第21話 これからもずっと一緒だぜ相棒



 俺はジープである。最低5人乗り最高7人乗りの真っ赤な色のジープだ。名前はあるけど今はあえて言わない。信じるか信じないかは任せるが俺は日本で生まれた高校生であり転生者だ。前世に未練がないわけじゃないがあんまりいい生活じゃなかったからな。でも転生したのがジープだぞ。なんでだよ!普通人間とかせめて生物に生まれ変われるだろ!なんでジープなんだよ!と思ったのは遠い昔の話。今でもそう思うこともあるがもう慣れちまった。






 俺は資源鉱山ボーデンという国で作られた。昔から加工業が盛んな国らしい。誰に作られたかなんて覚えていないし最初はずっと落ち込んでいた。気づいたら車屋のオッサンと一緒にいた。






 世界なんてくそくらえだってずっと思っていた。どっかの知らないオッサンに座られて汚されて捨てられてスクラップになるんだろうなと思っていた。でも俺を買ったのは麗しい髪をした10代の美少女だった。こういう髪の色なんていうんだっけ。確か乙女色だったけ?






「この子幾らですか?」






「大金貨10枚だよ。」






「じゃあこの子ください。」






「こんな所で車を買うなんてあんたもなかなかの物好きだねえ。」






「腕のいい職人さんたちが作ったって聞きましたから。」






「どうやってここまで来たんだい?」






「タクシーです。なのでお金を使いすぎてしまいました。」


美少女は眩しい笑顔を見せた。






「そうかい。今鍵を渡すから待ってくれ。」






「はい。ありがとうございます。」


オッサンは中に入って行った。こんな美少女が乗ってくれるのか!俺は幸運だな。運転できんのか?とは思ったけどまあいいや。異世界だしな。






 え?なんで言葉がわかるかって?いつの間にか覚えていたんだよ。試し乗りをしてぐるっと国中を1周した後美少女は満足したように俺のフレームを優しく撫でた。悪い気はしねえが俺はペットじゃねえつーの。






「はいよ、こいつは俺のダチの力作で何十年乗っても壊れない。ガソリンさえ入れればずっと走り続ける。旅路を祈るぜお嬢さん。」






「何から何までありがとうございます。」






 美少女は俺に乗りアクセルを踏み込み走り出した。運転の良し悪しは俺にはわからねえが風が俺に当たって来る。涼しくてとても気持ちがいいもんだな。ずっと走り続けたいと思えるくらいにな。






 それなりに大きい国についた。故郷から離れるなんて初めてだったから日本じゃ見られない光景が広がっていて驚いたもんさ。だって大抵の人間が剣を持ってるんだぜ。かっけーと思っちまった俺も人間に転生したら剣士なんて目指してたんだろうな。へ!中二心が捨てききれねえぜ。






 夜遅く宿屋についた。しばらくお別れか、、、。べ、別に寂しくねえし。俺はジープだから寝る必要はねえからしばらく暇だな。これが異世界最初の旅だった。実に楽しかったぜ。






 美少女は葬儀屋らしい。葬儀屋は色々な国を渡り葬儀を行う仕事だ。日本とは違う葬儀屋だな。この世界には色々な種族がいるし日本じゃ有り得ない風景があった。迷宮とかがその例だな。実際に行ったことはねえけど。






 実に楽しい日々が続いた。ジープに転生したことなんてもうこれっぽちも後悔していない。むしろ感謝しているぐらいだ。乗られて嬉しいだなんて慣れるって怖いなあ。美少女なんて呼ぶのは変だよな。あんたは思っているかわからないけど俺は思っているからこう呼ぶぜ。相棒。






 相棒は俺のことを大切にしてくれた。汚れたら掃除をしてくれたり。乗らないときには体を洗ってくれた。壊れたら部品を変えてくれた。俺は意思のあるジープだ。走ろうと思えば走れるけど気味悪く思われちまうから自分からは走らねえ。相棒なら笑って受け入れてくれるだろうけどな。


葬儀屋として困っていたときは


「どうすればいいと思います?ジープさん?」


なんて俺のことを頼りにしてくれた。でも俺はジープだ。答えることなんて出来ない。力になりてえけど俺じゃ何もできない。それが一番もどかしいし悔しかった。






 それからもバカみたいで、大変で、慌ただしくて、楽しい日々が何十年も続いた。盗賊に襲われたり寝坊して葬儀の時間に遅刻しそうになったり、ドラゴンに襲われたり、道を間違えて森をさまよったり、川に溺れる子供を俺ごと突っ込んで助けたり、タイヤがパンクして助けがくるまでサバンナでずっと待っていたり、今思えばホント今思えば危なっかしい旅だった。そんな時間が俺には愛おしかったんだけどな。






