メリーさんの怪奇事情 デスゲームに仕事の邪魔をされる

仲仁へび(旧:離久)

第1話


 私、メリーさん。

 怪奇現象クラブに入会してるの。

 文明の荒波にのまれて、存在を忘れられたお化け的な存在は消滅していく定めにあるんだけど、怪奇現象クラブに入っておくとそういった危険から守ってくれるの。


 ちょっと人々から忘れられかけた事に、お化けを守るための結界の中に入って、生気を養う事ができるのよ(生きてないけど)。

 便利でしょう?


 さて、元気になった事だし、今日も活動しなくちゃ。


 今月のノルマは百人だったわね。

 さくっとさばいちゃいましょう!


 さっそく目についた人物の目の前に、私のメリーさん人形を置いておくわ。


「なんだこれ? 人形?」


 ふふっ、拾ったわね。


 もう逃がさないわよ!


 なんて思ってたらその人物が、鮮やかな走行テクニックを披露してやってきた黒塗りの車に、さっそうと攫われていってしまった。


 えっ。


 えぇぇぇぇっ?


 私はあわてて、追いかける。


 私の今日のノルマをどこに連れてくのよ!







 ぜいぜい息を切らしながら、メリーさんの特殊能力を発動。


 一瞬で三メートル移動する力だ。間に障害物があってもすり抜けることができる。

 その力を駆使して黒塗りの車を追いかけた。


 すると、どこかの施設の中に到着。


 そこには、攫われてきたらしき人間達が大勢集められていた。


 えっ、何ここ!


 こんなに人がいたら脅かせないじゃない。


 すぐ後ろにいるのよ、なんてやっても、「うん、知ってた」くらいのリアクションしか返ってこないわよ! こんなに人がいたら!


 で、どうしようかなって思いながらうろうろしていたら、上に設置されていたスピーカーから放送が。


 スピーカーからは「実は諸君は、金持ちどもの退屈しのぎに攫われてきたのだ。これから命をかけて、デスゲームをしてもらう」とか長々と説明が始まった。


 たまに、「そんな事つきあってられるか!」みたいな声があがって、集められてきた人たちの誰かが反抗するんだけど、どこかから発射された弾丸で眉間を打ち抜かれてあっさり死亡。


 集められていた人達は「えっ?」みたいな顔した後「嘘っ」という感じになって、それでパニックに陥った。


 ぎゃふんっ。


 ちょっと誰よ私にぶつかったやつ。

 

 私メリーさんだけど、おどかすくらいと、瞬間移動するくらいしかできないから。耐久力ないのよ!


 どうやらあの放送で、マジもののデスゲームが始まってしまったらしい。


 デスゲームの道具が色々と運び込まれてくる。

 電気椅子とか、鞭とか。


 これから、ここにいる人達は、互いに協力しつつも、騙しあいながら、命をかけてゲームを行っていくのだろう。


 時に友情を築き、時にその友情が壊れ、たまに愛が育まれちゃったりしながら。


 なーんて、やってられるわけないでしょっぉぉぉ!






 私は即座に、デスゲーム会場を見張っている人達の元に、私の分身である人形をポトリ。


 私自身は、三メートルしか移動できないけれど、メリーさん人形は知っている人の元ならどこへだって向かえるのだ。


 よし、人形が拾われた気配。


 分身である人形から、人の気配が伝わってくる。


 拾った人間は「何だこれ?」とか言って、再びその人形を捨てたわね?


 さあ、行くわよ。本人が!


 これなら、もう私の独壇場よ!


 これから三メートルずつ近づいていくから待ってなさい。


「私、メリーさん。今あなたと同じ建物にいるの」


「私、メリーさん。今あなたと同じ部屋にいるの」


「私、メリーさん。今あなたのすぐ後ろにいるの!」


 あっ、部屋の中に一人しかいなくてよかったぁぁぁ!


 しかも、部屋の明かりは絞ってあったから、雰囲気の演出もばっちり。


 デスゲームを始めた黒幕は、振り返って私を見たとたん、泡を吹いて倒れたわ!


 ふう。良かったこれでノルマ達成ね!


 でも、一か月百人だから、一日三人以上はさばかなくちゃいけないから、まだまだよ。


 さっき目を付けた人にも、もう一回メリーさん人形拾ってもらって、脅かしにいかなくちゃ!







「私、メリーさん。今警察署の前にいるの」


「私、メリーさん。今、取り調べ室の前にいるの」


「私、メリーさん。今、あなたのすぐうしろにいるの!」


 これで、二人目も。


 と思っていたら、思いっきり感謝されてしまった。


「メリーさん。助けてくれてありがとぉぉぉ!」


 えぇっ!?


 どうしてそうなるのよ!


 取調室で警察と話していたその人は、私に頭をさげはじめた。


「メリーさんがデスゲームの黒幕を脅かしてくれてたところが、警察の証拠に残ってたんだよぉぉぉ。本当にありがとぉぉぉ。俺、普通の人間だったから、絶対あのままゲームに巻き込まれてたら、死んでたよぉぉぉ」


 やめてっ、感謝しないで、おがまないで、ありがたく思わないでっ。


 もう、どうして監視カメラとかに映っちゃうのよ。台無しじゃない!


 私は初心者メリーだから、上級者メリーみたいに痕跡けせないのよ!


 どうしてこうなるのっ!


 私はただ驚いてほしかっただけなのにっ


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