冬休み

第30話 北へ行く

 今日で二学期も終わりだ。


 充実しすぎていて、あっという間に終わってしまった気がする。

 今学期の成績は、特に実技が急上昇して、一学期と合わせて総合十三位まで上がった。

 あと少しで入れ替え戦に参加できるけど、上位陣に追いつくにはもっと追い込みが必要だ。

 冬休みだからといって、ゆっくり休む気はない。


 部活もこの年最後の練習が終わった。


「これで今年の部活は終わりだ。だが、休みの間でも各自鍛錬は怠るな。では解散だ!」


 顧問であり、クラスの担任のヤマウチが締めのあいさつをすると、僕たちは帰っていった。

 着替え終わると、部活のみんなと寮まで一緒に帰った。


 マエダは数少ない一年生の友達だ。

 サオリは先輩として面倒をよく見てくれる姉御だ。

 トモエは主将として、初心者の僕に丁寧に多くのことを教えてくれた。

 特にこの三人には本当に感謝しか無い。

 来年も一緒に仲良くしたいな。


 残りの年末は実家へ帰り、クロと修行に明け暮れた。

 そして、あっという間に年が明けた。

 

 正月はゆっくりと休み、残りの冬休みも修行に明け暮れるぞ!

 と、意気込んだのだが、予想外のことが起こった。


 僕は今、軍の飛空艇に乗っている。


「おい、見ろよ、マンジ! 山が下にあるぞ!」

「もう、タツマ。子供みたいにはしゃがないでよ」


 幼馴染のタツマとサヨも一緒だ。

 飛空艇の窓から二人並んで景色を眺めている。


「だってよ! 飛空艇に乗ったのなんて初めて……」

「ふん! 貴様は子供か。この程度の男が私をライバル視しているとは片腹痛いわ」

「何だと、このムッツリスケベ!」

「コラ、やめなさいタツマ!」

「「そうです、若もですよ!」」


 タツマとムラマサはケンカを始めそうになったが、女の子たちに止められた。

 二人は意地を張ってそっぽを向いている。


「ギャハハ! おい、ムラマサ! クニツナの前じゃいい子ぶっておとなしいくせに、こっちがおめえの素か?」

「べ、別にそのようなことは……」

「クックック、ムッツリスケベなだけじゃなくて、猫かぶりも……いて!?」

「タツマも調子に乗らない!」


 タツマはまたサヨに怒られてすねを蹴られた。

 カインはそれを見て、もう尻に敷かれてやがる、とまた楽しそうに笑った。

 そんな様子を見て、僕の席の隣で丸くなっていたクロが呆れてため息をついた。


「やれやれ、この悪タレは相変わらずやかましいな? うぬはしっかりと教育する立場であろうが。煽ってどうする。うぬみたいになっても知らぬぞ?」

「うるせえな、クロ公。ちったぁグレてた時期はあっけど、今は立派に特殊部隊の隊長様だぜ?」

「どこがちょっとだ! うぬのせいで、どれほどジョーンズ様が迷惑したことか!」

「あんだよ、うるせえな。てめえだって、ジョーンズのオッサンにニャーニャー鳴いて甘えてたじゃねえか」

「ば、バカモノ! あの頃の吾輩はまだ子供だ! それに、泣かせたのはうぬがいじめていたからだろうが!」

「ああん? 覚えてねえな」

「ぐぬぬぬ! いじめる側はすぐに忘れおる! 今日こそ復讐の時だ! そこに直れ!」

「ほほう? 俺とやる気か? また泣かせてやるぜ、ドラ猫!」


 今度はクロとカインがケンカを始めた。

 その時、ミカエラが全員分の飲み物を持って戻ってきた。


「カイン伯父さん! 何やってるの! やめなさい!」

 

 カインはミカエラに怒られ、得意げにネコづかみをしていたクロを下ろした。

 クロは悔しそうに乱れた毛を毛づくろいしている。


「お、おう、ミカ。だってよ、このドラ猫がケンカ売ってくるからよ……」

「もう! 今日はマンジくんに助けられたお礼をするんでしょ! 特にクロさんには助けられたんだから!」

「わ、ワリぃ。な、なぁ、ミカ、こんな事はもうしねえから落ち着いてくれよ」

「やれやれ、どっちが保護者かわからんな」

「あんだと、ドラ猫!」

「伯父さん!」

「お、おぅ……」


 カインは姪のミカエラに怒られてシュンと小さくなった。

 クロは意地悪い顔で笑っていた。

 こんな姿を見て、この男が世界最強だなんて誰に想像できるのだろう?


 夏休み、僕とクロは、ミカエラを助けて一緒にオークの軍勢を退けた。

 その時のお礼として、僕たちは北の大地エゾへの旅行に招待された。

 エゾの中心都市イシカリで雪まつりというのがあるので、それを見に行くのだ。


 軍の飛空艇がエゾの駐屯旅団への補給物資を届けるので、特殊部隊隊長であるカインの口利きで一緒に乗せてもらった。

 ムラマサたちは、駐屯旅団長を務めている兄の元への研修だ。

 

「うわぁ、すごい、真っ白! キレイ!」

「うおお、すっげえ! こんなの都じゃ見れねえもんな!」

「うん、すごい! ありがとう、ミカちゃん!」


 僕たち幼馴染三人は初めての雪国に感激した。

 ミカエラも飛空艇から降りてきて、僕たちと一緒に並んだ。


「喜んでくれて私も嬉しいわ。でも全て手配してくれたのは、リーさんだから。いつもリーさんにはお世話になるわ」

「そっか! 今度リー副長に会ったらお礼言わないと!」

「そうだな。この悪タレの部下とは思えんほど気の利く男だ」

「誰が悪タレだ、ドラ猫。リーの手柄は俺の手柄だ。だから、俺に感謝しろ」

「……何というクズだ。有能な部下がよく離反せんものだな」


 部下の手柄を堂々と横取りするカインに、クロは軽蔑の目を向けている。


 た、確かに。

 これで最強部隊を率いているのだから、学校で教わる理想の士官像とはかけ離れている。

 特殊部隊は外国人部隊でもあるのだから、ヤマト人とは考え方が違うのかな?


「本当にそうだよね。何でこんな人にあの『臥龍』が従っているのかな? リ・ムウさんはどの旅団長も右腕にしたいと欲しがってるのにね」


 僕たちが話をしていると、後ろからムラマサと似た顔をした男に話しかけられた。

 ミカエラはすぐに居住まいを正して敬礼をした。

 ムラマサとタツマたちもいつの間にか敬礼をしている。

 胸の階級章を見て、僕も慌てて敬礼をした。


 おっと、危ない!

 この人が北方防衛の責任者、正規兵団寅旅団団長『風神』トクダ・オサフネだ!

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