 ある日相棒はわざとらしく突然思い出したかのように言い出した。本当はずっと考えていたんだろうな。甘いな相棒!俺にはバレバレだぜ。






「あなたの名前決めてませんでしたよね。」


いいよ、名前なんて。一緒にいる時間が楽しいんだからさ。それ以上何か受け取ると不幸になっちまうよ。






「そうですね。ジープさんの名前はリアン。リアンなんてどうですか?」


だから俺は答えられないんだって、でもリアンか、、、。まあ悪くはないかな。全くジープである俺に名前を付けてくれるなんて相棒らしいな。嬉しいけどよ。






 どっかの国に行った時だ。相棒はいつも通り俺を走らせていたら俺を停めてどっかに行っちまった。おい!捨てるわけじゃねえよな?数日しても帰って来ないから何かあったのかと思ったけど戻ってきてくれた。しかも10歳ぐらいのガキを背負ってだ。


相棒、、、。未成年者を連れ込むなんて、同性とはいえ犯罪だぞ。まあこの世界では別にいいのかもしれないけどさ。


これが相棒の最初の弟子であるノエラとの出会いだった。






 相棒が何でノエラを拾ったのかは知らねえがとても楽しそうだ。一人で静かだった車内も少しずつにぎやかになって来た。誕生日会やクリスマスパーティーなんかの飾りつけをしていた。仲の良くていいんだけどさあんまり汚さないでくれよ。まあ俺も楽しいからいいか。






 ある時相棒が男を乗せてきた。知り合いっぽいけどさ。最初は嫉妬しまくりだった。そりゃそうだ。だってそうだろう。相棒だせ。取られた気がして悔しかった。でも俺は所詮ジープだ。俺よりもこの男の方が頼りになるにきまってる。ノエラがいるとはいえ俺じゃあ相棒の孤独を埋めることは出来ねえんだから。






 しばらく一緒にいてわかったことがある。この男めっちゃいい奴なんだ。相棒のミスをカバーしたり一緒に悩んだり相棒はとても楽しそうだ。相棒がいいならいいんだけどな。しかのだ男も困った時俺に「どうすればいいと思う?リアンくん?」


って聞いてきやがる。俺は答えられねえけどな。






 でもこいつなら相棒を任せてもいいかなって思えちまう。何様かと思ったかもしれねえが仕方ねえだろ。だって相棒なんだから。






 俺の思った通り男はプロポーズしやがった。相棒も受け入れたみたいだ。おい男!相棒を泣かせたら許さねえからな。絶対幸せになれよお前ら。






 それから数年後相棒達は2人の弟子を取った。ノエラと同じくらいの年の2人だ。なんでかは知らねえ。ああこの空間も窮屈で騒がしくなったな。最初は相棒だけだったのに。弟子たちは子供らしく毎日のようにくだらないことで笑ったり言い合いになったりしていた。そして何となくわかった旅の終わりが近いことを。






 俺の予想は正しく相棒の故郷に帰った。ははは、外れてくれよ。終わってほしくなかった。相棒達ともっと旅をしていたかった。弟子たちは無事立派な葬儀屋になって旅立っていった。時代の転機なのかもしれねえな。それにしても相棒は出会った時と見た目があんまり変わってないような、、、。気のせいか。






 相棒の家はめちゃくちゃ大きな二階建ての家だった。家ではなく屋敷というべきだろう。そんぐらい大きな家だったんだ。庭までついてやがる。葬儀屋は儲かってるみたいだがまさかここまで金持ちなんてな。俺は貴族の上品な馬みたいで少し誇らしかった。






 旅の終わりから数年後少し遠くの国に挨拶にいった。何でも子供が生まれたので挨拶に行くらしい。ハンドルは男が握っている。なぜなら相棒のお腹の中には赤ちゃんがいるからだ。仕方ねえから認めてやる。安全運転で頼むぜもう一人の相棒。






 それから1年後相棒たちの子供が生まれた。家に入れねえから当初はわからなかったが可愛い女の子らしい。いつか俺に家族でみんなで一緒に乗ってくれるのかな。今から楽しみだぜ。なぁ相棒。






