第17話 男気をみせろ!

 ―時は、少し遡る―

 

 僕は無事にイズナと幻獣契約を終え、自宅に帰った。

 その日は祖母の夕食を食べてゆっくりと休んだ。


 次の日、新たな幻獣との契約をするため、クロとともに転移魔法陣で移動した。


「こ、ここは……?」


 やって来たのは、祠のようだが、ヤマト王国とは違う造りのようだ。

 祠の外に出ると、崩れた天井から光が洩れている。

 どうやら洞穴の中みたいだ。


「うむ、ここはヤマト王国とシン帝国との間、緩衝地帯の半島だ」

「え!? 国外にも出れるの!?」


 クロはさらりと言ったが、僕はその言葉に驚きの声を上げた。

 そんな僕を見て、クロは満足そうにしっぽを立てて目を細めている。


「フハハ! これが、ジョーンズ様の遺産の一つ、大陸に渡ることの出来る秘密の転移魔法陣だ」

「そ、そっか、こんなものまであるから封印されていたのか。でも、何でこんな無法地帯に?」

「人にとっては無法地帯ではあるが、一部の幻獣にとっては棲むには快適な場所でもある。……これから、この地に棲む幻獣と契約を結びに行く!」


 クロは、クワっと目を見開き、仁王立ちした。

 僕はゴクリとツバを飲み込んだ。


「こ、こんなところに棲んでいる幻獣って……だ、大丈夫かな?」

「それは、やってみなければわからぬ。ほとんどの幻獣は気まぐれで気難しい。前回のイズナのように人懐こいとは限らん。その上、その土地の主でもあることが多い故に、プライドも高く弱き者は認めん。それに、この半島には厄介な魔物オーク共の王国がある。連中の目をかいくぐり、目的の幻獣を探す。だが、始めから出来ぬと判断すれば連れては来ぬ」

「うぅ、これってやらないといけないの? き、危険なんじゃ?」

「臆すな! 試練が無ければ、人は成長せん! ……うぬの父親も同じ歳の頃、この地で単独の修行をしておるぞ?」

「と、父さんが?」


 僕は、生まれる前に亡くなった父親のことを考えた。

 一流の軍人だったらしい父親が修行した土地か。

 クロのやり方を信じようと決めたんだ。

 強くなると決めたからには覚悟を決めるしか無い!


「フハハ! 良い目になったな。では、ついて来い!」


 僕はクロに従って、オークの縄張りの中を歩いた。

 生い茂った木で日が隠され、暗い不気味な気配にゴクリと喉を鳴らした。


「む!」


 クロが急に足を止めて木陰に隠れた。

 僕はハッとして、クロに従って同じように隠れた。

 心臓が飛び出そうに鳴り響いている。


「ね、ねえ、どうしたの、クロ?」

「何かがおかしい。通常では考えられない程のオーク共の大群がおる」

「そ、そんな、どうしよう?」

「……仕方あるまい。今日のところは中止だ。これは、流石にうぬでは無理だ。一人前の戦士でも、単独でこの状況ではやられるぞ」


 クロはそのまま踵を返して帰りだした。

 その時、誰かが茂みから飛び出してきた。

 しかし、足に矢が刺さって転んでしまった。


「ちょ、ちょっと待って、クロ! 誰かが……え!? あ、あれはミカ……もご!?」

「静かにせんか、マンジ!」


 クロは僕の口を抑え、声を潜めている。

 でも、僕はこんなところにミカエラがいて、オークの大群に襲われているのを冷静には見ていられなかった。


「落ち着け! 居場所がバレたら、うぬまでやられるぞ!」

「で、でも、ミカエラさんを見捨てられないよ!」

「わかっておる! 考えもなく動くな、ということだ!」

「じゃあ、どうしろって? ……待てよ、オークは好色な魔物だ。女性が目の前にいれば、周囲の警戒が薄れるはずだ。今なら確実に背後に回れる。僕がミカエラさんを助ける!」

「そうだ、よくぞ言った! 幸い、本隊は離れておる。……よし! 吾輩がうぬの背を守ってやる。マンジよ、うぬの男気をみせろ!」


 僕は頷き、相棒のクロに背を押されて覚悟を決めた。


魔本リブラ!」


 幻獣の書を出し、出来る限り静かに素早く動いた。

 このオークの別働隊のボスであるハイオークの背後に回った。

 ハイオークがかがみ込んだ瞬間、僕は呪文を唱えた。


「風の化身たる獣よ、我が呼びかけに応じよ。いでよ、幻獣『カマイタチ』!」

「もきゅー!」


 イズナが場違いなほど可愛らしい声を上げて、宙返りをしながら幻獣の書の魔法陣から飛び出した。

 そして、全身を旋風に変化させハイオークに襲いかかる。

 イズナの存在に気が付かなかったハイオークは、細切れに切り刻まれた。


「……す、すごい」

 

 僕が唖然と見ていてつぶやくと、イズナは二本足で立ち上がって腰に手を当てた。

 仕事を完遂したイズナは、自慢げな顔のまま光とともに消えていった。


 見た目はただの小動物なのに、幻獣の凄さをまざまざと見せつけられた。

 これが召喚魔法……って、今はそんな場合じゃない!


「ミカエラさん、大丈夫!?」


 服を破られ、呆然とした目で僕を見ているミカエラがコクリと頷いた。

 それを見て、僕はホッと一安心できた。

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