは彼のことが……」

「……ん。問題ない。それよりも、エイガの命が大事……」


 ユニがそう言う。

彼女の目からは、涙があふれてくる。


「次に向かうダンジョンは、攻撃力の高い魔物が多いという情報がある。エイガがまともに攻撃を受ければ、一撃で死んでしまう可能性もあるだろう……」


 レオンがそうつぶやく。

もう何度も、3人で話し合った内容だ。

彼が言葉を続ける。


「エイガの安全を考えれば、こうするしかなかったのだ。正直に話しても、彼は自己犠牲を厭わない性格だからな。簡単にはパーティを抜けなかっただろう……」


 足手まといだとか用済みだとか言い放ったが、あれはレオンの本心ではない。

エイガのユニークスキル【パーティメンバー:成長促進10倍】はかなり有用なスキルだ。

それに、斥候としても十分に役立ってくれていた。

彼の安全を顧みなければ、できる限り”聖剣の導き手”の一員として付いてきてほしい気持ちはあった。


 レオンの脳裏には、かつての思い出があふれてきていた。



『待て! レオン! そこには罠が仕掛けられているぞ!』

『なんだと!? うわあ!』

『ひゃああー。ぬるぬるですわ~』

『……ん。これはローションスライム。害はない。でも、不快……』


 初めてのダンジョン探索のときだ。

エイガの注意の言葉が間に合わず、レオンが罠を作動してしまったのだ。

ローションスライムとかいう魔物が天井から降ってきて、大惨事になってしまった。


 あのときのリーファはまだ水魔法を使えなかったので、一度退却して近くの川で水浴びをすることになったのだった。

そして、その水浴びでもひと悶着あった。

女性陣が先に水浴びをして、男性陣が周辺の警護にあたっていたところ。


『ぐふふ。なあレオン。ちょっと覗いてみようぜ』

『なっ!? ダメだダメだ。勇者として、そのようなマネは……』

『固えなあ。お前、リーファに気があるんだろう? バレバレだぜ?』

『う……。しかしな。こういうことはしっかりと順序を立ててだな……』


 エイガの不埒な誘いを受けて、レオンは少し迷いながらも毅然と断る。


『ぐふふ。なら、俺1人で行くぜ!』

『ま、待て! ええい! 俺も行くぞ!』


 結局、エイガとレオンが2人で川の近くまで突撃していく。

リーファとユニに気づかれないように、物影からそっと顔を出す。

と、その時。


『……視界を眩ませたまえ。フラッシュ!』


 まばゆい光がリーファから発せられる。


『『ぎゃあああっ! 目が! 目がぁ!』』


 エイガとレオンが、目を押さえて悶絶する。

リーファの光魔法だ。


『……ん。未婚の女性の裸を覗こうとするなんて、不誠実。反省すべき』

『その通りですわ。反省してくださいまし』


 ユニとリーファがそう言う。

彼女たちは、既に水浴びを終えて、タオルのようなものを体に巻いている。


『『も、申し訳ありませんでした……』』


 眩しさから解放されたエイガとレオンが、正座で反省をさせられる。


『分かればよろしいですわ』

『……ん。それに、エイガになら、ちゃんと言ってくれたら見せることもやぶさかではない……』


 ユニがそう爆弾発言をする。

そんな感じで、旅の序盤は比較的平和で楽しいものだった。



「くくっ。なつかしいな……」


 回想を終えて、レオンはそうつぶやく。

だが昔の楽しい記憶を思い出すだけでは、前に進めない。


 ここはリーダーであるレオンが、パーティを導いていく必要がある。

まずは、次のダンジョンに挑むための態勢を整えないと。


「リーファ、ユニ。いつまでもエイガに頼ってばかりじゃいけないんだ。みんなで決めたことだろう。がんばって、切り替えていこう」

「ええ……。そうですわね」

「……ん。もちろんそのつもり……」


 レオンの言葉を受けて、リーファとユニがそう答える。

だが、2人とも顔は曇っている。

特にユニだ。

彼女の目からは、まだ涙が流れ続けている。


 これは、立ち直るのに少し時間がかかるかもしれないな。

レオンがそんなことを考えていたところ。


「ユニ……。なに泣いてんだよ。それに、レオンとリーファも、湿気た顔をしてんじゃねえよ」


 突如、エイガの声が聞こえた。

幻聴か?

いや、幻聴じゃない。


「やれやれ……。そんなこったろうと思ったぜ。お前たちともあろう者が、俺の気配隠匿に気づかないなんてな。何度も見せてやっただろう?」


 エイガがそう言って、気配隠匿のスキルを解除する。

レオンたち3人は、ようやく彼の姿を認識した。

驚きに目を見開く。


「エ、エイガ……。なぜ……」

「……ん。行ったはずじゃ……」


 レオンとユニがそう疑問の声をあげる。


「ばーか。お前ら、演技が下手過ぎるんだよ。あんな暗い顔をして用済みだとか言われても、違和感しかねえわ! ま、最初は騙されかけたけどな」


 エイガがそう言って、ニカッと笑う。


「……ごめんなさい。エイガ。私、あなたのことが心配で……」

「ああ。ま、俺が足手まといなのは事実だしな。仕方ねえよ。だが、最後の別れくらいはきちんとやっておかないとな」


 そう。

エイガがもはや”聖剣の導き手”の一員としては通用しないことは事実なのだ。

それは、どうすることもできない。


「俺たちは、エイガの幸せを願っている。魔王を討伐するのを待っていてくれ」

「ああ。お前たちなら、きっとできるさ。……それに、俺は待ってるだけの男じゃねえ。俺のユニークスキル【パーティメンバー:成長促進10倍】を活かして、第二の勇者パーティを育成してやる。そうすりゃ、お前たちの負担もずいぶんと減るだろうさ」


 エイガのスキルの有効な使い道は、育成にある。

”聖剣の導き手”クラスまで成長しきってしまえば、そもそもエイガ自身が戦いについて行けなくなってしまう。

駆け出し冒険者や中級でくすぶっている冒険者を育成するのは、彼のスキルの有効な使い道だろう。


「それはありがたいですわね」

「そうだな。期待しておこう」


 リーファとレオンがそう言う。

そして、ユニが1歩前に出て、エイガに近づく。


「……ん。みんなの力で、魔王を倒そう。そうしたら、私と……」


 ユニが顔を赤らめて、そう言う。

さらに言葉を続けようとするが、それをエイガが制止する。


「そこから先は俺に言わせてくれ。……ユニ。無事に魔王を倒して世界に平和が戻ったら……。俺と結婚してくれ!」


 エイガがそう言って、手を差し出す。


「……ん。喜んで……」


 ユニがエイガの手を取り、そう答える。

彼女の顔は真っ赤になっている。


「ふふ……。ようやくエイガとユニがくっついたか」

「長かったですわね。彼女たちの幸せのためにも、ますますがんばりませんとね」


 レオンとリーファがそう言う。

この2人はこの2人で、いい雰囲気だ。



 そして、数年後。

レオン、リーファ、ユニたち”聖剣の導き手”。

そして、エイガが育成に成功した第二の勇者パーティ。

彼らが力を合わせて、ついに魔王の討伐に成功した。


 世界に平和が戻り、人々は幸せを噛みしめた。

そしてレオンとリーファ、エイガとユニはそれぞれ結婚し、子宝にも恵まれ、いつまでも仲良く暮らした。

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俺の【成長促進】スキルがもはや用済みだと勇者パーティを追放されてしまった件 ~退職金で悠々と生活? それも悪くはないけどなあ~ 猪木洋平@【コミカライズ連載中】 @inoki-yohei

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