 5年後相棒たちは家族で乗ってくれた。ただ少し残念なことは相棒たちの子供はぶっきらぼうなガキだった。つまらなそうにボケーっと世界を見ている。






 おいおいおいそりゃねえだろ。最初はお前がいなければまだ旅を続けられるとお前を憎んで、でもお前らに乗ってもらえると思って楽しみにしていたのに、俺だって相棒たちと色んなこと話したいのにお前がどんだけ羨ましいと嫉妬したと思ってるんだよ。だけどな相棒たちが幸せならいいと思った。なのにお前はなんでそんなに笑わない。おかしいだろ。こんなにお人好しでいい奴ら滅多にいねえつーのに。相棒たちが幸せじゃなくなっちまうだろ。笑えよ。俺に乗って色々なもの見て感じて笑ってくれよ。どれだけ俺がお前とどこか行くのを楽しみにしてたと思ってるんだよ。この気持ち返せよ!頼むから笑ってくれよ。






 でも俺の気持ちは届かない。いつものことだ。でもこういう時に任せられるのが相棒だよな。そう思って相棒をみるといつも通り道に迷ってやがる。まったく相変わらずだな。不思議だなさっきまでの怒りがなくなっちまった。






 そこで変化があった。ほんの一瞬、一瞬だけれどもガキが笑ったんだ。その後口を直ぐに抑えちまったけどな。眩しくて美しい笑顔だった。思わず惚れちまいそうになっちまった。それほど嬉しかったんだよ。






 それからも相棒たちは様々な国にいった。とても楽しそうで俺も嬉しかった。相棒は葬儀屋を引退しちまったけどもう一人の相棒は葬儀屋を引退していないので新しく車を買って毎週どこかに行っていた。それでも週末には戻ってきて俺に乗っていた。楽しかった。ああ楽しかったんだ。






 ガキが6歳になった今日洗車をしてもらっていた。まったく。誕生日ぐらい自分のことを考えろよ。相棒とガキの2人で一生懸命に洗ってくれた。雨が降っていた。強い強い雨だ。涼しいけれどこういう時雨は不安になる。今までだってふと気づいた雨は嫌な結末を呼び寄せていた。ああ俺の体が濡れてきた。嫌な予感を抱えながら俺はきれいになった体をみて満足していた。






 数日後事件が起きた。国境警備隊が家に車が送ってきたんだ。おいまさかあれはもう一人の相棒の車なんじゃ、、、。相棒が国境警備隊の話を聞いている。ここからじゃ遠くて聞こえねえ。目には涙が浮かんでいる。顔を抑えて膝から崩れ落ちた。






 ちょっと待てよ。あれ程幸せにしろって、、、泣かせるなって言ったじゃねえか。ふざけんなよ馬鹿野郎!何かってに死んでんだよ、、、。もうお前に会えねえのかよ。数年一緒に旅をしていたのに。お別れはあっさりしてるんだな。言いたいことはたくさんあるが言葉が出てこねえ。死ぬなよ馬鹿野郎、、、。






 数日後まだ雨が降っていた。相棒もガキも傘をさしてどこかに行ってしまった。恐らくもう一人の相棒の葬儀だろう。皮肉なもんだな。沢山の葬儀をやってきた男が葬儀をされる側になっちまったんだから。俺はあいつの昔のことはわからねえからな。じゃあな相棒そっちにいけるかわからないけどその時には語り合おうぜ。






 時がたったが俺に乗って色々な所に行くという習慣は変えていなかった。俺的には嬉しいが大丈夫なんだろうか。立ち直っているのかは俺にはわからない。家の中の声なんて俺には聞こえないからな心配だ。








 それから4年の時が経ちガキも10歳と大きくなった。俺に乗ってギリギリ運転できるくらいにな。家の庭で練習をしている。可愛いななんて思いながら俺はガキを見ていた。犯罪かな?


免許証なくて大丈夫なのかと思ったが今更か。だいぶ立ち直ってくれてよかった。命日の日にはそうでもないけど。俺といたときは1回も泣かなかなかった癖にな。俺が知らねえだけかもな。






 ガキは葬儀屋になるために弟子入りして修行をしにいって今はいない。久しぶりに相棒と2人っきりだな。相棒はアクセルを踏み込み俺は元気よく走り出す。嬉しいようでどこかに寂しさもある。また相棒だけになっちまったんだから。あれだけ騒がしく楽しかった日々も今は遠い昔の話だ。それにしても相棒少し老けたか?俺はそんなデリカシーのないことは聞かないけどな。どっちらにしろ聞けないけど。






 ガキが修行にでて9ヶ月が経った。家には知らない男と女が1ヶ月に1度出入りしていた。相棒は家から出てこない。何をやってるんだか。ドアが開いた。久しぶりに相棒が出てきた。べ、別に嬉しくはねえけど。今日はどこに行くんだ?






