第24話 部活を始める

 僕が入部した初日、道着に着替えて道場に入った。


 年季の入った小さな木造の建物で、学校の敷地外にある。

 ヤマト王国の木造住宅街と同じ地区にあるので、言われなければただの町道場だと思ってしまう。


「おー? キミが新入部員かなー?」


 僕に話しかけてきたのは、背の低いおかっぱ頭の女の子だった。

 同じ士官学園なので、僕と変わらない歳だと思うが、どう見ても年下の子供に見えてしまう。

 それでも黒帯で年季の入った道着を着ているので、実力はあるのかなと思う。


「うん、そうだけど、キミは?」

「ああ、ごめんねー。あたしはー……あ、師範が来たから話は後にしよー」


 柔術部の顧問、僕たちのクラスの担任ヤマウチがやって来た。

 道着に着替えたことによって、さらに体の大きさがよく分かる。

 普段よりも猛牛らしい。


「稽古を始める前に、新入部員を紹介する。……マンジ、前へ出ろ」

「は、はい!」


 僕はヤマウチに呼ばれて前に出た。

 振り向くと、部員の数は十人ぐらいで少ないが、誰もが強そうで気圧されそうだ。


「シ、シオン・マンジです! 初心者ですが、よろしくお願いしましゅ!」


 あ、やばい、かんだ。

 でも、誰も気づいていないのか、真面目な顔で拍手をしている。


「……よし! それでは稽古を始める。広がれ! ……サオリ、マンジにやり方を教えてやれ」

「うす! マンジ、あたいがやり方を教えてやるよ!」


 サオリと呼ばれた男前な女生徒が僕の前に立った。

 簡単に自己紹介をしてくれ、二年生士官科Bクラス、去年はCクラスだったそうだ。

 あのタケチと元同級生、一瞬嫌な感じがしたが暗い考えは頭を振って消した。


 ヤマウチが合図をすると、部員たちは間隔を空けて準備運動を始めた。

 サオリの動きを僕は見様見真似で同じようにやった。

 始めは柔軟体操だったので、特に難しくはなかった。


「よし! 次は基本だ!」


 ヤマウチが次の合図をすると、みんなは防具をつけて二人一組となり、当身技をお互いに打ち始めた。

 僕はここでみんなから外れて、サオリに道場の端へと連れて行かれた。


「マンジは初めてだから、ここでやり方を教えてやるよ!」


 サオリは男前に豪快に笑いながら僕に基本の動きを教えてくれようとした。

 しかし


「まず、こう拳を握って指一本キュッとして、グイーンと、急所に当てる時にグサッて感じだ!」


 練習相手に見立てた藁人形に一本拳を打ち込んだ。

 サオリが基本の突きを見せてくれたので僕も同じようにやってみた。


「違う違う! こうやるんだって!」

「え、ええと、こう! ですか?」

「違う! だから、こうやって……」


 サオリはやり方を見せながら教えてくれるけど全く理解できなかった。

 僕が混乱していると先程の少女が苦笑いをしながらやって来た。


「……う、うんー。サオリちゃんにはまだ初心者に教えるのは早かったかなー? あたしがー、代わるからー」

「ええ! ……うぅ、分かりましたよ。トモエ姐さんに任せます」


 サオリは渋々といった顔で練習の輪の中に入っていった。

 代わりにやって来た少女トモエはにこやかに僕を見ている。


「え、えーと」

「あたし、トモエっていうのー。一応ここの主将だからー、よろしくねー!」

「え!? しゅ、主将ですか! し、失礼しました!」


 僕は同じ一年生だと思ってしまっていた。

 いきなりやっちまった!


「アハハー! いいよー、それぐらいー。あたしは見た目がこれだからー、すぐ子供に見られちゃうのー。こう見えてもー、医療科の三年生の十八歳でーす! よろしくお願いしましゅー!」


 トモエは僕をからかって真似をしてきた。

 やっぱり気づいてたんだ。


「……おい、遊んでないで始めろ」

「はーい! 準備おっけーでーす!」


 トモエは子供のように元気でマイペースだな。

 

「マンジくんは初めてだからー、しっかりとやり方を教えるよー!」


 改めて、トモエは僕に基本の動きを教えてくれた。

 まずは、柔術の最も基本の当身技だ。


「こうやってー、中指第二関節の一点で突けるように拳を握ってー。次に急所を狙うようにー、拳を突き出すよー! まずはー、水月(みぞおち)だよー」


 トモエは僕でもわかるように、ゆっくりと動いてやって見せてくれた。

 藁人形の人体急所をそれぞれゆっくりと当てていった。

 僕は同じようにゆっくりとやってみた。


「えっと、こうですか?」

「うん! いい感じー! でもー、もうちょっと脇締めてー」


 僕はトモエに言われた通りやってみた。


 あれ?

 自分でもいい感じに動けている気がする。


「うんうん! いいよー、マンジくん、才能あるかもー!」

「そ、そうですか? サオリさんに教わった時は全くできませんでしたけど」

「……アハハー。サオリちゃんは直感タイプだからねー」


 トモエは苦笑いをした。

 僕も癒やしの雰囲気のあるトモエのおかげで、初日の緊張がほぐれて一緒に笑った。


「あとねー、主将じゃなくてー、トモエって呼んでねー!」

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