第20話 攻略の内容
「まず、あいつの攻撃力はどうにもならん。今のこっちじゃ一発もらえば即乙る。だから……俺が『鋼体化』で受けるしかない」
「うん。今の私達だと一発どころか掠っただけで即昇天さ」
軽く言いやがって……そりゃこっちもレベル上がっているとはいえ、AT(物理攻撃)5300は無理に決まっているよな。
「確かに『鋼体化』ならダメージゼロさ。けど、それだけじゃ倒すことは出来ない。どうするつもりだい?」
そう、そこがネックなのだ。
こちらの生命線となるスキル『鋼体化』。これは決して完全無欠でもチートでもない。使用中は行動に制限がかかるし、何よりしっかりとクールタイム——再使用までに必要な時間——があるのだ。
つまり『鋼体化』中に倒してしまう、または『鋼体化』のクールタイムをしのぐ必要がある。
「……俺が覚えた特技に『衝破一閃』ってのがあった。これは単体ダメージ+麻痺なんだけど」
「うんうん」
「あの怨嗟の巨刀をみると……『刀自身が闘争の果てに所有者の死を望むため、必然的に防御能力は皆無となる』ってあったんだ。この防御能力って、『状態異常』とか『精神汚染』も含まれているんじゃねえか?」
そう、単に防御力ならDF(物理防御)とMDF(魔法防御)が0になっているだけでいい。にもかかわらずTEC(技量)とINT(知性)も0になっている部分が気になった。
単純な『防御力』じゃなくて『防御能力』。
それは状態変化にも抵抗力がないってことじゃないか、と。
「……流石、ゲームに命を賭ける選択を取っただけあるね。恐らくは当たりだよ。TEC(技量)とINT(知性)は、それぞれ状態異常と精神汚染への抵抗力にも関係しているんだ」
「けど、それがわかってもどうしたらいい? 正直『鋼体化』と麻痺の間にあれを倒しきるのは難しいだろ」
最後の関門、それは奴のHPの高さだ。
素で1000を超えている上に怨嗟の巨刀で+3000の底上げ。つまり4000以上を削り切らなくてはならない。今の自分達にとっては、途方もない数値だ。
「そこは『鋼体化』を上手く使おう。『鋼体化』のクールタイムは使用時間に反比例する。攻撃を弾く時のみに使って、麻痺と併用していけばやれるさ!」
「おお……流石スーパーAI、ナイス提案だな!」
ふふん! とドヤ顔で胸を張る幼女ことヴェルトラム。
ちょっと腹パンしたくはなるが、それよりもはるかに感謝と有難みが上回っている。この状況を打破できる未来が見えてきた!
連れてきて良かった、メスガキスーパーAI!
「まあ、麻痺も永続じゃないから、タイミングをミスすれば君は一撃でゲームオーバーになっちゃうけどね」
「おい、ちょっ! ぬか喜びさせただけか!」
「ちょちょちょ、待ちたまえよ。その部分は私が魔術で援護する。だから安心したまえ!」
……まあ、それならいいか。
どのみち、力を合わせて何とかするしかない状況だしな。
「私としても大切なパートナーを一人で戦わせるのは気が引けるし、何より失うのは御免だからね。その部分は任せてくれたまえ」
いつの間にやら……いや、もう一蓮托生には違いない。
現実世界が消えた、らしい。こんな状況だと、事情を知って何の遠慮もなく行動を共にできる相手というのは、心底必要なものだからな。
「……うし、じゃあ俺が特攻して『鋼体化』で攻撃を防ぐ。そんで『鋼体化』を解除して『衝破一閃』で麻痺させてひたすらぶん殴る。麻痺が取れたらまた『鋼体化』で攻撃を防ぐ」
「ああ、それでいこう。というより、現状それ以外の対処がないからね」
これで奴が壊した橋を渡ってきたとしても、戦う算段は付いた。
あとは……最後の確認だ。
「ヴェルトラム、仮に俺たちが町に逃げ込んだとして……あれ相手に籠城できるか?」
ちら、と視線を斜め下方に向けて金糸とヴェールをまとった頭を見る。
「……無理だろうね。あの巨刀と巨体の前じゃ、城門もバリケードも破られてしまうよ」
視線を前に向けたまま、天使のような少女が冷静に答えた。
結局、初っ端からクッソ厄介な状況になったな。
まあそれでも、少しでも考えて相談して行動できるあたり相当マシ……違う、ゲームならこうあるべきか!
持てる全てを駆使し、クリア出来そうなミッションに挑む!
そしてその駆け引きとスリルを楽しむ、これがゲームの醍醐味だ!
これが俺たちの立てた作戦。というかこれ以外が思いつかねぇよ!
思い出しつつも行動は止めていない。
特技の『衝破一閃』でダメージ+麻痺させた後、通常攻撃を重ねてひたすらに削る!
横薙ぎ、袈裟切り、振り下ろしの三段攻撃を目の前の巨体に叩き込む!
合間合間にヴェルトラムの火球や電撃が降り注ぐ!
上手くいけば、攻撃や『衝破一閃』で橋から落とせるかな、とも思っていたが……こいつ、ノックバックしねぇ!
それでもやるしかない! この大鬼のHPを削り切るしかない!
……麻痺が解けた!
完全に作業に見えるだろうが、こっちはそんなアホなことはしていない。麻痺させて、攻撃し、麻痺が解けたら反撃してくる。そしてそれを『鋼体化』で防いで……
その一つ一つをしっかりと観察させてもらっているのだ。
既に麻痺が解けるタイミングと予兆も分かってるっての!
カウントを取る必要はない。
こちらの通常攻撃、それを行った回数と反撃に打って出てくるタイミングを研究してやればいいだけだ。
いわゆる連打——ひたすらに通常攻撃をした場合は、三セット目の終わりに麻痺が解除される。つまり三段攻撃の最後、三セット目の振り下ろしに麻痺が取れるのだ。
何も考えずにやると、三段目の硬直に噛み合って反撃を貰うことになるが……わざわざそのチャンスを与えてやることはない。
三セット目の二段目、袈裟切りで止めてやればいい。
そうすれば、向こうは麻痺が解けると同時に怨嗟の巨刀を振りかぶってくる。そして打ち下ろしたそれを『鋼体化』で弾いてやる。
あとは繰り返し、これを続ければ勝てる!
続けていけるかどうかは俺次第……ゴブリンキングに変化等があった場合に対応できるかってことだ。
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