 相棒はじっと俺のことを見ている。どこか様子がおかしい。どうしちまったんだ?相棒はそっと俺のフレームを撫でた。初めて出会った時のように。そしてボソッとこう言った。


「私に万が一のことがあればラディアをよろしくお願いしますよ。」






 おいまて。万が一のことってなんだよ!まさか相棒死ぬんじゃねえよな?出入りしている人間ってまさか、、、。医者じゃねえよな?






 ガキが修行に出て1年が経った。相棒はあの日を境に家から姿を見せない。俺の心配ゲージはマックスをとうに超えている。ガキが師匠と一緒に帰ってきた。遅せえよ!






 いつぞやと同じように雨が降っていた。こんな時に雨なんて降んなよ。ますます心配になっちまうじゃねえか。おい神様とやらがいるなら聞いてくれ。これ以上はあの子から笑顔を奪わないでくれ。ただでさえぶっきらぼうな子なんだぞ。また笑わない子になっちまうよ。頼むよ。相棒をそっちにいかせないでくれ。これ以上何も奪わないでくれ。頼むよ。あの子の帰る場所を奪わないでくれ。本当に頼むよ。相棒を死なせないでくれ。






 俺は感覚を研ぎ澄ます。あーくそ!ただでさえ聞こえないのに雨の音が鳴り響く。うるさい俺は聞いてるんだ。世界で一番大切な人で誰よりも愛してる人ののことなんだ。邪魔すんじゃねえ!






「ごめんなさいラディア。あなたを残していなくなる私を許してください。」






「嫌です。だから死なないでください。」


おい、、、。まてよ、、、。なんでだよ、、、。本当にいなくなっちまうのかよ。待てよ。待ってくれよ。死ぬな相棒!逝かないでくれ。






 雨が強くなり邪魔をする。どの道どっちでもいい。もう聞きたくない。相棒の苦しんでいるところなんて聞きたくない。俺がどんなに叫んだって変わらない。いつだってそうだったじゃないか。今更後悔したって、、、。くそ言葉が、、、。おい相棒俺と一緒にいて楽しかったか?俺はお前の相棒になれたか?答えてくれよ!幼い娘置いといて死ぬんじゃねえよ馬鹿野郎、、、。






 涙が出ない。こんなに悲しいのに。苦しいのに。辛いのに。何でジープに転生させたんだよ。お別れもできないのかによ。ふざけんな。ふざけんなよ。でも俺がこんなんじゃ相棒は余計に悲しむか。嘆くのはガキだけでいいか。せめて俺だけでも笑って送り出さないとな。今までお疲れ様ゆっくり眠ってくれじゃあな愛してるぜ相棒。






 その時だった。雨の中だから幻影かもしれない。でも見えたんだ相棒が!






「長い間本当にありがとうございました。」






[相棒!?]


思わず驚いてしまった。急に現れたんだ驚かない方がおかしいだろ。






「こんな私のことを相棒と呼んでくださっていたんですね。」






[ああ。でも俺には見守ることしかできないからな。あんたにとって本当の相棒だったかどうかはわからねえがな。]






「私はあなたのことをずっと相棒だと思っていましたよ?」






[ホントかよ。]






「ええ。3,40年一緒に居続けたんですから。」






[俺に意思があることについてはなにも驚かないのか?]






「そんなこと言ったら私も死んでしまいましたし、、、。」






[・・・。そうかやっぱり死んじまったのか。]






「そんな顔しないでくださいよ。」






[俺の表情って変わってるのか?]






「いえ、でもなんとなくわかります。どこを見ているかも何を考えているかも全てですよ。」






[まあ、ジープでも元人間だからな。]






「そうなんですか。まあ意思を持っている時点でそうだとは思っていましたが。」






[俺はあんたのことが好きだったんだけどな。]






「私今死人なので。」


冗談っぽく相棒はそう言った。






[知ってるよ。]


冗談でも言ってほしくなかったな。






 それからも俺と相棒は思い出話で盛り上がった。本当楽しいが相棒が生きているうちにやりたかったなこういうことは。






「もうすぐお別れの時間ですね。」


おいおい、しばらく黙り込んだと思ったら唐突だな。






[もう行っちまうのか、、、。]






「長かったですね。」






[そりゃそうだ3,40年もいるからな。]






