第37話 戦闘

「ぬわぁあああああ!?」


 クロがいきなり出現して大声を上げたことで、クマ?は驚いて距離を取った。


「こ、これは一体どういう状況なのだ、マンジ!?」

「ご、ごめん、クロ! いきなり呼んじゃって! 僕たちが竪穴で休んでたら、こいつがいきなり襲ってきて」

「そうか。無事で何よりだ」

「でも、クマが相手だから、クロを呼べばどうにかなると思ったけど……」

「ただのクマならば吾輩の相手ではない。だが、コレはウェンカムイだ」

「うぇ、ウェンカムイ?」

「そうだ。悪しき神の力を得た怪物をこの地ではそう呼ぶ。オークジェネラルなど比にならん、その王たるオークロードよりも戦闘能力だけなら上だ」


 クロの説明を聞いて、僕はゴクリとつばを飲んだ。

 そんなにやばい相手だったなんて。

 すぐに逃げればよかった。


『グオォォォォ!』


 ウェンカムイは立ち上がり、僕たちを威嚇するように雄叫びを上げた。

 立ち上がるとさらに大きく感じる。

 や、やられる、のか?


「臆すな、マンジ! 逃げ腰になれば、すぐにやられるぞ! 気を強く保て!」

「う、うん! でも、どうすれば?」

「よいか、よく聞け! 今、うぬらの捜索隊が出ておる。時間を稼げば、救援が来る。あと、コレと我輩では相性が悪い。獬豸・ヘテを呼べ!」

「うん! わかった!」

「よし! すぐに、カインたちを連れてくるからな! それまで無事でいてくれ!」


 クロは光りに包まれて戻っていった。

 クロが消えたことで、ウェンカムイは襲いかかろうとした。


小炎弾プティ・フレーマ!」


 ミカエラは炎魔法を空中に放った。

 これで、捜索隊が見つけてくれればいいけど。


『グガアァァァァ!』

「はあぁぁぁ! マンジくん、早く!」

「う、うん!」


 ミカエラが、拾った木の棒に闘気を込めて応戦している。

 でも、ダメージが全く与えていないので、このままではすぐにやられてしまう。

 僕は急いで召喚の呪文を唱えた。


「聖なるケモノよ。我が呼びかけに応じよ。出でよ、幻獣『獬豸』!!」

「ワオォォォン!」


 ヘテが幻獣の書から勢いよく出てきて雄叫びを上げた。

 これにウェンカムイは一瞬警戒して距離を取った。

 ミカエラも、後ろに引いて僕の隣に並んだ。


「ありがとう、ミカちゃん」

「これぐらい当然よ。マンジくん、一緒に生き延びるわよ!」

「うん! ……よし! ヘテ、お願い!」

「ワン!(いっくよーん!)」


 僕はヘテに命令して応戦させた。

 ヘテとミカエラは、見事なチームワークでウェンカムイを翻弄している。

 とても、急造チームとは思えない。


「これで、時間が稼げればいいけど……危ない!?」

「マンジくん、ダメ!」


 外の様子を見る為に、小人の一人がひょっこりと顔を出した。

 これに反応して、ウェンカムイは襲いかかっていった。

 僕はミカエラの静止を振り切って、間に入った。


『グガアァァァ!』

「ワオォォォン!(隙ありなのー!)」


 僕に攻撃を当てさせないように、ヘテはウェンカムイの足に角を突き刺した。

 そして、自ら石化して動きを封じた。

 ウェンカムイは前のめりに転んで頭部ががら空きだ。


「おお、ナイス! ……うおおおお! 飛翔鷹爪脚!」


 僕は倒せると思って必殺技の飛び蹴りを放った。

 この一撃が鼻面を捉えた。

 でも、まだだ!


「いっけええ、零式波動拳! ……やったか?」

『ウガアァァァァ!』

「ぐぅわあああ!?」

「マンジくん!?」

「わふ(マーくん)!?」


 僕はウェンカムイの反撃を受けて吹っ飛ばされた。

 倒せたかと思ったけど、ただ怒らせただけだった。

 考えが甘すぎた。

 吹っ飛ばされた僕のところに、ミカエラが駆け寄ってきた。


「……う、ん。だ、大丈夫」


 僕はとっさに腕に闘気を込めて、防御した。

 でも、叫び出したいぐらい、痛い。

 腕の骨が折れた、か?


