第29話 ヘーレ坑道まで

【ヘーレ坑道】

 始まりの町『ファスタ』の鉱物資源を支える鉱山にある坑道の一つ。

 坑道としてしっかりと整備されており、鉱業ギルドも支援しているので労働環境も良好。また、冒険者や軍人の訓練も兼ねて解放されている部分もある。

 それはそこで出て来る魔物が、主にポイズンスライムやロックリザード、アーススピリッツ等で初級なのも関係している。


 ダンジョン適性レベル:8~10

 つまり今の自分達には丁度いい——まさにおあつらえ向きということだ。いや、スキルやクラスを考えると、ずっと楽に進めるだろう。









「……うん、あっという間に『ヘーレ坑道』だね? 要くん」

「あ、ああ」

 しっかりと作られた出入口、採掘された鉱物やトロッコとレール、そして入り口前に集まっている鉱夫達がいる。

 日が高い今なら、せわしなく採掘と運搬に精を出しているはずの鉱夫達。彼らも今は入り口前に設置された簡易施設やらで、駄弁っているしかないようだ。


「で、依頼内容だけど……覚えているかい?」

「大丈夫だ。『ヘーレ坑道の魔物が凶暴化した調査……に赴いた冒険者の捜索』だろ」

「そう、昨日から戻らない獣人ライカンスロープの冒険者らしいね」



 ここに来るまでは何の問題もなかった。

 町から平原に繋がる橋は落ちていたが、自分らにとっては何の問題もない。ヴェルトラムは妖精(フェアリー)の特性で飛べるし、自分は『飛天の御業』で高く遠く飛べる。それで届かなくても、空中跳躍でもう一回跳べばいいだけだ。


 始まりの町『ファスタ』から出ても順調そのもの。

 ここに来るまでには『アクセル平原』と『ラナップ街道』を抜けなければならないが……何の問題もなかった。どちらも適応レベルはそれぞれ、1~5と5~8程度。町から離れるほど上がるらしいが、どちらにせよ問題にはならない。

 何せ自分とヴェルトラムはすでにレベル10に達している。今更ただのゴブリンやキラービーなど、到底脅威にはならなかったのだ。






「おお! あんたらだろ! 増援の冒険者達って!」

 鉱夫の一人、一際背が低いのに横には広い——ずんぐりむっくりの——男がこちらに声を掛けてきた。

 顔は立派な髭に覆われた壮年の男に見えるが……


「小人(ドワーフ)の鉱夫……ギルドの紹介にあった『親方さん』かな?」

「こりゃすまねぇ! 儂はグラニト、このヘーレ坑道の現場監督でさぁ!」


 そう、彼は小人(ドワーフ)と言われる種族だ。

 特徴としては多くのファンタジー好きの期待に漏れず、低身長だが屈強で髭面。手先が器用で鍛冶や採掘が得意な種族である。

 彼——グラニト——も見た目こそ老齢の男性だが、実年齢は自分とそう変わらなかったはずだ。


「私はヴェルトラム、見ての通り妖精(フェアリー)さ。こっちは私のげ……いや、相棒さ」

「藤栄要、人間(ヒューマン)です。よろしく」

 おい、今なんか違うこと言いかけただろ。

 なんだオイ『げ』? 『げ……』なんて言うつもりだったんだこいつ。


「じゃあ早速こっちに、詳しい事情を伝えまさぁ!」

 グラニトさんに促されるまま、簡易施設に足を向ける。だが。その前に一つ確認しておこう。


「ヴェルトラム、お前……最初なんて言いかけた?」

「うん?」

 空色の瞳を丸くして「何がだい?」、と言わんばかりに視線を向けてくるヴェルトラム。

 瞳にも表情にも一点の曇りなく、晴れ渡っている。一部の趣向を持つ紳士の皆様なら、これで全てを許してしまえるだろう。


「『うん?』じゃなくて。俺を紹介する時『げ』って言ったろ? なんて言おうとした?」

「もちろん、正直に『下僕』と言おうとしたのさ」


 こいつ……!


「けど、流石に初対面でそれは外聞が悪いだろう? 気を使ってあげたのさ。感謝してくれてもいいよ?」

 とりあえず、金糸で覆われたこめかみを拳で挟んで締め上げてやる。


「ちょちょちょ! 止めたまえ、要くん! 今は話を聞きに……」

「いーや、今はお前にウメボシをやってやるべきだ!」

「いたたたたたた、済まなかった! 謝るから止めてくれ!」

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デイブレイク・ゲート! メスガキAIからもらった十二のスキルを駆使してゲーム世界に挑め! 負けるな、三十路の負け組! 鮪坂 康太 @kanino

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