「さっき私が言ったこと一緒ですね。お父さんよりも長くいましたからね。」






[そうだよな。そうだもう一人の相棒にもよろしくな。]






「お父さんもことも相棒だと思っていたんですか?浮気ですね。」


相棒はクスッと笑った。俺もつられて笑ってしまう。その後相棒と目が合った。そしてお互いに天高く笑いあった。そうだよ俺はこの3,40年間こういう冗談で笑いあいたかったんだ。






[いいだろ別に。相棒はいつだって相棒なんだから。]






「それじゃあラディアのことも思ってください。私たちと比べればまだまだ過ごした時間は短いですがあの子ならきっと大切にしてくれますよ。」






[そうか、、、。]


まったく最後まで自分のことをより娘のことか。相変わらずのお人好しだな。






「私は出だしこそ最悪の人生でいたが、あなたは私の初任給で買ってそれから沢山の危機を一緒に乗り越えるたび沢山の楽しい思い出ができました。あなたは私に楽しい思い出を運んできて一緒に過ごしてくれる最高の相棒だと思っています。私はあなたと過ごした3,40年間は人生の中で一番の宝物です。それに沢山の人と出会えるきっかけになってくださいました。お父さんや私の自慢の弟子たちそれにラディアとも出会えましたから。本当にありがとうございました。大好きですよリアンさん。」






[ああ、ありがとう]


照れて何も返せない、我ながらなんとも恥ずかしい。






「またいつか会いましょう。さようなら。」






[ちょっと待ってくれ。]






「どうしましたか?伝えたいことがあるなら早く言ってくださいね。私消えちゃいますよ?」


優しい口調だが何だか弄ばれているような?俺に何かを言わせたいみたいな。少し焦らせたのも相棒の策略のような、、、。気のせいか。






[相棒、俺さずっとジープになってから絶望してたんだ。きっと汚く使われて新しいタイプが出たら捨てられその後スクラップになって死んじまうと思ってた。でも相棒は違った。俺のことをジープなのに家族のように大切にしてくれて名前までつけてくれた。本当に充実して幸せな3,40年間だった。俺の方が礼を言うべきだ。相棒本当にありがとう。]






「・・・。ラディアもあなたも似た者同士ですね。最後はありがとうですか、、、。では最後に私の我儘を聞いてくださいますか?」






[聞くだけなら。]






「どうせなら付き添ってくださいよ。」






[冗談さ。それでなんだ?]






「ラディアのことも幸せにしてあげてください。」






[俺はジープだぜ。なんの力にもなってあげれない。]


何十年もそれがもどかしかった、悔しかっただから今回も何もしてあげられねえ。






「私の経験談ですが、あなたといただけで充分でしたよ。だからずっと一緒にいてあげてください。」


初耳だな。もっと早くいってほしかったことだけどな。






[そうなのか、、、。ああ任せろよ相棒。絶対ラディアを幸せにしてやるからな。絶対、絶対に幸せにしてやるからな。じゃあな相棒、2人仲良くまってろよ。]






「はい、任せました。」


俺たちはハイタッチをする。音はならないが確かに受け取ったぜ。






「ではさようならこの先、またいつか出会えたらその時は思い出話とそれからの話をしましょう。また二人でどこかに行くものいいですね。」






[ああ、じゃあな。約束だぜ。]






「はい、約束です。」


こうして相棒は長い長い本当に長い人生という名の旅に終わりを告げたのであった。






 相棒がいなくなると同時に雪が降って来た。今日は冷えるな。ラディアが家から出てきた。急いで俺に乗り込む。人のこと言えないがなんて顔してんだよ。顔が涙でぐしゃぐしゃだ。話すことができればせっかくの美人が台無しだぜなんて冗談の一つや二つ言えるのにな。綺麗だったシートにこぼれ落ちていく。幸せになるまでどれほど時間がかかるんだか。






 全く親と子は似るとはいうがラディアも困った時俺にどうすればいいのか聞いてきやがる。経験上こうした方がいいということはわかるんだが俺はジープだからしゃべれねえ。全く神様とやらはこのもどかしさからはまだまだ解放させてくれねえとさ。あとはラディアも相棒と同じように方向音痴だな。そんなところもいいんだけどな。






 俺はジープ。前の相棒につけてもらった名前はリアン。今日も相棒にこき使われながら道中を走っている。前相棒が死んでから6年も経つのか。早いな。あれからも色々あったけど相棒は幸せなんだろうか?俺にはわからない。だって俺はジープなのだから。それでも一緒に居続けるぜ。これからもずっと一緒だぜ。なぁ相棒。




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