 軽くはたかれただけでこの威力、方や、僕の闘気を込めた全力の連撃でも、全く効いていない。

 ヤバすぎて、泣きそうだ。


『グオォォォォ!』


 ウェンカムイは、動きを止めていたヘテを振りほどいた。

 そして、僕たちに襲いかかってきた。


「やらせない!」

「ダメだ、ミカちゃん! 逃げて!」


 ミカエラが僕を守ろうと立ちはだかった。

 でも、やられちゃう!

 いやだ!


『グギャアァァァ!?』


 ウェンカムイは突然吹き荒れた吹雪に吹っ飛ばされた。

 僕とミカエラは、何が起こったのかわからずに唖然としている。

 そこに、小人達が僕たちの前にやってきた。


「え? も、もしかして、君達が?」


 僕が声を出すと、小人達はコクコクと頷いた。

 こんなに小さいのに、すごい魔法の使い手だ。

 僕とミカエラは驚きの目で小人達を見た。

 僕たちが見たことで、小人達は恥ずかしそうに岩陰に隠れてしまった。


「ええと、これは……?」


 突然聞こえた人の声に、僕とミカエラは振り向いた。

 良かった!

 捜索隊が来てくれた。


『グオオオ!』


 ウェンカムイは再び立ち上がった。

 どんだけ、頑丈なんだよ!?


「な、何だ、この化け物は!?」

「すみません、刀借ります!」


 ミカエラは、ウェンカムイに怯む捜索隊員たちから刀を奪うように取った。

 そして、一気に突っ込んでいった。


「ヘテ!」

「ワン(任せてー)!」


 僕の呼びかけに応えて、ヘテは再び石化してウェンカムイの足を止めた。

 しかし、ウェンカムイは今度は転ばされないように踏ん張って立ったままだ。


「やあぁぁぁぁ! 魔法剣『燃え盛れ断罪の炎フレイムタン』」


 飛びかかってきたミカエラを迎撃しようと、ウェンカムイは両手を構えた。

 だが、小人達の氷魔法で両手が凍らされた。

 手足を塞がれ、ウェンカムイは完全に無防備になった。


「いっけえええ!」

「ヤマト神皇流抜刀術、秘剣『火之迦具土神ひのかぐつちのかみ』!」


 ミカエラの放った、神聖教流の魔法剣とヤマト王国流の居合抜きを融合させた必殺技で、ウェンカムイの首が飛んだ。

 そして、ウェンカムイはそのまま後ろに倒れ、炎に包まれた。

 断末魔を上げる間もないほどの即死だ。


「やった! ミカちゃん、凄いよ!」

「ん、でも、もう、魔力切れ、だわ」


 魔力切れになったミカエラは、そのまま雪の上に倒れ込んだ。

 骨の折れた腕が痛んだが、ミカエラのもとに駆け寄った。


 ずっと僕の世話をするために回復魔法を使って無理してたんだ。

 本当に僕は情けない。

 でも、これで危険は去った。

 一安心だ。


「ワォオオオン(じゃあねー)!」


 ヘテは勝利の雄叫びを上げて、光りに包まれながら帰っていった。


「ありがとう、ヘテ」


 どうやら、僕も魔力切れが近い。

 召喚魔法は強力な幻獣たちを呼べるけど、魔力消費が激しいのが厄介だな。


「す、凄いな。オレたちより強いんじゃね?」

「そ、そうだな。……き、聞こえますか、本部。ミカエラ様達は無事に発見できました。ええ、モンスターもミカエラ様が始末しました」


 捜索隊員が、僕たちの無事を通信魔道具で報告してくれた。

 彼らは捜索隊とはいえ、旅団内の正規兵だ。

 その正規兵ですら驚くんだから、ミカエラはやっぱり凄いんだな。


「そうだな。あんなモンスターを倒すんだから『邪神の使徒』はやはり侮れないな」

「な、何者だ!?」


 突然話しかけられた捜索隊員たちは、身構えた。

 しかし、一瞬にして斬り捨てられてしまった。


「そんな!? お前は、まさか……」


 ウェンカムイをやっと倒したのに。

 今度は、仮面をかぶった異世界の悪魔たちが現れた。

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